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論文データベース(最新論文順)

経済秩序とヒエラルヒー
―― 経済主権という幻想

2022年8月号

ブランコ・ミラノビッチ ニューヨーク市立大学 大学院センター教授

いかなる国際経済秩序も「不平等で分裂した主権」で校正される不安定な基盤の上に成り立っている。表向きは対等な加盟国によって構成されていた国際連盟においても、フランス、イタリア、イギリスという戦勝国とその傍らにいたアメリカは、「自国に弱小の加盟国と同じルールが適用される」とは考えてもいなかった。アジアの国である日本には、そもそも大した影響力はなかった。アフリカ諸国や植民地は、このヒエラルヒーの最底辺に位置づけられた。同じような序列は今も続いている。IMFや世界銀行は、融資の見返りに改革を求めるなど、加盟国の主権を日常的に侵害してきた。パワフルな国内の社会集団が自らの求める政策を定着させるために国際条約を結んで、主権を削り取ることも多い。国際経済システムが主権そして主権の平等を尊重すると期待するのは、あまり現実的ではないだろう。

世界食糧危機をいかに緩和するか
―― 農業大国アメリカのポテンシャル

2022年8月号

カーライル・フォード・ランゲ ミネソタ大学 栄誉教授(応用経済学、法学)
ロビン・S・ジョンソン 元カーギル社 上席副会長(グローバル担当)

ロシアの黒海封鎖によってウクライナの穀物輸出が妨げられ、ロシアの輸出も経済制裁によって抑え込まれている。こうして、ボスポラス海峡を通過するウクライナやロシアの小麦やトウモロコシの輸出が大きく減少し、エジプトだけでなく、アフガニスタン、エチオピア、ケニア、ナイジェリア、パキスタン、南スーダン、イエメンを含む中東や北アフリカの多くの国々が食糧危機(供給不足、価格高騰)に苦しんでいる。途上国への食糧支援を十分に提供できる立場にある農業大国のアメリカは、飢餓に苦しむ世界に援助を拡大すべきだし、その経験もノウハウももっている。第二次世界大戦期のレンドリースといえば、イギリスへの船舶や軍需品を供給したことが先ず想起されるが、実は食糧援助も含まれていた。・・・

経済制裁とインフレ
―― 経済制裁が引き起こす人道的ダメージ

2022年8月号

イスファンディヤール・ バトマンゲリジ ヨーロッパ外交評議会客員研究員 エリカ・モネット 国際・開発研究大学・グローバル・ ガバナンス・センター シニアリサーチャー

経済制裁対象国で何百万もの人々を悲惨な生活に追い込んでいる高インフレの多くは、まさしく欧米の制裁によって引き起こされている。実際、アメリカや欧州連合(EU)の主要な制裁下にあるすべての国で高インフレが認められる。(インフレによって)無差別に多くの人が経済的苦境に直面すれば、苛立ち、疲れた相手国の民衆は(政府に対応を求めて)街頭に繰り出すかもしれない。だが、問題国の政府がこれで行動を見直すことはない。ワシントンは制裁がどのように相手国のインフレに拍車をかけ、食糧や医薬品などの必需品の価格を上昇させるかを理解する必要がある。アメリカが外交利益のために制裁を実施していると考えても、世界の多くの人は、それを実質的な経済戦争として体験している。

ウクライナとEU
―― ヨーロッパへの第一歩

2022年8月号

マティアス・マタイス CFRシニアフェロー

プーチンはこれまで、ウクライナの欧州連合(EU)加盟よりも北大西洋条約機構(NATO)への加盟に強く反対していると明言してきた。同様に、フィンランドやスウェーデンのEU加盟は問題ないが、NATO加盟申請は挑発行為とみなすと発言している。だが、2014年のマイダン革命が、「ウクライナのヤヌコビッチ大統領(当時)がEUとの関係よりもロシアとのより緊密な経済関係を選択したこと」に対する反動だったことを考えれば、ウクライナ市民の立場ははっきりしている。いまやウクライナはより明確に欧米へと舵をとり、すでにEUの加盟候補国の地位を手に入れた。もちろん、正式加盟には時間がかかるとしても、ウクライナ民衆はいまや「自分たちが何のために戦っているのか」を理解している。それは、「欧米とより完全に統合された、自由で民主的な未来」に他ならない。

米中にとっての台湾の軍事的価値
―― 台湾とフィリピン海そして同盟諸国

2022年8月号

ブレンダン・L・グリーン シンシナティ大学准教授(政治学) ケイトリン・タルマッジ ジョージタウン大学外交大学院 准教授(安全保障研究)

台湾は、日本、フィリピン、韓国を中国の威圧や攻撃から守る上で重要なフィリピン海へのゲートウェイとして、きわめて重要な軍事的価値をもっている。中国にとっても、台湾統一を求める大きな動機はナショナリズムよりも、その軍事的価値にある。実際、北京が台湾を攻略して、そこに軍事インフラを設営し、フィリピン海への影響力を高めれば、中国の軍事的立場は大きく強化され、アジアの同盟国を防衛する米軍の能力は制限される。将来的に北京が静音型の攻撃型原子力潜水艦や弾道ミサイル潜水艦の艦隊を編成し、台湾の基地に配備すれば、北東アジアのシーレーンを脅かし、核戦力も強化できる。ワシントンの対中政策に関するすべてのジレンマが集約される場所であるだけに、台湾は世界でもっとも困難で危険な問題の一つだ。だが困ったことに、そこにあるのは、災いをもたらしかねない悪い選択肢ばかりだ。

日独の自主路線と対米協調のバランス
―― ポストアメリカの協調モデル

2022年8月号

マーク・レナード ヨーロッパ外交評議会 ディレクター

ロシアのウクライナ侵攻と米中対立の激化は、戦後秩序の現状とパックス・アメリカーナを根底から覆そうとしている。モスクワのウクライナ侵略を前に、ドイツは外交政策を抜本的に見直し、国防費の大幅増額を約束している。中国の覇権主義を警戒する日本も、同じような変貌を遂げようとしているようだ。短期的には、こうした変化は欧米世界の結束、あるいは復活さえも促すかもしれない。しかし、ドイツが新たに自主路線の道を歩み、日本も同様の道を歩めば、対米依存度は低下し、むしろ、近隣諸国との結びつきが大きくなるだろう。このようなシフトは、ヨーロッパとアジアにおける安全保障秩序だけでなく、欧米世界のダイナミクスを大きく変化させる。ベルリンと東京で進行している変化は、ワシントンが戦後に構築し維持してきたものとは異なる、よりバランスのとれた同盟関係が視野に入ってきていることを意味する。・・・

問題を解決できる新国際システムを
―― 新システムの目的をどこに定めるか

2022年8月号

フィリップ・ゼリコー バージニア大学教授(歴史学)

新しい国際システムが必要なのは明らかだが、重要なのは「現実に問題を解決すること」だ。求められているのは、地球上の多くの人が共有する少数の問題に対処できるプラクティカルな国際システムだろう。戦争、気候変動、経済および感染症のリスクから世界を守ることに焦点をあてた現実的国際秩序を考案していかなければならない。実際、指導者の多くは、第三次世界大戦の火種となりかねないウクライナでの戦争を止めさせ、新サプライチェーンが形作る「新経済秩序ビジョン」の構築を求めている。エネルギーショックをより低炭素の未来に向けた未来につないでいく機会にし、次の感染症パンデミックに適切に備えることを望んでいる。ここで問われているのは民主主義や独裁主義の価値観ではない。問題を解決するための連帯とプラグマティズムだ。・・・

ウクライナの再建を考える
―― 人口減、都市・経済インフラの破壊に対処する

2022年8月号

アナ・レイド 前エコノミスト誌キエフ特派員

先の見通しがたたない悲惨な状態のなかでも、一定の平和が戻ったときに、この国をどのように再建したいかを考え始めている人たちがいる。楽観的なシナリオでも、東部では戦闘が何年も続く可能性が高いことは理解されている。経済的喪失だけでなく、500万人以上が国外に難を逃れ、国内にいないこと、人口が大きく減少していることにも対処しなければならない。政治腐敗国家に戻らないようにする努力も必要だろう。もちろん、安全、繁栄する近代的経済、家族の帰還、うまく計画された新しい都市建設などの夢がすべて実現するわけではないだろう。だが、過酷な戦争が続くなかでも、再建計画が話し合われている。ウクライナ人の勝利への決意は固く、ロシアの脅威によって彼らの結束とアイデンティティは逆に高まっている。・・・

黒海と世界の食糧危機
―― ロシアに対する軍事・外交オプションを

2022年8月号

マーク・カンシアン 戦略国際問題研究所 国際安全保障プログラム上級顧問

これまでのところ、世界で飢餓が起きているという報道はないが、戦争が続けば、穀物の供給はさらに減少し、食糧不足だけでなく、暴動が起き、社会と体制の不安定化が誘発される恐れがある。欧米に行動を求める圧力が高まるのは避けられない。当然、食糧不足が危機として具体化する前に軍事作戦から外交までの計画を準備しておくべきだ。プーチンが示唆するような「ロシアの貨物船1隻が(経済制裁の例外措置として)国際貿易を認められれば、ウクライナの貨物船1隻も(ロシアの海上封鎖の例外として)国際貿易を許される」という合意も可能かもしれない。だが、この方法はロシアにかなりの金銭収入をもたらすとともに、制裁解除の前例を作り出すことになるため、ほとんど支持は得られていない。一方、欧米は衝突のリスクを冒すことには及び腰で、その間にも世界の食糧事情はますます厳しくなっている。・・・

安倍ビジョンと日本の安全保障
―― ナショナリズムと安全保障の間

2022年8月号

ジェニファー・リンド ダートマス大学准教授

リベラル派は、安倍首相(当時)に日本の過去の暗黒部を直視して償うことを求め、保守派は、彼の国の誇りを重視する姿勢、軍事力増強と国際的安全保障活動への参加を強化しようする試みを称賛した。多額の債務を抱え、人口減少によって長期的に不利な経済状況に直面するなかで、日本は今後防衛費を増額させていくことになるだろう。それでも、現状は安倍元首相が掲げたビジョンからはかけ離れているし、実際に彼のビジョンにたどり着けるかどうかも、わからない。現実には、市民も多くの政治家も、中国がますます支配力を強めるアジアで(具体的な対策をとるのではなく)漫然とよい方向に進むことを願っているにすぎない。安倍は、安全保障議論を進めて国を導くことのできる知的枠組みと政治的洞察力を備えた数少ない指導者だった。その死が日本にとって悲劇的な損失であることは誰もが認めている。・・・

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