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論文データベース(最新論文順)

なぜハイチは瓦礫に埋もれたままなのか
―― 巨大地震からの復興を阻む
統治の空白

2011年10月号

ポール・コリアー / オックスフォード大学教授

2010年、地震後のハイチが直面した切実な課題は、100億ドルの援助をどうすれば社会を変貌させる復興と再建にうまく生かせるかという点にあった。「かつてよりもよい状態へ再建する」。これが復興のキャッチフレーズにされた。その任務は気も萎えんばかりに大きかったが、特に複雑なことではなかった。人々をより地震の影響を受けにくいところで生活させ、この地域で雇用を創出し、社会サービスを提供する。これが基本だった。だが問題は、慢性的な社会的機能不全という環境で地震という急性の危機が起きたことだ。慢性症状が急性症状をさらに深刻にし、緊急事態への対応を難しくしている。急性症状を治すには、まず慢性疾患を治さなければならないという、非常に難しい状況にハイチは追い込まれている。

リビアの安定を 左右する原油生産の再開

2011年10月号

エドワード・モース シティグループ グローバルコモディティ研究担当マネージングディレクター、 エリック・G・リー シティグループ リサーチ・アナリスト

カダフィ時代のリビアでは、原油輸出からの歳入が輸出利益のほぼすべてだったし、金額でみればGDPの4分の1にも達していた。つまり、国際社会がリビアの外国資産の凍結を解除しても、石油の歳入がなければ、新政府は社会サービスを提供することも、傷ついたインフラを再建することも思うに任せないはずだ。そして、いつ原油生産を再開できるかは、カダフィ後の政治が安定するかどうかに左右される。全般的にみれば、考えられているよりも早く、生産は再開されるだろう。だが、紛争前と同じレベルの原油を生産できるようになるには12-18カ月はかかる。すべては、NTC(国民評議会)が石油からの収益を適切に管理し、正統性を確立できるかどうかに左右される。

Foreign Affairs Update
グリーンテクノロジーの将来
―― CCS技術への投資を

2011年10月号

ジュリオ・フリードマン ローレンス・リバモア研究所二酸化炭素管理プログラム責任者

グローバルレベルでも国家レベルでも、化石燃料による電力の生産と供給には変化がみられない。再生可能エネルギーの利用が増えているにもかかわらず、二酸化炭素排出量は急激に増大している。このような状況にあるにも関わらず、二酸化炭素を分離して、地球環境に悪影響を与えない安全な場所に封じ込め、大規模な気候変動を引き起こさずに化石燃料を利用できるようにするCCS技術はそれほど注目されていない。アメリカを含むOECD諸国の市民の多くは、二酸化炭素の回収・貯留技術(CCS)が何であるかについて、この技術で何ができ何ができないか、そして、それが環境上何を意味するかをほとんど理解していない。全面的に導入されれば、CCSは、世界が必要としている二酸化炭素排出削減量の25-50%を削減できるポテンシャルを秘めている。各国が二酸化炭素排出の削減に向けた力強いコミットメントからしだいに離れていくにつれて、CCSその他の重要なクリーンエネルギー技術の開発と実証研究が先送りされかねない状況にある。

誇張された大国、中国の実像
―― 持続的成長はあり得ない

2011年10月号

サルバトーレ・バボネス
シドニー大学上級講師(社会学・社会政策)

「これまでのようなパフォーマンスは期待できないが、中国経済が成長軌道から外れることはない」。多くのエコノミストはこう考えている。だが、状況は変化し、何かがうまくいかなくなるものだ。経済が成長するにつれて、中国がアジアや世界政治においてより大きな役割を担っていくのは間違いない。しかし、おそらくはそう遠くない将来に、中国の成長率もスローダウンし、かつて高成長を遂げた諸国同様に、成長率は低下していく。当然、アジアでも、世界においても中国が支配的優位を確立することなどあり得ない。専門家は、世界が中国語を学ばなければならないような「アメリカ後の世界」に思いをめぐらすことに興じている。だが、現実的に考えて、21世紀にそのようなことが起こるはずはない。いまや、巨大ながらも普通の国として中国に接し始めるタイミングだろう。「中国は重要な国だが、それほどパワフルなグローバルプレイヤーではない」

経済覇権はアメリカから中国へ
――21世紀に再現されるスエズ危機

2011年10月号

アルビンド・サブラマニアン
ピーターソン国際経済研究所
シニアフェロー

1956年、アメリカはイギリスに対して「スエズ運河から撤退しない限り、金融支援を停止する」と迫り、イギリスはこれに屈して兵を引いた。ここにイギリスの覇権は完全に潰えた。当時のイギリス首相で「最後の、屈辱的な局面」の指揮をとったハロルド・マクミランは後に、「200年もすれば、あの時、われわれがどう感じたかをアメリカも思い知ることになるだろう」と語った。その日が、近い将来やってくるかもしれない。スエズ危機当時のイギリスは交渉上非常に弱い立場にあった。債務を抱え込み、経済が弱体化していただけでなく、そこに新たな経済パワーが台頭していた。現在のアメリカも同じだ。米経済は構造的な弱点を抱え込み、目に余る借金体質ゆえに外国からのファイナンスに依存せざるを得ない状況にあり、成長の見込みは乏しい。そして、侮れない経済ライバルも台頭している。マクミランが予測したよりも早く、そして現在人々が考えるよりも早く、アメリカは覇権の衰退という現実に直面することになるだろう。

エジプトの民主化を左右する軍最高評議会

2011年10月号

ジェフ・マルティニ
ランド研究所プロジェクト・アソシエート
ジュリー・テイラー
ランド研究所ポリティカル・サイエンティスト

エジプト軍が「革命には介入しない」と宣言し、ムバラクを辞任に追い込んだことは、多くのエジプト人を驚かせた。だがこれは、軍高官たちが、軍の経済利益を軽視するようになったムバラク体制への反発を強め、息子による権力継承の可能性に危機感を募らせていたからだ。ポスト・ムバラクのエジプトで現在統治を担っている軍最高評議会は、社会の安定だけでなく、軍の特権的地位も守っていくことをすでに決意している。軍は選挙で選ばれた新政府に権限を移譲したいと望んでいるが、その意図は民主主義を実現することよりも、新体制においても自分たちの特権を維持していくことにある。将軍たちの目的は、真に開放的な代議政治ではなく、軍が外交・安保政策で最終的決定権を持ち、文民統制を回避することにあるようだ。

米のバランスシートリセション、
欧州の債務危機、そして新興国経済
――ワールド・エコノミック・アップデート

2011年10月号

ルイス・アレキサンダー
前財務長官顧問、前シティグループ チーフエコノミスト
ブルース・C・カスマン
JPモルガン チーフエコノミスト
スティーブン・S・ローチ
モルガンスタンレー・アジア 非常勤会長

アメリカは、日本流のバランスシート・リセッションに陥っており、このプロセスは当面続くと考えられる。二番底に陥る危険は、一般に考えられている以上に大きい。・・・中国はイタリアやヨーロッパ経済を支援する用意があると示唆している。だが、ここにおけるリスクは中国が現状を流動性の危機であって、ソルベンシー(支払能力)の危機とはみていないことだ。(S・ローチ)
EMUを一つに束ねていくつもりなら、ECBは債務を買い取るともに、ユーロの銀行システムを支えるために資金を投入しなければならない。これらの措置をとったとしても、危機を封じ込められるかどうかわからない。・・・ギリシャへの追加支援が認められたのは、ギリシャ国内で政治的立場をまとめるのに3-6カ月はかかると判断されたからにすぎない。(B・カスマン)

(一年後)ギリシャがユーロ圏に残っている可能性は高いと思う。国債の再構成を経たギリシャが依然としてユーロのメンバーであるという未来を想像するのはそれほど難しくはない。だが、そのためには、ギリシャ国債を引き受けているヨーロッパの銀行への支援のメカニズムが必要になる。(L・アレキサンダー)

次なる核のメルトダウンを防ぐには
―― 福島原発事故の教訓

2011年4月号

ビクター・ジリンスキー  元米原子力規制委員会委員長(物理学者)

核燃料を入れるジルコニウム管が高熱の蒸気に触れると水素が放出され、これが空気に触れて爆発が起き、その結果、原子炉を取り巻く格納施設が破壊された。(福島原発では)放熱が進むにつれて、少なくとも、原子炉内の核燃料の一部が溶融し、メルトダウンを起こした可能性が高い。これによって放射性物質が拡散し、その一部は格納施設の損壊部分から大気へと拡散した。どの程度のメルトダウンが起きているかは、原子炉内の放射線量が原子炉を開けても問題がない程度まで放射性崩壊が進んだ数年後に、実際に原子炉を開けてみるまではわからない。福島第一原発の原子炉がどのような状態にあるかは、状況がさらに悪化しないと仮定しても、今後、数年間はわからないままだろう。

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