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論文データベース(最新論文順)

米印関係は反中同盟の布石なのか
――台頭するインドとバランス・オブ・パワー

2006年9月号

C・ラジャ・モハン/インド国家安全保障諮問委員会メンバー

インドは、米中間の中立を維持しようとするだろうか、それとも現在のインドの大戦略に即してアメリカの側につくだろうか。米印原子力合意は、この設問への最終的な答えを左右しようとするアメリカの試みだった。インドはアジアやインド洋地域で、中国の2番手に甘んじることだけは避けたいと考えているし、むしろ遠く離れた超大国との協調に安定的な利益を見いだしている。ワシントンとの安全保障関係の強化を望むのは、こうした構造的な理由がある。だが、利益を共有しているからといって、それだけで同盟関係が成立するわけではない。両国間のパワーに格差があり、政治的協調の歴史がなく、より踏み込んだ米印の協調に抵抗する官僚が両国に存在する以上、米印の戦略的な協調関係の進化のペースと、規模の広がりは段階的なものになる。

イラク・ラウンドテーブル
――全面的内戦に陥るのを回避するには

2006年9月号

ラリー・ダイアモンド フーバー研究所シニア・フェロー
ジェームズ・ドビンズ ランド研究所国際安全保障・防衛政策研究センター所長
チャイム・カーフマン リーハイ大学国際関係学助教授
レスリー・H・ゲルブ 米外交問題評議会(CFR)名誉会長

中央集権化しようと無駄な努力を重ねてさらにイラクの分断状況を深刻化させるのではなく、イラクの分権化を進めるべきだ。クルド人地域、スンニ派アラブ人地域、シーア派アラブ人地域をつくり、それぞれの地域が立法や行政の大部分に責任を持つようにするのだ。外交、国境警備、石油およびガスの生産と歳入の管理分配など、中央政府の権限を全地域の利益に明らかにかかわる分野に限定・制限する。こうすれば、クルド人は自治権、スンニ派はある程度の自治権と歳入源、そしてシーア派は自らの地域を統治する歴史的自由と将来の富を手に入れることができる。(L・ゲルブ)

インドはアメリカの戦略的パートナーだ
――米印核合意の本当の目的

2006年8月号

アシュトン・B・カーター/ハーバード大学ケネディ・スクール教授(科学、国際関係)

ワシントンが核の平和利用をめぐってインドに譲歩したのは、別の領域でもっと多くのものを勝ち取るためだった。イランの脅威、政情不安定なパキスタン、そしてとかく行動が読めない中国などの国々が将来引き起こすであろう課題に対処していくうえで、戦略的な要地に位置し、めざましい経済成長を遂げる民主国家インドの支援と協力を確保することをワシントンは重視した。核保有国としての地位を認めることと引き換えに、インドを戦略的パートナーとして取り込むという取引は、アメリカにとって妥当な決断だった。この合意が成功するかどうかは、ひとえにインドの将来の行動にかかっている。

北東アジア戦略環境を検証する

2006年8月号

FAJブリーフィング

日米を中心に各国が対北朝鮮金融制裁を強化するなか、今度は北朝鮮が核実験を準備しているという情報も出てきている。だが、今後を考える上で、7月のミサイル実験を境に、北朝鮮をとりまく戦略環境がすでに変化していることにも目を向ける必要がある。日本は地上配備型ミサイル防衛システムの配備にますます積極的になり、一方、北朝鮮の不安定化を恐れ、これまで慎重な姿勢をとってきた韓国と中国の立場も明らかに変化してきている。韓国はこれまでの北朝鮮関与政策を見直し始め、中国も北朝鮮関係口座の凍結へと踏み切った。ウィリアム・ベリー元国防長官は、「北朝鮮が核実験に踏み切れば、①北朝鮮は核兵器、核関連物質の輸出を試み、②アジア太平洋全域で核の軍拡レースが起き、③イランの核開発を事実上黙認せざるを得なくなり、その結果、イスラエルのイランに対する先制攻撃の可能性を含むまったく新しい問題がつくりだされる」と指摘している。

イスラエルの新戦略とは何か
――占領地撤退戦略の真意

2006年8月

バリー・ルービン/学際研究所・国際関係グローバルリサーチセンター所長

占領地からの撤退に反対し、占領地はいずれ取引材料になるという議論に対して、シャロンは「取引相手がいないのに、取引材料を持っている価値がどこにあるのか」と反論した。占領地からの撤退と防護壁に即した防衛ラインの強化というイスラエルの新路線について、シャロンの後継を担うオルメルトは次のように述べている。分離壁の外側にある入植地は最終的には解体され、これら入植地の住民は「イスラエルの支配下にある入植地ブロックにまとめられる。……それ以外の占領地にイスラエルのプレゼンスはなく、これらの地域が将来のパレスチナ国家の領土となる」。イスラエルは、1967年以前の境界線に極めて近い境界線を引こうとしている。

グローバルに統合された企業

2006年8月号

サミュエル・J・パルミサーノ IBM取締役会長

どこまでグローバル化できるかについての企業の認識が変化した結果、企業の関心は、どのような製品をつくるかよりも、いかにそれを生産するか、どのようなサービスを提供するかよりも、どのようにサービスを提供するかに移っていった。いまやアウトソーシングが一般的になり、企業は自らを、調達、生産、研究、販売、流通などの特定部門が並列するネットワークとみなしている。ここにおける真の技術革新とは、新しい製品を開発し、生産するための創造力だけに左右されるわけではない。いかにサービスを提供し、ビジネスプロセスを統合するか、いかに組織やシステムを管理し、知識を移転するかでその多くが左右されることになる。

欧米世界に背を向けたロシア

2006年7月号

ドミトリ・トレーニン カーネギー国際平和財団モスクワセンター副所長

現在のロシアは、永遠の敵でも友人でもない巨大なアウトサイダーである。ロシアは最近まで、自らを欧米という太陽系における冥王星のような存在、つまり中心からひどく離れているが、基本的にはその一員であると考えてきた。だがいまや、ロシアは、太陽系の軌道を完全にはずれ、欧米世界の仲間になることを断念し、モスクワを中心とする独自のシステムをつくり始めている。状況は流動的だ。欧米各国はロシアにおける前向きな変化は内部からしか起こり得ないことを認識すべきだし、変化の牽引役となるのは民主主義の理念ではなく、経済の必要性であることを理解する必要がある。

ラテンアメリカの左旋回
――正しい左派と間違った左派を区別せよ

2006年7月

ホルヘ・G・カスタニェーダ/ 元メキシコ外相

ラテンアメリカ全域で左派勢力が台頭し、市場経済に向けた改革路線、議会制民主主義に対する激しい逆風が吹きはじめている。しかし、そこに正しい左派と間違った左派が存在することを認識する必要がある。旧共産・社会主義系左派は、自らの失敗と昔のモデルの欠陥を認め、態勢を立て直すことに成功し、ラテンアメリカのよい統治に必要なものを提供する資質を持っている。一方、資源を国有化してカネをばらまき、でたらめな経済路線をとり、ナショナリズムを鼓舞して権力を奪い取ろうとする左派ポピュリストは、全く変化していない。チャベスに代表される左派ポピュリストにとって、貧しい選挙区の絶望は政治が取り組むべき課題ではなく政治の道具にすぎない。最大の問題は、左派ポピュリストが民主主義よりも権力を愛し、権力を維持するためなら大きな犠牲を払ってもかまわないと考えていることだ。

ブッシュ外交革命の終わり
――単独行動主義への回帰はあり得ないのか

2006年7月号

フィリップ・H・ゴードン/ブルッキングス研究所外交政策担当シニア・フェロー

当初、現実主義路線を重視していたブッシュ政権が、イラク侵攻、そして、世界での圧政を終わらせると外交革命路線へと踏み出していったのは、9・11を前に「世界を変えるために何か手を打たなくては」という危機感を募らせるとともに、「世界を変えることができるかつてないパワーを手にしている」と確信したからだった。そこでは、同盟国を説得するのではなく、勝利を通じて支持を勝ち取ることこそリーダーシップの本質と考えられた。だがその後、アメリカの経済資源は枯渇し、外国、国内での政治的支持が低下するなか、すでにブッシュ政権は現実主義路線へと回帰している。だが、ブッシュ政権が再度路線を変える危険は十分ある。民主党や外交専門家が何を言おうとも、「アメリカの決意、楽観主義、そしてパワーが最終的には勝利を収める」とするレーガン政権時代以来の外交理念をいまもブッシュ政権の高官は捨ててはいないからだ。

中東は宗派間抗争で引き裂かれるのか
――スンニ派とシーア派の対立

2006年7月号

バリ・ナシル/ 米外交問題評議会(CFR)非常勤シニア・フェロー

イラクにおけるシーア派の台頭というトレンドこそ、イラク、そして中東における宗派間のバランスを今後長期にわたって変化させていく大きな要因になる。ヨルダンのアブドラ国王は、スンニ派が支配する中東を、ベイルートからテヘランにいたるシーア派三日月地帯が分断することになるかもしれないと警告している。宗派間の政治的敵対を緩和するには、イラク、そして中東全域において、シーア派の要望を満たす一方で、スンニ派の怒りをなだめ、不安を取り除いてやる必要がある。そのためにも、世界最大のシーア派人口を持ち、地域的な影響力を高めつつあるイランにワシントンは関与しなければならない。イラクの状況がますます深刻になっていけば、中東全域がシーア派とスンニ派の宗派間抗争に巻き込まれていく危険がある。

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