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論文データベース(最新論文順)

誇張された大国、中国の実像
―― 持続的成長はあり得ない

2011年10月号

サルバトーレ・バボネス
シドニー大学上級講師(社会学・社会政策)

「これまでのようなパフォーマンスは期待できないが、中国経済が成長軌道から外れることはない」。多くのエコノミストはこう考えている。だが、状況は変化し、何かがうまくいかなくなるものだ。経済が成長するにつれて、中国がアジアや世界政治においてより大きな役割を担っていくのは間違いない。しかし、おそらくはそう遠くない将来に、中国の成長率もスローダウンし、かつて高成長を遂げた諸国同様に、成長率は低下していく。当然、アジアでも、世界においても中国が支配的優位を確立することなどあり得ない。専門家は、世界が中国語を学ばなければならないような「アメリカ後の世界」に思いをめぐらすことに興じている。だが、現実的に考えて、21世紀にそのようなことが起こるはずはない。いまや、巨大ながらも普通の国として中国に接し始めるタイミングだろう。「中国は重要な国だが、それほどパワフルなグローバルプレイヤーではない」

経済覇権はアメリカから中国へ
――21世紀に再現されるスエズ危機

2011年10月号

アルビンド・サブラマニアン
ピーターソン国際経済研究所
シニアフェロー

1956年、アメリカはイギリスに対して「スエズ運河から撤退しない限り、金融支援を停止する」と迫り、イギリスはこれに屈して兵を引いた。ここにイギリスの覇権は完全に潰えた。当時のイギリス首相で「最後の、屈辱的な局面」の指揮をとったハロルド・マクミランは後に、「200年もすれば、あの時、われわれがどう感じたかをアメリカも思い知ることになるだろう」と語った。その日が、近い将来やってくるかもしれない。スエズ危機当時のイギリスは交渉上非常に弱い立場にあった。債務を抱え込み、経済が弱体化していただけでなく、そこに新たな経済パワーが台頭していた。現在のアメリカも同じだ。米経済は構造的な弱点を抱え込み、目に余る借金体質ゆえに外国からのファイナンスに依存せざるを得ない状況にあり、成長の見込みは乏しい。そして、侮れない経済ライバルも台頭している。マクミランが予測したよりも早く、そして現在人々が考えるよりも早く、アメリカは覇権の衰退という現実に直面することになるだろう。

エジプトの民主化を左右する軍最高評議会

2011年10月号

ジェフ・マルティニ
ランド研究所プロジェクト・アソシエート
ジュリー・テイラー
ランド研究所ポリティカル・サイエンティスト

エジプト軍が「革命には介入しない」と宣言し、ムバラクを辞任に追い込んだことは、多くのエジプト人を驚かせた。だがこれは、軍高官たちが、軍の経済利益を軽視するようになったムバラク体制への反発を強め、息子による権力継承の可能性に危機感を募らせていたからだ。ポスト・ムバラクのエジプトで現在統治を担っている軍最高評議会は、社会の安定だけでなく、軍の特権的地位も守っていくことをすでに決意している。軍は選挙で選ばれた新政府に権限を移譲したいと望んでいるが、その意図は民主主義を実現することよりも、新体制においても自分たちの特権を維持していくことにある。将軍たちの目的は、真に開放的な代議政治ではなく、軍が外交・安保政策で最終的決定権を持ち、文民統制を回避することにあるようだ。

米のバランスシートリセション、
欧州の債務危機、そして新興国経済
――ワールド・エコノミック・アップデート

2011年10月号

ルイス・アレキサンダー
前財務長官顧問、前シティグループ チーフエコノミスト
ブルース・C・カスマン
JPモルガン チーフエコノミスト
スティーブン・S・ローチ
モルガンスタンレー・アジア 非常勤会長

アメリカは、日本流のバランスシート・リセッションに陥っており、このプロセスは当面続くと考えられる。二番底に陥る危険は、一般に考えられている以上に大きい。・・・中国はイタリアやヨーロッパ経済を支援する用意があると示唆している。だが、ここにおけるリスクは中国が現状を流動性の危機であって、ソルベンシー(支払能力)の危機とはみていないことだ。(S・ローチ)
EMUを一つに束ねていくつもりなら、ECBは債務を買い取るともに、ユーロの銀行システムを支えるために資金を投入しなければならない。これらの措置をとったとしても、危機を封じ込められるかどうかわからない。・・・ギリシャへの追加支援が認められたのは、ギリシャ国内で政治的立場をまとめるのに3-6カ月はかかると判断されたからにすぎない。(B・カスマン)

(一年後)ギリシャがユーロ圏に残っている可能性は高いと思う。国債の再構成を経たギリシャが依然としてユーロのメンバーであるという未来を想像するのはそれほど難しくはない。だが、そのためには、ギリシャ国債を引き受けているヨーロッパの銀行への支援のメカニズムが必要になる。(L・アレキサンダー)

次なる核のメルトダウンを防ぐには
―― 福島原発事故の教訓

2011年4月号

ビクター・ジリンスキー  元米原子力規制委員会委員長(物理学者)

核燃料を入れるジルコニウム管が高熱の蒸気に触れると水素が放出され、これが空気に触れて爆発が起き、その結果、原子炉を取り巻く格納施設が破壊された。(福島原発では)放熱が進むにつれて、少なくとも、原子炉内の核燃料の一部が溶融し、メルトダウンを起こした可能性が高い。これによって放射性物質が拡散し、その一部は格納施設の損壊部分から大気へと拡散した。どの程度のメルトダウンが起きているかは、原子炉内の放射線量が原子炉を開けても問題がない程度まで放射性崩壊が進んだ数年後に、実際に原子炉を開けてみるまではわからない。福島第一原発の原子炉がどのような状態にあるかは、状況がさらに悪化しないと仮定しても、今後、数年間はわからないままだろう。

メルトダウンの文化的背景
―― 閉鎖的原子力文化とチェルノブイリ事故
(1993年発表論文)

2011年9月号

セルゲイ・P・カピッツァ モスクワ物理工科大学

山登りであれ、原子力工学であれ、危険を伴う行動の安全性を左右するのは人的ファクターだ。原子力施設の概念構築、設計、建設、稼働に至るまで、それに携わる人間の姿勢を考慮に入れなければならない。だが、安全の絶対的な前提であるプロフェッショナリズムの文化が、全般的にも技術領域においても、ソビエトの原子力産業には欠落していた。安全に関する指令や手続きは存在したが、ソビエトの原子力プログラムでは、この人的な側面における安全基準が満たされていなかった。これが、チェルノブイリ事故の文化的背景だった。

ノルウェーのイスラム教徒 ―― 脅かされるイスラム教徒と多文化主義

2011年9月号

ショアイブ・サルタン 前ノルウェーイスラム評議会事務局長

イスラム・コミュニティのノルウェー国内における成長がノルウェー社会の緊張を高めていた。近年では、男児の割礼、イスラムの教えに従った食肉処理、女性がまとうヒジャブなど、イスラムの伝統と習慣が国内で実践されていることに対する懸念と反発が高まっていた。ノルウェー人にとって異質な、これらイスラム的習慣に対する懸念と反発に右派政党は目を付け、「ノルウェーの生活様式がイスラムによって浸食されている」と主張し、社会を反イスラムへと扇動した。しかも、イスラム批判は、次第にノルウェーの多文化主義批判へと姿を変えていった。この社会環境のなかで起きたのが、アンネシュ・ブレイビクが決行した反イスラムテロだった。・・・

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