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論文データベース(最新論文順)

ウクライナ戦争とグローバルサウス
―― 多極世界における途上国の立場

2023年6月号

マティアス・スペクター ジェトゥリオ・ヴァルガス財団 教授(国際関係論)

インド、インドネシア、ブラジルからトルコ、ナイジェリア、南アフリカにいたるまで、世界の途上国の多くは、ウクライナ戦争を含めて、主要国との厄介ごとに巻き込まれるのを避け、将来への保険、リスクヘッジ策をとるようになった。物質的な譲歩を得るためだけでない。自らの地位を高めるためにリスクヘッジ策をとり、多極化を国際秩序における地位向上のチャンスとして前向きに捉えている。欧米は、グローバルサウスの主要国が北京やモスクワの政策に幻滅しつつあることが作り出す機会にもっと注目すべきだろう。主要途上国は、気候変動対策だけでなく、世界経済の混乱を阻止する上でも、中国の台頭やロシアの復権を管理していく上でも欠かせない存在だ。・・・

大国間競争とインドの立場
―― 対話促進者としてのポテンシャル

2023年6月号

ニルパマ・ラオ 元駐米インド大使

他の国家と同様に、自国の利益に即して行動するインドにとって、ロシアとのパートナーシップを断ち切れば、国益を損なうことになる。当然、ロシアを孤立させることを求める欧米の要請には応じない。インドはすべての国々と協調する権利をもっている。北京に対するワシントンの対抗バランス形成の一翼を担うこともない。米中対立では中立の立場を維持している。インドは14億人以上の人口を抱え、急速に経済成長を遂げている国であり、ほとんどすべての国と貿易を行い、良好な関係を維持している。世界の緊張が高まるなかでも、インドは世界に成長を広げ、対話を促進していくポテンシャルをもっている。

多極世界という神話
―― 多極構造でも二極構造でもない世界

2023年6月号

スティーブン・G・ブルックス ダートマスカレッジ教授(政治学)
ウィリアム・C・ウォルフォース ダートマスカレッジ教授(政治学)

米中が二大国であることは間違いないが、多極構造を成立させるには、ほぼパワー面で互角の大国が、少なくとも、もう一つ存在しなければならない。だが、フランス、ドイツ、インド、日本、ロシア、イギリスなど、3位に入る可能性のある国は、いずれも米中と互角のパワーをもつ国とは言えない。中ロ関係がアップグレードされても、この二カ国は地域的軍事大国に過ぎない。地域的なバランシングが可能な二つの大国が一緒になっても、グローバルなバランシングはできない。そのためには、ロシアと中国がともにもっていない、そして、すぐにはもつことができない軍事力が必要になる。現状は、部分的ながらも、依然としてアメリカの一極支配構造にある。

中ロ関係の真実
―― 水面下で進む包括的パートナーシップ

2023年6月号

アレクサンダー・ガブエフ カーネギー国際平和財団 ロシアユーラシア・センター所長

ウクライナ戦争と欧米の対ロ制裁は、ロシアの経済的・技術的な対中依存をかつてないレベルへ引き上げている。軍事であれ、金融であれ、両国はかなりの協力関係にある。実際、習近平とプーチンが3月の会談で新たな軍事協定について折り合いをつけたと考える理由は十分にある。中国はロシアに対するさまざまな手立てをもっているが、対米関係の軋轢ゆえに、中国にとってロシアは「必要不可欠なジュニアパートナー」でもある。中国に、これほど多くの恩恵をもたらしてくれる友好国もない。地球上もっともパワフルなアメリカとの長期的な対立に備えつつあるだけに、習近平は、あらゆる支援を必要としている。

気候変動と海面レベルの上昇
―― 温暖化リスクを伝えるもう一つの指標

2023年5月号

アリス・C・ヒル 米外交問題評議会 シニアフェロー(エネルギー・環境担当)
レイフ・ポマランス 元国務副次官補(環境・開発担当)

海面上昇は、海岸線の侵食、、下水の逆流、沿岸コミュニティの水没と集団移住など、気候変動が引き起こす問題を気温上昇以上に具体的に想起させる。気温上昇を1・5度に抑えることの重要性をより理解しやすくするために、各国は気温だけでなく、海面上昇の上限を設定すべきではないか。IPCCの推定では、気温上昇が1・5度以内にとどまれば、2100年までに世界の海面が上昇する中間値は約36―76センチに収まるとされるが、温室効果ガスの排出量がほとんど減少しなければ、アメリカでは2100年までに海面が106―213センチ上昇する危険がある。すでに、国連安全保障理事会は2023年2月に、海面上昇に焦点を絞った会合を開催している。

生成AIとプロパガンダ
―― 高度な偽情報にどう対処するか

2023年5月号

ジョシュ・A・ゴールドスティン ジョージタウン大学 セキュリティー・新領域技術センター リサーチフェロー
ギリシュ・サストリー オープンAI 政策チーム リサーチャー

チャットGPTなどの対話型AIは、人間が書いた文章かAIによるものかが分からず、大量生産が可能なコンテンツを安価に生成する能力をもっているために。プロパガンダに悪用される恐れがある。実際、AI生成プロパガンダでオンライン空間を埋め尽くせば、疑念の種をまき、真実を見極めるのを難しくし、人々は自分の観察さえ信用できなくなる。社会と共有する現実への信頼を失う危険もある。「こうした言語モデルのアクセスを誰が管理するのか、誰を危険にさらすことになるのか、AIに人間の会話を模倣させるのは望ましいのか」。政府、企業、市民社会そして市民は、こうしたモデルの設計や使用法、そしてそれがもたらす潜在的なリスクを管理する方法について、発言権をもつべきだ。

中国技術革命の本質
―― 大量生産と「プロセス知識」

2023年5月号

ダン・ワン ギャベカル・ドラゴノミクス テクノロジーアナリスト

最先端の技術を持ちながら、なぜアメリカは中国に世界のソーラー産業覇者の座を奪われてしまったのか。理由は、研究開発やイノベーション、そして製品ブランディングなどの付加価値の大きい部門を重視する一方で、生産プロセスをアウトソースして軽視してきたからだ。一方、中国は、限界まで生産能力を高めることで、大量生産そのものがもたらす学習プロセスを技術イノベーションに組み込んで進化させた。このような「プロセス知識」と呼ばれるスキルが、中国を技術イノベーションの中枢へ押し上げた。先鋭的な科学技術だけでなく、中国のように労働力を活用し、製品をより良く、効率的に製造することをアメリカは学ぶべきだ。製造プロセスは、発明や研究開発というスリリングな領域のサイドショーではない。それは、技術進化に不可欠の要素なのだ。

イギリスは統一を維持できるのか
―― 構成地域ナショナリズムと連合王国

2023年5月号

フィンタン・オトゥール プリンストン大学教授

ウェールズ、スコットランド、北アイルランドだけではない。イングランドの有権者も、これまで、イギリスのアイデンティティに埋もれていたイングランド・ナショナリズムを主張するようになった。一方で、イングランドの政治家と有権者が推進したブレグジットは、北アイルランドとスコットランドでのイギリスに対する不満を増幅した。こうして、スコットランドでは、住民の過半数(52%)が独立を支持し、北アイルランドでも、イギリスを離脱してアイルランドに加わりたいという人が劇的に増えている。重層的な課題が表面化するなか、イギリスは国際秩序における位置づけだけでなく、今後も一体性をもつ国とみなされ続けるかどうかもはっきりしなくなっている。かつて世界を形作った国家は、もはや自国の形態さえ保つことができないのかもしれない。

ロシアは何を間違えたのか
―― そして、モスクワが失敗から学べば

2023年5月号

ダラ・マシコット ランド研究所 上級政策研究員

ロシアにとって重要な問題のいくつかは、モスクワには制御できないものだ。ロシアに対抗していくウクライナ人の決意はさらに堅固になっており、この決意を揺るがすことはできない。ロシアには欧米の武器や情報のウクライナへの流入を阻止する意思も能力もない。つまり、ウクライナの決意と欧米の支援がある限り、モスクワが、ウクライナを当初考えていたような傀儡国家にすることはできない。なぜロシアは優位を維持できず、なぜ動けなくなり、主要都市から締め出され、守勢に立たされたのか。だが、ロシア軍は、完全に無能だったわけでも、学習能力がなかったわけでもない。戦略調整を続け、南・東部の占領地支配を固めれば、最終的には、窮地を脱して勝利をつかめる可能性もある。

エネルギー不安の時代
―― 移行期におけるリスクにいかに備えるか

2023年5月号

ジェイソン・ボルドフ コロンビア大学 クライメートスクール 学院長
メーガン・L・オサリバン ハーバード大学ケネディスクール 教授(国際関係)

「エネルギー安全保障に対する過度な懸念が、気候変動との闘いを妨げるかもしれない」。専門家がこう考えていたのはそう昔の話ではない。だが、いまやその逆が真実だ。ネット・ゼロへの移行が進むにつれて、エネルギー安全保障への配慮が不十分であることが、気候変動対策により大きな脅威を突きつけることになるかもしれない。移行期におけるリスクを抑えながら、クリーンエネルギーへのシフトを試みるには、一方で、石油の戦略備蓄の強化、重要鉱物の戦略備蓄、供給混乱への保険策としての火力発電所の温存なども必要になるだろう。政策立案者はいまや、エネルギーと気候の安全保障を適切なバランスで考え、ともに成立させる必要があることを理解しなければならない。

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