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グローバル貿易の不均衡が続けば、金融と政治を不安定化させ、長期的には通貨戦争を含む非常に危険な状況に遭遇する。そして、各国が国内経済戦略を大幅に変化させない限り、こうした不均衡はなくならない。通貨をめぐる最近の緊張は、各国が長期的にとってきた国内経済政策が重層的にもたらした持続不能な貿易不均衡に派生している。そして、不均衡を是正していくには、国際合意を通じてではなく、各国が長期的利益を重視した国内経済戦略へと独自の判断でシフトしていく必要がある。途上国経済にとって必要なのは、先進国への依存度を引き下げ、もっと支出を増やすことだ。一方、アメリカのような先進国は、消費を減らしつつ、生産を強化し、輸出を増やす必要がある。国際的な資本の流れをより穏やかで、リスクを常に意識したものへと変化させるための規制の見直しも必要だ。一方、各国が改革を嫌がり、過去に成功をもたらした経済戦略に政治的に固執し続ければ、1930年代の悪夢に再び直面することになるかもしれない。

大国ブラジルのアジェンダ

2011年3月号

ジュリア・E・スウェイグ
米外交問題評議会(CFR)
中南米担当シニア・フェロー

流血の惨事を起こすことも他国を侵略することもなく、ブラジルは多民族・多人種の民主国家を作り上げ、力強い市場経済を定着させた。何百万人もの貧困層を中産階級層に引き上げることにも成功した。いまや、ブラジルは大国の仲間入りをし、大国として振る舞う資格があると考えている。すでに、国連安全保障理事会の常任理事国入りを希望すると表明し、途上国の連帯を組織し、最近も世界銀行や国際通貨基金(IMF)における議決権拡大を模索している。だが、ルセフ新大統領にとっての最大の課題とは、国際的な地位の確立を模索していくことと、格差の是正、教育の強化、犯罪の撲滅などの野心的な国内アジェンダへの取り組みとのバランスをどのようにとっていくかにある。

イラン核武装の脅威と封じ込めの限界
―― イラン、イスラエル、サウジによる核秩序の危うさ

2011年3月号

エリック・S・イーデルマン 前米国防次官
アンドリュー・F・クレピネビッチ 戦略予算評価センター(CSBA)会長
エバン・ブラデン・モントゴメリー CSBAリサーチフェロー

イランが核開発に成功した場合に、短期的にもっとも心配しなければならないのは、イランとイスラエルの対立が激化し、両国がともに相手に対する核の先制攻撃を試みる危険があることだ。長期的には、サウジその他の中東諸国が独自の核開発を模索するようになり、核の軍拡レースが生じ、地域秩序を大きく不安定化させるかもしれない。この場合、中東にはイラン、イスラエル、サウジという三つの核保有国が誕生する可能性が高く、この複雑で不安定な核秩序のなかで、イラン封じ込めを成功させるのは容易ではない。現状で必要なのは、外交努力を強制力で支え、拡大抑止レジームの基盤を築き、軍事キャンペーンが最後に残された妥当な選択肢となった状況でそれを選択できるように、中東に展開する空軍力と海軍力を増強しておくことだ。

金融危機が出現させたGゼロの世界
――主導国なき世界経済は相互依存から
ゼロサムへ

2011年3月号

イアン・ブレマー
ユーラシア・グループ会長
ノリエル・ルービニ
ニューヨーク大学教授

市場経済、自由貿易、資本の移動に適した安全な環境を作りだすことを覇権国が担ってきた時代はすでに終わっている。アメリカの国際的影響力が低下し、先進国と途上国、さらにはアメリカとヨーロッパ間の政策をめぐる対立によって、世界が国際的リーダーシップを必要としているまさにそのときに、リーダーシップの空白が生じている。われわれは、Gゼロの時代に足を踏み入れている。金融危機をきっかけに、さまざまな国際問題が噴出し、経済不安が高まっているにもかかわらず、いかなる国や国家ブロックも、問題解決に向けた国際的アプローチを主導する影響力をもはや失ってしまっている。各国の政策担当者は自国の経済成長と国内雇用の創出を最優先にし、グローバル経済の活性化は、遠く離れた二番目のアジェンダに据えられているにすぎない。軍事領域だけでなく、いまや経済もゼロサムの時代へ突入している。

CFRインタビュー
食料価格高騰で不安定化する世界
―― 中東の変革と食糧危機

2011年3月号

ローリー・ギャレット 米外交問題評議会シニア・フェロー

食糧価格が世界的に急騰している。国連食糧農業機関によれば、2011年1月には、この組織が食糧価格指標を記録し始めた1990年以降、その数値はピークに達した。中東では、小麦価格の高騰が最近の社会争乱に大きな影響を与えており、特に、世界最大の小麦輸入国であるエジプトにとって、価格高騰はデモの背景の一つになった。中東での主要穀物の高騰が人々の現状への怒りと不公正に対する憤慨を増幅させている。天候不順のせいで主要穀物の供給が減少し、貧困に苦しむ地域での食糧不足が起き、投機によって入手できる食糧の価格さえも上昇している。供給の減少を別にしても、食糧需要が増大しているのは、人口が増えているからだけでなく、世界の中産階級の規模が拡大し、プロテイン類を購入できる人々が増えているためだ。この拡大する需要を満たしていくには、農業、収穫、輸送、流通のすべてを見直す必要がある。

中東では多くの若者たちが、教育を受けたにもかかわらず、まともな職に就けずにおり、現状に大きな不満を抱いている。これが今起きていることの根底にある問題だ。だが、人口構成に占める若者の人口が突出して多い「ユースバルジ」が問題をさらに深刻にしている。歴史的にも、青年人口が突出して多い国では社会的混乱が頻発することが多い。混乱は平和的なものにも破壊的なものにもなる。チュニジアやエジプトでの抗議行動が概して平和的なものだったのは幸運だった。両国の場合、欧米が民主化への移行を支援すれば、ユースバルジを社会の責任あるメンバーとして取り込み、長期的には非常に建設的な未来展望が開けてくるかもしれない。だが、政治体制が非常に脆く、社会が分裂している国では、ユースバルジが社会紛争を長期化させ、国を破綻国家へと向かわせるリスクもある。実際、イエメンはそうなるリスクがあるし、パレスチナもそのリスクを抱えている。

暗闇では銃を発射できないように、世界がどのように機能するかについてのビジョンなしに、政策を決めることはできない。だからこそ、現実主義者は、この世にいない経済学者か、政治理論家の奴隷となるしかない。政策決定者が、世界を間違った方向ではなく、正しい方向へと動かす可能性を高めるような、情報と知識に裏付けられた思想的な基盤とビジョンをわれわれは常に必要としている。冷戦末期以降、『文明の衝突』、『歴史の終わり』、『大国政治の悲劇」』という三つの壮大なビジョンが表明された。ベルリンの壁が崩壊した段階ではフクヤマは真実の鐘をならし、9・11以降の世界政治についてはハンチントンの予測は現実を言い当てていた。中国パワーが今後開花していけば、ミアシャイマーも現実を言い当てることになるのかもしれない。だが、ハンチントン、フクヤマ、ミアシャイマーは未来の何を言い当てて、どこを読み誤ったのか。それを理解することが、世界が必要とする第4のビジョンを描く鍵となる。

現在の原油価格高騰がいわゆる「ノーマルな状態」へ戻っていくと考えるのは正確ではない。「現在は一時的なショック状態にあるだけで、かつての状況に戻っていく」と考えるのは間違っている。危機前の状況へと戻っていくことはあり得ない。・・・さらに、マクロ経済の分析ではとかく景気循環が前提にされる傾向があるが、世界経済の構造と性格が着実に変化していることに目を向けるべきだ。・・・(今後、先進国は)貿易財部門、雇用に関して長期的に大がかりな変化を経験していくことになる。いずれ経済成長路線に立ち返るだろうが、雇用(失業)問題が残存することになる。教育、・・・税制度、投資インセンティブ、公的資源を用いた投資と技術開発を見直していく必要がある。

カダフィ後に何が起き、誰が台頭してくるのか

フレデリック・ウェレイ ランドコーポレーション、シニアポリシーアナリスト

チュニジア、エジプトで民衆蜂起がおきると、1969年のクーデターでカダフィを支持した軍高官の一部でさえ、ポストを解任された。カダフィは、彼らが反体制運動を主導することを懸念した。いまや軍は分裂し、トリポリにはカダフィの息子たちが統率する「ダイハード」部隊がいる。カダフィがリビアを去っても、リビアの解放を求める勢力と、最後まで戦いをやめないカダフィ体制の「ダイハード」たちの間で抗争が続くことになるだろう。結局、今後のリビアをまとめられるのは、リビア解放を求める旧リビア軍の部隊しかいない。さらに行く手には、トリポリとキレナイカの対立、大きすぎる部族パワー、民族的不満をいかに制御していくかという難題が控えている。もっとも重要なのは、リビアの軍と部隊が、特定の指導者、部族や地域ではなく、組織に対して忠誠とアイデンティティを持つようにすることだ。

Review Essay
富める者はますます豊かに
―― アメリカにおける政治・経済の忌まわしい現実

2011年3月号

ロバート・C・リーバーマン コロンビア大学教授

富裕層の一部に驚くほど富が集中しているのは、市場経済とグローバル化の結果であるとこれまで考えられてきた。だが、実際には、格差の拡大には政治が大きな役割を果たしている。富裕層を優遇する政策だけでなく、アメリカの多元主義的政治システムにおいて、資金力にものをいわせる保守派が大きな影響力と権限をもつようになり、中産階級の利益代弁機能を抑え込んでしまっている。この流れの起源は、意外にも、アメリカのリベラリズムがピークを迎えた時期とされる1960年代にある。この時期に、自分たちの社会的影響力が地に落ちたことを痛感した企業エリートたちは、保守の立場からイデオロギー、政治、組織の領域でカウンターレボリューションを進めていった。・・・

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