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論文データベース(最新論文順)

食糧危機、ドル安、金融危機に翻弄される人道援助
―― なぜ支援がそれを必要としている人々に届かない

2011年9月号

ローリー・ギャレット 米外交問題評議会グローバルヘルス担当シニア・フェロー

飢饉がアフリカ東部を襲い、緊急食糧支援、人道支援が必要とされているにも関わらず、必要としている人々のもとに支援がうまく届いていない。理由は多岐にわたる。2002年と現在の価格を比較すると、米の国際価格は204%、小麦は164%、トウモロコシは260%上昇していることからも明らかなように、穀物価格が軒並み上昇している。しかも、援助が通常ドル建てで行われるために、昨今におけるドル価値の低下は、同じドルで調達できる穀物の量が小さくなっていることを意味する。さらに、人道的危機に対しては大規模な援助をしてきたイタリア、スペイン、ポルトガル、ギリシャ、アイルランドなどは、国が破綻するのを避けるために対外援助を打ち切らざるを得ない状況に追い込まれている。しかも、武装勢力が人道支援活動にとって障害を作り出している。これらは、アフリカの角地域でかつてなく大規模な飢饉が起きているにも関わらず、食糧援助の対象にできる人々の数が大きく減少していることを意味する。問題は、こうした複合危機解決の糸口が見えないことだ。・・・

企業の知的財産を盗み出すサイバーセフトの衝撃

2011年9月号

ドミトリ・アルペロビッチ マカフィー脅威研究担当副社長

サイバー空間でのスパイ活動、そしてサイバーセフト(経済・金融情報の窃盗)がかつてない規模で行われている。膨大な経済情報や知的財産が企業から盗み出されて、ライバル国、あるいは潜在的敵国の経済にそのまま利用されている。この状況が、過去6年、あるいはそれ以上にわたって続いている。いまやその脅威は、国家レベルの経済繁栄を脅かすほどに大きくなっている。スパイ活動やサイバーセフトは経済のすべてのセクターで横行している。・・・現状を放置すれば、国の経済の存続を左右する深刻な脅威になり、経済全体が破壊されかねない。問題は、サイバースパイやサイバーセフトの被害にあっても、企業が事件の公表をためらっていることだ。

パリとベルリンの経済官僚たちは、「この10年にわたって、周辺国は生産性が伸びていないにも関わらず、賃金レベルを引き上げたのが間違いだった」と批判するが、考えるべきは、周辺国がその資金をどこから調達したかだ。資金の出所はフランスとドイツの銀行だ。つまり、(ギリシャ、アイルランド、ポルトガル)などの周辺国の一つでも債務を履行できなくなれば、危機はEUの主要国へと瞬く間に広がりをみせていく。そして、ヨーロッパの危機はMMFとCDSのエクスポージャーによって、アメリカの銀行にも非常に深刻なダメージを与え、ヨーロッパとアメリカのリセッションはますます深刻になる。ここで、中国は何をするだろうか。のどから手が出るほど欲しがっているあらゆる技術、宇宙工学技術、金融資産をヨーロッパから非常に安い価格で入手するかもしれない。中国が台頭し支配的な影響力を持つようになるのが間近なのか、遠い将来なのかはともかく、欧米はグローバルな金融システムを、自分たちにダメージを与え、中国を大きく利することになる装置へと変貌させてしまっている。

CFRインタビュー
なぜ、パレスチナは国連に活路を求めたのか

2011年9月号

エドワード・デレジアン ジェームズベーカー公共政策研究所ディレクター

パレスチナは国連安保理、あるいは総会において国家として承認を取り付けることで、イスラエルと同じ交渉上の立場を手に入れたいと考えているようだ。これによって(エルサレムの帰属、パレスチナ難民の帰還権、ユダヤ人入植地、国境画定など)最終地位問題を前倒しして交渉できるようになる。・・・パレスチナが今回のような行動に出たのは、イスラエルの入植地問題(住宅建設)が(イスラエルとパレスチナ間だけでなく、アメリカとイスラエル間の)大きな対立の争点となったことで、ワシントンの路線が行き詰まってしまい、交渉の進展が望めなくなったためだ。・・・・

イギリスの暴動と緊縮財政路線
―― 緊縮財政と階級政治の政治学

2011年9月号

マティアス・マタイス アメリカン大学准教授

2011年夏、イギリスの複数の都市で起きた暴動の背景には、財政・債務危機と政府の緊縮路線に対する反発があった。暴動は、緊縮財政路線への不満と階級政治が重ね合わせられた結果の社会反乱であり、その構図は、30年前にイギリスで起きた暴動を彷彿とさせる。当時のサッチャー首相はこの危機に強硬な治安対策で対処した。その後、小さな政府を目指すネオリベラリズム路線が消費の拡大をもたらし、経済を浮遊させたことで、最終的に危機は克服された。だが、いまは消費の拡大など望みようもない状況だ。政府は銀行救済のために介入したが、貧困層への救済策はとらなかった。それどころか、福祉と社会保障プログラムを打ち切らざるを得なくなった。イギリスが陥っている事態は、他の諸国にとっても他人(ひと)事ではないだろう。結局のところ、大きな社会格差、低成長、そして緊縮財政はイギリスに特有のものではない。いまや主要先進国を含む、多くの諸国が似たような状況に直面しているのだから。

米財政を左右する医療保険制度改革

2011年9月号

ピーター・R・オルザック シティグループグローバルバンキング担当副会長

現在から2050年までに、連邦政府の医療関連支出はGDPの5・5%から12%以上にまで増大し、財政を大きく圧迫する。国際社会におけるアメリカのポジションは、この医療コストの爆発的な増大をうまく管理できるかどうかに左右される。この問題をうまく管理できなければ、アメリカは厳しい財政危機に直面するか、医療部門以外への投資能力を失う事態に追い込まれる。医療制度を根本的に見直し、エビデンスと医療の質に基づき、医師を含む医療プロバイダーがより良いツールを患者に提供し、医療の価値と質を高めるインセンティブを持つような医療制度を形作る必要がある。現在の医療保険制度改革がうまく機能すれば、2028年以降は医療改革法によって連邦政府の医療支出全体が少しずつ減少し始める。だが、そこにたどり着くには、非常に困難で複雑なプロセスをクリアしていかなければならない。

欧州によるスマート・ディフェンスを提唱する
―― 緊縮財政時代の大西洋同盟

2011年9月号

アナス・フォー・ラスムセン NATO事務総長

冷戦終結以降、NATOに加盟するヨーロッパ諸国は防衛支出を約20%削減している。一方、軍事予算のレベルを大幅に引き上げている新興市場大国は、欧米と必ずしも利害認識を共有していない。つまり、そこにあるのは、グローバル秩序に利害を共有するプレイヤーの数がかつてなく増えているにも関わらず、それを擁護していこうとするプレイヤーの数が少なくなっているという皮肉な現実だ。私が提唱する「スマート・ディフェンス」とは、他国と協力し、より柔軟な路線をとることで、これまでよりも少ない予算で安全保障を維持していく防衛態勢だ。防衛費を増やすかどうかではなく、それをいかにスマートに用いるかで今後は左右される。多国間アプローチを模索し、大西洋同盟の戦略志向を強め、グローバル化が作り出した安全保障問題を管理していくために新興国と協力する必要がある。ヨーロッパ防衛により一貫性をもたせ、大西洋の絆を深め、他のグローバルアクターとNATOの関係を強化していくことこそ、経済危機が安全保障危機を招き入れるのを阻止する唯一の方法だろう。

CFRインタビュー
メドベージェフのロシアからプーチンのロシアへ

2011年9月号

スティーブン・セスタノビッチ 外交問題評議会ロシア・ユーラシア担当シニア・フェロー

2000年から2008年まで大統領を務めたプーチンのロシアでの人気は依然として高い。だが、多くの人は、彼が大統領に返り咲けば「時代からの逆行になる」と考えている。メドベージェフが近代国家の建設にコミットしているのに対して、プーチンは「過去の人」とみなされており、今後、メドベージェフは自らの改革アジェンダをめぐって、どのように首相としての権限を利用していくか先の読めない状況に直面する。さらに、メドベージェフと対立して財務相を辞任したアレクセイ・クドリンが野党勢力の指導者に転じれば、非常に重要な政治的台風の目になる可能性がある。この場合、プーチンがこれまでうまく束ねてきたエリート層に亀裂が生じることを意味するからだ。プーチンもメドベージェフも、いったいどの程度の政治家が今後クドリンに続くかを考えざるをえなくなるだろう。

CFRインタビュー
市場ボラティリティの政治ファクター

2011年9月号

マイケル・スペンス 米外交問題評議会特別客員フェローノーベル経済学賞受賞エコノミスト

市場がボラタイルなのは、経済の成長率が鈍化すると考えられ、しかも、政治的不作為と膠着状態が存在するためだ。政策面での不確実性もリスク認識とボラティリティを高めている。欧米経済が停滞している程度なら、新興国は高い成長率を維持できるだろう。だが、欧米経済が深刻な不況に陥った場合には、新興国もその余波を受ける。非常に大きな輸出需要が消失することになるからだ。・・・短期的に、準備通貨してのドルの代替策が浮上してくることはない。ユーロが安定すれば、第2の準備通貨になれる可能性はある。人民元も貿易決済通貨としての役割を拡大していくだろうが、少なくとも今後10年は準備通貨としての役割を果たすのは難しいだろう。・・・

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