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論文データベース(最新論文順)

地政学パワーとしてのビッグテック
―― 米中対立と世界秩序を左右するプレイヤー

2021年12月号

イアン・ブレマー ユーラシアグループ社長

ほぼ400年にわたって国家は国際政治の主要なアクターとして活動してきたが、それも変化し始めている。いまやビッグテックは政府に匹敵する地政学的影響力をもち始めている。ビッグテックの地政学的な姿勢や世界観を規定しているのはグローバリズム(アップル、グーグル、フェイスブック)、ナショナリズム(マイクロソフト、Amazon)、テクノユートピアニズム(テスラ)という三つの大きな思想・立場で、国家の立場ではない。国家的な優先事項を追求するために、大国の政治家が巨大テクノロジー企業をたんなる地政学的なチェスの駒として自由に動かせる時代は終わりつつある。テクノロジー企業は名実ともに独立した地政学アクターになり、米中対立だけでなく、今後の秩序を左右する大きな影響力をもち始めている。

膨大な中国の債務問題
―― 恒大集団は氷山の一角にすぎない

2021年12月号

ベン・ステイル  外交問題評議会 国際経済担当ディレクター、 ベンジャミン・デラ・ロッカ   外交問題評議会アナリスト

本来、住宅価格と企業への貸し出しは連動している。景気が良ければ、銀行は企業への融資を増やし、所得が増えた消費者は不動産を購入し、このサイクルのなかで不動産価格は上昇していく。景気が冷え込むと、所得も減り、デフォルト(債務不履行)が増大し、これらのトレンドは逆転する。実際、アメリカでは何十年にもわたってこのような状況が続いてきた。しかし、中国では事情がまったく違う。2012年に習近平が権力を掌握して以降、中国の住宅価格と銀行の企業向け融資は連動していない。一方が上がればもう一方は下がり、逆もまた真だ。これは習近平期の中国における融資総額が、結局、政府のGDP成長率目標(今年は6%)に左右されるためだ。成長率が目標を下回りそうになると、貸し出しと融資を増やして数字が底上げされる。現状で2022年10月に3期目の政権を担うことを習近平がもっとも重視している以上、成長を実現することが最優先とされ、このやり方が続けられるだろう。


ベネズエラのカオス
―― マフィア国家からアナーキーへ

2021年11月号

モイセス・ナイーム  カーネギー国際平和財団 特別フェロー フランシスコ・トロ  グループ・オブ・フィフティ チーフコンテンツオフィサー

絶望が大がかりな人口流出を後押ししている。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の推計によると、ベネズエラの国外流出者の数は約540万と、人口の5分の1近くに達する。かつては拡大を続けていた大規模な中間層も事実上消滅し、いまや市民の96%が貧困ライン以下の暮らしをしている。経済は崩壊し、1人当たりGDPは2013年の危機前の4分の1程度に落ち込んだ。ある試算によれば、2012年以降のベネズエラ経済の凋落は、平時の現象として世界的にも先例がない。マドゥロ率いる犯罪集団がどうにかまとまりを維持して内輪もめを回避できるか、それとも、武装犯罪組織の縄張り争いが、国全体をアナーキーな暴力の連鎖に巻き込んでしまうのか。ベネズエラはその瀬戸際にある。・・・

バイデン外交の本質
―― アメリカは信頼できるか

2021年11月号

リチャード・ハース 米外交問題評議会会長

戦後に形作られた外交パラダイムでは、米国家安全保障は国益を超えたアジェンダを前提にしているとされ、この意味でも、長期的にアメリカの安全保障と繁栄を支えてくれるような国際システムを維持していく必要があると考えられていた。だが、現在の新しいパラダイムではそうした外交アプローチの核心部分が拒絶されている。「より平和で繁栄した未来に向かって、あらゆる人々のために世界を導くのを助ける」というバイデンの公約にもかかわらず、現実には「新秩序の構築と維持という骨の折れる仕事なしで、国際秩序の恩恵を確保したいと望んでいる」。バイデンとトランプの外交政策の間には、一般に認識されている以上に多くの継続性があるし、こうした継続性の重要な要素は、トランプ政権に先立つ、オバマ政権時代から始まっている。・・・

パンデミック対策組織がなぜ必要か
―― パンデミックファンドの創設を

2021年11月号

アンドリュー・C・ハインリッヒ  米上院外交委員会 特別プロジェクト担当ディレクター サード・B・オマー  イェール大学 グローバルヘルス研究所ディレクター

パンデミックは今後ますます頻繁に起きるようになるかもしれない。国際的な旅行や商取引がパンデミック以前の水準に戻れば、感染が拡大するリスクは高くなる。さらに、気候変動を引き起こしている主要な要因である森林破壊が、いわゆる人獣共通感染症の多くと密接に関係していることはすでに明らかにされている。次のアウトブレイクに備え、それに対抗していくことを明確な目的とする恒久的制度・機構を考案し、維持していくべきだ。途上国に支援を迅速に提供し、最先端の研究を促し、人命を救える医薬品生産を加速できるようにしなければならない。そうしない限り、国際社会はさらに壊滅的な被害をもたらす危険のある次のパンデミックに無防備なまま直面することになる。

戦狼外交の正体
―― 中国外交官たちの強硬路線と不安

2021年11月号

ピーター・マーティン  ブルームバーグ・ニュース 防衛・情報担当記者

2008―09年の世界金融危機以降、中国モデルの正しさが立証されたという思い込みから、北京は自己主張の強い外交戦略をとり始めた。2012年に習近平が中国共産党総書記に就任すると、変化は一気に加速した。北京の政府高官たちが習の指示に従ったのは、出世のためだけではなく、恐怖のせいでもあった。実際、政治的背信行為も一種の汚職とみなされた。外交官たちは、外務省での「自己批判」の会だけでなく、党に対する忠誠と命令に従う意志が試される「確認合宿」に参加しなければならなかった。こうして現在の北京は、「世界は北京の方針に適応しなければならない」と決めてかかっているかのような言動をみせるようになった。

中国はクアッドの何を警戒しているか
―― 北京の野心とクアッドの目的

2021年11月号

ケビン・ラッド   アジア・ソサエティ会長

「中国が支配的優位を確立するのが必然である以上、中国の要求を譲歩して受け入れる以外に選択肢はない」。北京は各国をこのように納得させたいと考えている。それだけに、日米豪印戦略対話(クアッド)が中国への対抗バランスを形成できるような十分な規模、一貫性、包括性をもつフォーラムへ進化し、それによってアジアまたは世界的における中国の支配的優位が損なわれるのが避けられない事態になるのは、北京にとって大きな問題だ。中国がクアッドの進歩を抑え込めるような戦略を特定できるかが、一触即発の危険な時代における米中競争、中国のグローバルな野望を左右する重要な要因の一つになる。

気候変動と生物多様性の二重危機
―― 「プラネタリー政治」の必要性

2021年11月号

スチュワート・M・パトリック  米外交問題評議会シニアフェロー グローバルガバナンス担当

われわれが地球という惑星を食い物にしてきたために、人類の生存が危険にさらされている。化石燃料に依存し続け、天然資源を貪欲にむさぼり続けた結果、手に負えない気候変動問題が引き起こされ、死活的に重要なエコシステムが劣化し、地球のバイオスフィアーは破綻しつつある。今こそ、地球をかけがえのない存在と認めて、エコロジカルなリアリズムから、地球環境上の脅威に対処していく国際協調を世界アジェンダの中枢に据えなければならない。新しい国際的なアプローチで、政治と自然界の距離を縮めていく必要がある。必要とされているのは「プラネタリー政治」、地球という惑星を守るための政治だ。

グレーゾーン事態と小さな侵略
―― 台湾、尖閣、スプラトリー

2021年11月号

ダン・アルトマン  ジョージア州立大学 アシスタントプロフェッサー(政治学)

小さな侵略・征服行動の背後には明確な戦略がある。それを取り返すのではなく、仕方がないと侵略された側が諦めるような小さな領土に侵略をとどめれば、あからさまに国を征服しようとした場合に比べて、全面戦争になるリスクは大きく低下する。だが現実には、中国による台湾侵攻、封鎖、または空爆のシナリオばかりが想定され、(金門島・馬祖島、あるいは太平島を含む)台湾が実行統治する島々を中国が占領するという、より可能性の高いシナリオが無視されている。そうした小領土の占領を回避する上でもっとも効果的なのが、(応戦の意図を示す小規模な)トリップワイヤー戦力、特にアメリカのトリップワイヤー戦力だ。だが、そうした戦力が配備されていないために、尖閣、スプラトリー、台湾など、中国との潜在的なホットスポットの多くで抑止力が不安定化している。

国際社会における台湾の役割
―― 「権威主義VS.民主主義」モデル競争のなかで

2021年11月号

蔡英文 中華民国総統  (邦訳文はタイトル、小見出しを含めてフォーリン・アフェアーズ・ジャパンの編集によるものです。より直接的なニュアンスその他については英文をご覧ください。https://www.foreignaffairs.com/articles/taiwan/2021-10-05/taiwan-and-fight-democracy)

パンデミックを経て、(大陸の)権威主義政権は「自分たちの統治モデルが民主主義のそれ以上に21世紀の要請にうまく適応できる」とさらに確信するようになった。これがイデオロギー競争をさらに加速している。台湾は(多くの意味で)競合する二つのシステムが交差するポイントに位置している。力強い民主主義と欧米のスタイルをとりながらも、中国文明の影響を受け、アジアの伝統によって規定されている台湾は、そのプレゼンスと持続的な繁栄を通じて、中国共産党が主張するストーリーへの反証を示すと共に彼らの地域的野心に対する障害を作り出している。・・・中国共産党が突きつける脅威を認識するにつれて、各国は台湾と協力することの価値を理解するだろう。台湾が倒れれば、地域的平和と民主的同盟システムにとって壊滅的な事態になる。

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