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論文データベース(最新論文順)

米中対立と大国間政治の悲劇
―― 対中エンゲージメントという大失態

2021年12月号

ジョン・J・ミアシャイマー シカゴ大学政治学教授

ヨーロッパやアジアを含む他の地域に覇権国家が誕生することを長く脅威とみなして阻止してきたワシントンは、中国の野心は自国を直接的に脅かすとみなし、いまやその台頭を阻止することを決意している。だが、これこそ大国間政治の悲劇に他ならない。中国が豊かになり、米中冷戦は避けられなくなった。対中エンゲージメント政策は、近代史上、最悪の戦略的失策だった。超大国が自らと肩を並べるライバルの台頭を、これほど積極的に推進した先例はない。いまや、大がかりな対抗策をとろうにも手遅れだ。

米中新冷戦とハイブリッドな覇権
―― 米ソ冷戦と歴史の教訓

2021年12月号

ハル・ブランズ  ジョンズ・ホプキンス大学 教授(グローバルアフェアーズ)   ジョン・ルイス・ギャディス  イェール大学 教授(陸軍・海軍史)

時は流れ続け、重力の法則は変わらない。同様に変わらない法則が新たに出現しつつある中国との冷戦も規定しているのだろうか。そうだとしても、その背後にどのような「不可知の要因」が潜んでいるのか。冷戦の歴史が不確実性を生き抜き、成功を収めるための枠組みを提供しているとすれば、アメリカは自らの最高の伝統を具現し、偉大な国家として存続していく価値があることを証明しなければならない。民主主義に対する内なる脅威を辛抱強く管理し、世界の多様性を守るために道徳的・地政学的な矛盾を許容する必要がある。未来が、私たちが予想するものではなく、ほとんどの点で私たちが過去に経験したことのないものになるとしても、歴史の研究によって、未来をナビゲートする最良の羅針盤が提供されるはずだ。

イラン新政権と核合意
―― 対米強硬路線を貫く理由

2021年12月号

モハマド・アヤトラヒ・タバァー テキサスA&M大学 ブッシュ行政公共サービス大学院 准教授(国際関係論)

エブラヒム・ライシ大統領率いるイランの新政権は、今後の核合意への復帰に向けた交渉で強硬姿勢を崩すつもりはない。むしろ、アジア経済に焦点を合わせ、自立的経済を模索することで、イラン経済の命運を核合意から切り離したいと考えている。イランの前大統領は、巨大国内市場を欧米企業に開放する手段として核合意を利用しようと試みたが、ライシ政権は、むしろ中国、ロシア、近隣諸国との経済関係を強化することで、イランを制裁の余波から切り離したいと考えている。テヘランの戦略は、アメリカの影響力に抵抗し、強制力には強制力をもって対抗することだ。核交渉の再開に向けて準備をしている間にも、テヘランはあらゆる事態に備えようと試みている。

ブラジルの民主的衰退の行方
―― ジャイル・ボルソナロを止めるには

2021年12月号

オリバー・ストゥンケル ジェトゥリオ・ヴァルガス財団 准教授(国際関係学)

ブラジル大統領に就任して以降、ボルソナロは議会や最高裁判所の閉鎖を求めるデモ隊に同調し、政府の軍事化を大がかりに進め、選挙システムへの社会的信頼をシステマティックに損なう行動をとってきた。トランプに心酔している彼は、2022年の大統領選挙で敗北してもそれを受け入れるとは考えにくく、2021年1月にワシントンで起きた暴動のような事態がブラジルで再現されるかもしれない。民主主義が徐々に損なわれ、最終的に権威主義的指導者の圧力に屈したベネズエラ型の崩壊がブラジルでも起きるのかもしれない。仮に民主主義を志向する候補者がボルソナロを打倒して後任大統領に就任しても、西半球における2番目に大きな民主国家の衰退を覆すのは、長く困難な闘いになるだろう。

「だましの時代」のプレイヤーたち
―― 政府とソーシャルメディアの責任

2021年12月号

ジャミール・ジャファー  コロンビア大学 ナイト・ファースト・アメンドメント研究所 エグゼクティブディレクター

アメリカ人は「だましの時代」、嘘がいたるところにあふれる時代に生きている。しかし、言論の自由を認める米憲法修正第一条によって、偽情報を流した本人がその責任を問われることはあまりない。虚偽の主張は言論市場で修正されるほうが好ましいと考えられているからだ。一方で修正第一条は、一定の限界を定めつつも、事実に反する誹謗中傷についての名誉毀損訴訟を許しており、実際には、さまざまな局面で、有力者や政府が嘘を罰することを許している。もちろん、ソーシャルメディアで偽情報を流す人々にも問題はある。だが、政府も偽情報を流しているし、ソーシャルメディア企業も是正すべき問題を抱えている。

米中対立とアジアの軍事化
―― 軍事ファースト路線の弊害

2021年12月号

ヴァン・ジャクソン  在カナダ・アジア太平洋財団特別フェロー

アジアへ米軍部隊を増派して軍備を強化し、同盟諸国に軍備増強を促すことで、ワシントンは地域的緊張を高め、回避可能な紛争リスクを高めてしまっている。しかも、このプロセスゆえに格差や気候変動その他の地域的不安定化要因に非軍事的に対処していく機会を生かすのを実質的に放棄してしまっている。過剰な軍事的アプローチは、戦争や軍拡競争のリスクを高めるだけでなく、アジアの安定と繁栄の見通しを遠ざけてしまう。この地域のゲームでもっとも重要なのは陸軍や海軍ではない。それは経済開発であり、貿易や投資だ。ギアを入れ替えない限り、バイデン政権はアジアにおける次の悲劇の主犯とみなされることになる。

残存する国内ワクチン格差
―― 周辺化されたコミュニティへの国際的対応を

2021年12月号

ダーレン・ウォーカー  フォード財団会長

グローバルな供給量を増やすだけでは、国家間あるいは国内におけるワクチンへの平等なアクセスを提供することはできない。政府や国際機関は、ドナー、市民社会グループ、地域のリーダーたちと協力して、社会から取り残され、周辺化されたコミュニティにワクチンが行き渡るように試みる必要がある。そうしない限り、弱者の多くがワクチンを受けられないままになり、世界全体が再び危険にさらされる。グローバルパンデミックを防ぐには、途上国、特に長く無視され、抑圧されてきた地域の公衆衛生インフラを強化するしかない。このワクチン格差に正面から取り組まなければならないのは、道徳的に問題があるからだけではない。そうすることが公衆衛生や安全のために必要だからだ。


より公平な新経済システムへ
―― 増税と政府による経済管理

2021年12月号

フェリシア・ウォン  ルーズベルト研究所会長

パンデミックはフリードマノミクスをたたきのめす最後の一撃だったのかもしれない。しかし、サミュエルソンがおそらくは認識し、受け入れていたかもしれない「増税と政府による経済管理」という世界もまだ完全には出現していない。この新しいパラダイムが、1940年代のケインズ主義や1980年代のフリードマン的市場経済原理主義のように定着するかどうかは、依然として多くの要因に左右される。新たに形成されつつあるこの枠組みでは、経済と社会の健全性を促進するために、政府にさまざまな役割を担わせることが前提にされている。グリーンエネルギーに投資し、医療、育児、教育などの公共財にもっと多くのコストをかけ、賃金、富、住宅、教育、健康などの分野における人種間の格差を是正していくことが期待されている。

地政学パワーとしてのビッグテック
―― 米中対立と世界秩序を左右するプレイヤー

2021年12月号

イアン・ブレマー ユーラシアグループ社長

ほぼ400年にわたって国家は国際政治の主要なアクターとして活動してきたが、それも変化し始めている。いまやビッグテックは政府に匹敵する地政学的影響力をもち始めている。ビッグテックの地政学的な姿勢や世界観を規定しているのはグローバリズム(アップル、グーグル、フェイスブック)、ナショナリズム(マイクロソフト、Amazon)、テクノユートピアニズム(テスラ)という三つの大きな思想・立場で、国家の立場ではない。国家的な優先事項を追求するために、大国の政治家が巨大テクノロジー企業をたんなる地政学的なチェスの駒として自由に動かせる時代は終わりつつある。テクノロジー企業は名実ともに独立した地政学アクターになり、米中対立だけでなく、今後の秩序を左右する大きな影響力をもち始めている。

膨大な中国の債務問題
―― 恒大集団は氷山の一角にすぎない

2021年12月号

ベン・ステイル  外交問題評議会 国際経済担当ディレクター、 ベンジャミン・デラ・ロッカ   外交問題評議会アナリスト

本来、住宅価格と企業への貸し出しは連動している。景気が良ければ、銀行は企業への融資を増やし、所得が増えた消費者は不動産を購入し、このサイクルのなかで不動産価格は上昇していく。景気が冷え込むと、所得も減り、デフォルト(債務不履行)が増大し、これらのトレンドは逆転する。実際、アメリカでは何十年にもわたってこのような状況が続いてきた。しかし、中国では事情がまったく違う。2012年に習近平が権力を掌握して以降、中国の住宅価格と銀行の企業向け融資は連動していない。一方が上がればもう一方は下がり、逆もまた真だ。これは習近平期の中国における融資総額が、結局、政府のGDP成長率目標(今年は6%)に左右されるためだ。成長率が目標を下回りそうになると、貸し出しと融資を増やして数字が底上げされる。現状で2022年10月に3期目の政権を担うことを習近平がもっとも重視している以上、成長を実現することが最優先とされ、このやり方が続けられるだろう。


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