1994年以降に発表された邦訳論文を検索できます。

論文データベース(最新論文順)

アジアは多極化し、中国の覇権は実現しない

2010年12月号

キショール・マブバニ シンガポール国立大学行政大学院院長

アジアの国際環境は多極化していく。中国が台頭しているとはいえ、誰もがアメリカがアジアでの強固なプレゼンスを維持していくことを願っているし、インドもパワーをつけて台頭しているからだ。この環境では、中国は地政学的に非常に慎重な行動をとらざるを得ない。中国にとっての悪夢のシナリオは、あまりに高圧的な路線をとって反発を買い、アメリカ、日本、ロシア、インド、さらにはベトナム、オーストラリアを結束させてしまうことだ。当然、中国はこの悪夢のシナリオが現実と化すのを避けようとするだろうし、自国の行動をもっと慎重に考えるようになると思う。誰もが唯一の超大国として中国が台頭してくるのではないかと心配しているが、私はそうはならないと考えている。(K・マブバニ)

CFRインタビュー
コレラ流行はパンデミック化している

2010年12月号

ローリー・ギャレット / 米外交問題評議会グローバルヘルス担当シニア・フェロー

大地震が発生してまだ一年も経ってないハイチでコレラが発生し、感染が大きな広がりをみせている。汚染された水によって人間に感染するコレラは、適切な水分補給と抗生物質投与によって治療できる感染症だが、ハイチがこれまでも水道と公衆衛生インフラをうまく整備できていなかったこと、そして地震後のインフラ再建が遅れていることが災いして、問題がさらに深刻になっている。コレラが発生した場所に適切な公衆衛生、清潔な飲料水供給システムがなければ、感染は瞬く間に広がっていく。ハイチだけでなく、ナイジェリアでも、パキスタンでも同じタイプのコレラが流行している。「実際には、これはパンデミックだ」とギャレットは言う。今回のコレラ発生は、世界各地で実施されている平和維持活動、危機地域を移動する人道支援活動にとっての新たな課題を浮上させている。平和維持活動、人道支援活動が実施されるのは、往々にしてそうした公衆衛生インフラが存在しない地域だからだ。聞き手は、デボラ・ジェローム (Deputy Editor, CFR.org)

CFRインタビュー
P・ムシャラフが語る政界復帰

2010年12月号

スピーカー
パルベーズ・ムシャラフ 前パキスタン大統領
プレイサイダー
デボラ・S・アモス ナショナル・パブリック・ラジオ、外報コレスポンデント

パキスタンの民衆は現在の政府に大きな不満を持っている。そして、現在のパキスタン政府はすでに気力を失っている。現在のパキスタンが破綻国家同然の状態に陥っているため・・・かつて同様に、軍部に立ち上がることを求める人々もいる。だが、私は政権の打倒と移行は、あくまで平和的で憲法を踏まえたものでなければならないと考えている。そこに、軍部の役割はない。・・・私は政治家だ。新しい政党も立ち上げた。私の帰国を促す大量のメッセージを受けとっている。・・・この8カ月間でフェースブックのフォロワーは35万に達した。帰国すれば、かなりの支持を得られると思う。リスクはあるが、私はこのチャンスに賭けようと思っている。(P・ムシャラフ)

ロシアの政治・経済を支配するシロヴィキの実態
―― 連邦保安庁というロシアの新エリート層

2010年12月号

アンドレイ・ソルダトフ Agenture.Ruの共同設立者
アイリーナ・ボローガン Agenture.Ruの共同設立者

ソビエト時代の国家保安委員会(KGB)は非常に大きな力を持つ組織だったが、それでも政治体制の枠内に置かれ、共産党がKGBをあらゆるレベルで監視していた。だが、KGBとは違って、今日のFSB(連邦保安庁)は、外からの監督も干渉も受けない。プーチン時代に入ってから2年後には、FSBはソビエト時代のKGBよりもパワフルで恐れられる存在となり、政治、外交、経済領域での大きな権限から利益を引き出していた。これは、かつてのKGBのオフィサーだったプーチンが、信頼できるのはFSBだけだと考え、この10年間で、国家機関、国営企業の数多くの要職にFSBの人材を任命した結果だった。メドベージェフ大統領が本気でロシアを近代国家に作り替えるつもりなら、まったく制御されていないFSBではなく、国の安全の擁護者を新たに作り上げる必要がある。

軍事力を例外とすれば、今後、アメリカの文化も経済も21世紀初頭のようなパワーを失い、世界的な優位を保つことはないだろう。そして、今後の国家間政治においてもっとも重要な要因は、アジアが世界舞台への復活を続けていることだ。だが、中国がアメリカをアジアから締め出せるはずはない。アメリカが古代ローマのように内側から朽ち果てていったり、中国を含む国家に取って代わられたりすることはあり得ない。アメリカにとって重要なのは、移民への開放性を維持し、国内の中・高等教育を改革し、債務問題への対策をとり、制度と価値の多くを共有するヨーロッパ、日本との連帯を強化していくことだ。21世紀のスマートパワーのストーリーは、パワーを最大化することでも、覇権を維持することでもない。それは、パワーが拡散し、その他が台頭する環境のなかで、いかに自国のパワーリソースを優れた戦略に結びつけるか、その方法を見いだすことだ。

インターネットは自由も統制も促進する
――政治的諸刃の剣としてのインターネット

2010年12月号

イアン・ブレマー
ユーラシア・グループ代表

インターネットテクノロジーはメガホンであり、拡散機能を持っているが、この機能は、国境を越えた情報拡散の促進を望む人々だけでなく、この流れを遮断し、悪用する人々も利用できる。メディアとしてのインターネットが、民主主義を求める声を増幅させるのは、すでに、民主主義への希求が存在する場所においてだけだ。一方、権威主義国家は、彼らにとって好ましくない情報の自由な流れをブロックするために、そして、政府の立場や考えを拡散するために、情報テクノロジーを利用している。最終的には、世界のあらゆるインターネットがさまざまな政府による詳細な監視の対象にされるようになるだろう。事実、欧米のハイテク通信企業は、いまや自らを軍需企業のように考えだしている。インターネットが消失することはない。だが欧米諸国が使用し、一方で、権威主義国家の意向を満たすような一つのインターネットが存在すると考えるのは現実的ではないだろう。

インターネットと相互接続権力の台頭

2010年12月号

エリック・シュミット グーグル最高経営責任者
ジャレッド・コーエン グーグル・アイデアズ・ディレクター

インターネットの登場で、政府の力を弱め、市民の力を強めるバーチャル・コミュニティー(相互接続権力)が誕生し、人々を結びつけるコネクションテクノロジーが、世界各国の社会を変化させている。だが、この流れは、世界中の民衆と政府に困難な新課題を突きつけることになる。低開発社会ではよりオープンで透明性の高い社会を実現するように求める民衆の圧力が作りだされ、政治的緊張を高めるだろう。一方で政府も反政府勢力を封じ込める新たな技術ツールを手に入れることになり、より閉鎖的で抑圧的な社会が出現するかもしれない。民主国家政府はこの機会を見逃さずに連帯する義務があるし、変革をもたらす原動力である企業や非政府組織をプレイヤーとして尊重しなければならない。パワーを分かち合う新時代では、政府といえども、自分だけでは物事をすすめていくことはできないのだから。

アフリカの農業革命が世界の食糧危機を救う

2010年12月号

ロジャー・サロー シカゴ国際問題評議会シニアフェロー

現在、地球上のすべての人に提供できるだけの食糧が生産されているが、それでも10億人が飢えている。世界の食糧流通システムに欠陥があるからだ。しかも、需要は増大し続けている。現状で、人口増大分の需要を満たすとともに、食糧を手にできず、空腹に苦しむ人々に食糧を行き渡らせるには、世界の食糧生産を70~100%増やす必要がある。果たして食糧生産の拡大、流通の改善は世界のどこで可能なのか。その答えは、これまで世界からの食糧支援に依存してきたアフリカだ。事実、農業生産に残された最後のフロンティアとして、アフリカに大きな注目が集まっている。これからの数十年間に世界の食糧生産を大幅に増やし、貧困国の飢えを削減しつつ、新興国の需要の高まりを満たしていくための鍵を握るのが、アフリカでの緑の革命だ。

金融危機後の「ヨーロッパ」は分裂し、 内向きになっていく

2010年11月号

スチュワート・パトリック 米外交問題評議会シニア・フェロー

ユーロ圏の金融危機によって、ヨーロッパの統合プロジェクトは大きな試練にさらされている。(ギリシャを含む)一部のヨーロッパ経済がグローバル化、福祉国家の重荷に関連して経済的に困難な状況に直面するようになるにつれて、欧州統合という概念への人々の思いは複雑なものへと変化しつつある。ヨーロッパは内向きになっている。加盟各国は国内問題に専念するようになり、今後、EUが世界レベルでハードパワーとソフトパワーを行使する能力も制約されてくる。CFRのスチュアート・パトリックは、今後のヨーロッパでは、「国家間関係が重視されるようになり、大きな外交問題に遭遇した場合でも、欧州委員会や欧州議会よりも、ドイツのメルケル首相とフランスのサルコジ大統領が各国の指導者たちと協議する形でリーダーシップを発揮することになる」と予測する。EUが解体することはないとしても、「ユーロを導入してユーロ圏を形成し、分かちがたく結びついている諸国」、そしてイギリスその他のように「ユーロには参加せずに、自国のペースで懸案に取り組んでいる諸国」の二つの集団へとヨーロッパは次第に分かれていくだろうと同氏はコメントした。聞き手はRoya Wolverson, Staff Writer, cfr.org

中東の新しい地図に応じた路線を
―― 激変した中東秩序を和平への追い風にするには

2010年11月号

ロバート・マレー 国際危機グループ(ICG) 北アフリカプログラム・ディレクター
ピーター・ハーリング ICGイラク・レバノン・ シリアプロジェクト責任者

中東情勢は急速に進化している。各プレイヤーの思惑も変わり、複雑な絡み合いをみせている。サウジがハマスとの対話を再開し、シリアとの関係を改善させ、一方のシリアはテヘランとの安全保障関係を強化しつつも、テヘランのイラクに対する干渉路線には反対している。アメリカは、この複雑な地域環境の変化を認識すべきだ。これまでのパターンを踏襲するのではなく、さまざまな諸国の取り組みを調整するコーディネーターの役割を果たすべきではないか。アメリカが主導する中東和平交渉と一体性のある形で、エジプトとサウジが、カタールやトルコとともにパレスチナの和解を促進することもできるし、トルコが和平プロセスにおけるハマス、シリアとの折衝にあたることも、核問題をめぐってイランとの折衝にあたることもできる。もっとも重要なのは、ワシントンが、穏健派VS・過激派という不毛なパラダイムで中東をとらえ続けるのをやめることだ。

Page Top