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論文データベース(最新論文順)

ロシア経済の行方
―― 戦争、経済制裁、インフレ

2022年10月号

クリス・ミラー タフツ大学フレッチャースクール 准教授(国際史)

戦争と経済制裁のコストは、当初のインパクトが、欧米が期待したほど、そしてロシアが懸念したほど劇的でなかったとしても、今後、大きくなっていく一方だろう。今のところ、ロシアの指導者たちは、半年以上にわたって欧米の制裁を乗り切ったことに満足している。しかし、今後ロシアの産業は、欧米から輸入パーツを調達できない状況にいかに適応していくかに苦しむことになる。原油価格が上昇しない限り、モスクワは社会(財政)支出を続ける一方で、財政赤字や高インフレを受け入れるという、厳しいトレードオフに直面することになるはずだ。モスクワの戦争遂行を停止させるような形でロシア経済が崩壊することはないとしても、急激なリセッションや生活レベルの低下が続き、今後も短期的には経済がリバウンドするとは期待できないだろう。

米対中戦略の落とし穴
―― ビジョンなきゼロサム思考の弊害

2022年10月号

ジェシカ・チェン・ワイス コーネル大学 教授(中国・アジア太平洋研究)

中国が世界のどこかで何かを試みると、その国の政府や住民が何を望んでいるかも十分考えずに、とにかく対抗しようとする罠にワシントンははまっている。自由に使えるリソースについての現実的な評価を基盤とする長期ビジョンがないため、どの領域や地域に優先順位をつけるかにさえ苦労している。より良いアプローチの指針は、その世界ビジョンに求めるべきだ。つまり、恐れるものではなく、求めるものをベースとする思想とビジョンが必要だ。制裁であれ、関税であれ、軍事行動であれ、アメリカの政策を判断する基準は、中国の国益をどれだけ損なえるか、相手に対する優位を得られるかどうかではなく、「アメリカが望む世界へ向けた進歩がどれだけ得られるか」に定める必要がある。

台湾防衛のための軍事能力強化を
―― 抑止力強化を急げ

2022年10月号

ミシェル・フロノイ 元米国防次官(政策担当)
マイケル・A・ブラウン 元米国防省ディレクター (防衛イノベーションユニット)

中国軍の新戦力の多くはオンラインで大規模に結ばれており、米軍の作戦上の課題をひどく複雑にしている。一方、台湾有事の際に中国軍に対抗するためのもっとも有望な米軍の能力の多くは、2030年代まで整備されず、戦力に完全に統合されることはない。このため、2024年から2027年にかけて、台湾防衛が脆弱化する危険があり、習近平はこの段階で軍事的な台湾攻略が成功する可能性がもっとも高いと判断するかもしれない。特に、台湾に対する政治的強制策や経済的封鎖策などの優先策が失敗していれば、そう考えるだろう。米中がともに相当量の核兵器を保有していることを考えると、先制的に紛争を抑止することがゲームの要諦だろう。アメリカは台湾の自衛能力の近代化と強化を支援するとともに、台湾への武力行使を抑止する米軍の能力を強化しなければならない。・・・

アルゴリズムと幻想の政治
―― フィードバック・システムの罠

2022年10月号

ヘンリー・ファレル ジョンズ・ホプキンス大学教授(国際問題)
エイブラハム・ニューマン ジョージタウン大学外交大学院教授(政治学)
ジェレミー・ウォレス コーネル大学准教授(政治学)

重要なのは、AIの優位性をめぐる技術競争において米中のどちらが勝つかではなく、民主国家と独裁国家が社会を統治するために依存するそれぞれのフィードバックループをAIがどのように変化させるかだ。機械学習が広く浸透すれば、民主政治は必然的に蝕まれ、独裁政治が強化されると考えられている。たしかに、民主国家では政治的分断がさらに深刻になるかもしれない。しかし、投票と世論(vote and voice)という強力なフィードバック・システムによって問題をある程度は軽減できる。一方、機械学習は独裁国家も混乱させ、手遅れになるまで社会の根本的な亀裂を覆い隠してしまうかもしれない。これまでの一般認識とは逆に、AIは、独裁体制による、現実の理解を妨げ、イデオロギーと幻想を強化することで、最終的に独裁政権を大きく揺るがすかもしれない。

国際関係はいつ動き出したのか
―― ウェストファリア秩序とチンギス秩序

2022年10月号

バレリー・ハンセン イェール大学歴史学教授

ウェストファリア秩序に代弁されるヨーロッパ中心の歴史観が、国際関係の専門家の世界観を依然として形作っている。だがモンゴル帝国以降の「チンギス秩序」をウェストファリアに並ぶ重要性をもつとみなすこともできる。13世紀以降、チンギス・ハンとその後継者たちが統治したモンゴルは、西はハンガリーから東は中国までの大草原地帯に世界有数の地続きの帝国を建設した。かつてユーラシア主義の思想家たちは、2世紀に及んだモンゴル支配が現代ロシアに与えた影響を検証し、現代のリーダーもチンギス・ハンにならい、ロシア人を統合して、ヨーロッパとアジアにまたがる新しい帝国を建設すべきだと主張した。秩序が揺れ動くいま、より多くの人が、ヨーロッパの外側に存在した数多くの政治・経済的中枢地域の歴史を学ぶべきタイミングだろう。・・・

欧州はエネルギー危機に屈するのか
―― 短期的危機を長期的機会に

2022年10月号

スーシ・デニソン ヨーロッパ外交評議会 上級政策研究員

イタリアではロシアエネルギーからの離脱を唱える政権が倒れ、その後、フランスのマリーヌ・ルペンは、ロシアに対する「無意味な制裁」に終止符を打つように訴えた。経済的・政治的な圧力の下、これまでウクライナ戦争に対するヨーロッパの反応の特徴だった連帯が脅かされている。重要なのは集団的な対応を維持していくことだ。例えば、(共同債の発行などによって)大規模な資金を調達して、よりクリーンで信頼性の高いエネルギー源を迅速に強化し、この冬以降のエネルギー需要にも応えられる共同リソースを構築することを検討すべきだ。足並みの揃った行動をとらなければ、ヨーロッパはいつまでたっても、自由主義的価値観と市民の基本的必要性の間で揺れ動くことになり、このままでは欧州統合そのものが打撃を受けることになりかねない。

プーチンが再現したい過去
―― 歴史の曲解と大いなる幻想

2022年10月号

フィオナ・ヒル ブルッキングス研究所 外交政策プログラム米欧センター シニアフェロー
アンジェラ・ステント ジョージタウン大学名誉教授

プーチンは、ウクライナ、ヨーロッパ、そして全世界を、彼の歴史観に合致するように再構築したいと考えている。ロシアの帝国的過去への彼の思い入れは深い。バルト帝国やオスマン帝国との戦争を経て現在のウクライナ領を手に入れたピョートル大帝やエカテリーナ2世の肖像をモスクワの執務室に飾っているのには理由がある。だが彼は歴史を誤解し、曲解している。ピョートル大帝はヨーロッパ人をロシアに招き、経済発展に貢献させ、西洋への窓を開いた。プーチンは侵略と領土拡大を通じて、その窓を閉ざしてしまった。ヨーロッパ人とその企業を本国に送り返し、ロシア人の才能ある世代を国から流出させている。ピョートルはロシアを未来へと導き、プーチンは、ロシアを過去に押し戻そうとしている。・・・

低成長と中国経済の課題
―― 内需主導型成長への転換は実現するか

2022年10月号

ブラッド・セッツァー 米外交問題評議会シニアフェロー

高い貯蓄率は借金頼みの経済成長を促すことで、中国の金融システムが現在抱える問題を生み出してきた。貯蓄が多いということは、消費が弱い(消費に回す資金が乏しい)ことを意味するからだ。このため過去20年間、中国経済の成長は内需ではなく、輸出または定期的な投資拡大によって支えられてきた。だが不動産デベロッパーもいまや債務問題に苦しんでいる。しかも、地方政府の歳入は、デベロッパーへの土地売却に大きく依存してきたために、現在の不動産不況で大きく圧迫されている。地方政府が誘導する投資ではなく、個人消費に牽引された、より健全な経済を築くには、政府の財政措置を拡大しなければならない。北京は、国内債務が拡大して投資主導型経済成長の時代が終焉し、歴史的な高度成長は過去のものになったという困難な現実を受け入れる必要がある。

ウクライナと核戦争リスク
―― 三つのシナリオ

2022年10月号

ジョン・J・ミアシャイマー シカゴ大学教授(政治学)

専門家の多くは、交渉によるウクライナ戦争の解決は当面実現しないと考え、血塗られた膠着状態が続くと予測している。この認識は正しいが、すでに長期化している戦争に破滅的なエスカレーションメカニズムが埋め込まれていることが過小評価されている。ニューヨーク・タイムズ紙が報じたように、すでにワシントンは戦争に深く関わっており、米軍の兵士が引き金を引き、パイロットがボタンを押すまで、あと一歩のところまで来ている。米軍が介入した場合、プーチンを核使用に走らせることなく、ウクライナを救えるのか。ロシアがウクライナ軍にひどく追い込まれた場合には、モスクワが核を使用する恐れはないか。エスカレーションの先にあるものは、第二次世界大戦を超える犠牲と破壊という、まさに壊滅的な事態かもしれない。

グローバルサウスと米中競争
―― 途上国の立場

2022年9月号

マリア・レプニコバ ジョージア州立大学州立大学 准教授(政治学)

ワシントンがソフトパワー促進策の中核に民主主義の価値と理念を据えているのに対して、中国はより実利的側面に焦点を合わせ、文化とビジネスの魅力を統合しようとしている。一方、グローバルサウスの途上国では、アメリカと中国のソフトパワーは競合するのではなく、相互補完的とみなされていることが多い。要するに、世界の多くの人々は、米中がそれぞれのビジョンと価値によって、自分たちを誘惑しようとする状態に完全に満足している。ワシントンと北京はソフトパワー競争をゼロサムゲームだと思っているが、世界の多くの地域は、それをウィンウィンとみなしている。アメリカモデルと中国モデルのどちらがより魅力的かよりも、それぞれが何をオファーしてくれるかに関心をもっている。

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