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論文データベース(最新論文順)

紛争の拡大とエスカレーション?
―― ロシアと欧米が陥るスパイラルの罠

2022年5月号

エマ・アッシュフォード アトランティック・カウンシル シニアフェロー ジョシュア・シフリンソン ボストン大学国際関係学部准教授

ウクライナの都市を砲撃するなど、軍事面でロシアが自制心を失っているのは事実だろう。一方、バイデン政権は、紛争に直接介入する意思はないと表明している。つまり、一方はエスカレートするのもやむを得ないと考え、他方はエスカレーションの回避を望んでいる。しかし、スパイラルとは、直接対決を望んでいない国同士でも、結局はライバル関係が激化し、戦争のリスクを冒すという悲劇性をもっている。しかも、ロシアの侵攻が続くなか、欧米の武器がウクライナに大量に流れ込み、制裁がさらに強化されるかもしれない。双方とも、さらに圧力を強めるつもりでいる。こうなると、一つの火種が大火へエスカレートしかねない。

ロシアの戦争犯罪と特別法廷
―― ロシアに責任をとらせるには

2022年5月号

デビッド・シェーファー 米外交問題評議会シニアフェロー(国際法、人道的介入)

ウクライナが国内への国際刑事裁判所(ICC)の管轄権を受け入れ、一方で加盟40カ国がウクライナにおける事態の調査を要請したことで、ICCは戦争犯罪(や人道に対する罪の)大規模な調査をすでに開始している。最終的にどのような残虐行為が戦争犯罪として認定されるにしても、メディアによる継続的な報道がリアルタイムの記録となっているため、ロシアの指導者はウクライナで起きている残虐な犯罪について知らなかったと主張するのは難しい状態にある。(ロシアはICCの締約国ではないため、その指導者を平和に対する罪では裁けないかもしれないが)特別法廷があれば、ICCが管轄をもっていないロシアの指導者に対しても侵略犯罪で訴追できるようになる。バイデン政権は、国連がウクライナ政府と特別法廷を設置する合意をまとめるための、国連総会でのイニシアティブを主導できるだろう。

兵器としての移民
―― その長い歴史と憂慮すべき未来

2022年4月号

ケリー・M・グリーンヒル タフツ大学准教授(政治学)

最近のベラルーシやトルコに始まり、古くはキューバにいたるまで、人為的な移民の流れを作り出して殺到させると相手国を脅し、実際にそうした手段をとってきた国は数多くある。しかも、移民を兵器として利用するこのやり方は、これまで長く成果を上げてきた。当然、すぐになくなることはないだろう。それどころか、移民の流れを兵器にしている国に立ち向かわない限り、これを好ましい政策とみなすトレンドゆえに、その利用は抑えられるどころか、ますます増加していくだろう。実際、経済制裁などの強制外交の成功率が全体のせいぜい40%程度なのに対して、兵器化された移民を使った戦術は、ほとんど成功する。

米同盟ネットワークの本質
―― 独仏日韓と同盟関係の未来

2022年4月号

ロバート・E・ケリー 釜山国立大学教授(政治学) ポール・ポースト シカゴ大学准教授(政治学)

傷ついた同盟関係を慎重に修復することをバイデンに求める人々は、トランプ政権期に実際に起きたことを誤解している。アメリカの同盟システムは、上下関係と依存そしてアメリカパワーの永続性の上に築かれている。このシステムは、世界的影響力を獲得・維持しようとするワシントンの努力を支えることでアメリカに利益をもたらし、同盟国には防衛費削減の道を開くだけでなく、貿易利益を拡大することで恩恵をもたらしてきた。これが同盟関係に奥行きと打たれ強さを与えてきた。トランプによる権限の乱用やバイデンによるアフガニスタンからの一方的撤退を同盟国が許容したのも、こうした奥行きをもっていたからだ。外交的伝統からの逸脱という空騒ぎがあったとしても、アメリカの同盟関係は極めて堅牢であり、いかに同盟国を安心させるかに思い悩む必要はない。

経済制裁対ロシアの資源ツール
―― 変貌する欧州とロシアの経済関係

2022年4月号

ニクラス・ポワチエ シモン・タリアピエトラ グントラム・B・ウルフ ゲオルグ・ザックマン

EU加盟国間でロシア天然ガスに対するニーズに開きがあることが、モスクワがヨーロッパにつけ込む余地を高める恐れがある。ベルギー、フランス、オランダの天然ガス輸入に占めるロシアの割合は10%未満で、スペインとポルトガルは全く輸入していない。これに対してドイツは天然ガス輸入の約半分を、イタリアは約40%をロシアに依存している。しかも、ロシア軍のウクライナ侵攻後に、ヨーロッパの天然ガス価格は60%も跳ね上がっている。今後検討される制裁の範囲がさらに拡大し、長期化するにつれて、ヨーロッパが受けるダメージも大きくなり、モスクワの分割統治戦略が成功する見込みは高まっていくかもしれない。プーチンに対して有効な対抗策を打ち出すには、ロシアの恫喝にもっとも弱いEU加盟国を支援し、ヨーロッパのエネルギー市場構造を見直す必要がある。

迷走する習近平外交
―― プーチン支持と強権支配の危うさ

2022年4月号

ジュード・ブランシェット  戦略国際問題研究所 フリーマンチェア(中国研究)

ウクライナに対するプーチンの無謀な行動が立証したように、お世辞を並べるイエスマンに囲まれ、歴史的不満と領土的野心に煽られた独裁的指導者は他を脅かす存在になる。もちろん、習近平はプーチンではないし、中国はロシアではない。それでも、類似点が増えていることを無視するのは賢明ではない。粛清と昇進が何度も繰り返されることで官僚制の体質が形作られ、指導者の壮大なビジョンと同じ方向へ流されていく。官僚たちが反対意見を述べることの無意味さを理解するようになり、暗黙のうちに指導者が期待する路線に追随して調子を合わせるようになるからだ。リーダーは孤立し、意思決定を信頼できるますます少数の顧問に依存するようになる。台湾からウクライナ問題に至るまで、中国の政治体制全体が習近平の指示を仰ぐようになったのは、こうした理由からだ。

パラノイア思考に陥ったプーチン
―― 孤立と妄想とエスカレーションリスク

2022年4月号

ドミトリー・アルペロビッチ クラウドストライク  共同設立者

ロシアのウクライナ戦争がかくも失態続きである最大の理由は、ロシアのプーチン大統領が、軍事計画を親しいアドバイザーにさえぎりぎりの段階まで話さなかったことにあるようだ。すでにひどくパラノイア(偏執・妄想症)化していた彼は、自分の意図を悟られぬようにすることに執着し、侵攻のタイミングと規模を軍と国家安全保障会議の高官たちにさえ知らせなかった。しかも、思い通りに進まぬ作戦を前に、いらだち紛れにさらにエスカレーション策をとる恐れがある。一方、欧米も未知の領域に足を踏み入れている。ロシアがアメリカの重要なインフラを標的にサイバー攻撃を試みれば、さらなる経済制裁やサイバー空間での反撃が必要になるかもしれない。しかし、それが何を意味するかを考えるべきだ。ロシアを支配しているのが、孤立したパラノイアの指導者で、すでに大きな誤算を繰り返している人物であることを忘れてはならない。

経済制裁と反ドル枢軸の形成
―― 反ドル体制と中ロの連帯

2022年4月号

ゾンユアン・ゾー・リュー 米外交問題評議会国際政治経済担当フェロー  ミハエラ・パパ タフツ大学フレッチャースクール アシスタント・プロフェッサー(非常勤)

中国とロシアは、アメリカの経済制裁の縛りから逃れようと、国際通貨としての米ドルの地位を脅かす代替的な金融制度や構造の構築を試みている。ロシアの主要エネルギー企業はすでに米ドルの使用を中止し、中ロ貿易の主要な決済通貨としてはすでにユーロがドルに取って代わっている。ロシアはドルを迂回する手段として、国が支援する暗号通貨を立ち上げる準備も進めている。バイデン政権は経済制裁をデザインする上で、制裁がウクライナにおける戦争にどういう影響を与えるかだけでなく、国際金融システムにどういう変化をもたらすかを考慮に入れる必要がある。制裁の予期せぬ結果を認識し、ロシアと中国による脱ドル化に向けた連携を抑え込む方法をみいださない限り、アメリカは世界の指導者としての責任を放棄することになりかねない。

ウクライナ・ジレンマ
―― いかにウクライナを守り、対ロ戦争を回避するか

2022年4月号

ジャニス・グロス・スタイン トロント大学 国際関係・公共政策大学院 学院長

欧米の政策立案者たちは二つの競合する目的を模索している。ロシアの残忍で正当化できない攻撃からウクライナを救うために、軍事力の行使を例外とするあらゆる手を尽くしたいと考える一方で、ロシアと北大西洋条約機構(NATO)の全面戦争を回避することを望んでいる。この課題を難しくしているのは、一方の目的を達成しようとすれば、他方の目的を達成できる見込みが低下することだ。NATO加盟国はエスカレーションを避けようと必死だが、抑止力を倍加させる戦略は、追い込まれたと怒り狂うプーチンがエスカレーション策をとるリスクを高めかねない。逆説的に言えば、自制を促すための戦略が逆にエスカレーションを誘発する恐れがある。欧米は「ウクライナを守り、ロシアの侵略を押し返しつつ、世界最大の核の兵器庫をもつロシアとの戦争をいかに回避するか」という非常に難しいジレンマに直面している。

ウクライナ危機とイラン核合意再建交渉

WEB限定掲載論文

レイ・タキー 米外交問題評議会シニアフェロー(中東問題担当)

いまやイラン核合意再建交渉は山場を迎えつつも、ウクライナ危機によって、交渉の先行きは不透明化している。合意再開がまとまれば、イランに対する経済制裁は解除されるが、ロシア側が「ウクライナ侵攻でロシアに課された制裁対象にイランとの貿易を含めないように要求したからだ」。交渉が中断されたと伝える報道もあれば、ロシアの要求が受け入れられたという報道もある。一方で、ロシアのウクライナ侵攻はイラン国内の分裂をはっきりと表面化させている。最高指導者のハメネイ師は、ロシアの侵略は「アメリカの責任だ」と、ワシントンを批判し、一方、穏健派の政治家たちは「イランはロシアによるウクライナ攻撃を非難して独自性を示さなければならない」と考えている。イランとロシアの関係は常に便宜的な同盟で、共通の価値によって結ばれているわけではない。

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