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論文データベース(最新論文順)

何がTPPの進展を阻んでいるのか
―― 条約案の情報公開か、交渉の決裂か

2012年7月号

バーナード・ゴードン
ニューハンプシャー大学名誉教授(政治学)

TPP(環太平洋パートナーシップ)交渉が実を結べば、アメリカは次世代にむけて政治的にも経済的にもはるかに力強い存在になる機会を手にする。日本が合意に参加すれば、実質的に日米自由貿易合意が誕生し、日本にとっても長く模索してきた「第3の開国」になる。より広範には、アメリカ政府は、TPPを合意されたルールに基づく、開放的で相互につながった貿易の基盤にしたいと考えている。だからこそ、アメリカ政府は2012年末までに合意のアウトラインを確定することを望んでいる。だがそのためには、まずアメリカ国内の反対、特に自動車産業、保険産業、農業団体の反対を克服しなければならない。ワシントンは、可能な限り、知的所有権を含むアメリカの立場に対する内外の懸念に応えていくべきだし、交渉プロセスの透明性を高めていかなければならない。そうしない限り、TPP交渉は決裂する恐れがある。

CFRブリーフィング
TPPとアメリカの貿易政策

2012年7月号

クリストファー・アレッシcfr.org アソシエート・スタッフライター
ロバート・マクマホンcfr.org 副編集長

TPPは中国を警戒させ、アジア地域を競合する敵対的なパワーブロックへと分裂させると憂慮する専門家がいる一方、「日本、アメリカ、オーストラリアを含むTPPは(中国の台頭に対する)健全な代替策になる」という見方もある。さらに、二国間自由貿易や(TPPのような)地域的自由貿易構想は、世界貿易機関(WTO)が主導するグローバル貿易を損なってしまうと批判する専門家もいる。・・・

マフィア国家の台頭
―― 融合する政府と犯罪組織

2012年7月号

モイセス・ナイーム
カーネギー国際平和財団
シニアアソシエート

もっとも多くの利益をもたらす違法行為に手を染めているのは、犯罪のプロだけではない。いまや政府高官、政治家、情報機関や警察のトップ、軍人、そして極端なケースでは国家元首やその家族たちも違法活動に関わっている。世界各地で、犯罪者がこれまでにないレベルで政府に食い込み始める一方で、パワフルな犯罪組織を取り締まるどころか、政府が犯罪組織に代わって違法活動を行っている国もある。こうして犯罪組織と政府が融合した「マフィア国家」が誕生している。実際、ブルガリア、ギニアビサウ、モンテネグロ、ミャンマー(ビルマ)、ウクライナ、ベネズエラなどでは、国益と犯罪組織の利益が結びついてしまっている。犯罪組織が最初に狙うのは、腐敗した政治システムだ。中国とロシアは言うまでもなく、アフリカや東ヨーロッパ、そしてラテンアメリカ諸国の犯罪者たちは、従来の犯罪組織では考えられなかったような政治的影響力を手にしている。もちろん、政府そのものが犯罪行為を行う北朝鮮のような国もある。

変化の時代における米陸軍の役割
―― 予算削減、アジアシフト、展開能力の強化

2012年6月号

レイモンド・T・オディエルノ 米陸軍参謀総長

アメリカはアジア太平洋地域における安定の擁護者として重要な役割を果たしている。特に陸軍は平時においても重要な地域的役割を担っている。陸軍のプレゼンスは、潜在的敵対勢力の侵略に対する抑止力形成に不可欠だし、相手の軍事計画立案を複雑にするとともに、われわれのプレゼンスを無視して相手が他の軍事領域へ投資するのを阻む歯止めにもなる。・・・アジア・太平洋地域の軍事力は陸軍が主流であり、それだけに米陸軍が地域パートナーと力強い関係を維持することが、さまざまな事態に対処していく上できわめて重要だ。地域的な同期化には、言語や文化に関する教育、そして特有の装備も必要になる。・・・予算削減という現実に対応していくには、戦力の規模、装備、訓練と即応態勢という三つのバランスを均衡させていく必要がある。

BRICSのポテンシャルを 再検証する

2012年6月号

マーチン・ウォルフ フィナンシャルタイムズ紙 チーフ・エコノミック・コメンテーター

BRICS各国の価値観はそれぞれに大きく違っている。たしかに、「自分たちは世界経済にとって重要な国で、もっと世界から重視されるべきだ」と考えている点では共通点がある。自分たちと先進諸国との関係はどうあるべきなのかという点でも認識を共有している。彼らは「自分たちは台頭する国家だが、先進国は衰退しつつある」とみており、世界秩序をこの視点から変えていきたいと考えている。だが中国の覇権によって形作られる世界の出現は必ずしも望んではいない。各国の利害認識、価値観、政治システム、国家目的は大きく違っている。ロシアは衰退途上にある国家だし、南アフリカが経済大国になることはない。しかも中印の間には激しいライバル意識が存在する。・・・

「ブラジル経済の奇跡」の終わり
―― 社会保障か経済成長か

2012年6月号

ルチール・シャルマ モルガン・スタンレー投資管理 マネージングディレクター

ブラジル経済の成長軌道は、国内の石油、銅、鉄鉱石など、市場の資源需要の拡大軌道とほぼ重なりあっている。問題は、中国経済の減速によって、これらの原材料に対する世界需要が減少し始めていることだ。新興市場諸国が簡単に成長できた時代、原材料価格の高騰が支えた経済成長の時代、そして社会保障を優先してもブラジルがかろうじて4%の成長を実現できた時代は終わろうとしている。経済の停滞を回避するために、リスクをとり、経済を開放し、社会的安定と経済拡大のバランスをとる方法をブラジルが見つけださない限り、未来は切り開けない。改革に失敗し、原材料輸出主導路線に固執すれば、いずれ、ブラジルの経済成長も社会的安定も損なわれていく。

ギリシャ離脱でもユーロは存続する
――マーストリヒトの崩壊と「ニューノーマル」

2012年6月号

ダニエル・ケレメン ラトガース大学政治学教授 同大学ヨーロッパ研究センター所長

たしかに、ギリシャがユーロ圏から離脱すれば壊滅的な事態となり、ヨーロッパは大きなトラウマに苦しむことになる。だがそれによって、「ポスト2008年のユーロの新統治システム」が揺るがされることはない。重要なのは、マーストリヒトが定めた統治システムの多くが今回の危機によって放棄され、いまや、危機前に存在したものよりも、はるかに持続性のある、力強い統治システムが誕生していることだ。今後は、マーストリヒトではなく、加盟国の財政に対する厳格な監督、力強い強制措置、より積極的な中央銀行の介入によって規定される、ポスト2008年の「ニューノーマル」がユーロとEUを支えていくことになるだろう。

そして今も同じ、政治風景

2012年6月号

ジェームズ・カービル 政治コンサルタント

紀元前64年にローマの執政官に出馬した実兄のマルクス・キケロのためにクィントゥス・キケロがまとめた選挙戦略メモ「選挙に関する小ハンドブック」の選挙指南は見事という他ない。この文章は、(君主論をまとめた)イタリアの作家で政治思想家のニッコロ・マキャヴェリがまとめた作品同様に、政治の過酷な現実を赤裸々に描いている。クィントゥスは、選挙に勝つために何が必要かについて、われわれキャンペーンアドバイザーが「信頼構築」と呼ぶやり方から始め、その後、候補者の支持基盤の本質と強さを分析し、特定グループをターゲットにする必要性を指南し、階級闘争とみられるのを避けるようにアドバイスしている。・・・

インドの果たされなかった約束
―― 成長の一方で拡大する格差

2012年6月号

バシャラート・ピア
ジャーナリスト

タタ・モーターズは、2008年に英名門ブランドのジャガーとランドローバーを買収し、リライアンス財閥もスティーブン・スピルバーグの映画製作会社ドリームワークスの株の50%を取得した。大都市には派手な大型ショッピングモールが乱立している。だが、急成長を遂げる一方で、インドは依然として世界最大の貧困層を抱えている。貧困と差別は密接に関連している。蔓延する政治腐敗の問題もある。知識人のアシス・ナンディは、インドの民主主義は、選挙での勝敗しか考えない政治家によって「シフォクラシー(選挙第一政治)」に堕落したと嘆いている。政治家が選挙のことしか考えないため、紛争は放置され、インフラを再建することも、農業生産性を高めることも、医療ケアを弱者に拡大することもできずにいる。そして、こうした危機のすべての根底にあるのが、持てる者と持たざる者の格差の拡大なのだ。

CFR Interview
「ギリシャ後」のフランスとドイツの思惑
――統合の維持か、ユーロの解体か

2012年6月号

セバスチャン・マラビー 米外交問題評議会シニア・フェロー(国際経済担当)

ギリシャのユーロ離脱に伴う危機が国債を通じて他のヨーロッパ地域へと広がりをみせていくリスクはあまりない。だが他のルートを通じて、危機が拡大していく危険がある。ギリシャの銀行にユーロ建ての貯金をもつ人々は、(ユーロよりも価値の低い)新ドラクマ建てに交換される前に、預金を引き出そうとするだろうし、ポルトガルやスペインでも同じ現象が起き、ヨーロッパの周辺地域で銀行破綻が広がりをみせていくかもしれない。・・・さらに、ギリシャの企業が、例えばフランスの銀行への融資返済をストップすれば、銀行は大きなダメージを受け、フランス政府は銀行に公的資金を注入せざるを得なくなる。そうなれば、フランスの対GDP債務は、イタリア並みの深刻なレベルに上昇する。・・・この状況でドイツは統合を維持していくことのコストをどう評定するか。メルケルは実利と歴史の双方を考慮することになるだろう。

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