
1994年以降に発表された邦訳論文を検索できます。
2009年6月号
9・11以降の対テロ戦争を遂行するなか、アメリカはサウジを疑いの目で見るようになり、一方サウジの王族もいまやアメリカのことを「戦略不安を作りだす元凶」とみなし始めている。アメリカへの石油の安定供給とサウジの安全保障を取引したアメリカとサウジの「特別な関係」はすでに終わっている。中東和平に始まり、イラン、パキスタン、アフガニスタンにいたるまで、両国は重なりあう利益をもちつつも、一方ではっきりとした利害の衝突も抱えている。これまでのように「サウジはアメリカの意向を汲み、進んで支持してくれる」とワシントンが考えるのは無理がある。オバマ政権は両国の関係が先の読めない状況に入っていることを認識し、歩み寄れる案件をめぐって協調を重ねていくことで、9.11によって失われた信頼と自信を取り戻していく必要がある。
今も世界は核の危険にさらされているが、脅威を削減するのに、脅威を過大視する必要はない。政治家と核不拡散の専門家が警告を発するのに、人々の危機意識をことさらに高める必要はない。国際政治において核を保有することの重要性と意味合いはかつてなく低下している。辛抱強く、一貫した外交を展開してきたことで、いまや核不拡散はグローバルな規範となり、これを受け入れていないのはごく一部の諸国に過ぎない。しかも、すべての安保理常任理事国、そしてインド、イスラエル、パキスタンは「核によるテロリズム」という共通の脅威に直面しており、この共通の脅威の存在が、核不拡散を試みていくための国際的協調基盤を提供している。
「なぜ若年成人層がA(H1N1)のリスク・グループになっているかを考える必要がある。この場合に、免疫の弱っている人々、HIV感染者にどう作用するかを考えることも重要だ。次に、致死率を把握する必要がある。そしてウイルスの特性を突き止めなければならない。とくに、2008年9月からアメリカに姿を現し始めた豚インフルエンザとの関係を明らかにしなければならない。そしてタミフルへの耐性を持っているかどうかをつねに警戒しなければならない。すでにタミフルへの耐性を持っている季節型H1N1ウイルスと、今回の新型ウイルスが結びつけば非常に厄介なことになる」。
邦訳文は豚インフルエンザの発生直後、WHOが警戒レベルを4に引きあげるさなかの4月28日(現地27日)に開かれたCFRのプレス・ブリーフィングからの要約。現状でも関連性が高いと思われる部分だけを訳出した。全文(英文)はwww.cfr.orgからアクセスできる。
2009年6月号
グローバルな金融危機にもかかわらず、国営石油企業が依然として世界でもっとも戦略性の高い資源の75%を支配し、国有企業そして政府の後ろ盾を持つ民間の覇権企業が、民間のライバル企業に対する競争上の優位を持っている。しかも、政府系ファンドは依然として潤沢な資金を持っている。本当に大きすぎて潰せないのはこれらの企業や組織のほうだろう。いまや市場経済の勢いは弱まり、国と政府が主要な経済アクターとして、主に政治的利益のために市場を利用しようとする「国家資本主義」が台頭し始めている。(冷戦期のような)政治的イデオロギーではなく、「市場経済」と「国家資本主義」という2つの経済モデルをめぐるグローバルな抗争という構図が生まれつつある。しかも、グローバルな金融危機とリセッションによって、「国が管理する資本主義」という強力なブランドが突きつける問題と課題はますます大きくなってきている。
現状で分かっていないのは、今後も人からの人への豚インフルエンザの感染が続くかどうかだ。過去のインフルエンザ・パンデミックをみると、例えば、1918年のパンデミック(スペイン風邪)の場合、4~5月に豚インフルエンザが第一波として猛威をふるった後、このウイルスは忽然と姿を消した。だが8月にはどこからともなくウイルスが出現して第2波が猛威をふるい始め、その結果、4千万から1億の人々が犠牲になっている。今回の豚インフルエンザがどのようなコースをたどるのか。(スペイン風邪のときのように)6~8週間で落ち着きをみせるが、それでもウイルスはなくならず、今年の夏、秋、冬に再び猛威を振るい出すのだろうか?その可能性は十分にある。…… もっとも重要なのは、間違いなくわかっていること、そして分かっていないことについて、人々に真実を語り続けることだ。
●邦訳文は4/25のCFRインタビューから
2009年6月号
グローバルな金融危機にもかかわらず、国営石油企業が依然として世界でもっとも戦略性の高い資源の75%を支配し、国有企業そして政府の後ろ盾を持つ民間の覇権企業が、民間のライバル企業に対する競争上の優位を持っている。しかも、政府系ファンドは依然として潤沢な資金を持っている。本当に大きすぎて潰せないのはこれらの企業や組織のほうだろう。いまや市場経済の勢いは弱まり、国と政府が主要な経済アクターとして、主に政治的利益のために市場を利用しようとする「国家資本主義」が台頭し始めている。(冷戦期のような)政治的イデオロギーではなく、「市場経済」と「国家資本主義」という2つの経済モデルをめぐるグローバルな抗争という構図が生まれつつある。しかも、グローバルな金融危機とリセッションによって、「国が管理する資本主義」という強力なブランドが突きつける問題と課題はますます大きくなってきている。
パキスタンでは(国境周辺の)いわゆる部族地域だけでなく、パンジャブ州やカラチを含むパキスタンの主要都市での武装ジハード集団が大きく台頭しており、いまやパキスタン国家の存続そのものが脅かされている。国家破綻が必然なわけでも、差し迫っているわけでもないが、いずれパキスタンにジハード国家が誕生する危険は十分にある。……これに加えて、アフガンのタリバーンがアフガン南部と東部を管理下に置くようになれば、アルカイダが活動できるパキスタン・アフガンにおける空間はますます広がりをみせることになる。
「G2という枠組みで今後を捉えるのは間違いだと思う……世界が日本に期待している役割を果たしていくことを東京は真剣に考えるようになった。……より大きなポイントは中国が経済成長のモデルを見直すかどうかだ。今回のリセッションを脱した後も中国がこれまで同様に輸出主導型の成長戦略をとり、経常黒字をますます積みましていくようなら、国際システムは再び大きな圧力にさらされる」。(J・ナイ)
「全般的に『イギリスからアメリカへ』というかつての構図が、いまや『アメリカから中国へ』という構図として再登場している。ポイントは、世界にバランスよく資本を振り分けるとともに、グローバル経済を刺激するような内需を作り出す役割を中国が引き受けるかどうかだ」。(P・ゼリコー)
2009年6月
ヨーロッパとロシアの安定した関係には、ロシア近隣諸国における安定が必要になる。そして、これら近隣諸国の安定はウクライナという鍵を握る国が安定して初めて実現する。一方、強大化したロシアがウクライナを隷従させることに成功すれば、ヨーロッパとアメリカがモスクワとの協調関係を築くのは事実上不可能になる。このジレンマを解く上で最大の障害は「覇権的なロシアを事実上無条件で支持すれば、ヨーロッパは地政学的・経済的に穏やかな環境を維持できる」と独仏が考えていることだ。ロシアとウクライナのいずれかを優先し、一方をおろそかにするのは、壊滅的な事態を招き入れる処方箋に等しい。