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論文データベース(最新論文順)

CFR Blog
ワクチン開発と集団免疫
―― 米中免疫ギャップの意味合い

2021年1月号

ヤンゾン・ファン 米外交問題評議会シニアフェロー

ワクチンの大規模接種と感染・回復の免疫獲得によってアメリカは集団免疫を実現し、2021年秋までには平常への復帰を果たせるかもしれない。一方、コロナウイルスのアウトブレイクを短期間で封じ込めただけに、ウイルスにさらされた中国人はほとんどおらず、このままでは中国の人口の多くがこの感染症に脆弱なままの状態に置かれる。この「免疫ギャップ」によって(中国が今後集団免疫を獲得する上で大きな困難とリスクに直面するとすれば)、もはや(初期段階で感染症を封じ込めた)中国の「成功」と(そうできなかった)欧米諸国の「失敗」を、中国モデルの優位を示す証拠として指摘できなくなり、中国の指導者に政治問題を突きつけることになるかもしれない。むしろ、リベラルな民主主義国家のレジリエンス(復元力)、大きな危機に直面したときの自己修正能力が評価されるようになるかもしれない。つまり、ワクチンが大国間競争のゲームチェンジャーになる可能性がある。

農村地帯で続く小さなアウトブレイク
―― コロナ危機が長期化する理由

2021年1月号

タラ・C・スミス  ケント州立大学教授(疫学)

都市部で猛威を振るったコロナウイルスは、いまや多くの農村コミュニティを襲っている。全米で感染ケースが増えているが、一人当たりの感染率がもっとも高いのは農村部や小さな町であることが多い。農村部での感染状況は当面は悪化し続けると考えられる。地方の病院は設備も十分ではないし、ファイザーのワクチンのように保存に特殊な設備が必要なワクチンを管理していくのは難しい。1世紀前のインフルエンザがそうだったように、都市がコロナウイルス感染の拡大を制御できるようになっても、農村部では2021年あるいはより長期的にウイルスへの感染は拡大し続けるかもしれない。

ワクチンへの過大な期待と幻滅
―― 迅速な勝利は期待できない

2021年1月号

ジョシュ・ミショー  カイザーファミリー財団グローバルヘルス 政策担当アソシエートディレクター ジェン・ケイツ  カイザーファミリー財団グローバルヘルス&HIV 政策担当ディレクター 上席副会長

将来のアウトブレイクリスクを排除するには、世界人口の70%がワクチンの接種あるいは感染と回復を通じて、コロナウイルスの免疫を獲得する必要がある。COVID19に感染したのは世界人口の10%と推定されるだけに、グローバル規模のワクチン接種でリスクを抑え込むのは非常に難しい。途上国へのワクチン供給に遅れが生じるのも、ワクチン接種をいやがる人が出てくるのも避けられない。ソーシャルメディアを通じて拡散される反ワクチンのプロパガンダや偽情報が・・・ワクチンへの信頼を貶めるかもしれない。有効なワクチンの供給で、コロナ危機が終わるわけではない。迅速な勝利がもたらされることはなく、むしろ、ウイルスとの長期に及ぶデタントの時代の始まりになる可能性が高い。

パンデミック対策を左右する政府への信頼
―― 誰がどのように情報を伝えるか

2020年12月号

トマス・J・ボリキー 外交問題評議会 ディレクター (グローバルヘルス担当) ソーヤー・クロスビー ワシントン大学健康指標評価センター  データアナリスト サマンサ・キーナン 外交問題評議会リサーチアソシエーツ グローバルヘルス、経済、開発)

パンデミックに相対的にうまく対応できた国とそれに失敗した国の違いはどこにあるのか。リスクコミュニケーションにおいて重要なのは「何が問われているか」だけでなく、「誰が」情報や懸念を「どのように」伝えるかだ。要するに、情報を伝える側が信頼されていなければ、市民が耳を傾けることもない。実際、事実に反する説明をした政治家もいる。米大統領は2月の時点で、「それはインフルエンザのようなもので、制御できるし、いずれいなくなる」とさえ表明した。効果的な治療法がなく、人々が既存の免疫をもたない新型ウイルスに直面して、市民が互いに自らを守れるようにするために、政府ができる唯一のことは「自分を守るために何が必要かについて市民を納得させること」だ。特に自由な社会においては、そうした試みの成功は政府と市民の間に信頼があるかどうかに左右される。

民主国家テクノフォーラムの形成を
―― 民主国家のデジタル協調に向けて

2020年12月号

ジャレッド・コーヘン  前米国務省政策企画部スタッフ  リチャード・フォンテーヌ  ニューアメリカン・セキュリティセンター  最高経営責任者

民主国家のテクノロジー問題へのアプローチは、その場しのぎで調整が不十分だったし、これまで、その多くをテクノロジー専門家の判断に委ねてきた。実際、テクノロジーが世界を大きく変えつつあることを認識しつつも、民主国家の指導者たちは、その流れをいかに管理していくかについては奇妙にも協調を欠いてきた。だが、そのインパクトと重要性から考えて、テクノロジーへのアプローチを技術者に任せ続けるのは問題がある。明確な技術開発戦略をもつ中国は、顔認識、音声認識、5Gテクノロジー、デジタル決済、量子通信、商用ドローン市場など、さまざまな技術分野でアメリカを抜き去っている。いまや(民主的)価値を共有する国々が協調して対応策をとるための包括的なテクノロジーフォーラムを立ち上げる必要がある。

迫り来る嵐
―― 米中衝突と大国紛争のリスク

2020年12月号

クリストファー・レイン  テキサスA&M大学教授(国際関係論)

研究者や政治家は、大国間紛争を(想定外として)真の脅威から除外しようとするが、現実には、そのような戦争が起きる条件は依然として存在する。何らかの火種が紛争の引き金を引く可能性は十分にあり、特に、米中間でのリスクは顕著だ。実際、1914年前の英独対立と現代の米中関係の類似性は、衝撃的ですらある。アメリカは自らの姿を、パワーが徐々に衰えているかつての覇権国家イギリスに重ね合わせている。かつてのロンドンのように、敵の台頭は不公正な貿易や経済政策によるものだと憤慨し、ライバルは悪意に満ちたアクターだとみなしている。一方、現在急速に台頭している中国も、第一次大戦前のドイツのように、国際ステージで対等にみなされたいと考え、近隣地域で覇権を確立したがっている。この構図に変化がなければ、向こう数十年以内に両国間で戦争が起きる危険はあるし、そのリスクはかなり高い。

米新政権への北京の期待と不安
―― 米中関係のリセットは可能か

2020年12月号

チェン・リー   ブルッキングス研究所中国センター ディレクター

米大統領選挙後の中国のソーシャルメディアは全般的に安堵と楽観主義にあふれていた。バイデン次期政権の誕生を歓迎していた。だが、そうした楽観ムードも短期間で変化するかもしれない。4年前、北京はトランプ大統領誕生を同様に歓迎していたからだ。北京の指導者の多くは、トランプのことを一緒に何かを達成できるビジネスマンとみていたが、これは希望的観測にすぎなかった。中国の外交エスタブリッシュメントは、警戒と慎重さを維持しつつも、バイデン政権の誕生で関係が改善すればよいと考えている。だが、トランプの対中政策を形作った条件の多くがいまも存在するだけに、米中という超大国間関係のリセットはそう簡単ではないだろう。

イラン政策をトランプから救うには
―― イランとの関係正常化を模索せよ

2020年12月号

トリタ・パーシ  クインシー研究所 上席副会長

トランプ政権は、後継大統領のイラン政策を枠にはめ、アメリカが離脱した核合意の運命を封印したいと考えている。トランプは最後の10週間を利用して、洪水のごとく、経済制裁を乱発してイランを締め上げ、新政権の課題を実現不可能な状況に陥れるつもりだ。だが、バイデンはかつてオバマが(イラン強硬策にアメリカを向かわせようとした)ネタニヤフイスラエル首相を出し抜いたように、トランプの裏をかいて、核合意を超えて両国の関係を大局的に捉えるべきだろう。例えば、イランとの直接的な外交関係をもてば、アメリカがこの地域の紛争を避け、問題があるとワシントンが考えるイランの政策により効果的に影響を与えられるようになる。・・・

世界を修復し、建設する
―― ポストトランプ外交の前提

2020年12月号

リチャード・ハース 外交問題評議会会長

深刻な混乱を引き起こしたこの4年間の米外交は、パンデミックとともに、アメリカと世界に大きなダメージを与えてきた。アメリカの名声そして戦後75年にわたって構築されてきた貴重な同盟関係や国際的制度が深く傷つけられた。トランプ路線を覆すのは歓迎されるとしても、それだけでは問題は解決しない。修復と建設が必要だ。修復とは、存在するが壊れているものを再び機能させることで、建設とは、新しく何かを創造することだ。最初の6―9カ月のバイデン外交は修復に徹すべきで、建設の機会や特定領域の必要性に対処していくのはその後でなければならない。真っ先に取り組むべきはパンデミック対策であることは、はっきりしている。その後にも、地球環境問題、中国、北朝鮮と問題は山積している。

パンデミックとデジタルなつながり
―― 貧困国におけるコミュニティパワー

2020年12月号

リチャード・セネット コロンビア大学 資本主義社会センター・シニアフェロー

世界の貧困地域における感染者にとって、唯一の対策は(隔離や)行動規制だけであることが多い。地元の医師や看護師でさえ外科用手袋やその他の防護具を調達できずにいる。こうして、貧しいコミュニティは、最後の手段としてオンラインネットワークを、医療ケアの代わりとして使うようになった。もちろん、人工呼吸器や高度な治療薬を代替できるわけではない。それでも、かつては存在しなかった「つながり」という、非常に重要な社会サービスが提供される。こうして、互いに支援サービスを提供し、小額の送金を確認し、地方を含む遠くにいる家族とつながることができる。貧しいコミュニティは、オンラインネットワークを利用して、日常的なリスクを軽減し、パンデミックとその後のロックダウンが必然とする不況と孤立に対処していくだろう。

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