「2008年の金融危機はアメリカの住宅市場から始まった」と一般に考えられている。過熱した住宅市場での安易な貸付と借入が巨大な住宅バブルを生み出し、回収困難な住宅ローンが証券化され、広く金融システムに拡散してしまったことが金融危機を引き起こした、と。しかし、マーチン・ウォルフは新著『グローバルファイナンスを是正する (“Fixing Global Finance, The Johns Hopkins University Press”) 』で、金融危機のルーツは、実はそれよりもずっと以前の出来事にまで遡ることができると指摘している。
ウォルフによれば、その遠因は、1990年代後半に一連の通貨危機から立ち直りつつあったアジア諸国が、とかく融資に条件をつけられる国際通貨基金(IMF)の屈辱的な救済措置の世話には二度とならないと決意し、(通貨危機に備えて)巨額の外貨準備をバッファーとして積み増すようになったことにある。アジア諸国に加えて、原油価格の高騰で産油国が莫大な資金を手にするようになると、世界における外貨準備の規模はかつてないレベルに達し、その結果、根本的にゆがんだ資金の流れが誕生した。すなわち、莫大な経常黒字を貯め込んだアジアや中東の国が外貨準備をバックに先進国に大規模な投資を行うようになり、この潤沢な資金が米欧での住宅バブルの発生を助長した、とウォルフはみる。
ウォルフは、長期的に世界経済のバランスを立て直すには、途上国が自国通貨で国内投資できるように資本市場のインフラを強化する必要があると指摘し、短期的には中国などの経常黒字国が、ダブついているキャッシュを吸収できるように内需拡大に努める必要があると提言した。聞き手は、リー・ハドソン・テスリク(www.cfr.orgのアソシエート・エディター)。