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論文データベース(最新論文順)

米警察による殺人と人種差別
―― 警察改革の世界的教訓

2020年10月号

ローレンス・ラルフ プリンストン大学人類学教授

非白人の容疑者を殺害したアメリカの警官の多くは「身の危険を感じたため」と弁明する。1985年に最高裁が、容疑者が警察官その他の者に脅威(身の危険)を与えたときには、警察官は殺傷能力のある武器を使用できるとする判断を示して以降、こうした弁明がスタンダードになった。アメリカの警察による最悪の権力乱用が変わらないのは、銃の蔓延や地方分権型の警察活動、あるいは連邦政府による監督の欠如だけが理由ではない。いまやブラック・ライブズ・マター(BLM)運動の要求は、警察の改革から予算削減、あるいは警察の廃止へとエスカレートしている。実際、現在警察に費やされている何十億ドルもの資金を、医療、住宅、教育、雇用の提供に向けるべきだと主張する活動家もいる。・・・

ヨーロッパの地政学的覚醒
―― 危機を前に連帯を強めた欧州の自立

2020年10月号

マックス・バーグマン センター・フォー・アメリカン・プログレス シニアフェロー

パンデミックは、数十年にわたる経済的、政治的な眠りからヨーロッパ大陸を覚醒させ、わずか6カ月前には想像もつかなかった形でEU統合プロジェクトを再活性化したようだ。トランプ政権によって乱用されてきた大西洋同盟に甘んじたり、対外的リーダーシップを攻撃的に行使するようになった中国に期待したりするのではなく、ヨーロッパの指導者たちは「自分に目を向けなければならないこと」を理解し始めている。危機のなかで2兆ドル規模の「経済復興基金」を成立させたことも、この文脈で理解すべきだ。いまや「戦略的自主路線」は、欧州の指導者たちが議論すべきテーマとしてよりも、むしろ、早急に成立させるべき政策とみなされている。大きな問題を内に抱えつつも、今回の危機を経て、ヨーロッパがより強く、より統合されたグローバルプレーヤーになることはほぼ間違いない。

ラテンアメリカとパンデミックの悪夢
―― ウイルスが暴き出した社会的病巣

2020年10月号

ディアナ・エンリケ  プリンストン大学社会学部博士候補  セバスチャン・ロハス・カバル  プリンストン大学社会学部博士候補 ミゲル・A・センテノ  プリンストン大学社会学教授 公共政策・国際関係大学院副学院長

ラテンアメリカにコロナウイルスを持ち込んだのは飛行機で世界を飛び回る富裕層たちで、最大の打撃を受けたのは貧困層だった。チリの場合、最初に感染したのはヨーロッパでの休暇から戻った首都サンティアゴのエリートたちで、彼らの家で働くメイドがウイルスを人口密度が高い貧困地区に持ち帰ってしまった。こうした階級格差はウイルスが国全体にばらまかれるきっかけをつくっただけでなく、一方的に大きな負担を貧困層に負わせた。初期の感染拡大は偶然とロケーションが大きな要因だったが、その後の感染動向は社会的状況によって異なる道をたどった。格差や非正規労働者の多さそして政府の能力の低さがラテンアメリカにおけるパンデミック対応の足かせを作り出した。だが最大の問題は、各国のお粗末な政治的リーダーシップだった。

インドのパンデミックが制御不能な理由
―― 実際の感染者数は4000万?

2020年10月号

T・ヤコブ・ジョン  インド医学研究センター評議会 ・先端研究所(ウイルス学)元所長

最近のインドにおける急速なコロナウイルスの感染拡大は、経済に大きなダメージを与えたロックダウン(封鎖措置)を緩和したことで引き起こされている。「感染の拡大を引き起こすとしても、経済を救済せざるを得ない」と考えた上での、ある意味、仕方のない政府判断だった。時とともにウイルスの毒性は弱くなりつつあるかもしれないが、感染力を高めている可能性がある。パワフルな抗ウイルス療法が登場していないにもかかわらず、インドの死亡率が比較的低いことは、こうしたウイルスの変異で説明できるのかもしれないし、おそらく、インドの人口が比較的若いことにも関係があるだろう。いずれにせよ、インドでの新規感染者が減少し、コロナウイルスが風土病化するまで、ウイルスの感染拡大は2021年初頭まで続くと考えるべきだろう。9月初旬の段階で、インドでの感染者数は約430万とされているが、実際の感染者数は2000万から4000万に達していると考えられる。

世界はより平等になりつつある
―― グローバル化が先進国の中間層を傷つけても

2020年10月号

ブランコ・ミラノビッチ  ニューヨーク市立大学大学院 ストーンセンター シニアスカラー

グローバル化は先進国における国内格差を拡大しつつも、世界レベルでみた(国家間)格差を低下させるという別の重要な作用を伴っていた。こうした世界の平等化は中国市民の収入が大幅に増加したことで促されてきた。つまり、アジアの成長は欧米中間層の衰退の背後で起きていたと言い換えることもできる。このトレンドが続けば、今後10年以内に中国の中間層の多くは欧米の中間層よりも豊かになる。これは、この2世紀で初めて、欧米の中間層が、世界レベルでみた所得のトップ20%に入るグローバルエリートの一部ではなくなることを意味する。そして中国の成長は、世界を平等にするのではなく、むしろ国家間格差を広げる作用をするようになる。一方で、依然として比較的貧しい人口大国・インドの成長が、世界をより平等にする上で重要な役割を果たすようになるはずだ。

破壊された米外交
―― 戦後秩序の終わりと次期政権の選択

2020年10月号

リチャード・ハース  米外交問題評議会会長

今後の世界では紛争がより一般的になり、民主主義はさほど一般的な政治制度ではなくなっていく。友人を安心させ、敵を抑止する同盟関係の作用が弱まっていけば、核拡散が加速し、大国の勢力圏が拡大していく。貿易はより管理され、ゆっくりと成長する程度で、縮小していくかもしれない。ドルの影響力も低下するだろう。そして戦後75年間続いた世界秩序は確実に終わる。唯一の疑問は、何が旧秩序にとって代わるかだ。その多くは、アメリカが今後どのコースをとるかに左右される。トランプの外交ブランドがさらに4年続くようなら、第二次世界大戦後から2016年までアメリカが主導したモデルが規範からの逸脱とみなされ、孤立主義、保護主義、ナショナリズムの単独行動が本流とみなされることになる。

気候変動には現実主義で対処せよ
―― 社会革命ではなく、リアリズムを

2020年9月号

ハル・ハーベイ  エナジー・イノベーションCEO

国際社会は気温上昇を一定の範囲内に収める上で排出可能な温室効果ガスの累積上限をほぼ使い切ってしまっている。しかし、打つ手はある。二酸化炭素相当物排出のほぼ75―80%は、世界20カ国の4大排出源(発電所、自動車、建物、工場)における化石燃料の燃焼が原因だからだ。逆に言えば、これら20カ国の四つの産業部門の意思決定者と規制当局者に対象を絞りこんだ対策をとる必要がある。電力、運輸、建設、製造のすべてにおいて、エネルギー関連の資金の流れが化石燃料からクリーンなエネルギーへシフトしていくように政策を見直すことだ。各部門の実際の意思決定者を正しく把握し、どのようにそれが機能しているかを理解し、圧力をかける方法をみつけなければならない。必要なのは、ターゲットを絞り込んだ現実主義的アプローチだ。

サウジアラビアとMBSの野望の終わり?
―― 壊滅的事態を避けるには

2020年9月号

F・グレゴリー・ゴースIII  テキサスA&M大学教授

パンデミックと原油価格崩壊という難局のなか、サウジの財政赤字は急増し、企業も迷走を続けている。ハッジ(メッカ巡礼)の規模も大幅に制限され、王国の士気は低下している。原油価格が1バレル当たり約40ドルに戻っても、サウジは財政バランスを取るために必要な歳入の半分しか得ていない。どうみても、コストのかかるイエメンへの軍事介入、ビジョン2030の壮大なプロジェクトを見直すべきタイミングだろう。しかもトランプ政権とサウジ王室との関係はアメリカ国内で激しく批判されている。ムハンマド皇太子にとって、トランプファミリーとの関係はプラスに作用したかもしれないが、2021年に誕生するかもしれない民主党政権への対応も考えておく必要があるだろう。

一国二制度の終焉
―― 私たちが知る香港の終わり

2020年9月号

ジェーン・ペルレス   前ニューヨーク・タイムズ紙 北京支局長

2019年の混乱を前に、習近平は香港がもつ特有の権利を憂慮するようになった。こうして彼は、香港を中国の主権内の問題と定義することで、アメリカやその同盟国が中国に反対することのコストを引き上げ、現地での抗議行動を封じ込めるための迅速な動きをみせた。6月30日に導入された国家安全法によって、香港は北京のいいなりにならざるを得なくなり、実際、香港の抗議運動は抑え込まれている。分離主義、テロ、破壊・転覆工作、そして「外国パワーとの共謀」は、国家安全法ですべて犯罪と定義されているために、大陸に引き渡されるリスクを冒すことなく、香港の民主活動家が共産党の指令に反対することはいまやほぼ不可能になった。次期米大統領が、中国共産党による世界有数の活気ある社会の乗っ取りという事態を覆すのは容易ではないだろう。

ネイティブアメリカンの民族浄化
―― 「この土地はあなたのものではない」

2020年9月号

デービッド・トルーアー  南カリフォルニア大学教授

先住民族を東部から締め出すための19世紀の強制移住プログラムに連邦政府は7500万ドルを費やしたが、その経済的見返りは大きかった。彼らの土地を民間に売却することで、買収費用を約500万ドル上回る約8000万ドルの収入を得た。北部の資本家は、インディアンがいなくなった土地への投資、つまり、奴隷が綿花の苗を植え、収穫し、加工するビジネスへの投資から莫大な利益を上げた。1840年代には、これらの土地で、7万2500トンもの繰り綿が生産された。その結果、1830年代に「アラバマの奴隷人口は2倍以上に増えて25万3000人に達し、1830年代の終わりには、奴隷のほぼ4人に1人が、かつてはクリーク族の土地だった農園で働いていた」。先住民を締め出した政策の真の勝者は、奴隷を所有する南部の農園主と、彼らに投資したニューヨークの資本家だったのかもしれない。

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