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論文データベース(最新論文順)

貿易財部門の空洞化は避けられない
―― 雇用なき成長への対策はあるか

2011年7月号

マイケル・スペンス 米外交問題評議会特別客員フェロー

新興市場国が付加価値連鎖の階段を上っていくにつれて、先進諸国の貿易財部門が国内で必要とする労働力は小さくなり、この部門の労働集約型雇用は新興国へと流出していく。事実、米国内での貿易財部門の雇用はほとんど伸びていない。貿易財部門の高付加価値領域における雇用機会と所得レベルは高いが、ローアーエンドへと向かうにつれて、雇用機会も所得レベルも低下している。しかも、アメリカの場合、新規雇用のほとんどが、賃金がほとんど上昇していない非貿易財部門でしか創出されていないために、所得分配の不均衡(所得格差)はさらに顕著になっている。「経済が成長すれば雇用も増大する」と考えられてきたし、実際、これまではその通りだったが、いまや、グローバル経済の構造的進化とそれが国民経済に与える影響によって、経済成長と雇用創出は連動しなくなった。将来に向けた技術・インフラ投資、教育や税制の改革を含む政策の見直しなど、経済の競争力と成長を回復するための長期的で多層的な政策を導入する必要がある。

原油価格大変動の時代へ
――生産調整能力を失ったサウジアラビア

2011年7月号

ロバート・マクナリー 元国家安全保障会議国際エネルギー担当 シニアディレクター
マイケル・レビ 米外交問題評議会エネルギー担当 シニア・フェロー

今後、原油価格のボラティリティ(乱高下)は当面続き、その悪影響から逃れる方法はほとんど存在しない。すでにサウジの生産調整能力は消失しており、それが回復する見込みもないからだ。新興市場の原油需要が急増する一方で非OPEC産油国の生産が伸びなかったために、他の産油国同様に市場の需要を満たすか、価格調整のために原油備蓄をするかの決断を迫られたサウジは、前者の道を選び、結局、備蓄を使い切り、生産調整能力を失ってしまった。こうしてサウジは「原油市場の中央銀行」の役割を失い、世界は、2007年以降の原油価格の乱高下を経験することになる。サウジの生産調整能力が回復する見込みは乏しく、不安定な現状が当面続くと考えられるだけに、各国の企業、中央銀行、そして外交担当者は、地図のない世界での舵取りを強いられることになる。しかも、原油市場には非常に大きな経済的、地政学的帰結を伴いかねない、嵐が吹き荒れている。投資が不足しているし、産油国とシーレーンの不安定化に市場と経済が敏感に反応するようになり、リセッションのリスクも再び高まっている。

ドイツ経済モデルの成功
―― 他の先進国が見習うべき強さの秘密とは

2011年7月号

スティーブン・ラトナー
前米財務長官顧問

ドイツ経済の成功は、中国、インド、その他の新たな経済的巨人が台頭する環境でも、先進国が競争力を維持できることを示している。ドイツモデルを他の先進国が取り入れるには、各国の政治家が2005年にシュレーダー独首相が示したような決意あるリーダーシップを示す必要があるし、国の比較優位をうまく生かす方法を見極めなければならない。付加価値連鎖のなかのもっとも高い部門を重視するのが、先進国経済が状況を先に進める上で、もっとも間違いのないやり方だ。実際、ドイツの工業的成功の多くは、製造業の二つの高付加価値部門が牽引してきた。第1は、ミッテルスタンド(中小企業)がひしめき合う工作機械部門、第2は、ドイツ経済のスターである、BMW、ダイムラー、ポルシェ、アウディといったブランド企業が牽引する自動車産業だ。ドイツは雇用と高付加価値の製造業を大切にすることを決断し、この決定が経済的成功に大きな貢献をしている。

世界の原油市場を左右する中国とイランの石油コネクション

2011年7月号

エリカ・ダウンズ
ブルッキングズ研究所 中国センター・フェロー
スザンヌ・マロニー
ブルッキングズ研究所 サバン中東研究所・シニアフェロー

多くの外国企業が、イラン制裁を求める国連決議に配慮してイランから撤退しているというのに、中国だけが別行動をとっている。当然、中国のイラン路線とそれにアメリカがどう反応するかは、今後の世界のエネルギー・ビジネスと国際政治を左右する大きなファクターだ。資源を求める中国の石油企業にとってイランは魅力的な進出先だ。しかし、ワシントンは北京に対して、ウラン濃縮を続けるイランに対する制裁レジームの完全なメンバーになるように求めており、中国もワシントンの意向を公然と踏みにじるのは問題があると考えている。ワシントンは中国に対して、「イランに核開発計画を断念させれば、石油の供給と価格の安定化が期待できるようになり、中国の利益になること」、逆に、「そうしない限り、原油価格のボラティリティがさらに高まること」を理解させる必要がある。

ブラックスワンの政治・経済学
―― ボラティリティを抑え込めば、世界はより先の読めない危険な状態に直面する

2011年7月号

ナシーム・ニコラス・タレブ
ニューヨーク大学教授(リスクエンジニアリング)
マーク・ブリス
ブラウン大学教授(国際政治経済学)

小規模な山火事を阻止しようと対策をとれば、より大規模な火事が起きる危険を高めてしまう。山という自然の一部は、より大きな複雑系の一部だからだ。人間は本能的に、自分たちの世界を改革し、それが作り出す結末を変化させようと現実に介入するが、政府による介入は、特にその介入対象が複雑系である場合、想定外の事態につきまとわれることになる。誤解が生じるのは、人類が直線系の領域において歴史的に洗練度を高めてきた分析を、複雑系にもそのまま当てはめて考えようとするからだ。2007―2008年の金融危機、最近の中東における革命はその具体例だ。したがって、状況を変化させようとするよりも、人間が不完全な存在であることを織り込んだ、柔軟なシステムで、自然に対応していくべきだ。変動や衝撃を抑えようと政策的に模索するのはよいことのようにも思えるが、結果的に非常に大きな事態急変のリスク、つまり、テールリスクを高めてしまう。

CFRインタビュー
エネルギー政策を考える

2011年7月号

マイケル・レビ 米外交問題評議会エネルギー環境問題担当シニアフェロー
シャーリー・アン・ジャクソン 前米原子力規制委員会・委員長
デール・ブライク 天然資源防衛評議会大気エネルギープログラムディレクター
ティモシー・J・リチャード GEエナジー国際エネルギー政策担当役員

エネルギーをめぐって何を重視するかに関する立場の違いは、事実や分析に基づく判断であるとともに、価値観にも左右される。賢明な指導者であれば、一つの包括的な優先順位へすべての人々の支持を集めようとするよりも、それぞれの立場に配慮した政策を模索するはずだ。(M・レビ)

大衆は短期的には一つのエネルギー資源に大きな関心を寄せるが、時間が経過するとともに関心は薄れ、持続的なコミットメントは失われる。このサイクルを打破しなければならない。(S・ジャクソン)

電力生産施設、ビル、さらには、家電その他の電力製品の使用効率を高めれば、現在と同じか、より快適な生活を維持する一方で、エネルギーコストを抑え、電力供給の信頼性を高め、雇用を創出し、汚染を低下させることができる。(D・ブライク)

CFRインタビュー
ユドヨノ大統領が語る
インドネシアの次なる改革アジェンダ

2011年7月号

スシロ・バンバン・ユドヨノ インドネシア大統領

新興市場国の仲間入りを果たしたインドネシアのGDP成長率はいまや6%に達している。G20のメンバーになり、2011年にはASEANの議長国にも選ばれた。すでにインドネシアの国際社会での地位は大きく向上している。だが、外国の投資家は、インフラがまだうまく整備されておらず、政治腐敗が横行していることなどを懸念して、インドネシアへの投資には必ずしも積極的ではない。ユドヨノ大統領自身、この点をはっきりと認識し、次のように述べている。「優れた統治構造を築き、政治腐敗と闘い、法的枠組みを強化し、法の支配を定着させなければならない」。・・・その上で「ビジネス環境が改善され、われわれの改革路線が評価されて、より多くの外国からの投資が舞い降りるようになることを期待している」。だが大きな懸案とされる政治腐敗の撲滅はなかなか進展していない。「150名を越える、官僚、大臣、議員、州知事、市長に法の裁きを受けさせているが、・・・・政治腐敗を撲滅するにはまだ多くの努力が必要だ」と大統領自身認め、「この問題に取り組んでいくのは非常に困難な課題だ」と、改革がまだ道半ばであることを認めた。

サイバー防衛の柔軟性とアクティブ・ディフェンス
――ペンタゴンの新サイバー戦略とは

2011年7月号

アダム・シーガル 米外交問題評議会・対テロ・国家安全保障担当シニアフェロー

米政府のネットワークをターゲットにした洗練されたサイバー攻撃に対する人々の懸念が高まるなか、ペンタゴンは7月中旬に「サイバー空間における作戦計画に関する新戦略」を発表した。だが、公開された戦略には目新しい部分はほとんどない。サイバー防衛面での同盟諸国との国際合意、国際協調、パートナーシップについてははっきりと指摘されているが、これらを別にすれば、新しい要素はない。ウィリアム・リン国防副長官が2010年9月にフォーリン・アフェアーズで発表した論文で、これらのほぼすべては指摘されていたし、そうでないものについては、事前にプレスリリースされていた。つまり、戦略をリリースしたのは「アメリカはサイバー空間を軍事化するのではないかという諸外国の懸念」を低下させることが大きな狙いだったようだ。これを別にすれば、サイバー攻撃を受けて劣化したコミュニケーション環境でも活動を継続する柔軟性を確保するという重要な概念が示されている。だが、「アクティブ・ディフェンス」という概念が、ハッカーにとっての攻撃コストを引き上げることになるかどうかは、わからない。・・・・

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