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論文データベース(最新論文順)

民族と腐敗で引き裂かれた国家
―― ケニアの国家統合への長い道のり

2010年9月号

ジョン・ジソンゴ 元ケニア政府統治・道徳(反政治腐敗) 担当事務次官

2003年に発足したケニアのキバキ政権は、学校、道路など経済開発のハードウエアを提供することに成功したが、利権を独占し、国としての一体感や連帯というソフトウェアを育めなかった。指導者が政治腐敗にまみれているケニアは、世界的にみても、もっとも大きな経済格差に苦しみ、民族ラインで社会が分裂し、人口構成がいびつなまでに若年層に偏っている。こうした不幸な現実に対する怒りで煮えたぎっていた大釜が、2007年の大統領選挙の混迷に刺激されて、吹きこぼれ、大規模な社会暴力に国が覆われてしまった。その結果、ケニアはかつて経験したことのない国家的な危機に直面した。この事態を前に国連が介入し、いまは連立政権が曲がりなりにも存在する。だが、この連立政権は、民主主義が機能した結果ではなく、それが失敗した結果を象徴している。必要なのは、人々に国家の構成員としての一体感を植え付けることだ。「犯罪がまん延し、日常化しても、国が現在の問題に飲み込まれて内側から崩壊するようなことはない」と人々が確信できるような力強いビジョンをケニアは必要としている。

ギリシャ危機とユーロの将来
― ギリシャ危機はユーロ衰退の始まりか?

2010年9月号

ロレンゾ・ビニ・スマギ 欧州中央銀行役員

いまや専門家の多くは、ギリシャ金融危機によって、ヨーロッパの制度や単一通貨ユーロを含む、これまでの統合の試みが非常に大きなダメージを受け、今後、統合の流れが途絶える恐れさえあると考えているようだ。だが、そうした見方は時期尚早だろう。通貨同盟であるユーロを含めて、ヨーロッパはいまも統合に向けた改革の途上にある。・・・財政改革路線が経済成長を低下させるだけでなく、政治的にも経済的に持続不可能だと考える者もいるが、一方で、放漫財政を続ければ、金融市場にペナルティを課され、さらに深刻な事態に直面することを考えなければならない。厳格な財政改革を実施しなければ、さらに深刻な事態が待ち受けている。抜本的な財政改革、構造改革なしでは、危機を食い止めることはできない。・・・危機管理のための超国家的な監視・規制メカニズムについても、欧州は主権と統合の間の適切なバランスを今後見極めていくことになるだろう。

2009年秋、ドルは準備通貨の 地位を失いかけた
― 世界はドルを見捨て始めたのか?

2010年9月号

フランシス・E・ウォーノック 全米経済研究所リサーチアソシエート

ドルのダンピングがいつ起こるのかは誰にも分からない。だが、そのような事態になれば、準備通貨保有国における金利の上昇と経済成長の鈍化は避けられなくなる。2009年末には、この潜在的リスクが現実となりかねない局面があった。・・・世界のリスク・フリー資産であるはずの米国債10年物の利回りが上昇し、価格が急落したのだ。一方、世界のユーロ建て国債の購入額からユーロ圏の外国債券への投資額を引いた差額は過去最高レベルに達していた。ユーロへの資金流入に連動してドル相場が下落したために「ついに世界の投資家たちはドルとアメリカを見捨て始めた」という懸念が高まりをみせた。しかし、このタイミングで、ユーロ圏で金融危機(ギリシャ危機)が表面化し始めた。危機のおかげで、アメリカ政府は国内の市場圧力とトリフィンが予測した運命の双方から一時的に逃れることができた。しかし、ドルからの離脱という流れはよどんだだけで、消滅したわけではない。

HIV・エイズ対策優先か、
他の援助との バランスをとるか、それが問題だ

2010年9月号

プリンストン・N・ライマン 元駐ナイジェリア米国大使
スティーブン・B・ウィテルズ 米外交問題評議会(CFR)リサーチフェロー

2005年、G8はアフリカのHIV感染者全員にARV(抗レトロウイルス薬)を投与することにコミットする宣言を発表した。だが、感染者数が犠牲者数を上回る限り、ARV投与が必要になる人々の数は劇的に増えていくし、しかも、ARV投与は一生続けなければならない。これは、主にアフリカにいる数百万人のHIV感染者の生死が、財政赤字に苦しむ先進諸国、とくに米議会が援助予算を認めるかどうかに直接的に左右されるようになることを意味する。HIV対策が他の疾病や開発援助用の予算を奪い取っている部分があるだけに、優先的に扱われるHIV感染者へのアフリカでの反発が高まる危険もある。状況を整理しない限り、優れた人道主義的構想が、予期せぬ問題を招き入れる恐れがある。

Review Essay
世界的水資源不足の時代へ
―― ペットボトル飲料水は何を意味するか

2010年9月号 

ジェームズ・E・ニッカム
国際水資源協会事務局長

数多くの湖や川が消滅しつつあるし、現存する川や湖についても水質が悪化している。地下水資源も濫用や汚染のリスクにさらされている。水資源の危機はいまそこにある脅威だ。問われているのは「誰がどのように」貴重な水資源を利用するかだ。世界で消費される水の70%は農業用水として用いられており、これらが生産的に消費されることはほとんどない。一方、経済機能と人口が都市部に集中し、工業用水と生活用水の需要が増えるにつれて、水の安定供給を求める都市部からの圧力が高まりつつある。一方、河川デルタのエコシステムの維持など、環境保全のために手を付けるべきではない水資源もある。ペットボトルの見直しや処理された下水の再利用という選択肢を含めて、希少な水資源をいかにうまく管理すべきなのか。効率的水資源の管理に向いているのは市場メカニズムなのか、それとも官民の協調なのか。世界の水資源の問題は、人口動態、エネルギー、環境など世界のあらゆる問題と分かち難く結びついていること考慮して、水資源の包括的管理を考えるべきタイミングにある。

イスラエルが近くヒズボラを攻撃し、第3次レバノン戦争が起きる危険がある。ヒズボラが保有するミサイルの備蓄規模が大きくなり、その攻撃精度も高まっている。しかも、攻撃精度の高い長距離ミサイルをシリアから入手し、地対空ミサイルの能力を向上させている可能性もある。これら三つの要因が伴う戦略バランスの変化ゆえに、イスラエルは自国の安全保障が脅威にさらされていると判断するかもしれないからだ。もっとも可能性が高いのは、イスラエルが、ヒズボラの長距離ミサイルを搭載した移動用コンボイ、レバノンにあるロケットやミサイルの兵器庫を攻撃することだ。国際社会はこの現実にどう対処すべきなのか。ヒズボラのパトロンと言われるシリアとイランはどう動くのか。

対イラン制裁ではウラン濃縮を阻止できない理由

2010年9月号

ホセイン・G・アスカリ ジョージ・ワシントン大学教授

イラン経済は、政府の経済運営が根本的に間違っているために破綻途上にあるが、核開発路線を止めさせようといくら経済制裁を試みても、イランの民衆はウラン濃縮路線を支持しているし、政府の補助金政策に依存している。したがって、民衆の怒りや不満が核開発を試みる政府に向けられることはあり得ない。そもそも、経済制裁でイランを締め付けるのは無理がある。何を経済制裁の対象にしようが、世界が市場経済体制のもとにある以上、需要があれば、それを満たそうとする流れが生じるのは避けられないからだ。これまでもイランは、ウラン濃縮やミサイル開発に必要な機材を闇市場から調達してきたし、最近でも、ロシアから洗練された対空防衛システムを輸入している。・・・決定的な効果を持つ制裁とは、イランの中央銀行をターゲットにすることだ。中央銀行に対する金融制裁は、金融領域における「核兵器」並の破壊力を持っている。しかし、アメリカ政府には、そう決断する政治的意思がない。

Classic Selection 2007
ヘッジファンド悪玉説は間違っている

2010年8月号

セバスチャン・マラビー ワシントン・ポスト紙コラムニスト

ヘッジファンドのアナリストのなかで大きな成功を手にできるのは、企業や通貨の価格が本来の価値を示していないことを見抜き、さまざまな金融資産の価格の間に論理的には説明できない矛盾があることを突き止める能力を持っている人物たちだ。そのような大成功を収めるアナリストたちは、彼らだけではなく、投資家にも莫大な利益をもたらす。割安となっている資産を買い、割高となっている資産を売ることによって、市場価格の歪みが消失するまで彼らは市場価格を変動させ続ける。その結果、最終的には世界の資本の効率的な分配が実現される。ヘッジファンドが生み出すリスクと、一方でその活動がリスクを減少させることをバランスよくとらえる必要があるし、ヘッジファンドを金融システムに対する危険な火種とみなすのは適切ではない。むしろ、ヘッジファンドは金融システムが火に包まれないように配慮する消防士の役割を果たしている。

ヘッジファンドの実像とリスク管理テクニック

2010年8月号

スピーカー
セバスチャン・マラビー モーリス・R・グリーンバーグ地政経済学センター所長
司会
ジェシカ・P・エインホーン 世界銀行専務理事、 ジョンズ・ホプキンス大学ポール・H・ニィツェ・スクール学院長

「ヘッジファンドの専門家に共通しているのは、どこから手をつけて良いか分からないような膨大なデータの解析を厭わないことだ。・・・彼らはアルゴリズムに精通しており、膨大なデータからパターンを見つけ出そうとする。これが(ルネサンス・テクノロジーズの)ジム・シモンズと彼のチームがやったことだ。そうやってモデルを作り上げた結果、ジム・シモンズは年間で約20億ドルを稼ぎ出した。ジム・シモンズは普通のウォール・ストリートの金融機関に収まるような人物ではない。彼は靴下をはかないし、車に乗ればぶっ飛ばす。ランブレッタ社のスクーターでボストンからボゴタまで行くような人物だ。そして彼は、オフィス内を一輪車で動きまわるような連中を採用する。・・・・私は金融イノベーションの価値を積極的に認めている。もちろん、リスクはなくならないと思う。為替も金利も変動し、洗練された経済において大切な資本を効率的に分配するのは今後も困難な仕事だろう。だが、資本形成を望むのであれば、誰かがこのリスクを引き受けなければならない。・・・そして、リスク管理にもっとも長けているのがヘッジファンドだ」(S・マラビー)

医療ツーリズム、途上国の貧困、 先進国の医師不足の負の連鎖
―― 危機にさらされる医療大国キューバ

2010年8月号

ローリー・ギャレット 米外交問題評議会グローバルヘルス担当 シニア・フェロー

現在のキューバの医師と患者の比率は、1万人当たり59人と、世界的にみても非常に高いレベルにある。キューバは、基礎的な疾患が人々の生命を脅かすことのなくなった世界唯一の貧困国で、この領域でのキューバのパフォーマンスは他の追随を許さない。キューバは他の途上国へと医師を派遣し、いまや、医療関係者がキューバにとって最大かつ最善の「輸出品」だ。先進国からの医療ツーリズムの著名な目的地の一つでもある。チェ・ゲバラやフィデル・カストロの肖像画さえなければ、キューバの外国人用病院はヨーロッパや北米の一流クリニックとなんら変わらない。だが、問題もある。先進国との経済格差ゆえに、ひとたび対キューバ制裁や旅行規制が解除されれば、十分な手当を与えられていない有能な医師や看護婦が医師不足に悩む先進国へと一気に流出し、キューバの医療体制は崩壊の危機に直面する恐れがある。

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