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論文データベース(最新論文順)

次なる核のメルトダウンを防ぐには
―― 福島原発事故の教訓

2011年4月号

ビクター・ジリンスキー  元米原子力規制委員会委員長(物理学者)

核燃料を入れるジルコニウム管が高熱の蒸気に触れると水素が放出され、これが空気に触れて爆発が起き、その結果、原子炉を取り巻く格納施設が破壊された。(福島原発では)放熱が進むにつれて、少なくとも、原子炉内の核燃料の一部が溶融し、メルトダウンを起こした可能性が高い。これによって放射性物質が拡散し、その一部は格納施設の損壊部分から大気へと拡散した。どの程度のメルトダウンが起きているかは、原子炉内の放射線量が原子炉を開けても問題がない程度まで放射性崩壊が進んだ数年後に、実際に原子炉を開けてみるまではわからない。福島第一原発の原子炉がどのような状態にあるかは、状況がさらに悪化しないと仮定しても、今後、数年間はわからないままだろう。

メルトダウンの文化的背景
―― 閉鎖的原子力文化とチェルノブイリ事故
(1993年発表論文)

2011年9月号

セルゲイ・P・カピッツァ モスクワ物理工科大学

山登りであれ、原子力工学であれ、危険を伴う行動の安全性を左右するのは人的ファクターだ。原子力施設の概念構築、設計、建設、稼働に至るまで、それに携わる人間の姿勢を考慮に入れなければならない。だが、安全の絶対的な前提であるプロフェッショナリズムの文化が、全般的にも技術領域においても、ソビエトの原子力産業には欠落していた。安全に関する指令や手続きは存在したが、ソビエトの原子力プログラムでは、この人的な側面における安全基準が満たされていなかった。これが、チェルノブイリ事故の文化的背景だった。

ノルウェーのイスラム教徒 ―― 脅かされるイスラム教徒と多文化主義

2011年9月号

ショアイブ・サルタン 前ノルウェーイスラム評議会事務局長

イスラム・コミュニティのノルウェー国内における成長がノルウェー社会の緊張を高めていた。近年では、男児の割礼、イスラムの教えに従った食肉処理、女性がまとうヒジャブなど、イスラムの伝統と習慣が国内で実践されていることに対する懸念と反発が高まっていた。ノルウェー人にとって異質な、これらイスラム的習慣に対する懸念と反発に右派政党は目を付け、「ノルウェーの生活様式がイスラムによって浸食されている」と主張し、社会を反イスラムへと扇動した。しかも、イスラム批判は、次第にノルウェーの多文化主義批判へと姿を変えていった。この社会環境のなかで起きたのが、アンネシュ・ブレイビクが決行した反イスラムテロだった。・・・

原発事故が子供たちと経済に与えた影響
―― チェルノブイリの教訓
(1986年発表論文)

2011年9月号

ベネット・ランバーグ カリフォルニア大学国際戦略センター 上席リサーチアソシエーツ

チェルノブイリ事故の放射能はヨーロッパへと飛散し、大陸に大きな懸念と心理的なトラウマを作り出した。欧州経済共同体(EEC)は、チェルノブイリから半径1000キロ以内の地域・国から生鮮食料品の輸入を禁止し、公衆衛生当局は、異なる放射線量基準を用いて、チェルノブイリの周辺地域で生産された野菜やミルクが消費されるのを阻止するために様々な措置をとった。・・・低レベル放射線被曝がどのような影響を人体に与えるかについては、専門家の間でもコンセンサスはない。われわれが自然界から放射能を日常的に受けていることは誰もが知っているし、特定の放射性物質は体内でも生産される。必ずしも無害とは言えない、こうした「バックグラウンド」放射線量のレベルは一般に年間100ミリレム(=1ミリシーベルト)と考えられている。この数字が、人工放射線被曝のベースラインとされたにすぎない。・・・・

漂流する日本の政治と日米同盟

2011年9月号

エリック・ヘジンボサム ランド研究所シニア・ポリティカルサイエンティスト
エレイ・ラトナー ランド研究所アソシエート・ポリティカルサイエンティスト
リチャード・サミュエルズ マサチューセッツ工科大学教授

もはや日米関係が未来を明確に共有しているとは言い難い。改革によって(官僚主導から政治主導への)制度上の明確な権限移譲が実現するどころか、むしろ政治家の抗争、政治家と官僚の抗争が誘発され、その結果、権力の空白が生じ、政府の政策決定能力が損なわれている。これが日米関係、日米同盟にとって何を意味するかを考えなければならない。アメリカは日本に国益を有しているし、日本が困難な状況に陥った場合には、手を差し伸べる道義的な責任も負っている。だが、日本の先行きは依然として不透明で、しかも、いまや国防予算削減の時代にある。ワシントンはアジアにおける重要な目標を定義し、それに応じて資源を振り分けていくことを考えるべきだ。日米同盟を守っていくのが最優先課題でなければならないが、ワシントンは他の地域的なパートナーとより緊密に協力していく態勢を整えておくべきだろう。

CFRインタビュー
紛争介入戦略の終わり
―― 予算削減に応じた対外コミットメントの見直しを

2011年9月号

リチャード・ベッツ 米外交問題評議会非常勤シニア・フェロー

おそらく国防予算に大なたが振るわれるのは避けられない。われわれの軍事的なコミットメント、能力、資源、戦略をバランスのとれたものにしなければならない。予算を削減しなければならないのなら、バランスをとるためにコミットメントを引き下げるしかない。アメリカは常設軍を持っていなかった第二次世界大戦前の状況へ回帰していくべきだろう。訓練、研究・開発、組織構造、メンテナンスを重視し、状況が変わり、世界情勢が悪化した場合には、戦力増強のベースになるこれらの軍事インフラを用いて、戦力を迅速に動員していくやり方に切り替えていくべきだ。特に、高度な先端技術を用いた戦闘機、戦艦、大規模な兵器システムの導入には慎重でなければならない。われわれの軍事技術領域における優位を可能な限り維持するために、研究・開発は続けるべきだが、国際情勢が悪化し、先端兵器が必要になるまでは、そうした兵器を大規模に配備すべきではないだろう。

新しい朝鮮半島を思い描く
―― 毅然たる態度で南北間の信頼を形作る

2011年9月号

朴槿恵(パク・クネ)
韓国ハンナラ党前党首

北朝鮮と韓国は互いに相手を信頼していない。これが、朝鮮半島における真の和解を長く阻んできた。残されていたわずかな信頼さえも、2010年に北朝鮮が起こした一連の事件によって消失してしまった。・・・・・・とはいえ、「片手では拍手できない」ということわざが韓国にある。南北間の平和も双方が努力しなければ実現しない。この半世紀以上にわたって、北朝鮮は国際的規範を無視し続けてきた。もちろん、平壌の挑発行動にはソウルは毅然と対処しなければならないが、一方で、両国間の関係改善の新たな機会には開放的な態度をとるべきだろう。いまや南北間の信頼は地に落ちているが、逆に言えば、信頼関係を再構築していく機会を手にしていると考えることもできる。朝鮮半島を紛争ゾーンから信頼のゾーンへと変えるために、韓国は信頼構築政策(trustpolitik)をとり、グローバルな規範に基づき、ともに信頼できる期待を育んでいかなければならない。

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