次期大統領の外交課題
2004年9月号
核武装のドミノ倒しが起きる?
リチャード・ハース まず、簡単にスピーカーの紹介を。 ……
まずハーバード大学のグレアム・アリソン(Graham Allison)から。彼は、ケネディ・スクールの学院長を経て、クリントン政権の国防次官補として、ロシア、旧ソビエトへの政策を担当した。著書にキューバ危機を描いた『決定の本質』(中央公論新社、一九七七)などがある。
さて、ブッシュ政権の先制攻撃ドクトリン、つまり、学会ではこれまで予防攻撃と呼ばれてきた戦略ドクトリンはかなりの論争を呼んだ。ブッシュとケリーのどちらが選ばれるにせよ、次期大統領は、今後イランや北朝鮮の核拡散の脅威に直面させられることになる。イラクをめぐって大きな論争が起きたとはいえ、ブッシュ、あるいはケリーは、大統領としてこのような脅威に現実に直面した場合、先制攻撃を検討せざるを得ないだろうか。
グレアム・アリソン そうなると思う。イラクに関してブッシュ大統領が必要なら単独でも武力行使を辞さないという姿勢を貫いたこと自体に問題はないと私は考えている。ブッシュ大統領はわれわれが直面している最大の脅威はテロリストが大量破壊兵器(WMD)を入手することだと語っているし、ケリー候補も同じ見方をしている。ブッシュはテロリストとWMDのつながりを問題にして、イラクとの戦争を開始した。問題はターゲットが違っていたことだ。
イラクではなく、北朝鮮のほうが深刻な脅威だった。北朝鮮は核燃料の再処理を行い、さらに六個の核兵器を生産できるプルトニウムを保有している。北朝鮮が核兵器や核物質を輸出できるはずはないと考える者は、リビアに何を提供していたかを考えるべきだろう。北朝鮮はリビアに核兵器一個を十分に生産できる核物質を輸出していた。……
*邦訳文は、二〇〇四年七月下旬にボストンのハーバード・クラブで行われた米外交問題評議会ミーティングでの発言からの抜粋・要約。発言や質疑応答の順序を入れ替えている部分がある。全文(英文)はwww.cfr.orgからアクセスできる。