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論文データベース(最新論文順)

準備通貨ドルとデジタル人民元
―― 何がドル覇権を支えているのか

2020年7月号

ヘンリー・M・ポールソン・Jr  元米財務長官

ワシントンは、中国との競争で実際に何が危機にさらされ、問われているのかを明確に認識する必要がある。アメリカは金融と技術部門のイノベーションのリードを維持すべきだが、中国のデジタル通貨が米ドルに与える衝撃を過大評価する必要はない。むしろ、ドルの優位性を生み出した条件を維持していくことに気を配るべきだ。この意味で、健全なマクロ経済と財政政策が支える躍動的な経済、透明で開放的な政治システムと国際社会での政治・経済・安全保障上のリーダーシップを維持していく必要がある。つまり、ドルの覇権的地位を維持できるかは、中国で何が起こるかよりも、コロナウイルス後の経済にアメリカが適応していく能力、成功モデルであり続ける能力に左右されるだろう。

コロナウイルスと社会暴力の増大
―― パンデミックで引き裂かれた社会

2020年7月号

レイチェル・ブラウン  オーバーゼロ エグゼクティブディレクター  ヘザー・ハールバート  新アメリカ政治改革プログラム ディレクター  アレクサンドラ・スターク 新アメリカ政治改革プログラム シニアリサーチャー

国や市民にとって、平和とはたんに国家間戦争が起きていない状態ではない。人命、コミュニティ、制度や体制の安定を脅かす問題がない状態のことだ。実際、経済の不安定化、民主主義の後退、制度や体制への不信、特定の人種のスケープゴート化など、これらの全ては政治的暴力の可能性を高める。不幸にもCOVID19は、これらのトレンドを刺激している。アメリカでは、長年の人種間の不平等や社会的分断が引き起こす問題をパンデミックが増幅させ、警察官が黒人男性を死亡させた映像が大規模な抗議活動に火をつけた。アメリカだけではない。マイノリティ集団をスケープゴートや攻撃の対象にし、特定の宗教を差別する行動、アジア系やユダヤ系の人々に対する暴力行為やスケープゴート化、陰謀論の流布が世界各国で広がっている。

「マジックマネー」の時代
―― 終わりなき歳出で経済崩壊を阻止できるのか

2020年7月号

セバスチャン・マラビー  米外交問題評議会シニアフェロー(国際経済担当)

今日、アメリカを含む先進国は、双子のショックの第二波としてパンデミックを経験している。2008年のグローバル金融危機、グローバルパンデミックのどちらか一つでも、各国政府は思うままに紙幣を刷り増し、借り入れを増やしたかもしれない。だが、これら二つの危機が波状的に重なることで、国の歳出能力そのものが塗り替えられつつある。これを「マジックマネー」の時代と呼ぶこともできる。「しかし、インフレになったらどうするのか。なぜインフレにならなくなったのか、そのサイクルはいつ戻ってくるのか」。この疑問については誰も確信ある答えを出せずにいる。例えば、不条理なまでに落ち込んでいるエネルギーコストの急騰が、インフレの引き金を引くのかもしれない。しかし・・・

パンデミックと政治
―― 何が対応と結果を分けたのか

2020年7月号

フランシス・フクヤマ  スタンフォード大学 フリーマン・スポグリ国際研究所 シニアフェロー

「一部の国は他の国よりもなぜうまくパンデミック危機に対応できたのか」。答えはすでに明らかだ。パンデミック対応の成功を説明する要因は国の能力、政府への社会的信頼そして指導者のリーダーシップだ。有能な国家組織、市民が信頼して耳を傾ける政府、そして優れた指導者という三つの条件を満たす国は、ダメージをうまく抑え込む、見事な対応をみせた。一方、政府が機能不全に陥り、社会が分裂し、指導者にリーダーシップがなければ、市民や経済は、ウイルスに翻弄された。対応をひどく誤ったアメリカの威信と名声はいまや地に落ちている。今後、数年にわたって、パンデミックはアメリカの相対的な衰退とリベラルな国際秩序の形骸化をさらに進め、世界各地でファシズムの復活を促すことになるかもしれない。現在のトレンドが劇的に変化しない限り、全般的な予測は憂鬱なものにならざるを得ない。

大都市は消滅するのか
―― 適度な密度と過密を区別せよ

2020年7月号

ジェニファー・キースマート キースマートグループ 最高経営責任者

密度は必ずしも悪ではなく、そこには適度で好ましい密度もある。手頃な価格の住宅、広い歩道、多くの公園スペース、家から徒歩圏にある豊かな自然環境、学校、その他のコミュニティ施設がある町をイメージしてほしい。これらが適切な密度のイメージだ。比較的ストレスのない環境で、包含的でアクティブなコミュニティ活動を促すようにすれば、優れた公衆衛生も実現される。実際、現職のパリ市長は、住民が短時間の徒歩や自転車であらゆる仕事、買い物、レジャーのニーズを満たせる「15分で動ける都市」に変えるという公約を掲げて再出馬し、選挙を戦うつもりだ。北米の都市は、このビジョンから学ぶ必要がある。より深くつながり、住みやすく、持続可能で、混雑が少ない適切な密度へ向かっていくべきだ。

CFR Briefing
香港と国家安全法
―― 我々の知る香港の終わり?

2020年7月号

ジェローム・A・コーエン 米外交問題評議会シニアフェロー

北京が国家安全法を導入すれば、これまで香港に約束されてきた(一国二制度に基づく)自治体制は実質的に終わりを迎えることになる。全人代で同法の制定方針を取り付けた北京は、香港の民主化運動を鎮圧する動きをすでにみせている。結局、北京は「香港の一国二制度の枠組みは着実に手に負えない状況を作り出しつつあり、香港民衆による抗議行動を阻止しなければ、情勢は手に負えなくなる」と先読みしているようだ。国際社会での香港弾圧への懸念も高まっている。イギリス当局は、北京が今後も立場を変えなければ、英国海外市民(BNO)旅券保有者は英国に住んで働き、最終的には英国の市民権を得ることを許されるかもしれないと示唆している。・・・

CFR Meeting
コロナウイルスが変える社会と経済
 ――経済効率を落としてもよりレジリエントな存在になる

2020年6月号

エドマンド・S・フェルプス コロンビア大学資本主義・社会センター所長  セシリア・エレナ・ラウズ プリンストン大学ウッドロー・ウィルソン・スクール ディーン グレン・ハバード コロンビア大学ビジネススクール ディーン

イノベーションプロセスに参加してイマジネーションとクリエーティビティを開花できるはずの膨大な数の人々が雇用を失ったままであれば、社会紛争のなかで国が崩壊するのではないかとさえ私は懸念している。(E・フェルプス)

「病気なのに、仕事に向かい、他の人に感染させるかもしれない」。有給の病欠が認められていれば、家で安静にしていても、給料を減らされることはない。実際、(医療保険)公衆衛生は、政府が役割を果たすのが適切で、これが非常に重要な公共財であることを理解すべきだろう。公衆衛生は、国防とともにきわめて重要だ。  (C・ラウズ)

ビジネスマンは、今回の経験から(効率よりも)レジリエンス(柔軟性、ゆとり)を維持することの重要性を教訓として学んでいくだろう。(今回のように)この上なく最適化された(無駄のない)サプライチェーンが、ショックによって機能不全に陥るのを避けようとするはずだ。・・・結局、各国が新たに議論できる空間を提供する国際機関を立ち上げられるまでが、効率性や成長の重要性はこれまでよりも割り引いて捉えられるようになるかもしれない。(G・ハバード)

危機後の増税で社会保障投資を
―― 緊縮財政ではなく、増税による投資を

2020年6月号

スヴェン・スタインモ  コロラド大学ボルダー校 政治学教授  マーク・ブリス  ブラウン大学ワトソン研究所 国際経済学教授

コロナアウトブレイクが落ち着いてくれば、「支出を減らして、予算を均衡させよ」と緊縮財政を求める声が大きくなるはずだ。だが、パンデミック対策によって、米政府の債務レベルが1940年代以降、もっとも高い水準に達するのは避けられないとしても、緊縮財政は拒絶すべきだろう。債務を懸念する人々も、アメリカの指導者が大恐慌と第二次世界大戦期にとったコースに目を向ければ十分にその理由を理解できるはずだ。これらの非常に大きなショックを前にしても、ワシントンは緊縮財政を拒絶して増税し、米史上最大のインフラプロジェクトやGIビルのために投資し、大きな成功を収めた。ポストパンデミック期にも、税収を増やして、市民が切実に必要としている社会プログラムに資金を投入すべきだろう。・・・

米経済の復活とコロナショック
―― 経済覇権の米中逆転はあり得ない

2020年6月号

ルチール・シャルマ  モルガン・スタンレー インベストメント・マネジメント 主席投資ストラテジスト

多くの人は、米経済が2010年に復活を遂げ、この10年にわたって黄金時代を謳歌していたことを見落とし、アメリカ衰退論に囚われている。パンデミックショックが本格的な金融危機を引き起こせば、問題を抱える企業が世界中で債務不履行に陥り、最終的にはアメリカ金融帝国にとっても脅威となるだろう。しかし、巨大な公的債務だけでなく、ゾンビ企業が企業債務の10%を占める現在の中国は、そうした危機に対してアメリカ以上に大きな脆弱性をもっている。結局、経済成長にとってもっとも重要なのは生産年齢人口であり、アメリカではこれが依然として増大しているのに対して、中国では5年前から減少に転じている。アメリカが世界最大の経済大国の地位を失うことも、米中逆転も当面あり得ない。

ブレグジット後のイギリス
―― 漂流する連合王国

2020年6月号

ローレンス・D・フリードマン キングス・カレッジ・ロンドン名誉教授

国際社会におけるイギリスの例外的役割は何か。イギリス外交をこれまで規定してきた「ヨーロッパやアメリカとの関係」は「ブレグジット」そして「欧州との関係を軽視するドナルド・トランプ米大統領の登場」によってさらに不透明化している。問題は「もはやアメリカとイギリスが特別な関係にないこと」ではない。壮大な戦略プロジェクトを共有していないことだ。それでもイギリスは、テロとの戦いにおける長い経験を持ち、経済開発の領域でも大きな貢献をしてきた。かなりの軍事大国であり、ヨーロッパでそれに比肩する軍事力を持つのはフランスだけだ。パワーバランスが変化し続け、破壊的な行動が日常化しつつある。このような世界で、イギリスが貢献できることは数多くある。しかしそのためには、独立国家としての限界を受け入れ、ユニークかつ例外的な役割探しを断念する必要がある。・・・

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