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論文データベース(最新論文順)

アジア通貨危機とIMFの誤診

1998年4月号

マーティン・フェルドシュタイン ハーバード大学経済学教授

IMFは今回のアジア通貨危機に際して、緊急融資と引き換えに、各国政府に構造改革・制度改革という大がかりな改革プログラムを押しつけるという大胆な行動に出たが、この処方箋は結局は悪い結果を招く危険性が高い。国や企業が対外債務の返済ができなくなったとき、この問題を解決する主要な責任はあくまで「借り手、そして貸し手である銀行や債券保有者」にあることをIMFは再認識すべきである。アジア通貨危機の本質をIMFはどうして読み違えたのか。伝統的役割からの逸脱はなぜ起きたのか。

ダライ・ラマのジレンマ

1998年3月号

メルヴィン・C・ゴールドシュタイン ケースウェスタン・リザーブ大学人類学教授

チベットへの民主政体の導入を求めたダライ・ラマの果敢な対外キャンペーンは、欧米世界での支持を背景に、中国政府を守勢に立たせたかに見えた。だが中国政府による経済統合策によって、大量の非チベット系中国人起業家、労働者がチベットに流入し、いまやチベットの文化、宗教、民族性までもが危機にさらされ、形勢は完全に逆転している。「政治的自治の範囲」をめぐる中国とチベット間の「妥協」は可能なのか。ダライ・ラマ、中国、そして米国は「妥協」に向けて、どのような行動をとり得るのか。

第二局面に突入したアジア経済

1998年3月号

ブルース・コッペル 東西センター上級研究員

アジア経済の混乱は、経済構造改革の手をつけやすい部分の移行が完了したことを示すにすぎず、必ずしも奇跡の終わりを意味するわけではない。だが、繁栄から取り残されてきた「もう一つのアジア」が抱える政治・経済問題、そして社会問題を解決せずして、今後の持続的成長は不可能である。新たな課題は何で、どのような選択をなすべきなのか。

中国は「民主化」途上にあるのか?

1998年3月号

ミンシン・ペイ  プリンストン大学助教授

中国の政治改革は経済改革に大きく後れをとっているが、それでもゆっくりと進展している。中国指導層の最優先課題は、急速な経済成長がつくり出す圧力に対する政府の管理能力を強化する方向で、「注意深い改革路線を実施する」ことにある。北京政府は、ソビエトが「法改革を実施する前に政治開放・民主化路線をとったために」政治システムそのものが崩壊したことを理解したうえで、現に法システムの整備に着手しているのだ。ただし、米国人が考えるような「民主化」は、中国政府が政治システムの堅固さに自信を持つまでは、今後も小さな可能性にとどまるだろう。

グローバル化と新たな統治システム

1998年2月号

ウォルフガング・H・ライニッケ ブルッキングス研究所上席研究員

相互依存とグローバリゼーションはまったく異なる。相互依存が、国家を単位とする国際システムにおける依存関係の「量的拡大」であるのに対して、グローバリズムは「おそらくは国民国家の終焉へとつながりかねない国際システムの抜本的な質的変化」だからである。そして、グローバリゼーションが状況を規定しているのはもっぱら先進工業世界においてで、その内実は、企業内、企業間ネットワークの著しい拡大に特徴づけられる。一方で途上世界がその波から取り残され、いまだ相互依存の関係にあることを忘れてはならない。こうしたなか、IMFや世銀のようなそもそも相互依存に対応するために組織された機構に役割の調整が求められるのは当然として、どうすれば、「民主社会の統治原理」を損なわずにグローバリゼーションから国家主権を守ろうとする試み、保護主義、ナショナリズム、領土紛争などが引き起こす多様な危機に対応できるだろうか。「IMFのような相互依存型の機構と、各国の規制当局者が一堂に集うジョイント・フォーラムといったグローバリゼーション対応型のレジームが、よりいっそう緊密に協力すべきであるのは間違いなく」、これに民間企業も巻き込んだ統治ネットワークの形成が急務である。

EMUと国際紛争

1998年2月号

マーチン・フェルドシュタイン  ハーバード大学経済学教授

「ヨーロッパ内で戦争が起きるというシナリオ自体忌むべきものだが、それでも、まったくありえないとは断言できない」。EMU(欧州経済通貨同盟)と欧州政治統合がその帰結として伴う紛争の危険は、無視するにはあまりに真実味を帯びているのだ。金融政策の舵取りをひとり欧州中央銀行に任せれば、失業、インフレなどの面でそれぞれに異なる状況にある諸国に単一の政策が採られるようになり、各国の政府がこれにあまねく満足することはありえず、大きな紛争の種になるだろう。実際、経済政策をめぐる対立や国家主権への干渉が、歴史、民族、宗教に根ざす長期に及ぶ敵対感情を増幅しかねない。問題はそれだけではない。ソ連の脅威が明らかに消滅した以上、ヨーロッパと米国の外交、経済、安全保障上の立場の違いがいずれ表面化するのは不可避であり、より堅固な政治統合を導くようなEMUの発足はこうした傾向を間違いなく加速することになるだろう。

それでもアジア経済は甦る

1998年2月号

スティーヴン・ラデレット (ハーバード大学国際開発研究所研究員) ジェフリー・サックス (ハーバード大学経済学教授)

「東南アジアの通貨危機はアジアの成長の終焉を示す兆候ではない」。通貨危機が適正に処理されれば、「アジア経済は二、三年のうちに再び高い成長率を取り戻すはずだ」。後発経済を先進諸国の成長のエンジンと連動させるために、多国籍企業の生産ラインとその技術を後発経済に取り込むことに見事に成功したからこそ、アジアは驚くべき経済成長を実現できた。アジアが、「制度・機構面での大きな制約(ゆえにではなく、)制約にもかかわらず、急速な成長を遂げた」ことを忘れてはならない。逆に言えば、アジア地域が直面する共通の一般的課題は金融統治(監督)システムの創設、そして、洗練された高所得国にふさわしい……法システムの導入なのである。「資本主義の諸制度を経済の急速なキャッチアップ・プロセスのための有効な手段にできることを証明してきた」アジアが、今後これらの課題に取り組んでいけば、西洋で誕生した資本主義システムのグローバルな有効性を実証しつつ、「二十一世紀初頭には世界の経済活動の中心地として再興隆しているだろう」

漂流するヨーロッパ

1998年2月号

デビッド・カレオ  ジョンズ・ホプキンス大学教授

ヨーロッパは、冷戦構造に替わる新たな統合原理をいまだに見いだしていない。そのような原理は本来連邦主義だったはずだが、今日のヨーロッパは、各国がいがみ合い、経済的困難が増している状態にあり、「共同の政策決定が可能な政治的統一体」にはどうやらなりそうにもない、と著者は言う。だが、実際には中央集権的ヨーロッパが現実的な選択肢となったことは一度もなく、それが達成されなかったとしても失敗とみなすべきではない。それぞれ独立を維持することを堅く決意しつつも、政策面で協力せざるをえない独仏関係を中心とするヨーロッパ合衆国。これこそ、今後長期的にみたヨーロッパの現実の姿なのだ。経済通貨同盟への道が平坦でないのはたしかだが、ヨーロッパ諸国はこの実現に向けて誠実に努力し、EU拡大の道をいずれ見いだすだろう。

だれが日本の方向性を決めているのか?

1998年1月号

ニコラス・クリストフ 『ニューヨーク・タイムズ』紙東京支局長

 「他の諸国のいかなるリーダーと比べても、日本の指導たちが自分から行動を起こすことはまれで、彼らはむしろ状況への対応に終始する」。一般にこの国の首相は、「官僚、ビジネス界の指導者、メディア、そして、国民のコンセンサス志向によって牽制されている」。国家的な課題が、往々にして世論に影響を与えるような予期せぬ事件によって形づくられるために、政治家の選択肢もおのずと制約されてしまうのだ。事実、戦後日本を形づくった主要な力学は、政治や政治指導者の手腕によるのではなく、「経済ブーム、都市化、人口構成の変化、女性の地位の変化など」がつくりだしたものだった。冷戦時代のソビエトならともかく、この国を「政治学」で分析しても、力学の片方を理解したことを意味するにすぎない。

ロシアはいまだに敵なのか

1998年1月号

リチャード・パイプス  ハーバード大学名誉教授

なんじの友人をいつの日にかなんじの敵になる者として、またなんじの敵をいつの日にかなんじの友人となる者の如く扱え。
デキムス・ラベリウス 紀元前一世紀

ロシアはいまだにわれわれの敵だろうか。目下のところそうではないし、そうであるべきでもない。だがモスクワの指導者たち、それも権力と影響力ばかりを気にかける古いタイプの指導者が、国民の政治的経験のなさと偏見を利用して、それ自体は何の意味もない広大な領土や、自分たちでは開発できない莫大な鉱物資源、そして使うこともできない巨大な核の兵器庫といったもの以外には、およそ手に入れることのできない幻の栄光を再び求めるとすれば、ロシアが敵となる可能性は十分にある。ロシアの指導者たちが再び孤立とスタンドプレーによって直面している困難から逃れようとするなら、ロシアはまたわれわれの敵となりうる。

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