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論文データベース(最新論文順)

歴史の始まり
―― 壊滅的リスクの時代を生き抜くには

2022年9月号

ウィリアム・マッカスキル オックスフォード大学 准教授(哲学)

この1世紀におけるもっとも厄介な出来事は、人類が自らを滅亡させる力をもつようになったことだ。気候変動から核戦争、人為的に操作された病原体によるパンデミック、制御不能な人工知能(AI)、まだ登場していない破壊的なテクノロジーにいたるまで、人類を破滅へと向かわせかねない危険はいまや数多く存在する。つまり、現代に生きるわれわれは、自分たちや子どもたちの命だけでなく、これから生まれてくるすべての人の存在そのものを左右する無謀な賭けをしていることになる。賢明に判断して行動すれば、来るべき世紀は、「未来に向けてわれわれがいかなる責務を負っているか」の認識によって形作られ、われわれの孫の孫たちは感謝と誇りをもって私たちの行動を振り返ることになるだろう。だが私たちが判断を間違えれば、彼らが生まれてくることはないかもしれない。

プーチンとロシアの未来
―― ソビエト崩壊の教訓

2022年9月号

ウラジスラフ・ズボク ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス 教授(国際史)

ソビエト崩壊の代替シナリオは存在しなかったと考えるのは決定論者だけだろう。実際には、ソビエト帝国は、その解体後もルーブル経済圏として何年も存続し続けた。ソビエト同様に、弱体化したロシアが崩壊すると欧米が予測するのも決定論にすぎない。もちろん、欧米が本気でプーチンを止めたいのなら、とにかく圧力をかけ続けるしかない。制裁を長期化し、その内容をさらに厳格化してゆけば、欧米の反ロシア経済レジームに世界経済の他のアクターも参加し、制度化されていくだろう。それでも、弱体化したロシアがソビエトのような崩壊の時を迎えるとは考えにくい。むしろ、欧米は「弱体化し、屈辱にまみれながらも、それでも独裁的なロシア」と共存せざるを得ないシナリオに備えるべきだろう。

グローバル化からリージョナル化へ
―― 地域内貿易の時代へ

2022年9月号

シャノン・K・オニール 米外交問題評議会 シニアフェロー(ラテンアメリカ担当)

モノ、カネ、情報、ヒトの国際的移動の半分以上は、三つの主要な地域ハブ、つまり、アジア、ヨーロッパ、北米の内部で起きている。中国、韓国、台湾、ベトナムの経済成長は、アジア地域内部からの投資と投入によって始まった。東欧の急成長は西ヨーロッパとのリンクが発端だった。1993年から2007年にかけて、メキシコの経済規模は2倍以上になったが、その多くは93年にカナダ、アメリカと合意した北米自由貿易協定(NAFTA)の効果で説明できる。一般に理解されているグローバル化はほとんど神話であり、実際に起きているのは貿易のリージョナル化(地域化)に近い。いまやアジア諸国はともに生産し、相互から購入し、最終製品の3分の1近くがアジア域内の消費者に販売されている。アメリカも北米地域ネットワークを強化し、活用する必要がある。・・・

権力者の盲点
―― プーチンは何を見誤ったのか

2022年9月号

ヌゲール・ウッズ オックスフォード大学教授(グローバル経済ガバナンス)

ロシアのウクライナ侵攻は権力が作り出す落とし穴の多くを裏付けている。プーチンは、ロシア軍の戦闘能力を過大評価する一方でウクライナ軍のそれを過小評価し、一部の側近が簡単に勝利できると断言し、現実には消耗戦と化した戦争に国を突入させてしまった。失敗の一因は、権力者のもう一つの落とし穴である「相談や批判を受け入れないこと」にも促されている。プーチンの失敗は彼特有のものではないし、単に独裁者の悪癖の結果でもない。民主主義国家を含むあらゆるパワフルな国家の指導者が、権力に幻惑され、不用意な決断を下すことがある。側近集団の助言、議会や世論など、権力者の判断ミスを避けるための抑制メカニズムはある。だが、これらを指導者が支配するか、無視できる環境にあれば、自分が服を着ているかどうかさえも分からなくなる。

ヘイトというアメリカの病
―― 銃乱射とオンライン過激主義

2022年9月号

シンシア・ミラー=イドリス アメリカン大学公共政策大学院教授

全米各地で数多く起きている大量殺人事件の犯人には共通する有害な特性がある。それは、殺人願望や暴力的なニヒリズム、自傷行為、自殺願望を抱いてきた過去があること、引きこもりで友人や家族との交流が乏しいこと、動物をいたぶったり殺したりし、女性にストーカー行為や嫌がらせをし、レイプなど身体的危害を加える脅しをするなどの残虐性をもっていることだ。もう一つの共通点は暴力的なオンライン・コンテンツに関わっていたことだ、当局は危険人物の行動を阻止するだけでなく、彼らが入り浸るオンライン世界の対策に力を入れなければならない。過激化の終着地点である銃撃への対応にばかり集中するのではなく、そもそも個人がオンラインで憎悪や危害に関わっていくのを阻止することに力を入れる必要がある。

ロシアのヨーロッパ分断戦略
―― エネルギー危機が揺るがす欧州の連帯

2022年9月号

ナタリー・トッチ 伊国際問題研究所 ディレクター

ウクライナ戦争をめぐるヨーロッパの連帯はいつまで維持されるのか。それを崩壊させるのは何か。連帯を脅かす最大の脅威は、戦闘が比較的小康状態になることかもしれない。この状況でエネルギー危機がさらに深刻化すれば、モスクワが一部のEU諸国に働きかけてキーウに譲歩を迫らせることも不可能ではなくなるかもしれない。エネルギー危機は、欧州のポピュリストを台頭させる機会を提供しており、ヨーロッパの結束だけでなく、欧州連合(EU)の存続さえ危うくする恐れがある。すでに分裂は起き始めている。バルト諸国やポーランドなどウクライナと国境を接する諸国が、経済制裁と力強い軍事支援を通じて正義をもたらすことを求めているのに対して、イタリア、フランス、ドイツなど西ヨーロッパ諸国はロシアとの妥協に傾き始めている。・・・

プーチンの新警察国家
―― スターリン化するプーチン

2022年9月号

アンドレイ・ソルダトフ 調査報道ジャーナリスト
イリーナ・ボロガン 調査報道ジャーナリスト

ウラジーミル・プーチンは、連邦保安局(FSB)を、ロシア内外における政治問題に解決策を提供する即応部隊にしたいと考えていた。だが、繰り返し失望させられて考えを改めた彼は、ソビエト期のKGB(国家保安委員会)に近い任務を与えた。つまり、エリートを含むロシア民衆を脅すことで、政治的安定をもたらすツールとして利用した。しかし、ウクライナ戦争開始以降の動きは、プーチンが再びFSBの任務を見直したことを示している。いまやFSBは、1970―1980年代のKGBではなく、市民の厳格な統制を目指したスターリンの諜報機関、内務人民委員部(NKVD)に似てきている。NKVDが強大で恐れられる存在だったのは、それが国や党ではなく、スターリンだけに従う組織だったからだ。ウクライナ戦争が始まって以降、プーチンの拡大する警察国家の管理組織は、どうみてもNKVDに近づいている。・・・

ウクライナ戦争はもはや制御不能か
―― レッドラインとエスカレーション

2022年9月号

リアナ・フィックス 独ケルバー財団 プログラム・ディレクター(国際関係)
マイケル・キマージュ 米カトリック大学教授(歴史学)

プーチンは傲慢さと怒りから、欧米を驚かせ、徹底的に脅かすには、戦争を劇的にエスカレートさせるしかないと判断する恐れがある。「現状がかつてないものであること」を認識する必要がある。何年も続く可能性のある大きな戦争が、無政府状態に近づきつつある国際システムの中枢で血を流している。リベラルな国際秩序のルールに従うように教育されてきた同盟国の政策立案者と外交官は、無秩序のなかを歩んでいくことを学んでいかなければならない。「戦場の霧」が、ソーシャルメディアのスピードと信頼性の低さによってさらに濃くなり、辺りを覆っている。この霧がもっともうまく考案された戦略さえも曖昧にしてしまうかもしれない。世界を震撼させたキューバ・ミサイル危機は13日間続いたが、ウクライナ戦争が引き起こす危機は今後長期的に続く。

マジックマネー時代の終焉
―― 大規模緩和策の未来

2022年9月号

セバスチャン・マラビー 米外交問題評議会シニアフェロー (国際経済担当)

経済対策としての大規模緩和策(マジックマネー)は今後どうなるのか。当面、それは選択肢から外される。優先すべきはインフレの抑制であり、これはFRBの信頼性を維持するための必要条件だ。それなくして経済の安定はあり得ない。今回のインフレとの闘いには時間がかかるかもしれない。1992年から2022年までの30年間、低インフレ・低金利の時代が続いたのは、グローバリゼーションが物価を抑え込んだ結果だった。しかし、グローバル化は行き詰まり、戦略物資の備蓄やサプライチェーンの再編が進められているために、インフレはさらに加速するだろう。だがFRBはなぜ判断を間違えたのか、その本当の教訓とは何なのか。

次に何が起きるのか
―― ペロシ訪台と米中関係

2022年9月号

デービッド・サックス 外交問題評議会リサーチアソシエート

第4次台湾海峡危機を前にしているというには時期尚早だが、そこに向かいつつある。中国がこれまでにとった軍事的牽制策は、手始めにすぎず、今後数週間から数カ月の間に、中国は台湾に対する軍事的圧力をさらに高めてくると予想される。より多くの航空機を使った防空識別圏への侵入や中央線の越境がより頻繁に起きるかもしれない。また、台湾の領空や上空に軍用機を飛ばし、エスカレートさせることも考えられる。さらに台湾製品の輸入を禁止し、台湾企業の大陸での活動をより困難にしようとするかもしれない。ペロシ訪中の代償を台湾が支払う以上、アメリカは台湾の痛みを和らげるための努力をしなければならない。

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