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論文データベース(最新論文順)

温暖化で世界は大混乱に
―― ティッピング・ポイントが引き起こす連鎖

2020年11月号

マイケル・オッペンハイマー プリンストン大学教授 (地球科学・国際問題)

近い将来、一生に一度のはずの大災害に、われわれは毎年のように見舞われるようになる。特に、沿岸地域では、2050年までに、かつてなら100年に一度のレベルだった洪水が毎年のイベントになるだろう。専門家は長く(気候変動が急減に悪化し始める)ティッピング・ポイント(決壊点)のことを心配してきたが、これが他の災害との連鎖反応を起こす恐れがある。例えば、グリーンランドと南極の氷床の多くが融解すれば、世界の海面が上昇するだけでなく、北極圏とユーラシア大陸の永久凍土層が融けだし、大量のメタンガスと二酸化炭素が放出されて温暖化のペースは一段と加速する。すでに温室効果ガスの排出削減努力だけでなく、「劇的な変化に人間をいかに適応させていくか」を考えなければならない時期に入っている。向こう30年間に排出量がどう変わろうと、地球の気温が大幅に上昇するのはもはや避けられないからだ。

レジリエンス強化の大戦略を
―― パンデミック、異常気象時代における復元力パワー

2020年11月号

ガネーシュ・シタラマン  バンダービルト大学法科大学 教授

2020年にはパンデミックが発生し、多くの米市民がステイホームを余儀なくされた。来年には、農業と食糧生産を破壊する千年に一度の大干ばつが起きるかもしれないし、その翌年には、サイバー攻撃によって電力網が破壊され、重要なサプライチェーンが遮断されるかもしれない。現在のパンデミックが(今後の不透明さを示す)何らかの兆候だとしても、各国はこうした混乱に対処するための準備が嘆かわしいほどにできていない。必要なのは、レジリエンス(柔軟性と復元力)を強化する大戦略でなければならない。アメリカを含むほとんどの国々は、単独では完全なレジリエンスをもつことはできない。重要な物資や製造能力のすべてを国内で調達できるわけではないからだ。解決策は、価値を共有する北米、西ヨーロッパ、北東アジアのリベラルな民主国家との絆と同盟を深めることだ。

パンデミック後の資本主義
―― 官民協調型の経済システムの模索

2020年11月号

マリアナ・マッツカート  ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン  経済学教授

多くの人が、民間部門がイノベーションと価値創造の主要な原動力だったと信じてきたために、利益は民間企業が手にする権利があると考えている。だがこれは真実ではない。医薬品、インターネット、ナノテク、原子力、再生可能エネルギーなど、これらのすべては政府の膨大な投資とリスクテイキングのおかげで実現してきた。イノベーションのために公的資金を投入しつつも、それから恩恵を引き出してきたのは、おもに企業とその投資家たちだった。COVID19危機は、この不均衡を正す機会を提供している。ベイルアウトする企業により公益のために行動するように求め、これまで民間(の企業)部門だけが手にしてきた成功を納税者が分かち合えるようにする新しい経済構造が必要だ。富の創造への公的資金の貢献を明確に理解すれば、公的投資の意味合いを変化させることができる。目の前にある課題は、よりすぐれた経済システム、よりインクルーシブで持続可能な経済を官民で形作ることであり、世界の誰もがCOVID19ワクチンを利用できるようにすることでなければならない。

日はまた昇る
―― 日本のパワーは過小評価されている

2020年11月号

ミレヤ・ソリス  ブルッキングス研究所  東アジア研究所ディレクター

「日本は、経済的繁栄を中国に、安全保障をアメリカに依存しすぎている」と悲観する見方が市民の間で大きくなっている。さらに、2020年9月の安倍首相の突然の辞任によって、国内の安定した指導体制や先を見据えた外交の時代が終わるかもしれないという懸念も浮上しつつある。地政学的ライバルが大きな流れを、そしてパンデミックが混乱を作り出すなか、ワシントンは、再び、日本のポテンシャルをまともに捉えず(この国を無視する)誘惑に駆られるかもしれない。しかし、日本の戦略的選択は、日本の将来だけでなく、米中間の激しい大国間競争の行方にも影響を与える。日本の時代は終わったとみなすこれまでの見方が、時期尚早だったことはすでに明らかだ。

安倍政権の遺産
―― なぜ長期政権が実現したのか

2020年11月号

トバイアス・ハリス テネオ・インテリジェンス  副会長

安倍晋三は、2012年12月に首相に再選された後の7年8カ月にわたって政治的に生き残っただけでなく、6回にわたって選挙で党を勝利に導き、最後の数カ月まで一貫して高い支持率を維持し、日本の政治システムをこれまで誰もなしえなかった形で統治してきた。彼は有権者の多くが望んでいた安定を提供した。他の民主国家の多くがポピュリズム政治の抵抗に遭い、政治基盤が不安定化し、民主主義そのものが後退していた時期に、安定を提供してみせた。後継者に選ばれた菅義偉は、安倍政治を変化させるのではなく、踏襲していくと約束している。しかし、彼は前任者ほど幸運ではないかもしれない。・・・

米覇権の解体
―― アメリカパワーの衰退と中ロの台頭

2020年10月号

アレクサンダー・クーリー  バーナード・カレッジ教授(政治学) ダニエル・H・ネクソン  ジョージタウン大学外交大学院准教授

中国とロシアの台頭に伴い、「独裁的で非自由主義的プロジェクト」が米主導の「リベラルな国際システム」に対する代替策として浮上している。途上国、さらには多くの先進国でさえ、欧米の援助や支援に依存し続けるのではなく、別のパトロンによる支援を頼ることができる。こうして、アメリカのグローバルリーダーシップは単に後退しているだけではなく、解体しつつある。アメリカの衰退は、循環的というよりも、むしろ、永続的なものだ。軍事費をいかにつぎ込んでも、アメリカの覇権解体を促している流れを止めることはできない。考えるべきは、米覇権の解体がどこまで進むかだ。

民主世界と中国の冷戦
―― 北京との共存はあり得ない

2020年10月号

アーロン・L・フリードバーグ プリンストン大学教授(政治・国際関係)

欧米の期待に反し、政治体制の締め付けを緩め、開放的政策をとるどころか、習近平は国内で異常なまでに残忍で抑圧的な政策をとり、対外的にもより攻撃的な路線をとるようになった。アメリカに代わって世界を主導する経済・技術大国となり、アメリカの東アジアでの優位を切り崩そうとしている。北京は、民主社会の開放性につけ込んで、相手国における対中イメージと政策を特定の方向に向かわせようと画策している。だが、北京は、中国市民を恐れている。自分たちが「社会の安定」と称するものを無理矢理受け入れさせるために大きな努力をし、国内の治安部隊やハイテク監視プログラムに数十億ドルを費やしている。共産党が絶対的な権力をもつ中国が、リベラルな民主世界が強く団結している世界において快適に共存できるとは考え難いし、民主世界が団結を維持できれば、中国が変わるまで、ライバル関係が続くのは避けられないだろう。

迫りくる米中ハイテク冷戦
―― 北京による対抗戦略の全貌

2020年10月号

アダム・シーガル  米外交問題評議会シニアフェロー

ワシントンは、中国ハイテク大手のサプライチェーンからの排除にはじまり、そうした企業との取引禁止、テレコミュニケーションが依存する海底ケーブルの規制にいたるまで、近未来における対中技術戦略のアウトラインをすでに定めている。中国も対抗策を準備し、半導体その他の中核技術の国内開発に取り組んでいる。ハイテク企業を動員し、一帯一路イニシアティブに参加する国々とのつながりを強化し、サイバー空間での産業スパイ活動も続けている。「ハイテク冷戦」の輪郭はすでに明らかだが、この競争から誰が恩恵を受けるのかは、はっきりしない。ドイツ銀行の報告書は、米中ハイテク戦争のコストは今後5年間で3・5兆ドルを上回る規模に達すると試算している。それでも、両国の指導者は、ハイテクを国家安全保障問題とみなすことで、国内の技術開発を最速で進めたいと考えている。

米中対立の本質とは
―― イデオロギー対立を回避せよ

2020年10月号

エルブリッジ・コルビー  元米国防副次官補(戦略・戦力展開担当) ロバート・D・カプラン  外交政策研究所の地政学チェアー

ワシントンの中国批判は的外れではない。アメリカは中国との非常に深刻な競争を展開しており、多くの面で強硬路線をとらざるを得ない状況にある。だが、米中間の問題の根底にイデオロギー対立が存在するわけではない。経済、人口、国土の圧倒的な規模とそれがもたらすパワーゆえに、 たとえ中国が民主国家だったとしても、ワシントンはこの国のことを警戒するはずだ。逆に、これをイデオロギー競争とみなせば、対立の本質を見誤り、壊滅的な結末に直面する恐れがある。中国に対抗する連帯を構築するのさえ難しくなる。大国間競争では、イデオロギー的な一致を求めたり、完全な勝利を主張したりすることなど無意味であり、むしろ、壊滅的事態を招きいれることを理解する必要がある。

バイデン政権の課題
―― 米外交の再生には何が必要か

2020年10月号

ベン・ローズ  オバマ政権大統領副補佐官 (国家安全保障問題担当)

トランプを指導者に選んだ共和党は、力が正義を作るという信念をもっている。国防予算の規模、外国の体制変革を追求する意欲、アメリカの経済力と軍事力への強硬な主張からもこれは明らかだ。さらに、白人キリスト教文明の先駆者というアイデンティティがアメリカに固有の例外主義を授けていると彼らは考えている。一方、民主党は正義が力を生むと考えている。米国内における欠陥や問題を是正する力や、移民を歓迎する民主国家としてのアイデンティティ、法の支配の順守、そして人間の尊厳に気を配る姿勢が、アメリカに世界のリーダーシップを主張する道徳的権威を与えているとみなしている。バイデンは、これを国内外で平常な感覚を取り戻すチャンスと説明している。その努力に、新しいタイプの世界秩序形成を加えるべきだろう。それは、ルールを押し付けることなくアメリカがリーダーシップを発揮し、他国に求める基準に自らも従い、グローバルな格差と闘う世界秩序だ。

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