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論文データベース(最新論文順)

人類は殺し合うサルか
――霊長類の平和と人類の平和

2006年2・3月号

ロバート・M・サポルスキー/スタンフォード大学神経学・生物科学教授

人類が他の霊長類と比べ、特段ユニークなわけではない。人類も、緊密で豊かな社会生活を送る霊長類の一種にすぎない。霊長類には平和的な種も暴力的な種もおり、その行動は、社会構造とエコロジカルな環境に左右されるが、人類は、穏やかな霊長類よりも、暴力的な霊長類との共通点のほうが多い。彼らの本質はわれわれの本質なのだ。だが、より重要なポイントは、本質的に暴力的な性向をもっていても、平和を実現できる霊長類もいるということだ。考えるべきは、どのような状況なら霊長類は平和を実現できるのか、そして人類がそのような平和を実現できるかどうかだ。
協調する小集団内で暴力ざたが起きる可能性は低いが、一方でこの集団は対外的に大きな問題を引き起こす。実際、価値を共有する小規模の均質的な集団の存在は、社会全体の調和という点からみれば悪夢だし、アウトサイダーにとっても危険である。だが、アウトサイダーを他者として位置づけずに、小集団内の協調を維持する方法はある。一つの方法は交易だ。自発的な経済交流は利益を生み出すだけでなく、社会的紛争の発生を低下させる。集団間の境界線があいまいで、メンバーが入れ替わる分裂・融和型社会構造も、アウトサイダーを他者として位置づけずに、小集団の協調を維持するためのモデルになる。

ヨーロッパの文化的ジレンマ
―― 欧州と大中東の関係をどう規定するのか

2006年2月号

クリス・パッテン 前対外関係担当欧州委員会委員
ロックウェル・シャナベル 前駐欧州連合アメリカ大使
リチャード・バート 元駐独アメリカ大使

「イスラム系移民たちの伝統、宗教、文化を尊重しつつも、われわれがキリスト教文明を軸にヨーロッパを再定義しようと試みていないことが問題だ。われわれは寛容を軸にわれわれの文化を定義しており、他の文明への理解と尊重を示すには、(われわれの価値を守るために)一部で不寛容でなければならないということをヨーロッパ人は受け入れられずにいる」。(C・パッテン)

「ヨーロッパのイスラム系移民たちは、厳しい経済的現実のなかで雇用に就けないからこそ、経済的に同化できず、社会から阻害されている。ヨーロッパ経済が成長し、雇用がつくり出されるようになれば、ヨーロッパのイスラム教徒の経済的同化、社会的同化が進み、問題は緩和されていく」。(R・シャナベル)

アフリカでの影響力を模索する中国

2006年2月号

共同議長
アンソニー・レーク 元米国家安全保障問題担当大統領補佐官
クリスティーン・トッド・ホイットマン 元米環境保護庁長官
プロジェクト・ディレクター
プリンストン・N・ライマン 米外交問題評議会(CFR) シニア・フェロー(アフリカ担当)元駐南アフリカ、駐ナイジェリア米大使
J・スティーブン・モリソン 米戦略国際問題研究所(CSIS)アフリカ担当ディレクター

中国は、スーダンやジンバブエなど、目に余る人権弾圧を行う「ならず者国家」に保護の手を差し伸べ、資源確保のために無条件で融資を提供してアフリカ諸国から改革の動機を奪っている。収益だけでなく、中国の国益の確保を目指す中国企業は採算度外視の入札を行い、他国の企業を締め出している。中国は、相手国にキャッシュ、技術だけでなく、安保理常任理事国の立場を利用して国際的圧力からの盾さえ提供している。中国が天然資源を調達しようとするのは正当な試みだとはいえ、早急に策を講じる必要がある。

アンソニー・レーク、クリスティーン・トッド・ホイットマンを共同議長に迎えて組織された、アフリカ問題に関する米外交問題評議会(CFR)タスクフォースは、「人道支援を超えて――アフリカへの戦略的アプローチを考える」(More than Humanitarianism : A Strategic U.S. Approach toward Africa)というタイトルのリポートを2005年12月に発表した。リポートの内容は、アフリカにおける安全とテロ、紛争解決と平和維持活動、HIV・エイズ、中国の影響力増大、民主主義と人権、投資と多岐にわたる。邦訳文は同リポートの一章「アフリカでの影響力を模索する中国」からの抜粋。全文(英文)はwww.cfr.orgからアクセスできる。

CFRインタビュー
イラン核開発問題をめぐる米欧協調の危うさ
―― 打開の鍵をにぎるのはロシアだ

2006年1月号

リー・フェイシュタイン 米外交問題評議会シニア・フェロー

現在のところ、イランの核開発問題に対して共同歩調をとっているとはいえ、アメリカとヨーロッパの脅威認識にはかなりの気温差がある。「ヨーロッパ人はすでに対イラン貿易制裁には反対すると表明している」。リー・フェイシュタイン(米外交問題評議会<CFR>シニア・フェロー)は、イランの核開発の脅威の本質、切迫性をめぐって、米欧の認識は大きく違っているし、米欧は経済制裁の効果についても違う意見を持っていると指摘し、今後もアメリカとヨーロッパが同じ土俵に立ち続けることができるかどうかを疑問視する。むしろ、イラン問題をめぐって何らかの進展が期待できるのは、ロシアでウラン濃縮の合弁事業を立ち上げる妥協案が進展した場合だろうとコメントした。聞き手はバーナード・ガーズマン(www.cfr.orgのコンサルティング・エディター)。
邦訳文は英文からの抜粋。

CFRインタビュー
イランの核開発問題
―― ロシア案の受け入れか、安保理付託か

2006年1月号

ジョセフ・シリンシオーネ カーネギー国際平和財団 核不拡散研究プロジェクト・ディレクター

すこしばかり核開発計画を先にすすめ……それで、ヨーロッパが立場を後退させるかどうか、「状況を容認するか、あるいは、状況を批判しつつも具体的行動はとらないか」を見極めるという戦術をこれまでテヘランは慎重に試みてきた。イランの核開発に向けた戦術をこう分析するジョセフ・シリンシオーネ(カーネギー国際平和財団の核不拡散研究プロジェクト・ディレクター)は、だが今回ばかりは、イランは強硬な発言を繰り返すことで、ヨーロッパの出方を見誤ったとみる。「一線を越えないように配慮しつつ、核兵器開発に必要な全技術を獲得すること」がテヘランの戦術であるにも関わらず、アフマディネジャド大統領は、「平和利用という自分たちの主張に酔いしれるあまり」、あるいは、「国内政治面での窮状を打開しようと」、今回は、勇み足を踏んだと分析する。安保理への付託か、ロシア案の受け入れか。その大きな鍵を握るのはロシアになるとシリンシオーネは語った。聞き手はバーナード・ガーズマン(www.cfr.orgのコンサルティング・エディター)。

民主化途上にある国の危うさ
――イラク民主化構想の落とし穴

2006年1月号

ジョン・M・オーウェン/バージニア大学準教授

民主主義国家どうしは戦争をしないと言われる。だが、選挙は実施したものの、(独立した司法制度、軍の文民統治、複数政党制、報道の自由など)政府の説明責任を問うための適切な制度を確立していない「民主化の途上にある国」の政治家は、他国と領土論争を展開し、外国人に対する不満を煽れば、市民の支持を得やすいことを理解しており、あえて、戦争のリスクを高めるような政策をとりがちだ。民主主義国家どうしは戦争をしないという理論を前提に、イラクへと足を踏み込んだブッシュ政権は、国際政治理論のどの部分を誤解していたのか。イラクはまさに中途半端な民主主義国家になろうとしているのではないか。

経済成長は本当に民主化を促すのか
―― 中国の民主化はなぜ進展しない

2006年1月号

ブルース・ブエノ・デ・メスキータ
ニューヨーク大学政治学部長、フーバー研究所シニア・フェロー
ジョージ・W・ダウンズ
ニューヨーク大学社会科学部

近年では、抑圧政権は、経済発展を実現しつつも、民主主義の導入を非常に長い間遅らせることに成功している。例えば、中国は、この年にわたって力強い経済成長を遂げているが、依然として政治的には抑圧体制を温存している。現実には、経済成長によって抑圧政権の寿命は短くなるどころか、むしろ長くなっている。経済成長によって得た資金をバックに、公共交通機関、保健医療サービス、初等教育などの公共財を提供することで市民の満足度を高める一方で、民主化を求める市民の連帯を育む前提である政治的権利、人権、報道の自由を厳格に管理しているからだ。いまやわれわれは、経済成長は民主化を呼び込むという理論を見直す必要があるし、国際機関の融資条件に市民間の連帯をうながす一連の権利の保障を含めるべきだろう。

CFRミーテ ィ ング
IEAチーフエコノミストが語る、 世界のエネルギー需給見通し

2005年12月号

ファティ・バイロル スピーカー 国際エネルギー機関 (IEA) 経済分析部長  司会  ニューヨークタイムズ記者  ジャド・モーアワッド

「この5~6年をみると、世界の石油の需要増のほぼすべては交通・運輸部門の需要増大によるもので、これはかつてとは違うパターンだ。これまでは、産業、電力生産、家庭での需要増がその内訳だったが、いまや、需要増のほぼすべてが交通・運輸部門の需要増大に引きずられている。だが、この部門を石油以外のエネルギー資源へと移行させていくのは容易ではない。いかなるシナリオをたどっても、今後中東と北アフリカMENA の世界の石油供給にしめるシェアはますます増大していく」(F・バイロル)

イラク・シンドローム

2005年12月号

ジョン・ミューラー オハイオ州立大学教授

米兵犠牲者の増大とともに、世論の戦争への支持は低下する。そして、こうした戦争への支持率の低下を挽回するために大統領にできることはほとんど何もないし、支持率の低下は、戦争が終わっ ても歯止めが利かない。こうして、戦争後にはアメリカ社会での対外介入への嫌悪感が高まる。すでにイラク・シンドロームとでもいうべき対外介入を嫌悪する感情が高まりをみせつつある。対外介入を忌み嫌う戦後のシンドロームによって大きく損なわれるのは、ブッシュ・ドクトリン、単独行動主義、先制攻撃、予防戦争、そして世界にとって不可欠の国としてのアメリカという自己イメージに他ならない。とすれば、イラク戦争から最終的にもっとも大きな利益を引き出しているのは、イラク同様に悪の枢軸と名指しされた国々なのかもしれない。

人畜共通感染症の脅威
――鳥インフルエンザからBSE、エボラ出血熱まで

2005年12月号

ウイリアム・B・カレシュ 野生動物保護学会獣医学プログラム ディレクター
ロバート・A・クック 野生動物保護学会副会長

現代医学によって明らかになっている1415の感染症の60%以上が動物と人間双方への感染力を持っている。鳥インフルエンザ、重症急性呼吸器症候群(SARS)、エボラ出血熱、牛海綿状脳症(BSE、いわゆる狂牛病)などを含むこれらの人畜共通感染症のほとんどは、本来動物の病気であったものが生物種の壁を越えて人間に感染するようになったものだ。また、注目される機会はより少ないが、人間に一般的に見られるヘルペス、結核、はしかは動物にも感染する。病気は生物種や学問領域の垣根を越えて発生するという真実を認識し、それに応じた対応メカニズムを構築しない限り、人類は存亡の危機に立たされることになる。

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