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論文データベース(最新論文順)

赤字と債務がアメリカのソフトパワーを脅かす
―― アメリカがギリシャ化するのを避けるには

2010年11月号

ロジャー・アルトマン
元米財務副長官
リチャード・ハース
米外交問題評議会会長

アメリカの対GDP比債務残高は2015年には100%に達する恐れがある。これは、アメリカの債務が現在のギリシャやイタリアと同じ債務レベルになることを意味する。政府が赤字・債務削減プログラムを導入しない限り、金融市場にペナルティを課されるのは避けられなくなる。現状を放置すれば、緊縮財政を余儀なくされ、国防予算も削減対象にされる。アメリカの市場経済資本主義モデルの魅力も廃れ、中国流の権威主義経済モデルがますます大きな注目を集め、世界はますます無極化していく。アメリカ人の生活レベルだけでなく、アメリカの外交、対外路線、今後の国際関係にも非常に深刻な悪影響が出る。こうした甚大な帰結を回避するには、まず、財政上の歳入と支出のバランスをとってプライマリーバランスを図る必要がある。アメリカ市民と人々が選んだ議員たちが、この国の借り入れ中毒問題の解決を先送りし続ければ、アメリカは非常に大きな危険にさらされることになる。

CFRミーティング
短期的回復と持続的成長のバランスをどこに求めるか
 ――景気刺激策と財政赤字の間

2010年11月号

スピーカー
ヤコブ・A・フレンケル JPモルガン・チェース・インターナショナル会長
ステフェン・S・ローチ モルガン・スタンレー・アジア会長
司会
セバスチャン・マラビー CFR地政経済学研究センター所長

いま景気刺激策をやめてしまえば景気はますます悪くなるが、さらに刺激策を実施すれば政府債務の問題はさらに悪化してしまう。この問題を扱うには2つの側面での精密さが要求される。バランス(構成)とタイミングだ。・・・景気対策が期待していたほど効果を発揮しないのは、対策が終了した後の経済成長を支えるような環境整備が(政治的に)放置されることが多いからだ。(Y・フレンケル)<br>

「さらに数千億ドルの財政出動をします。出口戦略については後から考えます」では、あまりにも分別がなさすぎる。日本のように低成長が続き、現在すでに積み上がっている財政赤字を均衡へと向かわせるような税収増を期待できなくなれば、どうしようもなくなる。(S・ローチ)

トルコは脱ケマリストの時代へ?

2010年10月号

スティーブン・クック CFR中東担当シニア・フェロー

9月中旬に実施された憲法改正をめぐるトルコの国民投票で、イスラム系の公正発展党(AKP)が示した憲法改正案を市民は支持したが、これは何を意味するのか。1992年にAKPが権力を握り、議会の多数派になると、世俗派が反対するような法案を数多く法制化してきた。こうして野党勢力は世俗派が中枢を握る司法の場で決着を付けようと試み、その結果、AKPが成立させた法案のほとんどに違憲判決が下された。AKPが憲法改正を通じて司法改革に乗り出したのはこうした理由からだ。今回の国民投票に続いて、AKPとエルドアンが次の総選挙でも勝利を収め、議会の多数派としての地位を確保すれば、彼らがかねて望んでいたように、新憲法を導入する機会に恵まれるだろう。ここで認識しておくべき重要なポイントは、こうした変化がイスラムへの回帰というよりも、大きな力を持ち始めているイスラムの中産階級の立場を反映していることだ。むしろ問うべきは、これによってトルコの民主主義の質が高まるかどうかだろう。

聞き手はバーナード・ガーズマン(www.cfr.orgのコンサルティング・エディター)

トルコのイスラム政党であるAKPの台頭は、その大義が訴求力を持っているからというよりも、トルコ社会の変化をくみ取ることに成功した結果だ。1980年の市場経済革命のおかげで、トルコにはイスラムの中産階級、起業家階級が誕生しており、いまや、数においても経済における重要性においても、世俗派の旧エリート層を圧倒している。AKPの近代化路線の支持基盤を支えているのが、まさにこのイスラムの中産階級で、彼らのビジョンが今後のトルコの路線を形作っていくことになる。トルコが欧米に貢献できるとすれば、その最大のポイントは、イスラム、民主主義、資本主義を統合できる立場にあることだ。中東およびその周辺地域の流れを巧みに仕切れるような歴史的、文化的なツールを持っていないアメリカにとって、世俗化ではなく、近代化を求める現在のトルコは重要な存在だし、新しい親友になれるだろう。

欧米とアジアの相互依存は成立するか
―― 中国、インド、欧米の相互作用とアジアの未来

2010年10月号

サイモン・タイ シンガポール国際問題研究所(SIIA)理事長

中国とインドを中心とするアジア経済は、このままめざましい成長を続け、欧米世界からは距離をおくようになるのか、それとも、依然としてアジアは欧米を必要としているのか。経済・金融危機が起きるまでは、アジア経済の統合が進めば、アメリカの消費者に頼らずとも、アジア経済は成長を維持できるという立場の「ディカップル論」に合理的な根拠があるようにも思えた。しかし、危機が深刻化するにつれて、アジア経済と欧米経済のディカップルなどあり得ないことが明らかになっていく。アメリカの需要が急速に落ち込むと、アジア全体、特に中国の生産がすぐさま打撃を受けた。だが、アメリカ市場への依存を抑えようとするアジアの取り組みも始まっている。内需を高め、アジアの貯蓄を米国債の購入にばかりあてずにアジアにとどまるようにするための、新しい金融メカニズムの構築が試みられている。流れはどちらへと向かうのか。そして、地域的、そして世界的に経済モデルとして注目されるのは中国経済、インド経済のどちらなのか。

中国の真意はどこに
――人民元、南シナ海、領有権論争

2010年10月号

S・デュナウェイ CFR(国際経済担当)シニアフェロー
E・フェイゲンバーム CFR(東アジア・中央アジア・南アジア担当)シニアフェロー
E・エコノミー CFRアジア研究部長
J・クランジック CFR(東南アジア担当)フェロー
A・シーガル (国家安全保障・対テロ担当)シニアフェロー

人民元の切り上げを一時的に容認しつつも、中国は、それがまるでルールであるかのように、あるいは、アメリカの決意を試すかのように、7月と8月には人民元価格を再び固定(ドルにペグ)させた。今回についても、中国が為替政策を永続的に変化させるかどうかは今後をみなければ分からない(S・デュナウェイ)

領有権問題に限らず、中国外交は他のいかなるものよりも主権を優先させる。だが国際社会の責任ある利害共有者であれば、主権とそうした主権の主張が関わってくる国際公共財を明確に区別することはできないはずだ。(E・フェイゲンバーム)

二国間関係の上昇局面と下降局面の急激な変化サイクルを永続的に繰り返す。これが新しい関係の形なのかもしれない。少なくとも、アメリカも中国も関係が制御不能に陥っていくことは望んでいない。米中が合意できるのはこれだけかもしれないが、当面は、これで満足するしかないだろう(E・エコノミー)

中国は領有権論争のある南シナ海(のパラセル諸島、スプラトリー諸島)をめぐって東南アジア諸国と対立したのに続いて、今度は東シナ海をめぐって日本とも対立した。この数ヶ月で中国は10年をかけて育んできた近隣諸国における中国への好感情を一気に破壊するような行動をとっている。一体中国は何を考えているのか。(J・クランジック)

現在の流れは2012年の中国に新指導層が誕生することと密接に関連している。将来の指導者たちは、他の世界に対して中国が毅然と接していくことを示すことで、自分たちの立場を示しておきたいと考えている。(A・シーガル)

より現実をうまく反映できるように世界秩序を再編し、グローバルな統治構造の中枢に新興大国を迎え入れる必要がある。こうみなす点では世界的なコンセンサスが形作られつつある。経済的には必然の流れかもしれない。だが、それは世界の人権と民主主義にとって本当にいいことだろうか。金融や貿易領域では、新興大国がグローバルな交渉に参加するのは当然だろう。しかし今のところ、人権や民主主義をめぐる新興国の政治的価値は、国際社会の主要なプレーヤーおよびそのパートナーが信じてきた価値とはあまりにもかけ離れており、世界の統治評議会を構成する国際機関の中枢に新興大国を参加させるのは考えものだ。新興大国は世界で有意義な役割を果たすのに必要な条件、つまり、内外の市民社会の声に耳を傾け、民主的統治を受け入れるつもりがあるのか、もっと真剣に考えるべきだし、既存の大国の側も、そのような新興大国をあえて仲間に迎え入れることを本当に望むのか、もう一度考えるべきだろう。

ペンタゴンの新サイバー戦略
―― なぜアメリカはサイバー軍を立ち上げたか

2010年10月号

ウィリアム・J・リン三世 米国防副長官

いまやアメリカ政府のデジタル・インフラは、あらゆる敵対勢力に対する圧倒的な優位を確立している。だが、その優位がコンピュータ・ネットワークに依存しているために、一方で脆弱性からも逃れられない。相手に攻撃の意図さえあれば、わずか数十人のコンピュータ・プログラマー集団でも、アメリカのグローバルな後方支援ネットワークに脅威を与え、作戦計画を盗み出し、情報収集能力を攪乱し、兵器の輸送を妨害できる。このポテンシャルを理解している諸外国の軍部はサイバースペースでの攻撃能力を整備しており、100を越える外国情報機関がアメリカのネットワークへの侵入を試みている。なかにはアメリカの情報インフラの一部を混乱させる能力をすでに獲得している外国政府機関もある。・・・アメリカは新たにサイバー軍を創設し、各軍を横断的に網羅するサイバー防衛作戦を立ち上げ、・・・国土安全保障省と協同で政府ネットワークと重要インフラの防衛体制を構築していく。これは、友好関係にある同盟国とも連携してサイバー防衛体制を国際的に広げていく構想だ。

ロシアの「内なる外国」北カフカスの混迷
―― 終わりなきロシアの内戦

2010年10月号

チャールズ・キング ジョージタウン大学教授(国際関係論)
ラジャン・メノン リーハイ大学教授(国際関係論)

ロシアにおける政治暴力の震源地帯、北カフカス。この地域の混迷にどう対処していくべきか、モスクワは頭を悩ませている。攻撃と報復の連鎖が止まないのは、この地域に流れ込んでいるイスラム過激派のせいなのか、ナショナリズムの高揚が過激な行動を誘発しているのか、それとも、北カフカスの人々がロシアに対して抱く反発が原因なのか。だが、北カフカスをめぐる問題の中枢は、ロシア連邦内でのこの地域の共和国の位置づけられ方にある。北カフカスにおけるテロを一定レベルに抑え込もうとしつつも、モスクワは、この地域で治安と安定を確立できなくても、ロシア人の多くが惨劇に巻き込まれなければ、政治的ダメージは最低限に抑え込めると計算している。現地の展開は現地に委ね、ロシアの有権者がカフカス問題を忘れてくれることを願うこと。これが、モスクワの現在の戦略だ。ロシア政府が現地に代理人、総督を送り込み、力による秩序維持路線をとり続ける限り、この地域は、ツァーリ時代のような「厄介でエキゾチックな帝国の周辺地域」へと回帰していくことになる。

CFRミーティング
財政赤字へのリスク認識が変化しない限り、資金は動かない
――アラン・グリーンスパンとの対話

2010年10月号

スピーカー
アラン・グリーンスパン 前FRB議長
プレサイダー
モティマー・ザッカーマン U・S・ニュース&ワールドリポート理事長

雇用は伸びていないが、企業収益は大幅に改善している。これは生産性の上昇によって単位あたり生産コストが減少していることで説明できる。だが、それが、固定資産投資へとつながっていない。私の試算では4000億ドルの投資が手控えられている。・・・・中央銀行が大規模な資金を金融システムに注入するが、そこから資金が動こうとしない。ケインズは、1936年にこの現象を「流動性の罠」という言葉で表現した。この現象は、アメリカだけでなく、他の先進国にも共通してみられる。リスクに対する心理や姿勢が変化しない限り、資金は動かないだろう。・・・大規模な財政赤字が資本投資をクラウドアウトしている。財政赤字の規模が、資本投資のレベル、特に、固定投資、非流動性資産への投資を左右している(抑え込んでいる)。・・・・日本問題も考えなければならない。いずれ、経常黒字は赤字へと転じ、日本は国際市場から資金を調達しなければならなくなる。・・・

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