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論文データベース(最新論文順)

イギリスは統一を維持できるのか
―― 構成地域ナショナリズムと連合王国

2023年5月号

フィンタン・オトゥール プリンストン大学教授

ウェールズ、スコットランド、北アイルランドだけではない。イングランドの有権者も、これまで、イギリスのアイデンティティに埋もれていたイングランド・ナショナリズムを主張するようになった。一方で、イングランドの政治家と有権者が推進したブレグジットは、北アイルランドとスコットランドでのイギリスに対する不満を増幅した。こうして、スコットランドでは、住民の過半数(52%)が独立を支持し、北アイルランドでも、イギリスを離脱してアイルランドに加わりたいという人が劇的に増えている。重層的な課題が表面化するなか、イギリスは国際秩序における位置づけだけでなく、今後も一体性をもつ国とみなされ続けるかどうかもはっきりしなくなっている。かつて世界を形作った国家は、もはや自国の形態さえ保つことができないのかもしれない。

ロシアは何を間違えたのか
―― そして、モスクワが失敗から学べば

2023年5月号

ダラ・マシコット ランド研究所 上級政策研究員

ロシアにとって重要な問題のいくつかは、モスクワには制御できないものだ。ロシアに対抗していくウクライナ人の決意はさらに堅固になっており、この決意を揺るがすことはできない。ロシアには欧米の武器や情報のウクライナへの流入を阻止する意思も能力もない。つまり、ウクライナの決意と欧米の支援がある限り、モスクワが、ウクライナを当初考えていたような傀儡国家にすることはできない。なぜロシアは優位を維持できず、なぜ動けなくなり、主要都市から締め出され、守勢に立たされたのか。だが、ロシア軍は、完全に無能だったわけでも、学習能力がなかったわけでもない。戦略調整を続け、南・東部の占領地支配を固めれば、最終的には、窮地を脱して勝利をつかめる可能性もある。

エネルギー不安の時代
―― 移行期におけるリスクにいかに備えるか

2023年5月号

ジェイソン・ボルドフ コロンビア大学 クライメートスクール 学院長
メーガン・L・オサリバン ハーバード大学ケネディスクール 教授(国際関係)

「エネルギー安全保障に対する過度な懸念が、気候変動との闘いを妨げるかもしれない」。専門家がこう考えていたのはそう昔の話ではない。だが、いまやその逆が真実だ。ネット・ゼロへの移行が進むにつれて、エネルギー安全保障への配慮が不十分であることが、気候変動対策により大きな脅威を突きつけることになるかもしれない。移行期におけるリスクを抑えながら、クリーンエネルギーへのシフトを試みるには、一方で、石油の戦略備蓄の強化、重要鉱物の戦略備蓄、供給混乱への保険策としての火力発電所の温存なども必要になるだろう。政策立案者はいまや、エネルギーと気候の安全保障を適切なバランスで考え、ともに成立させる必要があることを理解しなければならない。

中東秩序の分水嶺
―― イラン・サウジ合意と米中競争

2023年5月号

マリア・ファンタッピー 在ローマ 国際関係研究所(IAI)
バリ・ナスル ジョンズ・ホプキンス大学 高等国際関係大学院 教授

サウジは、イランとの関係正常化交渉に中国を関与させるのが、合意を永続化させるための間違いのない保証になると考えた。イランも、習近平は信頼できる仲介者の役割を果たすことができると考えた。一方、「アラブ・イスラエル同盟がイランを封じ込める」という構図を期待してきたワシントンの立場は非現実的になった。リヤドはアメリカだけでなく、ロシアや中国とも緊密で独立した関係をもつことを望んでいる。エジプト、イラン、イスラエル、トルコとのバランスをとりながら、サウジの安全を守り、地域に影響力を行使する、重要な役割を担っていると自負している。

戦争発言の真意
―― 習近平発言をどう受け止めるべきか

2023年5月号

ジョン・ポンフレット ワシントンポスト紙 前北京支局長
マット・ポッティンジャー 元米大統領副補佐官

2022年12月以降、中国政府は、北京、福建、湖北、湖南を含む各地で有事動員センターを相次いで開設している。国営メディアによると、台湾と海峡を隔てた福建省の各都市では、防空壕と少なくとも一つの「戦時救急病院」の建設や整備が始められている。しかも、習近平は、中華民族の偉大なる復興の「本質」は「祖国の統一」だと明言している。台湾の編入と「中国民族の偉大なる復興」の相関性を示唆しつつも、彼が、かくも明確にその関連を示したことはなかった。欧米は習近平の発言を真剣に受け止めるべきだろう。彼は、台湾を統合するためなら、武力行使も辞さないつもりだ。

反米パートナーシップのリアリティ
―― 中露関係をどう評価するか

2023年5月号

トーマス・グラハム 米外交問題特別フェロー ロシア・ユーラシア担当

2023年3月、中露の指導者は「ルールを基盤とする米主導の国際秩序を覆して、多極化を模索する」意図を確認しつつも、習近平はロシアに兵器を提供するとは明言しなかった。現実には、ウクライナ戦争の軍事的膠着状態は北京に恩恵をもたらしている。ウクライナ侵略は、アメリカの関心と資源をインド太平洋地域から遠ざけ、ロシアは経済的生命線を中国に頼らざるを得なくなっている。しかも、重要な天然資源、特に石油やガスをロシアから安価に入手できる。この計算を前提にしたのか、今回も、習近平はロシアが十分に戦いを継続できる道徳的・物的支援を約束しつつも、ロシアが優位を得るのに必要な支援には踏み込まなかった。・・・

中国と中東
―― 中東における米中の役割

2023年5月号

トリタ・パルシ クインシー研究所上席副会長
ハリド・アルジャブリ 亡命サウジ人心臓専門医

2023年3月のイラン・サウジ国交正常化合意は、中東全域に前向きな衝撃を与えるだろう。中東での外交的仲介をめぐって、今回、中国が主導的役割を果たしたことは注目に値する。ワシントンの戦略的間違いが、イランとサウジの双方に信頼される数少ない大国の一つとして中国の台頭を促した。カーター・ドクトリンを封印したトランプがサウジをイランとの外交に向かわせ、バイデンの人権外交が、中東における仲介役としての中国の台頭に道を開いた。中国の安定性は、イラン、イスラエル、サウジと良好な関係を維持し、この三国間の争いに完全に中立を保っていることによって生まれている。・・・

トルコ地震とエルドアンの政治的命運
―― エルドアン政治の終わり?

2023年4月号

ソネル・カガプタイ ワシントン・インスティチュート  トルコ研究プログラム ディレクター

1999年のトルコ大地震では、民衆と家父長的国家間の「社会契約の限界」が露わになった。地震とそれに続く経済危機が社会不満を高め、オスマン帝国の残骸のなかで国を再建してきた「世俗的でしばしば非自由主義的なケマル主義者の政治体制」の崩壊が進んだ。その瓦礫のなかから、エルドアンと彼のイスラム主義政党が権力を握り、トルコを変貌させていった。だがいまや、エルドアンはかつてとは逆の立場に立たされている。今回の大地震は、約25年前の地震と同じように、石灰化した政治秩序を崩壊させるかもしれない。

まかり通る不正とポリクライシス
―― インピュニティで世界を捉えると

2023年4月号

デービッド・ミリバンド 元イギリス外相

ロシアのウクライナ戦争から世界的な食糧不足、気候変動に至るまでの、多層的な脅威を前に、いまや「ポリクライシス(複合危機)」という表現をよく耳にする。問題の一つは、インピュニティ(不正が咎められないこと)が、現在のグローバルな危険を拡大させ、その余波があらゆる人に及んでいることだ。そして、ポリクライシスの原因と対応を考えるとき、民主主義対独裁主義、北対南、右対左といった対立構図の議論はあまり役に立たない。むしろ、グローバルな課題を、民主主義と独裁主義の闘いではなく、「インピュニティ」対「説明責任」の闘いとして位置づけ直せば、グローバルな聴衆に対して、問題をもっと包括的に語りかけることができる。インピュニティの指標には、紛争と暴力、人権侵害、説明責任を果たさない統治、経済的搾取、環境破壊という五つの指標がある。

大国間競争とドルの命運
―― 制裁と地政学とドル秩序の未来

2023年4月号

カーラ・ノーロフ トロント大学教授(政治学)

中ロは、アメリカによる経済制裁の痛みから逃れようと、自国通貨での決済を増やして、ドルシステムへの対抗バランスを形成しようと試みている。一方、安全保障の視点からドル支配体制の強化を望む国もある。不安定な国際環境のなか、各国は「友好国との地政学的経済関係」を重視しており、これが、世界最大の安全保障ネットワークの中枢に位置するアメリカとその通貨であるドルに新たな優位をもたらしている。もちろん、ワシントンが経済制裁を乱用すれば、ドルに代わる通貨を模索する各国の動機が強化される。アメリカはリベラルな国際秩序の公共財を強化する形で経済外交を展開しなければならない。主要な同盟国や国際社会の多くを離反させれば、アメリカはドル支配体制を維持できなくなる。

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