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論文データベース(最新論文順)

ブラックカーボンと低層オゾン対策を
―― もう一つの温暖化対策

2009年10月号

ジェシカ・セドン・ワラック 金融管理研究所(IFMR)開発金融センター所長
ビーラバドラン・ラマナタン カリフォルニア大学サンディエゴ校教授(気候・大気科学)

二酸化炭素排出量削減の恩恵は世界全体で享受できるが、削減コストは各国が負担しなければならない。このコストと恩恵のバランスの見極めが難しいために国際条約をまとめるのは難しい。一方で、リスクが小さく、費用対効果が高く、大きな成果が得られるのに、ほとんど注目されていないオプションがある。それは、光を吸収し(温暖化を進める)「ブラックカーボン(=黒色炭素)」として知られる炭素粒子、そして低層オゾンを形成するガスの排出を削減することだ。黒色炭素と低層オゾン前駆物質の排出量削減はさまざまな意味で有望だ。コストが比較的小さくて済む上に実行しやすく、何十年分もの温室効果ガスの悪影響を相殺し、数多くの恩恵が直ちに得られ、しかも、いますぐに着手できる。

Classic Selection 2009
脅かされる基軸準備通貨、ドルのジレンマ
―― ユーロ、SDR、人民元の台頭

2010年9月号

バリー・エイケングリーン カリフォルニア大学バークレー校 経済学教授

基軸準備通貨は1通貨でなければならないという考え方は、歴史を見れば間違っていることが分かる。歴史的にみても、複数準備通貨制の下では、準備資産を求める新興市場国から唯一の準備通貨供給国へと膨大な資金が流入し、これによって資産バブルが起きるという、最近、アメリカで見られたような混乱は起きていない。第二次世界大戦後のドルの地位は、アメリカ経済のグローバル市場における圧倒的なプレゼンスに支えられていたが、もはやこの例外的な状況は存在しない。短期的には、ユーロがヨーロッパ域内と近隣地域において準備通貨としてのシェアを伸ばしていくだろうし、長期的には、人民元が特にアジアにおいて影響力を拡大していくと考えられる。しかし、予見できる将来について言えば、ドルが他よりも一頭抜きんでた準備通貨であり続けるだろう。

原油価格の安定がもたらす
地政学的チャンスに目を向けよ
―― 原油生産能力は増強され、
需要の伸びは低下する

2009年9月号

エドワード・モース ルイス・キャピタル・マーケッツ マネージング・ディレクター

石油産業の専門家の多くは、世界経済が回復に向かえば、原油の高価格時代がすぐにでもやってくると考えているが、おそらくこの見方は間違っている。より可能性が高いのは、石油その他の資源価格が一定の枠内で変動する時代へと向かうことだ。・・・今後数年は、過去5年間に比べて、原油価格は低い水準で推移すると言っても問題はないだろう。なぜ原油の相対的低価格時代が到来するのか。それは、サウジが余剰生産能力(生産調整能力)を回復し、世界の需要の伸びが長期的に鈍化し、横ばいをたどると考えられるからだ。価格安定期に、産油国に対する建設的な外交を試み、産油国と消費国間のよりバランスのとれた関係を形作るべきだろう。

NATOを中枢に据えた
グローバルな安全保障ネットワークを形成せよ

2009年9月号

ズビグネフ・ブレジンスキー 元米国家安全保障担当大統領補佐官

第二次世界大戦後のグローバル秩序が形骸化すると同時に、パワーが分散し、世界の大衆の政治的覚醒に伴う状況への反発が高まっている。これらが重なり合って、一触即発の危険な状態が生じている。この現実を踏まえて、NATOの集団安全保障条項を再定義し、NATOとロシア・旧ソビエト諸国の関係、NATOと中国、日本、インドとの関係を、グローバルな安全保障ウェブの一部として関連づけていく必要がある。中国、日本、インドとNATOの共同理事会の立ち上げも視野に入れるべきだろう。だが、一部で提言されているように、NATOをグローバルな同盟関係に変貌させたり、グローバルな民主国家連盟へと拡大させたりするのは良い考えではない。そうではなく、NATOが様々な地域的安全保障協調枠組みのネットワークの中枢を担う経験、制度、手段を備えていることを認識した上で、ロシア、旧ソビエト諸国、中央アジア、アジアとの安全保障上の連携を試みるべきだ。

米軍は東アジア海域とペルシャ湾に介入できなくなる?
―― 危機にさらされる前方展開基地と空母

2009年9月号

アンドリュー・F・クレピネビッチ 戦略・予算評価センター所長

アメリカが死活的に重要な利益を有する地域・海域に、伝統的な作戦概念で戦力を展開させるのが次第に難しくなってきている。事実、米軍は、東アジア海域とペルシャ湾に次第に立ち入れなくなりつつある。中国は、沖縄の嘉手納空軍基地、グアム島のアンダーセン空軍基地などの前方展開基地から米軍が自由に作戦行動を取れないようにするために、これらの基地をかなりの精度で攻撃できる通常兵器を装填した弾道ミサイルの大がかりな配備を進めている。東アジアの海域はゆっくりとだが、それでも着実に米海軍、とくに空母が立ち入れない海域になりつつある。・・・ワシントンの政策決定者は今後における真の脅威を軽くみている。このままでは、いずれ「驚きを禁じ得ない戦略状況」に直面する。冷戦初期に試みられた戦略見直しと同様の奥深さとビジョンを持つ、アメリカの世界戦略に関する包括見直しがいまや必要とされている。

アフリカの資本主義革命
―― 危機のなかで成長を維持するには

2009年9月号

イーサン・B・カプスタイン 仏インシード・ビジネススクール・チェアー

権威主義的な政府のもとである程度うまくやっている東アジア諸国とは対照的に、アフリカ諸国は総じて国家運営に失敗している。これは、アフリカの独裁者の多くが、出身部族の生活を向上させることしか頭にないからだ。しかし、いまやアフリカでは急速な都市化が進行しており、市場経済と民主主義の前提である多様な社会の形成が刺激されている。指導者たちも、従来の「家産的なやり方」はコストが大きすぎて維持できなくなりつつあることを理解している。この資本主義革命の流れを加速させるには、援助よりも、貿易を通じてアフリカを助ける必要がある。この点を先進諸国が認識し、アフリカでの改革の進展を保護主義で抑え込まないようにしなければならない。

エリート集団内の新興勢力と旧勢力が権力闘争を繰り広げ、都市生活者と農村部が反目し、北部と東北部がバンコクや南部と対立し、貧困層と富裕層の亀裂も深まっている。しかも、これまで社会を束ねる役目を果たしてきた王室も、王位継承問題を抱えている。これに経済危機が重くのしかかるようになれば、タイの将来はますます不透明化していく。タイの政治危機が社会闘争の様相を呈するようになった最大の理由は、タクシンが貧困層、特に貧しい東北部の苦境を権力抗争に利用したからだ。しかし、タクシン派同様に、反タクシン派も大きな問題を抱えている。現在の闘争は、経済階級闘争というよりも、政治闘争や地域闘争の色彩が強く、政治危機も二つのエリート集団間の権力闘争と考えるのが真実に近い。現状では、タイの危機が収束していくとは考えにくい。

イランの行動論理を解明する
―― イランとの和解を
 実現する直接交渉を

2009年8月号

モフセン・M・ミラニ 南フロリダ大学政治学教授

イランとアメリカはポーカーゲームをしているようなものだ。テヘランは核開発に関する手の内を見せようとせず、一方ワシントンは、イランに対する軍事攻撃という選択肢を外そうとはしない。ワシントンが有利な情勢にあるが、有利な側がつねにゲームに勝つとは限らない。ワシントンは、アルカイダを打倒し、アフガニスタンとイラクを安定させるというイランとの共有認識をもとに、30年に及んでいるイランとの敵対関係にピリオドを打つべきだろう。テヘランも、アメリカが重視する問題をめぐってワシントンとの合意を形成しないことには、地域大国に台頭したことからの恩恵を引き出せないどころか、すでに手に入れているものの多くを失うリスクが生じることを理解しなければならない。両国が共有する利害に注目し、残された立場の違いを埋めていくための直接交渉枠組みを立ち上げるべきだ。

タリバーンを切り崩して、
平和を勝ち取るには
―― アフガンの国民和解に向けて

2009年8月号

フォティニ・クリスティア マサチューセッツ工科大学政治学助教授
マイケル・センプル 南アジア研究者

いまやタリバーンはカブールに近づきつつあり、攻略した地域に新たな行政組織を樹立し、イスラム法廷システムを持ち込みつつある。オバマ政権によるアフガンへの米軍増派策が、現地でのこうした厄介な流れを食い止めることに一時的には貢献できるかもしれない。だが、タリバーン勢力を打倒するための軍事・政治戦略に国民和解というアジェンダを埋め込む必要がある。和解に応じる気のあるタリバーンの信頼を勝ち取るとともに、和解を拒絶する勢力は粉砕するか、拘束しなければならない。国を占領して、武装勢力をいくら殺害し、拘束しても、彼らを粉砕することはできない。敵の中から友人にできる勢力を探しださなければならない。アフガンでは、信頼できる国民和解戦略をとるほうが、軍事力や戦場での軍事的勝利にだけこだわるやり方よりも、安定を実現できる可能性ははるかに高い。

Classic Selection 2008
グローバル化のたそがれ?
―― アジアからアメリカへの貿易の流れは停滞する

2009年8月号

マーク・レビンソン
エコノミスト 元ニューズウィーク誌経済担当ライター

グローバル化の後退を促している要因は二つある。運輸コストの上昇と国際物流への信頼性の低下だ。原油価格の高騰に加えて、これまでグローバル化を支えてきたコンテナ輸送を受け入れる港湾インフラ、国内輸送インフラが逼迫し、テロ対策、環境対策もとらざるを得ない状況にある。これらのすべてがグローバルなサプライチェーンの流通・輸送コストを引き上げている。その結果、世界の反対側にある工場から部品を調達し続けることが賢明なのかどうか、企業も疑問に感じるようになり、グローバル規模でのアウトソーシングもかつてのような魅力を失いだしている。すでに先進国市場のための製品や部品を作ってきたアジアに進出している企業はこれまでのビジネスモデルを見直し、工場から商店の棚に並ぶまでのサプライチェーンの距離を短くしようと試みている。実際、アメリカのメーカーは国内、そして、メキシコ、中央アメリカなど、米市場に近い地域へと生産拠点を移そうとするかもしれない。いまや「グローバル化の黄金時代」は終わりつつある。

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