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論文データベース(最新論文順)

安倍政権は改革政権となれるのか

2007年3月号

リチャード・カッツ/オリエンタル・エコノミスト・レポート共同編集長
ピーター・エニス/オリエンタル・エコノミスト・レポート共同編集長

2005年の衆議院選挙で立証されたように、市民は改革路線を強く支持しているにもかかわらず、小泉がつくりだした改革の流れが鈍化するか、停止しかねないリスクが現に存在する。安倍の関心はもっぱら外交と社会政策に向けられており、経済には目を向けていないからだ。しかし、日本経済の再生はとうてい本物とは言い難く、改革を続けない限り、再度漂流しだすことになる。しかし、安倍の野心的な安全保障目標が、日本の経済的必要性を満たす糸口をつくりだすかもしれない。中国への対抗バランスを形成したい安倍は、例えば、オーストラリアとの自由貿易合意の締結にも意欲をみせているし、そうした合意を実現するには、農業部門の障壁その他をめぐって妥協しなければならず、それが日本経済を上向かせることにもつながるからだ。明らかなのは、安倍が改革に向けた行動を起こさなければ、政権は短命に終わるかもしれないし、日本の影響力も低下していくということだ。

5年前アメリカの研究者は、安倍政権と日本をどうみていたか
――安倍政権のアジェンダ

2007年3月号

◎スピーカー
ケント・E・カルダー
ジョンズ・ホプキンス大学教授
ライシャワー・センター所長
マイケル・グリーン
戦略国際問題研究所(CSIS)
日本部長
◎司会
マーク・マニーン
米議会調査局(CRS)
アジア担当研究員

安倍政権は、オーストラリアとの安全保障関係、インドネシアとのパートナーシップを形成し、国際環境を形づくるために「民主主義と市場経済」というグローバルな規範を持ち出し、これまでの経済的影響力だけをツールとする戦略を一新した。その背景には、経済的ツールだけではもはや国際環境に対処できないという読みがある。……ある人にとってのナショナリズムが他の人にとっての愛国主義であることもある。安倍首相が求めている国家としての誇り・プライドについては、アメリカ人も理解している。日本人に……誇りを持って欲しいし、日本が国際的な役割を果たし、繁栄と安定の要として機能して欲しいと願っている。(M・グリーン)

政治構造的に、日本が将来を見据えた決意ある政策を表明することはあり得ない。選挙制度、政治的伝統その他の要因によって、日本の政策決定はどうしても視野の狭いものになりがちだ。国内志向が強いということもできる。潜在的なパートナーとしての日本という点では……日米関係が、米英関係のような存在になるとは考えにくいと私は思う。……文化的な違いゆえに、日本は経済領域を中心としたパートナーに留まると思う。(K・カルダー)

復活した日本と現実主義外交の伝統

2007年3月号

マイケル・グリーン
戦略国際問題研究所(CSIS)日本部長

日本の最大の強みは、国力を構成する軍事、経済、文化その他の要因を時代に即してうまく再定義してきたことにあり、小泉政権以降の日本政府は、アジアにおける主要なプレーヤーとしての地位を維持していこうと、新たな国力構成領域での強さを培いつつある。若手政治家たちは、日米同盟が両国にとってもっとうまく機能するようになることを願っており、より多くの役割を引き受け、その代わりにより多くを求めることについても躊躇しない。こうした状況にある以上、ワシントンが東京を犠牲にする形で北京との和解路線をとれば、東京は自主路線の度合いを高め、その結果、アジアの安全保障環境はますます不透明になる。ワシントンが中国との緊密な経済的絆に加えて、安定した戦略関係を築くことについて日本を過度に刺激しないようにするには、あくまでも東京との同盟関係を基盤に中国への関与策を進める必要がある。

移民労働力と経済成長を考える
――移民労働者は脅威か、恩恵か

2007年2月号

タマル・ジャコビー マンハッタン・インスティチュート シニア・フェロー

グローバル世界の新たな潮流のなかでも特に重要なのが、世界の労働市場の統合が進んでいることだ。アメリカでは多くの産業が単純(非熟練)労働力不足という問題を抱え込んでおり、これに呼応するかのように、メキシコ人を中心とする単純労働者がアメリカへとタイミングよく殺到し、増大するアメリカの労働需要を満たしてくれている。こうした移民たちは、アメリカ人労働者が嫌がる仕事を引き受けて産業を支えることで、経済的富の拡大、アメリカ人労働者のスキルアップの機会をもたらしている。移民の流入がアメリカ経済にとって有益であることがはっきりしている以上、移民を締め出すのではなく、移民流入をより効果的に管理する制度改革を模索すべきである。

2007年1月、中国はすでに打ち上げていた気象衛星を弾道ミサイルで破壊する実験に成功した。その結果、破壊された衛星やミサイルの破片や残骸が地球の軌道で漂泊することになり、これらが商業・軍事衛星その他と衝突する危険が生じている。また今回の実験をきっかけに、宇宙での軍拡レースが誘発される恐れもある。その後、中国はこれ以上実験をする予定はないと表明したが、1月11日の衛星破壊実験は中国が宇宙計画をめぐって大きな進歩を遂げていること、有事の際には、敵の情報収集衛星を破壊する能力を持っていることを世界に見せつけた。実験後、国際社会が中国に説明を求めたにもかかわらず、公式声明を発表するのに数日を要したため、実験をめぐる中国の意図が疑われ、北京が、穏やかな台頭、平和的台頭を本当に目指しているのかも疑問視されだしている。いまや軍事情報だけでなく、金融、経済取引システムの多くが、衛星によって統御されており、アメリカとロシアに加えて、中国が衛星破壊能力を手にしたことの意味合いは非常に大きい。

テロとの戦いの本当の意味は何か

2007年2月

トニー・ブレア/第73代英国首相

イスラム過激派は、イスラム国家の近代化など望んではいない。彼らは、中東地域にイスラム過激主義の弓状地域を形成し、イスラム世界の近代化を目指している穏健派による小さな流れをせき止め、イスラム世界が少数の宗教指導者が支配する、半ば封建的な世界へと回帰することを望んでいる。彼らが攻撃に用いる手段に対抗するだけではなく、こうした彼らの思想に挑まない限り、勝利は手にできない。人心を勝ち取り、人々を鼓舞し、われわれの価値が何を意味するかを示すことが戦いの本質である。力の領域においてだけでなく、価値をめぐる闘いで勝利を収めない限り、イスラム過激主義の台頭というグローバルな流れを抑え込むことはできない。

アフガニスタンを救うには

2007年2月

バーネット・R・ルービン/ニューヨーク大学国際協調センター研究部長

パキスタンとペルシャ湾岸諸国の援助をバックにタリバーンが再びアフガニスタンで台頭しつつある。パキスタン国内の部族地域に聖域を持っていることに加えて、タリバーンの統治システムが極めて効果的であり、一方、アフガニスタン政府が腐敗にまみれ、まともな統治が行われていないために、民衆の立場も揺らぎだしている。アフガニスタン軍と国際支援部隊が戦闘を通じてタリバーンをいくら打倒しても、パキスタン内にタリバーンが聖域を持ち、アフガニスタン政府が弱体で再建活動がうまく進んでいないために、それを本当の勝利に結びつけられない状況にある。アフガニスタンの内務省と司法制度を改革し、アメリカのパキスタンに対する路線を見直さないことには、対テロ戦争の最初の戦場へと再度引きずり戻されることになる。

イランのエネルギー産業はしだいに崩壊しつつある。サウジアラビアに次ぐ世界で2番目に大きな石油資源を持ちながらも、イランはいまや市場へのガソリン供給を配給制に切り替えつつあるし、大規模なインフラ投資を行わない限り、イランの石油輸出は2015年までに停止すると予測する専門家もいる。イランの石油産業が衰退したおもな原因は、石油インフラへの投資不足による油田の老朽化、そして国内での無節操なエネルギー消費を促しているエネルギーへの補助金制度にあるとみる専門家は多い。グローバル市場でのエネルギー価格がしだいに低下していけば、すでに国連の制裁下に置かれて苦しんでいるイラン経済は、政治的余波を伴うような大きな経済的ショックに直面するかもしれない。イラン側は、中国やパキスタンなどとの契約を通じて、投資をてこ入れしようしているが、一方で、国連の経済制裁が効き始めているのも事実だ。石油産業の不振を前にテヘランは核開発にますます力を入れだし、一方、イランは電力生産ではなく、核兵器の開発を目指しているとみる欧米の専門家はますます危機感を募らせている。

グローバルな公衆衛生の課題(上)
――潤沢な援助がつくりだす新たな問題

2007年2月号

ローリー・ギャレット/米外交問題評議会(CFR)シニア・フェロー

この数年間で、途上国の公衆衛生問題への各国の関心と貢献は劇的に向上した。これだけの資金が集まっているのだから、公衆衛生上の問題の多くを解決できる可能性も出てきていると考えてもおかしくはない。だが、そうした考えは間違っている。ほとんどの資金には条件がつけられているし、資金提供者(ドナー)が望む優先順位、政策、価値観に従って使用しなければならない。また、援助が着服されることも多く、腐敗が蔓延しているガーナでは、実に寄付の8割が、本来の目的のためには使用されていない。とくに、援助を寄付に依存するとドナーの意向が働くために、富裕国で関心を集めている疾病や症状にばかり大きな関心と資金が集中し、疾病対策が財団の気まぐれに左右され、資産家や富裕国の政府が憂慮する疾病ばかりが重視され、結果的に世界の公衆衛生問題への対応が枠にはめられてしまう。

「ブッシュ政権は、平壌がそう望むのなら、北朝鮮を改革・開放化へと向かわせるような道筋を築き、そのうえで、朝鮮半島の安全保障問題、ひいては北東アジアでの大国間関係のための枠組みをつくろうと、中国、日本、韓国、ロシアの4カ国との協調路線を試みている」。2月の6者協議での合意は、「こうした壮大な計画の序章にすぎない」と語るロバート・ゼーリック前国務副長官は、北朝鮮が開放路線を選択するかどうかは、はっきりとしないとしながらも、今回アメリカが描いた道筋は「金正日が改革と経済開放路線を推進していけば、北朝鮮がさまざまな機会を手にできるように設計されており」、これに北朝鮮への安全の保証、和平条約の締結を組み合わせれば、「改革・開放路線をとれば、体制の崩壊につながる」とみる平壌の危機感を緩和させて、北朝鮮の核問題に対処していく広範な枠組みにできると指摘した。聞き手はバーナード・ガーズマン(www.cfr.orgのコンサルティング・エディター)。

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