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論文データベース(最新論文順)

CFR Interview
リビアとエジプトにみる革命後の社会暴力
――反米主義の台頭か

2012年9月号 

ロバート・ダニン 米外交問題評議会中東担当シニア・フェロー

アメリカの在外公館襲撃事件に対するリビア政府とエジプト政府の事件への対応の違いに注目すべきだ。リビアの米領事館がロケット弾で攻撃され、大使を含むアメリカ人4人が犠牲になった。リビア政府は直ちに攻撃が起きたことを謝罪し、犠牲者がでたことへの悼みを共有しているとワシントンに伝え、犯人に対する怒りを表明した。対照的に、エジプト政府は、襲撃事件には触れずに、イスラム世界を侮辱したフィルムについてアメリカに謝罪を求め、金曜には全国レベルのデモを計画している。アメリカで制作されたフィルムが批判されても仕方のない内容だとしても、エジプト政府は率先して反米デモを呼びかける立場にはない。・・・国の定義の一つは、武力を独占していることだが、リビアを含めて、中東諸国の多くではそうではないことが事件の背景にある。シリアにしても、アサドが姿を消しても、非常に厄介な事態が待ち受けている。イラク、レバノン、パレスチナ、イエメンにも同じことが言える。紛争後の社会における武器の氾濫が作り出す問題が中東を覆い尽くしつつある。

CFR Update
アメリカは天然ガス輸出を認めるべきか?

2012年9月号

マイケル・レビ 米外交問題評議会エネルギー担当シニア・フェロー

(日本の電力会社は相対的に安いアメリカの天然ガスを輸入しようと試みているが、米企業が天然ガスを含む特定資源を輸出するには、米エネルギー省がそうした資源輸出が「アメリカの国益に合致するかどうか」の判断を先ず示す必要がある)。これをきっかけに、アメリカの天然ガス資源の輸出を認めるべきか、いなかをめぐって論争が起きている。私は数週間前に(ニューヨークタイムズ紙で)天然ガスの輸出を認めることを提言し、その根拠を示した。(中国のレアアース輸出制限に反対しておきながら、自国の資源の輸出制限をするのではつじつまが合わないし、自由貿易協定を結んでいるカナダやメキシコを裏切ることになる。さらに輸出をみとめれば、日本との貿易交渉で日本企業が望む天然ガス輸出を交渉ツールとして用いることもできる)。だが、輸出を禁止し、米国内で天然ガスを消費するべきだと考える人もいる。例えば、T・ブーン・ピケンズは「クリーンで安価で豊かに存在する国内の天然資源を輸出し、汚染度が高く、より高価なOPECの石油を輸入し続けるとすれば、われわれはもっとも愚かな世代として記憶されることになる」と指摘している。・・・

米大統領選挙と外交政策

2012年9月号

ジェームズ・リンゼー 米外交問題評議会研究部長

世論調査の結果をみても、アメリカ市民は経済のこと、雇用のことを気にしている。当然、オバマとロムニーは、外交よりも、経済と雇用についてより多くの発言をしていくことになるだろう。外国での出来事によって、キャンペーンアジェンダが一夜にして変化することもある。イスラエルのイラン攻撃、北朝鮮の韓国に対する攻撃、南シナ海の紛争の何であれ、これらが現実になれば、キャンペーンアジェンダは大きく変化する。

CFR Update
なぜ日中ハッカー戦争は起きていないのか
――領有権対立とサイバー戦争

2012年9月号

アダム・シーガル 米外交問題評議会中国担当シニア・フェロー

中国とフィリピン、ベトナムの領有権をめぐる対立は、相手国のウェブサイトの改ざんなどのハッカー戦争へとエスカレートしていった。これを前提にすれば、尖閣問題をめぐって、日本との対立で中国のハッカーたちがより激しい攻撃をしてくると考えてもおかしくはなかったが、これまでのところ、大がかりな攻撃は起きていない。なぜだろうか。おそらく、二つの理由が考えられる。・・・

プーチン主義というシステム
―― ロシア社会の変化にプーチンは適応できるか

2012年9月号

ジョシュア・ヨッファ エコノミスト誌モスクワ特派員

現在のロシア市民には一連の自由が与えられている。イケアで安い家具を買ったり、外国で休暇を過ごしたりと、いまやロシア市民はヨーロッパ中間層と生活の特質の多くを共有している。野心と才能のある者にとっては、モスクワはキャリアを築く大きな舞台だ。政治に関わらないかぎり、ありとあらゆる場所で選択肢が用意されている。この仕組みゆえに、プーチンのロシアには国を否定する者がいなかった。不満があるならいつでもロシアを離れることができた。プーチン主義は、ソビエト時代の硬直した管理システムよりもずっと狡猾で現代的なのだ。だがプーチン体制は共産主義とは違って、一貫した世界観を示しているわけではなく、安定と権力を維持するためにつくられている。逆に言えば、現状に不満を持つ新しい政治家や政治運動は、「根深いイデオロギーの壁を乗り越える」必要がない。これが、今後プーチン体制を脅かす最大の問題を作り出すことになるだろう。

金融ビジネスに規律を与えるには
―― 問題は金融が経済を支配していることだ

2012年9月号

ジリアン・テット
フィナンシャル・タイムズ紙アメリカ編集長

政府は金融エリートを押さえつけて金融を支配すべきなのか、それとも、単純にダイナミックな社会を実現するために必要なコストとして所得格差と不安定な金融を受け入れるべきなのか。いずれにしても、金融システムを混乱させることなく金融機関を破綻させられる程度にその規模を小さくする必要がある。そうしない限り、適切な市場を実現することはできない。政治指導者たちは、強力なバンカーと銀行グループが自分たちの目的のためにシステムを支配するのを許さないための制度や規制の構築に知恵を絞るべきだ。もちろん、このような改革がバンカーたちの反対にあうのは避けられない。透明性が高く競争的な金融システムはおそらく現在よりも金融機関にとって利益の小さいシステムになるからだ。しかし金融が安定しているほうがより公平な社会になる。そうなるのが、バンカーと非バンカーの双方にとっても望ましいはずだ。

CFR Interview
投資バブルの崩壊で中国経済は長期停滞へ

2012年9月号

パトリック・チョバネック
清華大学経済・マネジメント大学院准教授

この数年来の中国経済の成長は、グローバル経済危機対策として北京が実施した景気刺激策が作り出した投資ブームによって牽引されてきた。当然、これは持続可能な成長ではなかった。今や投資バブルははじけ、不良債権が増大し、中国経済の成長率は、2009年以降、最低のレベルへと抑え込まれている。・・・すでに、中国の地方政府が不動産開発業者を、そして中央政府が国有企業や地方政府をベイルアウトし始めている。・・・中国政府は成長戦略の見直し、つまり、輸出・投資主導型モデルから内需主導型モデルに向けた調整を迫られている。中国経済をリバランスするには、為替政策、金利政策、課税策を見直して、資金が家計(預金者と消費者)へと流れるようにしなければならない。・・・有意義な調整プロセスによって中国経済がよりバランスのとれたものへと進化していけば、中国により多くの輸出をしたい国や企業、中国との貿易バランスを均衡させたい国に大きな恩恵がもたらされる。問題は、この調整が痛みを伴うために、成長戦略の見直しに対する政治的抵抗が避けられないことだ。

CFRアップデート
東アジア安全保障の進化を阻む日韓の歴史問題
―― 竹島訪問前、韓国で何が起きていたか

2012年9月号

ラルフ・A・コッサ
CSIS・パシフィックフォーラム会長

日韓関係の緊張と言っても、それが、関係の本質を脅かすことのないたんなる政治ショーにすぎないこともある。だが、最近の展開は違う。韓国政府は6月29日に、世論、野党勢力、メディアの反対に屈し、日本との軍事情報包括保護協定(GSOMIA)の調印を先送りし、さらに、物品役務相互提供協定(ACSA)の締結の検討も棚上げすると表明した(その後も、韓国大統領が竹島を訪問し、日韓関係は紛糾している)。結局、(北朝鮮の脅威を含む)「安全保障課題を共有する(日韓という)二つの民主国家の関係強化に向けた前向きで現実主義的な試み」が、またしても「政治と歴史の複雑な遺産の犠牲にされてしまった」。・・・過去を克服するために、日本と韓国は切実に(未来志向で現実主義的な)政治家のリーダーシップを必要としている。ワシントンも日韓の歴史問題を解決するか、少なくとも非政治化できるような「日韓がともに受け入れられるような宣言」をまとめる公正な仲介者の役目を引き受けるべきだろう。

南シナ海対立の新構図と紛争の危機
――中国の影響力拡大とASEANの内部対立

2012年9月号

ジョシュア・クランジック
米外交問題評議会東南アジア担当フェロー

南シナ海の島嶼群の領有権を主張する中国と東南アジア諸国は、誰も住んでいない岩の塊を新しい州や県あるいは市として自国の法管轄に組み入れ始めている。すでに中国は、西沙諸島や南沙諸島を含む海域を三沙市として行政管轄に組み入れ、行政を担当する役人まで任命している。その後中国は、実効支配の確立を意識してか、海域の石油と天然ガス資源に対する主権を主張するようになり、自分たちの意思をアピールするために「漁船」を係争海域へと送り込むようになった。・・・ 7月のASEAN外相会議の決裂以降、現実に南シナ海で紛争が起こりかねない状況にある。専門家は、中国が公的に新しい領土とした三沙市をめぐって今後、どのような動きをみせるかに注目している。・・・一方、ASEAN加盟国の一部が中国に急接近しつつあるために、フィリピン、ベトナム、ブルネイは、カンボジア、ラオス、そしてタイまでもが中国に取り込まれてしまうのではないかと懸念している。・・・

銀行に規律を与えるには
――LIBORスキャンダルの三つの問題

2012年9月号

ジョナサン・メイシー
エール大学法学部教授
(会社法、企業財務、証券取引法専攻)

日米欧の政府は、LIBOR(ロンドン銀行間取引金利)の金利操作疑惑をめぐって大手銀行16行を調査している。一部の大手銀行は金利の不正操作を行うことで、クレジット・デフォルト・スワップ(CDS)、デリバティブ、住宅ローンなどの金融商品の実勢価値を故意に歪め、不当な利益を得たと考えられている。今回のLIBORスキャンダルは三つの問題が重なり合っている。第1は、銀行がLIBORレートを故意に低く報告したこと。第2は、運用利益を水増しするためにLIBORを不正操作したこと。そして第3は、住宅ローンの変動金利を決める際に、米国債のほうが指標基準として望ましく、また採用にあたって何も障害がなかったにもかかわらず、LIBORを採用したことだ。さらにひどいことに、一部の銀行は自行の取引ポートフォリオで不当に利益を得るため、あるいは、損失を隠蔽するためにLIBORを不正操作したようだ。だが変動金利の根幹を成す原理は「借り入れコストの決定を市場の判断に委ねること」だ。銀行が市場の信頼を回復するにはLIBORを金利指標として使用するのをやめ、米国債金利など、市場の実勢レートを金利指標として採用するべきだろう。

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