1994年以降に発表された邦訳論文を検索できます。

論文データベース(最新論文順)

イギリスを待ち受ける嵐
―― 文化的内戦と予期せぬ現実

2020年3月号

ピッパ・ノリス ハーバード大学講師(比較政治)

今後もブレグジットに派生するイギリスの文化的断裂が埋まることはないだろう。若者と年長者、「コスモポリタン・リベラル」と「社会保守」間の大きな亀裂が埋まっていくとは考えにくい。「イギリスの内戦」は終わったのではなく、休戦状態にあるとみるべきだ。スコットランドが再び独立に向けた住民投票を実施する可能性も高まっている。北アイルランドとイギリス本土間で取引されるモノに関税が適用されれば、北アイルランドではアイルランドとの統合気運が高まっていく。世界におけるイギリスの役割が低下する事態を前に、英外務省は、いつも通り、アメリカとの関係強化を目指すかもしれないが、それも予期せぬ現実に直面するかもしれない。コストを強い、精神的な傷を残した離婚は、イギリスの新しい問題の先駆けなのかもしれない。

米金融帝国の黄昏
―― 金融制裁で損なわれるパワー

2020年3月号

ヘンリー・ファレル ジョージ・ワシントン大学  教授(政治学、国際関係論) アブラハム・ニューマン ジョージタウン大学  教授(政治学)

トランプ政権は、バグダッドが米軍のイラクからの撤退を強要するようなら、(世界が)みたこともない「対イラン制裁さえ控えめに思えるような、激しい制裁を(イラクに)発動する」と威嚇し、米連邦準備制度のイラク中央銀行の口座凍結さえ示唆した。ワシントンは、金融関係を帝国のためのツールに変えることで、アメリカは古代アテナイのやり方を踏襲しつつある。だが、アテナイがその後どのような運命をたどったかを理解すれば、ワシントンが、今後を楽観できるはずはない。同盟勢力を思いのままにするために金融力を用いたアテナイは、結局は、自らの破滅の時期を早めてしまった。

絶望死という疫病?
―― アメリカ特有の現象か、グローバル化するか

2020年3月号

アン・ケース プリンストン大学名誉教授(経済学) アンガス・ディートン プリンストン大学名誉教授(経済学)

アメリカの平均寿命が低下し始めた大きな理由は、25歳から64歳の中年の死亡率が上昇しているからだ。ドラッグのオーバードーズ(過剰摂取)やアルコール性の肝臓疾患による死亡、そして自殺が増えている。これらの3タイプの絶望死のなかでオーバードーズがもっとも多く、2017年に7万人が犠牲になり、2000年以降の累計では犠牲者数は70万を超えている。厄介なのは、他の諸国もこのアメリカのトレンドの後追いをすることになるかもしれないことだ。他の富裕国の労働者階級もグローバル化、アウトソーシング、オートメーションが引き起こす経済的帰結に直面している。エリートが繁栄を手にし、教育レベルの低い人々が取り残されるという、アメリカの絶望死危機を深刻にしているダイナミクスが、他の富裕国でも壊滅的な結果をもたらす恐れがある。

ダーティマネー
―― 政治腐敗が規定する世界

2020年3月号

オリバー・バロー ジャーナリスト

「外国で企業が賄賂を支払ったとしても検挙されるリスクは平均5%以下。それでも賄賂を1ドル支払うと、平均5ドルの追加的利益を得られる」。そうだとすれば、賄賂を提供することの恩恵はリスクを大きく上回り、賄賂を支払うことは経済的に合理的な行為となる。しかも「他の犯罪とは違って、贈賄は時間をかけて進行していくことが多く、その結果もスローモーションのような災害であるため、経済的、政治的、社会的なダメージが作り出されるとしても、誰かが意識的にそれを探し出さなければ社会は気づかない」。結局、政治腐敗による利益があまりにも大きく、リスクがあまりにも小さいとなれば、これを撲滅するのはおそろしく困難になる。だが、政府機関の不正が大きくなれば、その国の経済成長は低下し、所得格差が拡大することはすでに明らかになっている。

デジタル独裁国家の夜明け
―― 民主化ではなく、独裁制を支えるテクノロジー

2020年3月号

アンドレア・ケンドル=テイラー 新アメリカ安全保障センター シニアフェロー  エリカ・フランツ ミシガン州立大学助教(政治学)   ジョセフ・ライト ペンシルベニア州立大学教授(政治学)

AIをはじめとする技術革新は日常生活を改善する素晴らしい未来を約束する一方で、権威主義体制の締め付け強化に利用されてきた。デジタル抑圧の強化は、国家の統制が拡大し続け、個人の自由は縮小し続ける荒涼たる未来を想起させる。楽観論者たちが21世紀の幕開けに展望したのとは逆に、権威主義国はインターネットをはじめとする新テクノロジーの犠牲にされるどころか、それから恩恵を引き出している。事実、巨大な治安組織を必要とする警察国家を築かなくても、新テクノロジーを購入して、その使い方を、(輸入元である)中国のような外国の力を借りて一握りの役人に教えれば、それだけでデジタル権威主義国家の準備は整う。民主国家も21世紀の技術的ポテンシャルが呪いとならないように、新しいアイデア、アプローチ、リーダーシップを育んでいく必要がある。

新しい勢力圏と大国間競争
―― 同盟関係の再編と中ロとの関係

2020年3月号

グレアム・アリソン ハーバード大学教授(政治学)

中国とロシアは自国の利益や価値のために、欧米の利益を無視して、公然とパワーを行使するようになり、ワシントンも、地政学が「大国間競争」によって規定されていることを認識している。今後、アメリカの役割は変化するだけでなく、小さくなっていく。同盟関係へのコミットメントそして同盟関係そのものを大きく下方修正しなければならない。すでに世界には複数の勢力圏が存在することをリアリティとして受け入れ、「実現不可能な野望」は放棄し、勢力圏が地政学を規定する中核要因であり続けると言う事実を受け入れる必要がある。

CFR Meeting
新型ウイルスの脅威
―― 封じ込めはできるのか、政府の対応は適切か、経済はどうなるか

2020年3月号

トーマス・R・フリーデン 米疾病対策センター(CDC)前所長  ヤンゾン・ファン  米外交問題評議会シニアフェロー(グローバルヘルス担当) ジェニファー・ナッゾ ジョンズ・ホプキンス大学公衆衛生大学院 シニアスカラー ブラッド・セッツァー  米外交問題評議会シニアフェロー(国際経済担当)

考えるべきは、コロナウイルスがSARSのように管理できるようになるか、それとも、インフルエンザや通常の風邪のようになるかだ。SARSは少なくとも、われわれの知る限り、この14年間で感染事例はない。一方、インフルエンザや風邪は地域的あるいは特定の諸国で、数カ月、数年、あるいは永遠に流行する。この点についてわれわれは情報をもっていない。われわれが試みるべきは、コロナウイルスの感染拡大を阻止できると想定し、そのために必要なあらゆることを試みる一方で、完全にストップできない場合に備えて、このウイルスをより適切に管理する、あるいはその衝撃を緩和するにはどのような計画が必要かを考えていくことだ。(T・フリーデン)

コロナウイルスは、SARSとは違って、感染拡大のスピードが速く、症状はより穏やかだからだ。症状が穏やかだと、ウイルスがどこにいるかがわかりにくくなる。多くの国が、中国とのつながりから感染を特定しようと試みてきたが、すでに国内での感染が起きている。(中国とのつながりに気を奪われていると)国内での感染の広がりを見落とすことになる。(J.ナッゾ)

習近平とコロナウイルス
―― トップダウン型危機管理の弊害

2020年3月号

エリザベス・エコノミー 米外交問題評議会 シニアフェロー(中国担当)

コロナウイルスのアウトブレイクは、習近平政権にとって最悪の人道・経済危機に向かっている。もちろん、国家主席が辞任するはずはない。習近平は、まさにこうした危機に持ちこたえられる政治システムの構築に就任後の7年を費やしてきた。国営メディアは国家主席の役割を、背後からリードする、最終権限をもつ最高指揮官であると強調し、武漢の病院を視察し、患者をいたわる役目は李克強首相や孫春蘭国務院副総理が担っている。要するに、現地で起きている危機と習近平の間には、党の官僚制度内のステータスを分ける階層の数だけバッファーが存在する。だが、ウイルスを封じ込めるのに時間がかかれば、その分、今回の危機で生じた(政治的・社会的)亀裂は大きくなり、それが引き起こす問題も深刻になる。多くの中国人が望んでいるのは、他の国の市民が望むのと同じことだ。なぜ今回のようなことが起き、二度と起きないようにするには何が必要なのか、そして誠実な政治家が「責任は自分がとる」と語ることだ。・・・。

アメリカのリーダーシップと同盟関係
―― トランプ後の米外交に向けて

2020年3月号

ジョセフ・バイデン  前米副大統領

気候変動にはじまり、大規模な人の移動、テクノロジーが引き起こす混乱から感染症にいたるまで、アメリカが直面するグローバルな課題はさらに複雑化し、より切実な対応を要する問題と化している。しかし、権威主義、ナショナリズム、非自由主義の台頭によって、これらの課題にわれわれが結束して対処していく能力は損なわれている。地に落ちたアメリカの名声とリーダーシップへの信頼を再建し、新しい課題に迅速に対処していくために同盟諸国を動員しなければならない。アメリカの民主主義と同盟関係を刷新し、アメリカの経済的未来を守り、もう一度、アメリカが主導する世界を再現する必要がある。恐れにとらわれるのではなく、いまはわれわれの強さと大胆さを発揮すべきタイミングだ。

CFR Updates
コロナウイルスと中国のハイテク企業

2020年3月号

ローレン・ダドリー CFRリサーチアソシエーツ 、アダム・シーガル CFRシニアフェロー

数多くの中国のハイテク企業は、医師や看護婦などの感染症対策の最前線で働く人々にテクノロジーと財的支援を提供している。チャイナ・モバイル、チャイナテレコム、チャイナ・ユニコム、ファーウェイはすべて5Gの機器とサービスを武漢に新設された火神山医院に提供している。アリババも政府系の研究所に、ワクチンや新薬の開発に役立つAI(人工知能)能力への無償アクセスを提供すると発表している。感染症を北京がなんとか制御しようと試みるなか、テクノロジー企業も感染症対策をめぐって重要な役割を果たしている。しかし、そうした努力の目的は、おもに政府の対応を助け、「自分たちが大衆の反動の標的とされるのを避けること」にある。北京の官僚たちは、感染した個人の行動を追うために民間のビッグデータをさらに統合することを求めている。ウォールストリート・ジャーナルが伝えたように、北京は、すでにそのサーベイランス(監視)能力と、航空会社、電話会社、公共交通システムを含む国有企業のデータを利用して、ウイルスの動きを追い、感染者を隔離している。感染症対策が作り出す流れのなかで、中国のテクノロジー企業と国家・政府との関係はさらに緊密なものになっていくと考えられる。

Page Top