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論文データベース(最新論文順)

ウゴ・チャベスとは何者だったか
(2006年6月発表)

2006年6月号

マイケル・シフター
米大陸対話フォーラム政策担当副会長

ラテンアメリカにおけるウゴ・チャベスの影響力は「ベネズエラ、そしてラテンアメリカのアジェンダ(課題)が何であるかをうまく特定して定義する能力」に根ざしている。社会格差、お粗末な状況にある教育や医療制度など、ラテンアメリカ地域の社会的病巣を彼がうまく、しかも正当な形で表現するからこそ、チャベスは人々への大きな訴求力を持っている。この地域の社会的病巣に関する彼の診断は正しいし、彼の意図は誠実なものかもしれない。しかし、彼が示している処方箋は、まやかしである。実際、チャベスは、石油の富を場当たり的に、あるいは政治的思惑でばらまくだけで、社会問題に長期的に対処するモデルをうまく考案できていないし、彼の政策は失望を禁じ得ないほどに小さな成果しか上げていない。必要なのは、この社会問題を建設的に解決していける、より適切な処方箋を示すことではないか。

アメリカの家計貯蓄増大とグローバル経済
――ドル価値は低下し、各国の対米輸出は低下する

2006年6月号

マーチン・フェルドシュタイン ハーバード大学経済学教授

これまで世界各国の生産増大と雇用を支えてきたアメリカの旺盛な消費にもついに陰りが見え始めてきた。今後アメリカの消費は衰え、家計貯蓄が増えていく。アメリカにとって貯蓄増大は、長期的には外資への依存率を引き下げ、米企業の設備投資、生産性を向上させ、将来の生活レベルを引き上げるような構造的投資が進むことを意味する。しかし一方で、世界経済は大きな課題を抱え込むことになる。高い貯蓄率は実質金利を引き下げ、ドル価値は低下して、アメリカの輸出競争力は高くなる。この現象は、アメリカの輸出が増大し、輸入が減って経常赤字の対GDP比バランスが回復され、完全雇用が実現するまで続く。他の諸国にしてみれば、それは輸出の低下とアメリカからの輸入増大を招くことになる。重要なのは、諸外国が、生産と雇用を維持できるように内需拡大策を準備しておくことだ。

イラクでスンニ派とシーア派の抗争が激化するなか、レバノンからイラク、イランへといたる地域を「シーア派三日月地帯」とみなす地政学的とらえ方が大きな注目を集めている。事実、ヨルダンのアブドラ国王は「スンニ派が支配する中東は、ベイルートからテヘランにいたるシーア派三日月地帯の出現によって分断されることになるかもしれない」と発言している。イラクにおけるシーア派の台頭と宗派間抗争がきっかけとなって、中東全域でシーア派対スンニ派の宗派間の緊張が高まるなか、宗派間バランスが今後の中東秩序を左右するようになると考える専門家は多い。9・11を引き起こしたイスラム現状維持派と過激派の内戦は、いまや「イラク、イラン、レバノン」そして「ヨルダン、サウジアラビア、エジプト」を中心とする宗派間抗争へと構図を変えつつある。

CFRミーティング
「ハイテク・チャイナ」の課題と意味合い
 ――中国の技術開発力を検証する

2006年5月号

スピーカー
ウィリアム・T・アーチー  米エレクトロニクス協会会長兼最高経営責任者
アダム・シーガル  米外交問題評議会シニア・フェロー
司会
アン・G・K・ソロモン  戦略国際問題研究所(CSIS) シニア・アドバイザー

シリコンバレーで5年から7年働いた経験をもつ中国人、カーネギーメロン大学で科学技術を教えていた中国人などがいまや母国へと帰国している。帰国後、彼らは自分で研究所や企業を立ち上げるか、中国に進出している多国籍企業で働いている。(A・シーガル)

中国側からの技術移転を求める圧力は大きい。不本意ながら、米企業が要請に応じる場合もあれば、拒絶する場合もある。日本企業は米企業よりも、中国側の技術移転要請に強く抵抗する傾向がある。日本企業が、どの程度抵抗し続けられるかはよくわからない。(W・アーチー)

イランの核開発に打つ手はあるのか
――外交、軍事攻撃、あるいは封じ込めか

2006年5月号

◎スピーカー
リュエル・マーク・ゲレット アメリカン・エンタープライズ研究所レジデントフェロー
ケニース・M・ポラック ブルッキングス研究所セバン中東研究センター所長
◎司会
リチャード・N・ハース 米外交問題評議会(CFR)会長

「イランを軍事攻撃できるかどうか。その答えはイエス。攻撃後のイラン国内状況は、当初は今よりも悪くなるし、反体制派や改革主義者は抑圧される。長期的に大きな反体制運動が起きるか。答えはイエス。対米テロは起きるか。これは間違いなく起きる」(R・ゲレット)

「イランの核施設は大規模なトンネルで繋がれていることもわかっている。このトンネルを破壊するのは非常に難しい。ペンタゴンでこのトンネルを破壊するにはどうすればよいかが研究されているが、これを破壊するには、地表貫通型核兵器が必要だと言われている」(K・ポラック)

サダム・フセインの妄想
――旧イラク軍高官たちが証言する

2006年5月号

ケビン・ウッド 防衛アナリスト
ジェームズ・レーシー 米統合軍司令部軍事分析官
ウィリアムソン・マレー 米海軍大学歴史学客員教授

2003年4月、バグダッドは陥落し、歴史的に最も秘密主義で残忍な政権の実態を解明する機会が生まれた。米統合軍司令部は、かつてはアクセスできなかったイラク政府文書を基に、サダム・フセイン政権がどのように機能し、行動していたかをテーマとする検証を命じた。拘束された数十人の政治・軍事指導者への聞き取り、数十万の公文書を基盤とする2年がかりのプロジェクトのリポートのポイントをここに掲載する。

イラク・パースペクティブ・プロジェクト
―― サダム・フセインの幻想

2006年4月号

ケビン・ウッド/防衛アナリスト
ジェームズ・レーシー/米統合軍司令部軍事アナリスト
ウィリアムソン・マレー/米海軍大学歴史学特別客員教授
マイケル・ピース/「イラク・パースペクティブ・プロジェクト」共同執筆者
マーク・スタウト/「イラク・パースペクティブ・プロジェクト」共同執筆者

米統合軍司令部は、2004年に作戦分析統合センター(JCOA)に、イラク戦争中にサダム・フセインが何を考えて、どのように行動していたかを分析するように命じ、その分析結果が『イラク・パースペクティブ・プロジェクト――サダム政権高官はイラク自由作戦をどうみていたか』という200ページを超えるリポートにまとめられ、2006年3月24日に公表された。フォーリン・アフェアーズ英語版5・6月号には、JCOAリポートの筆者であるケビン・ウッド、ジェームズ・レーシー、ウィリアムソン・マレーがその主要なポイントを抜粋し、まとめなおした「サダムの幻想」が掲載されている。ケビン・ウッドをプロジェクトリーダーとするイラク・プロスペクティブ・プロジェクトの分析チームは、イラクに関して公開されている情報を入念に調べあげた上で、イラクへ向かい、現地でイラク政府・軍高官の聞き取りを行うとともに、押収したイラク政府文書を精査した上で、この2年がかりのプロジェクトを分析報告として発表している。邦訳分は、フォーリン・アフェアーズには掲載されていない、米統合軍司令部JCOAリポート「イラク・パースペクティブ・プロジェクト」の統括部分からの抜粋・要約。日本語版では次号(6月10日発売5月号)に「サダム・フセインの幻想」の全文を掲載予定。(フォーリン・アフェアーズ日本語版編集部)

エネルギー資源輸出国のロシア、経済成長を支えるのに必要なエネルギー資源を求める中国。互いの経済的必要性を満たす両国の接近を自然のなりゆきと考える専門家も多い。だが、両国の接近は貿易領域に留まらない。「アメリカの影響力を封じ込める」という共通の戦略目標を掲げる中国とロシアは、貿易だけでなく、中央アジアにおける資源開発や安全保障、そして、北朝・イランの核開発問題をめぐっても協調・共闘路線をとっている。両国は、アメリカの覇権に対抗するために広範な領域での外交問題について政策のすりあわせを行い、協調している。また、「ロシアが中国の後ろ盾となれば、経済的にも軍事的にもますます日本の立場は危うくなる」と中ロ連合の日本への余波を指摘する専門家もいる。アメリカの覇権に対抗する中ロ連合を軸に、東アジアの地政学はどう変化していくのか。

 アラブ世界は、イランの「核技術保有宣言」を前に困惑している。イランと多くのアラブ諸国の関係はすでに緊張しており、今後イランが核兵器開発能力を手にすれば、ますますアラブ諸国とイランの関係は悪化していく危険がある。核武装したイランは中東のパワーバランスを揺るがし、アラブ各国における宗派上の少数派であるシーア派を勢いづけ、最悪の場合には、中東で核の軍拡レースが起きると考える専門家もいる。
 しかし一方で、世論調査や新聞報道からみて、イスラムの同胞であるイランがアメリカを相手に一歩も引かぬ姿勢をとっていることを頼もしく思っているアラブ人もいる。彼らは、ワシントンのイスラエル寄りの路線、シーア派主導のイラク構築路線、中東民主化構想のことを、中東秩序の安定にとってイランの核技術獲得以上の脅威とみなしている。一般にアラブの指導者はイランの非核化を望んでおり、現在の危機が外交的に解決されることを期待している。

イラク戦争の情報と政策

2006年4月号

ポール・R・ピラー/前米中央情報局(CIA) 近東・南アジア情報分析官

ブッシュ政権は政策を決める判断材料として情報を用いるという、政策と情報の通常のモデルを逆さにし、すでに下されている政治決断を正当化するために情報を選択的に用いた。米情報コミュニティーのイラクの大量破壊兵器(WMD)に関する間違った情報分析が政策決定者に判断を誤らせたわけではない。むしろ、イラクに関する戦前の情報収集・分析に関して特筆すべきは、この数十年間でもっとも重要なアメリカの政策決定において、情報がほとんど無視されたという点にある。ブッシュ政権は、イラク戦争に向けて米市民を動員するために生の情報を選択的に利用したにすぎない。

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