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論文データベース(最新論文順)

中国の対外強硬路線の国内的起源
―― 高揚する自意識とナショナリズム

2011年4月号

トーマス・クリステンセン
プリンストン大学教授

民衆レベルでの大国意識が定着し、ナショナリズムが高まる一方で、国内の不安定化が予想される。このため、中国政府は世論動向に非常に神経質になっている。民衆の声を北京のエリートたちが無視できた時代はすでに終わっている。政府は、長期的な政府の正統性と社会的安定をいかに維持していくかをもっとも気に懸けており、党指導層は、ナショナリスト的立場からの政府批判をもっとも警戒している。しかも、軍、国有エネルギー企業、主要輸出企業、地方の党エリートなど、国際社会との協調路線をとれば、自分たちの利益が損なわれる集団が中国の外交政策への影響力を持ち始めている。これが、中国がソフト路線から強硬な対外路線へと舵を切った大きな理由だ。中国での権力継承が完了する2012年までは、中国国内における政治、心理要因ゆえに、中国の対外路線をめぐって状況を楽観できる状態にはない。

9カ月後、日本経済は復活する
―― 再建コストで債券市場がパニックに陥ることはない

2011年4月号

セバスチャン・マラビー 米外交問題評議会地勢経済学センター所長

日本政府は復興・再建コストを負担しなければならず、これが、すでに先進国のなかでは最大の対GDP比債務を抱える日本経済に重くのしかかると懸念する専門家もいる。だが、冷静に考えるべきだ。復興・再建にどのくらいのコストがかかるだろうか。ざっくりとしたところで言えば、1000億ドル程度だろう。・・・たしかに、1000億ドルと言えば、かなりの金額だが、ほぼ10兆ドル規模の日本の債務総額からみれば、たいした数字ではない。債務総額が1%増えるだけだ。・・・・金融市場に流動性を提供する必要があるし、必要以上の円高には対抗策をとるべきだ。被災地域の再建のために、財政赤字をさらに大きくすることを躊躇すべきではない。いまは、慎重で保守的な路線ではなく、大胆な対策をとるべきタイミングだ。私は、日本政府は間違いなく大胆な措置をとると信じている。

第3の石油ショックか
―― 中東の政治的混乱と原油価格高騰

2011年4月号

エドワード・モース 元国務副次官補(国際エネルギー担当)

「石油の呪縛」として知られる社会・政治構造が引き起こす産油国の絶望的な経済・社会的な停滞が、現在中東各地で起きている政治的混乱の背景にある。人々は、高い失業率、極端な所得格差、(食糧価格など)高い生活コスト、そして老人支配政治と泥棒政治などに対して怒りを表明している。つまり、産油国が「石油の呪縛」を断ち切るために、経済を多角化していかない限り、政治的争乱の原因である社会不満は解消しない。さらに、産油国国内における石油の消費も増大している。その結果、中東石油に依存する消費国は厄介な先行き見込みに直面している。現在の政治的混乱による供給の乱れだけでなく、産油国の国内消費の増大による供給の乱れを織り込まざるを得なくなっている。2011年は1971年同様に、石油をめぐる地政学の分水嶺の年になるかもしれない。

 2011年3月に東日本を巨大地震とツナミが襲った後、福島第一原子力発電所で事故が起き、再び原子炉の安全性に対する懸念が世界的に高まりつつある。スリーマイルやチェルノブイリでの原発事故以降、原子力産業はこの数十年にわたって衰退してきたが、ここにきて流れは大きく変わり、世界各地で原子炉の建設が進められている。だが、原子力発電の可能性に世界が注目するなかで起きた今回の事故によって、今後、原子力発電計画は厳格な再検証の対象とされていくだろう。問題は原発事故のリスクだけではない。建設コストが非常に高い上に、原子力の技術者の数も不足している。核廃棄物、そして核拡散リスクの問題もある。二酸化炭素を排出せずに電力生産ができるというプラスの側面と、これらのリスクをどう比較考量するか。2011年3月の「憂慮する科学者連盟(UCS)」の報告によれば、2010年だけでも、原発施設スタッフの訓練不足、間違った管理態勢、問題のある設計、そして問題を徹底的に調べる姿勢が欠けていたために、アメリカ国内で原発施設事故を引き起こしかねない14の「ニアミス」が起きている。

CFRミーティング
緊縮財政か、金融市場によるペナルティか
――2013年からの赤字削減に備えよ

2011年3月号

◎スピーカー
ロジャー・C・アルトマン/元米財務副長官
マイケル・マンデルバーム/ジョンズ・ホプキンス大学政治学教授
ジョージ・ステファノポロス/クリントン政権大統領補佐官
◎司会
スリチャード・N・ハース/米外交問題評議会会長

このままでは、アメリカもあと9年で現在のイタリアやギリシャと同じ債務レベルに到達する。米国債も大幅に格下げされる危険がある。2012年までは、経済成長を促すあらゆる政策を重点的にとるべきだが、2013年までに、大規模な財政赤字削減計画のインパクトに持ちこたえられるように経済を回復させておく必要がある。(R・アルトマン)
これから2年間のうちに議会選挙、大統領選挙が実施される。その間に金融市場から強制されない限り、議会とホワイトハウスが財政赤字の問題に自主的に取り組むとは考えにくい。(G・ステファノポロス)
人々が政府により多くの税金を支払うのに、政府によるサービスは少なくなる。この環境では、政府がこれまで同様に外交政策に資金を投入することに有権者はいい顔をしなくなる。・・・アメリカの世界での役割が国内的に疑問視され制約されるようになると、アメリカの利益だけでなく世界の平和と繁栄が危険にさらされる。これは非常に大きな問題だ。(M・マンデルバーム)

グローバル貿易の不均衡が続けば、金融と政治を不安定化させ、長期的には通貨戦争を含む非常に危険な状況に遭遇する。そして、各国が国内経済戦略を大幅に変化させない限り、こうした不均衡はなくならない。通貨をめぐる最近の緊張は、各国が長期的にとってきた国内経済政策が重層的にもたらした持続不能な貿易不均衡に派生している。そして、不均衡を是正していくには、国際合意を通じてではなく、各国が長期的利益を重視した国内経済戦略へと独自の判断でシフトしていく必要がある。途上国経済にとって必要なのは、先進国への依存度を引き下げ、もっと支出を増やすことだ。一方、アメリカのような先進国は、消費を減らしつつ、生産を強化し、輸出を増やす必要がある。国際的な資本の流れをより穏やかで、リスクを常に意識したものへと変化させるための規制の見直しも必要だ。一方、各国が改革を嫌がり、過去に成功をもたらした経済戦略に政治的に固執し続ければ、1930年代の悪夢に再び直面することになるかもしれない。

大国ブラジルのアジェンダ

2011年3月号

ジュリア・E・スウェイグ
米外交問題評議会(CFR)
中南米担当シニア・フェロー

流血の惨事を起こすことも他国を侵略することもなく、ブラジルは多民族・多人種の民主国家を作り上げ、力強い市場経済を定着させた。何百万人もの貧困層を中産階級層に引き上げることにも成功した。いまや、ブラジルは大国の仲間入りをし、大国として振る舞う資格があると考えている。すでに、国連安全保障理事会の常任理事国入りを希望すると表明し、途上国の連帯を組織し、最近も世界銀行や国際通貨基金(IMF)における議決権拡大を模索している。だが、ルセフ新大統領にとっての最大の課題とは、国際的な地位の確立を模索していくことと、格差の是正、教育の強化、犯罪の撲滅などの野心的な国内アジェンダへの取り組みとのバランスをどのようにとっていくかにある。

イラン核武装の脅威と封じ込めの限界
―― イラン、イスラエル、サウジによる核秩序の危うさ

2011年3月号

エリック・S・イーデルマン 前米国防次官
アンドリュー・F・クレピネビッチ 戦略予算評価センター(CSBA)会長
エバン・ブラデン・モントゴメリー CSBAリサーチフェロー

イランが核開発に成功した場合に、短期的にもっとも心配しなければならないのは、イランとイスラエルの対立が激化し、両国がともに相手に対する核の先制攻撃を試みる危険があることだ。長期的には、サウジその他の中東諸国が独自の核開発を模索するようになり、核の軍拡レースが生じ、地域秩序を大きく不安定化させるかもしれない。この場合、中東にはイラン、イスラエル、サウジという三つの核保有国が誕生する可能性が高く、この複雑で不安定な核秩序のなかで、イラン封じ込めを成功させるのは容易ではない。現状で必要なのは、外交努力を強制力で支え、拡大抑止レジームの基盤を築き、軍事キャンペーンが最後に残された妥当な選択肢となった状況でそれを選択できるように、中東に展開する空軍力と海軍力を増強しておくことだ。

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