1994年以降に発表された邦訳論文を検索できます。

論文データベース(最新論文順)

思索の人、ジョージ・F・ケナンの遺産
―― 決して満足しない精神

2012年1月号

ニコラス・トンプソン ニューヨーカー誌エディター

ジョージ・ケナンは非常に重要な時期に、トルーマン政権の国務省で政策企画部長を務め、第二次世界大戦後の世界を再設計する仕事をした。だが、その後、彼はワシントンのやり方に苛立ちを感じ始め、ワシントンも彼を厄介な存在とみなすようになる。ケナンは聡明であるがゆえに苛立ち、遠大なビジョンの持ち主であるがゆえに不満を抱いた。彼はこの間ずっと、厳格な自己批判、自虐的な考えを自分のメモとして書き残している。「自分がひ弱で、幼稚で、役に立たないだめな人間に思えることがある」。彼の聡明さと自己卑下はつねに表裏一体をなしていた。現状に満足することに不快感を覚え、「われわれ」は「この現状」よりもよくなれると確信していた。「われわれ」が誰で、「この現状」が何であるかは問題ではなかった。ケナンとは、決して満足しない精神そのものだった。

追い込まれたウクライナの危険な賭け
―― ロシアかEUか、それとも革命か

2012年1月号

ラジャン・メノン 米リーハイ大学教授(国際関係) / アレクサンダー・J・モティル 米ラトガーズ大学教授(政治学)

無策、無能で、政治腐敗にまみれ、権威主義的。こうした形容詞で語られるウクライナのヤヌコビッチ政権は、市民の支持を失っている。2011年半ば、追い詰められたヤヌコビッチ大統領は、もっとも痛みが少なさそうな安易な打開策を選んだ。ヨーロッパの価値を無視したまま、EUに接近する策をとったのだ。しかも、プーチンが標榜する関税同盟への参加を拒否しておきながら、ロシアとも良好な関係を維持しようと究極の二股をかけている。だが国内情勢からみると、こうした打開策はすでにタイミングを失している。ヤヌコビッチの最大の成果とは、世論を反ヤヌコビッチでまとめあげたことくらいで、市民の怒りはどうみても行き場を失っている。このままでは政府機能が麻痺し、社会不満が拡大し、2012年のどこかの段階で市民の怒りが大きな形で爆発する危険がある。

ユーロ危機とヨーロッパの政治

2012年1月号

モーリジオ・モリナーリ スタンパ紙 駐米コレスポンデント、 アンドリュー・ナゴルスキー イーストウェスト・インスティチュート 副会長、 エレイン・シオリーノ  ニューヨークタイムズ紙 パリ支局、デビッド・A・アンデルマン  ワールドポリシー・ジャーナル エディター

ドイツは欧州中央銀行(ECB)が(周辺国の国債を買い入れるなど)大規模な資金を提供すれば、インフレがおきるのではないかと警戒するとともに、危機に直面している国が改革を実行しなくなることを恐れている。・・・「何をすべきなのかは誰もが分かっているが、それを実行して、再選されるかどうか誰も確信が持てずにいる」。だがドイツの場合、どうすべきかについてのコンセンサスもない。(A・ナゴルスキー)

イタリア、フランス、スペインは、ECBが、アメリカの連邦準備制度のように、より積極的な介入策をとることを望んでいる。だが、ドイツは立場を明確にしない。(M・モリナーリ)

ソビエト対外行動の源泉(X論文)

2012年1月号

ジョージ・ケナン

 冷戦の理論的支柱を提供した文書としては、ポール・ニッツが中心となってまとめた1950年の「NSC68」、トルーマン政権の大統領特別顧問クラーク・クリフォードによる1946年の「クリフォード・メモランダム」、そして、ジョージ・ケナンの「ソビエト対外行動の源泉」が有名である。前者二つが政府文書であるのに対し、「ソビエト対外行動の源泉」は「フォーリン・アフェアーズ」誌の1947年7月号に名を伏せて「X論文」として掲載された。

 この論文の著者、ジョージ・ケナン(1904-2005)は、1925年に国務省に入省し、ジュネーブやプラハなどヨーロッパ各地を転任した後、1933年モスクワに駐在し、以来ソ連通としてキャリアを重ねていく。1947年に新設された国務省政策企画部の初代部長、1952年から1953年にかけて駐ソ大使を務めるなど、アメリカ冷戦外交の重責を担う。その後1961年にはユーゴスラビア大使となり、1963年に国務省から退く。その後、プリンストン高等研究所で歴史の研究に従事した。

 この論文の原形は、ケナンが1946年にモスクワから打電した「モスクワからの長文の電報」である。電文で示されたケナンの対ソ認識に感銘したジェームズ・フォレスタル海軍長官の推薦で、ケナンは1947年1月に外交問題評議会の研究会でソビエト分析についての報告を行う。講演内容を興味深く感じた「フォーリン・アフェアーズ」誌の編集長ハミルトン・フィッシュ・アームストロングが、「政府の一役人にすぎないから」としり込みするケナンを説得し、「X」という名で「フォーリン・アフェアーズ」に発表させたのがこの論文である。掲載された論文はわずか17ページだったが、以後半世紀にわたってアメリカの対外政策を方向付け、「封じ込め」という語は政治用語のひとつにさえなった。

 政府部内の冷戦コンセンサスの形成には、先のクリフォード・メモ、「モスクワからの長文の電報」、「NSC68」が大きな役割を果たしたのに対し、政策決定サークルを超えた「良識ある大衆」への啓蒙を諮ったのが、X論文だった。ソ連との協調という甘い期待を抱くのではなく、ソ連の拡張主義を封じ込めていく必要があるという主張は、「フォーリン・アフェアーズ」誌に掲載されたことで、広くアメリカの知識人層に影響を与えていく。歴史家のロバート・シュルジンガーは、「X論文」を、「現代史上、もっとも引用され、影響力があり、そして誤解された論文の中のひとつ」と述べている*。(竹下興喜)

*Robert D. Schulzinger, The Wise Men of Foreign Affairs, p.123 (Columbia University Press, New York), 1984

CFRインタビュー
プーチン時代の終焉か?

2012年1月号

スティーブン・セスタノビッチ 米外交問題評議会ロシア担当シニア・フェロー

ロシアの民衆が抗議行動を展開しているのは、下院選挙の不正に対してだけではなく、プーチンが出馬を表明している3月の大統領選挙のことを気に懸け、プーチンに対する反発を強めているからだ。・・・プーチンの再出馬表明を前に、人々は「結局、プーチンがすべてを決めているわけで、自分たちの意見など考慮されることはない」と考えるようになった。この社会風潮のなか、プーチン陣営は3月の大統領選挙で決選投票に持ち込まれるのではないかと心配し始めている。実際、プーチンが二人の候補のうちの一人にすぎなくなった環境では非常に多くのロシア人が、反プーチン票を投じるかもしれない。・・・ロシアにおける選挙の特徴は、何かに対する反対票が大きな流れを作り出すことにある。これまでプーチンは、何かの大義や敵を特定して民衆を動員する政治的才能をいかんなく発揮してきた。最初の大統領選挙ではチェチェンの分離主義を敵として引き合いに出し、2回目の選挙ではオリガーク(新興財閥)を、(後継者の)メドベージェフが勝利を収めた3度目の選挙では、欧米をやり玉に挙げた。だがいまや、民衆を動員できるスローガンは「反プーチン」そのものになりつつある。

CFRミーティング
世界エネルギーアウトルック
――天然ガス革命、温暖化、石油、クリーンエネルギーの未来

2012年1月号

スピーカー
ファティ・ビロル 国際エネルギー機関(IEA)チーフエコノミスト
プレサイダー
エドワード・L・モース シティグループ・グローバルマーケットマネージング・ディレクター

仮に脱原発が世界的な流れになれば、何がどう変わるのか。原発施設の停止による電力生産の減少分は、主に再生可能エネルギー、天然ガス、石炭を用いた電力生産で埋められていく。この場合、石炭と天然ガスへの需要がさらに高まり、当然、価格は上昇する。エネルギーミックスの多様性も低下し、二酸化炭素排出量が増大する。各国政府は、ドイツ政府のように脱原発を求める市民の声に耳を傾ける必要があるが、(環境とエネルギーという)国益からみた構造的な必要性にも配慮する必要がある。というのも、現状では、地球の気温が6度上昇する軌道にあるからだ。さまざまな地球温暖化対策の議論が行われているにも関わらず、この事実は変わらない。実際、2010年には二酸化炭素排出量は史上最大レベルへと達しており、現状が何も変化しないとすれば、2017年には地球の気温上昇を2度に抑える機会は永遠に失われてしまう。しかも、各国政府は、クリーンエネルギーのための予算を財政赤字問題に対処するために充当しつつある。これまで再生可能エネルギーを積極的に推進してきたヨーロッパの主要国も、再生可能エネルギーへの補助金を打ち切りつつある。・・・

なぜユーロプロジェクトは失敗したか
―― ギリシャのユーロ離脱は何を引き起こすか

2012年1月号

マーティン・フェルドシュタイン ハーバード大学教授

共通通貨を導入さえしなければ生じたはずのない緊張と対立をユーロはヨーロッパにもたらした。これは、経済的に多様な国家集団に単一通貨を強要したことの必然的な結末だ。調和に満ちたヨーロッパを形作るという政治目標にもユーロは貢献できず、そこには政治的対立と反発が渦巻いている。もはやギリシャにはユーロ離脱という選択しか残されていない。ユーロを離脱し、新ドラクマを導入すれば、通貨の切り下げができるようになるし、ディフォルトに陥っても、ユーロ圏にとどまった場合よりも痛みは軽くて済む。問題は、ギリシャのユーロからの離脱がどのような連鎖を引き起こすかだ。ギリシャが離脱し、通貨の切り下げに踏み切れば、グローバル資本市場は、他のユーロ加盟国はどう反応するだろうか。・・・

台頭するアフリカ
―― その経済ブームの秘密とは

2012年1月号

エドワード・ミゲル
カリフォルニア大学バークレー校
経済学教授

アフリカが、中国よりも多くの繊維工場を、インドよりも多くのコールセンターを持つようになるのは、おそらく時間の問題だ。人々の教育への間口が広がったこと、民主政治の台頭、技術拡散、経済政策決定の効率化などを通じて、「新しいアフリカ」が誕生している。そこにあるのは、メディアが描く「暗黒の大陸」というイメージとは別次元の明るい世界だ。大陸全体でみても、一人あたり経済成長率は1990年末以降、プラスに転じている。状況が大きく改善しているのは経済だけではない。アフリカ諸国の多くは、1960年代に植民地からの独立を果たして以降初めて、複数政党制による選挙を経験し、いまや、市民的自由、報道の自由も大きく進展している。いったいアフリカに何が起きたのか。

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