銀行同盟でユーロゾーンを救えるか
2012年08月
通貨同盟が存在するのに、ユーロ危機以降、資金は投資国へと舞い戻り、資金が国境を越えて動かなくなってしまった。「単一の銀行監督機関があり、しかも、窮地に追い込まれた銀行を、政府を経由せずに直接的に支える制度があれば、ユーロゾーン内での資金の流れを取り戻すことができる」。これが銀行同盟の基本的アイディアだ。・・・だが、完全な銀行同盟を立ち上げるには、かなり踏み込んだ財政同盟が必要になる。
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2012年08月
通貨同盟が存在するのに、ユーロ危機以降、資金は投資国へと舞い戻り、資金が国境を越えて動かなくなってしまった。「単一の銀行監督機関があり、しかも、窮地に追い込まれた銀行を、政府を経由せずに直接的に支える制度があれば、ユーロゾーン内での資金の流れを取り戻すことができる」。これが銀行同盟の基本的アイディアだ。・・・だが、完全な銀行同盟を立ち上げるには、かなり踏み込んだ財政同盟が必要になる。
2012年8月号
本来であれば、通貨統合の進展に併せて政治領域での統合も深化させるべきだった。具体的には、財政統合、銀行同盟を制度化するとともに、アメリカの連邦準備制度(FRB)並の大きな能力と権限を持つ欧州中央銀行を作り上げるべきだった。だが、ヨーロッパはこれらの監督機関が必要であることを理解していたにも関わらず、ユーロ導入へと見切り発車をした。適切な監督機関がなく、しかも、北ヨーロッパと南ヨーロッパの経済体質に大きな違いが存在したことが、ユーロの命運を脅かし続け、今日に至っている。そしていまや、危機に対応するためにも、EUの統合をさらに深化させるべきかどうかが問われている。だが、イギリスがEUから脱退する可能性も排除できないし、金融危機が長期化するなか、ヨーロッパ市民の間ではEUに対する反発が高まっている。
2012年7月号
2012年7月号
1950―60年代まで、アメリカの労働組合は政治的にも経済的にも非常に大きな影響力を持っていた。政治領域では、組合に参加していない者を含む労働者の利益擁護に広く努め、経済領域でも労働生産性の向上に応じて賃金の引き上げを求め、社会生活の向上に貢献した。このやり方を通じて、労働組合はアメリカの労働者階級と中間層を支えてきた。だが、1980年代までに組合の力は大きく衰退し、いまやアメリカは深刻な経済格差の時代に突入している。ここで、労働組合が格差と不正義の問題を正面から取り上げ、広範な経済層の利益を擁護し、賃金の停滞と政治からの隔絶に苦しむ数多くの家庭に訴えかければ、人々の支持を取り戻すことができるかもしれない。
2012年7月号
オバマ政権が2011年末に表明したアジアシフト(リバランシング)戦略はアメリカのリーダーシップを変化させていくための試金石だ。アジアシフト戦略を成功させれば、貿易促進と投資の枠組みが形成されるだけでなく、現地の部隊と緊密に連携するより小規模で柔軟な戦力へと米軍を再編することもできる。だが、オバマがそのような新しい秩序への移行をうまく模索していけるかは、イランの核開発問題をうまく決着させられるかどうか、そして、アメリカの政治・経済力を再生できるかどうかに左右される。イラン問題が制御不能になり、再び中東の安全保障がアメリカ外交の最優先課題にされるような事態になれば、他の重要な問題が再び後回しにされてしまう。また、アメリカの経済基盤がこのまま劣化していけば、長期的な国力、そして賢明な外交政策は維持できなくなる。国内的衰退を食い止めなければ、現状を大きく上回る厄介な事態にアメリカと世界は直面することになる。
2012年7月号
銀行危機に介入するのはECB(欧州中央銀行)の役目の一つだ。ECBはすでに大規模な銀行部門への資金注入を行っているが、必要になれば、再度の資金注入も検討するだろう。だが、ECBがそうするには、相手国が改革への真剣なコミットメントを示すことが条件になる。いまやヨーロッパは鶏が先か卵が先かという問題に直面している。
「ヨーロッパ」の寿命をあと3カ月とみているのはジョージ・ソロスだけではない。市場も同じ見方をしている。そして、ドイツの政策決定者の脳裏にあるのは、債務を抱え込んだゾンビがますますおぞましい姿で復活してくる悪夢のシナリオだ。・・・依然としてドイツの銀行のスペイン債務へのエキスポージャーは大きく、スペインで銀行破綻が広がればドイツの銀行も道連れになる。こうして、ドイツはこれまでの路線を少しばかり見直しつつある。だが、危機の結末を変化させるほど十分な変化ではない。ドイツは依然として反インフレ路線にこだわり、リーダーシップを引き受けるのを嫌がっている。1929年の恐慌が大きな広がりをみせたのは、イギリスには国際経済システムを安定化させる能力がなく、アメリカにはその責任を引き受ける意図がなかったからだ。このままでは1930年代の間違いを繰り返し、ECBがかつてのイギリスの役割を、ドイツがアメリカの役回りを演じることになりかねない。
2012年7月号
現在のイラン危機の多くは、テヘランが核開発を試みているからではなく、イスラエルが核を保有していることに派生している。イスラエルの核保有のケースがきわめて特有なのは、核武装から長い時間が経過しているにも関わらず、依然として中東で戦略的な対抗バランスが形成されていないことだ。イスラエルは核開発を試みて戦略バランスを形成しようとするイラクやシリアを空爆し、これらの行動ゆえに、長期的には持続不可能な戦略的不均衡が維持されている。現在の緊張の高まりは、イランの核危機の初期段階というよりは、軍事バランスが回復されることによってのみ決着する、数十年におよぶ中東における核危機の最終段階とみなすことができる。現実には、イランの核武装化は最悪ではなく、最善のシナリオだ。この場合、中東の軍事バランスが回復され、戦略的均衡を実現できる見込みが最大限に高まる。
2012年07月
ヨーロッパは単に時間稼ぎをしているだけだとみる人もいるが、それは真実ではないし、公正な見方とは言えない。・・・ヨーロッパが大がかりな対応を試みるのは、今度で4回目だ。しかも、これまでとは違って今回は、危機を小さくするだけでなく、残された時間が多くないことをヨーロッパは認識している。・・・ドイツの今後の動きに関心が高まっているのは事実だが、すべての問題をドイツのせいにするのは公正ではない。ドイツが求めているのは通貨同盟を機能させることだ。この試みを支えるためにドイツはかなりのコミットメントをするつもりだ。しかし、通貨同盟を機能させるには、先ず財政改革が必要だというのがドイツの立場だ。これは常識的な立場だ。だが、どのよう順序で、どの改革を進めるかをめぐって対立がある。
2012年7月号
ユーロゾーンの分裂が近いうちに現実になるかどうかに関わらず、一つだけたしかなことがある。それは、危機が具体化し始めてから現在まで、その気になれば、ドイツは通貨同盟を救う力を持っていたし、現在もそうであることだ。つまり、ユーロが解体するとすれば、それはドイツが解体を選択した場合ということになる。ドイツはどちらの方向に進むべきか困惑しているようだ。戦後の歴史に配慮すればヨーロッパ統合を維持することが重要だし、そうでなくても(ユーロの解体を認めて)強固なマルクを復活させれば、自国の輸出競争力は大きく抑え込まれてしまう。だが、ドイツの指導者たちは(ユーロを救うのに必要な)穏やかなインフレを認めることにアレルギーを示し、他国の債務や銀行システムを救済することを躊躇している。・・・