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論文データベース(最新論文順)

スハルト以後のインドネシア

1997年9月号

アダム・シュワルツ ジョンズ・ホプキンス大学客員研究員

経済発展によって、すでにインドネシアには民主主義の根幹を支えるべき中産階級が誕生しており、成長率からみても、この国は順風満帆のように思える。だが裏を返せば、腐敗や汚職、経済の一族支配がビジネスの常態とされているために、人々の起業家精神は抑え込まれ、水面下でのこそこそしたやり方ばかりが助長されている。さらに、複雑な民族、宗教、人権問題が存在するだけでなく、この国で唯一の確立された機構としての軍、そして大規模な若年失業者の存在、さらには、政治にはとにかく及び腰の中産階級と、堅固に織り込まれたスハルトの支配体制のなかで社会は硬直化している。経済成長を支えているこの国特有の経済・社会システムが、スハルトの表舞台からの退場とともに崩壊し、経済成長の影の部分で鬱積した感情を抱いている多様な民族、政治、宗教集団が一気に政治化するとすれば、この国の安定と繁栄だけでなく、ひろく東南アジア全域の経済と安全保障が脅かされることになるだろう。

イラン・イラク「二重封じ込め」を見直せ

1997年8月号

スビグニュー・ブレジンスキー カーター政権・国家安全保障担当大統領補佐官  ブレント・スコウクロフト ブッシュ政権・国家安全保障担当大統領補佐官 リチャード・マーフィー 外交問題評議会・中東担当上席研究員

アメリカの湾岸政策の目的は、「同盟諸国の安全を守り、石油の流れを間違いなく保障すること」であり、この点をイラン、イラクを含むすべての関係諸国は理解しなくてはならないし、アメリカ政府もこれを再確認する必要がある。経済政策と軍事監視からなるクリントン政権のあまりに厳格な「二重封じ込め」政策は、同盟諸国間の亀裂を広げる危険を伴うため、すでに政策目的からのずれが生じ始めている。サダム・フセイン政権には厳格な姿勢を崩すべきではないが、経済制裁によって派生するイラク市民の人道上の問題に十分に配慮し、ポスト・サダム・フセイン政権との交渉の可能性も視野に入れておくべきだし、イランに対しては、封じ込めから、条件を課した上での関係改善策へと路線の修正を図るべきだろう。アメリカの利益だけでなく、同盟諸国との協調路線を回復するためにも、また対イラン・イラク政策の費用対効果を高めるためにも、新政策は同盟諸国との協議や合意を踏まえたものでなければならない。

景気循環の波は消滅した?

1997年8月号

ポール・クルーグマン マサチューセッツ工科大学経済学教授

六年間にわたって成長が安定的に続き、インフレも驚くほどおとなしく推移してきた事実、さらには、歴史的文脈から今後の景気循環の安定的推移を予測するフッシャーの今回の著作に勇気づけられたのか、米国の新聞・雑誌はあっさりと「景気循環のサイクルは消滅し、一九九〇~九一年のリセッションを最後にこの先当面の間不況はやってこないだろう」と指摘し、ビジネスマンも、われわれはすでに安定を常態とする「約束の地」にたどり着いた、と考えはじめている。だがこうした考えは歴史の教訓をまったく無視している。かつて多くのリセッションを引き起こした諸力が弱まってきているのは事実だが、今後私たちがこれまでに出会ったことのない新たな問題や力学に遭遇するのは自明だからだ。「問題が新しい性格のものである以上、これをうまくいなすことはできず、かくして、景気循環は続く」のである。「遠大な過去の歴史パターンの解釈を、最近の歴史的教訓を無視するための口実として利用する」のは明らかに間違ってる。

それでも北朝鮮は生き残る

1997年8月号

マーカス・ノーランド 国際経済研究所上席研究員

現在の北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)の食糧危機を過大視すべきではない。「飢餓状態は地域的なもの」だし、少しばかりの援助があれば、あるいは援助なしでも、北朝鮮はなんとかやっていけるだろう。広範な飢餓状態がおきるとすれば、それは、「国内政治エリートの意図的な政治決断の結果」であろう。むしろ注目すべきは、いま北朝鮮にどのような選択肢があり、関係諸国がそれに対してどんな考えをもっているかだ。少なくとも、関係諸国が拙速な統一を望んでいないのは明らかで、「中国、日本、ロシア、そしておそらくは韓国でさえも、資本主義体制をとり、おそらくは核武装した統一国家が半島に出現するよりも、なりを潜めた北朝鮮が何とか生き延びていくことを望んでいる」。北の国内状況が改革を求めるか、あるいは混沌に陥っていくまでは、北朝鮮は当面の間生きながらえると考えたほうが無難であり、今後の対朝政策は、東アジアのパワー・バランスを念頭においた、中・長期的なものでなければならない。

戦後復興からEUへの遙かな道

1997年8月号

ヘルムート・シュミット 前西ドイツ首相(一九七四~八二)

ヨーロッパの復興はマーシャル・プランなしではありえず、戦後ドイツは、ECとNATOを中軸とするヨーロッパの諸制度のなかに自らのパワーを織り込むことでヨーロッパの一員となり、米国との関係を深めるとともにフランスとの和解を目指した。だが冷戦が終結し、おそらく米中ロがその中枢を占めるであろう今後のグローバル秩序でのドイツの国益は、これまでのような米国との自動的な協調路線よりも、「EUのいっそうの進展、フランスとの密接な協力関係を中軸とするヨーロッパ統合」によって保障される。われわれを待ち受ける課題が一国家だけで対応できるものでないだけに、政治・経済、金融、国際社会での地位、歴史の教訓などのすべての観点から、ヨーロッパ人はますます「力強くて活力ある欧州連合」を求めている。だが、自立し、連帯を強めるヨーロッパへの米国の懸念は杞憂である。戦後復興も、ヨーロッパの団結と自立の証である欧州連合も、「米国が達成したもっとも偉大な成果の一つであり、それはマーシャル・プランなしには実現しなかった」のだから。

南北朝鮮分断とアメリカの原罪

1997年7月号

ウォーレン・I・コーエン メリーランド大学教授

朝鮮半島情勢を「民主主義対共産主義」という枠組みや、米韓同盟対北朝鮮という図式で捉えるのは大きな間違いである。韓国は完全な民主主義国家ではないし、米国と韓国が一枚岩というわけでもないからだ。カミングスの著作が指摘するとおり、冷戦期の「韓国の独裁的軍事政権と米軍の共謀関係」を忘れぬ韓国民衆の根強い「反米主義」がそこに存在するのを忘れてはならない。事実、「光州事件に関して米国が無実である」という米政府の公式見解を鵜呑みにする韓国人はほとんどいない。終戦以来の韓国の擁護者としての米国の自己イメージと、韓国での反米主義という乖離した現実の認識を怠り、歴史の重みを曖昧なままに放置すれば、たとえ統一が達成されても、米国への猜疑心をもつ朝鮮半島は、平和で民主的になるどころか、中国を中心とする東アジアの戦略ゲームに巻き込まれかねない。

中国・ロシアを国際秩序に組み込む道

1997年7月号

マイケル・マンデルバーム  外交問題評議会・東西関係プロジェクト議長

「正統的共産主義」がすでに崩壊・解体しているにもかかわらず、ロシアと中国はいまだに新たなシステムを構築できずにいる。そのため両国では、国内ではナショナリズムが幅を効かせ、対外的には自国の主権や地位に過度に敏感な外交路線が採用され、こうした環境を背景に、「ウクライナと台湾が、世界でもっとも危険なスポット」として浮上してきている。大切なのは、国際社会が現状の変革に反対していることを明確に伝え、彼らの現状変革の試みを今後も先送りし続けるように仕向け、すでに定着しつつあるポスト冷戦秩序のなかに、この二つの国家をゆっくりと組み込んで行くことである。いまわれわれに必要なのは、厄介で他の存在を脅かすようなロシアと中国の行動パターンが永続的ではないことを認識した上での、「忍耐強さ」である。

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