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論文データベース(最新論文順)

インドの果たされなかった約束
―― 成長の一方で拡大する格差

2012年6月号

バシャラート・ピア
ジャーナリスト

タタ・モーターズは、2008年に英名門ブランドのジャガーとランドローバーを買収し、リライアンス財閥もスティーブン・スピルバーグの映画製作会社ドリームワークスの株の50%を取得した。大都市には派手な大型ショッピングモールが乱立している。だが、急成長を遂げる一方で、インドは依然として世界最大の貧困層を抱えている。貧困と差別は密接に関連している。蔓延する政治腐敗の問題もある。知識人のアシス・ナンディは、インドの民主主義は、選挙での勝敗しか考えない政治家によって「シフォクラシー(選挙第一政治)」に堕落したと嘆いている。政治家が選挙のことしか考えないため、紛争は放置され、インフラを再建することも、農業生産性を高めることも、医療ケアを弱者に拡大することもできずにいる。そして、こうした危機のすべての根底にあるのが、持てる者と持たざる者の格差の拡大なのだ。

CFR Interview
「ギリシャ後」のフランスとドイツの思惑
――統合の維持か、ユーロの解体か

2012年6月号

セバスチャン・マラビー 米外交問題評議会シニア・フェロー(国際経済担当)

ギリシャのユーロ離脱に伴う危機が国債を通じて他のヨーロッパ地域へと広がりをみせていくリスクはあまりない。だが他のルートを通じて、危機が拡大していく危険がある。ギリシャの銀行にユーロ建ての貯金をもつ人々は、(ユーロよりも価値の低い)新ドラクマ建てに交換される前に、預金を引き出そうとするだろうし、ポルトガルやスペインでも同じ現象が起き、ヨーロッパの周辺地域で銀行破綻が広がりをみせていくかもしれない。・・・さらに、ギリシャの企業が、例えばフランスの銀行への融資返済をストップすれば、銀行は大きなダメージを受け、フランス政府は銀行に公的資金を注入せざるを得なくなる。そうなれば、フランスの対GDP債務は、イタリア並みの深刻なレベルに上昇する。・・・この状況でドイツは統合を維持していくことのコストをどう評定するか。メルケルは実利と歴史の双方を考慮することになるだろう。

危機後のヨーロッパ
―― 圏内経済不均衡の是正か、ユーロの消失か

2012年6月号

アンドリュー・モラフチーク プリンストン大学教授

単一通貨導入から10年を経ても、ヨーロッパは依然として、共通の金融政策と為替レートでうまくやっていけるような最適通貨圏の条件をうまく満たしていない。これが現在の危機の本質だ。南北ヨーロッパが単一の経済規範に向けて歩み寄りをみせなかったために、単一通貨の導入はかねて存在したヨーロッパ内部の経済不均衡を際立たせてしまった。救済措置を通じて、危機を管理することはできても、南北ヨーロッパの経済をコンバージ(収斂)させていくという長期的課題は残されている。経済の均衡を図るには、各国のマクロ経済政策を十分に均質性の高いものにすること、つまり、ドイツのような債権国と南ヨーロッパの債務国が、政府支出、競争力、インフレその他の領域で似たような経済状況を作り上げることが必要になる。そうできなければ、ユーロの存続は揺るがされ、ヨーロッパは、今後10年以上にわたって、その富とパワーを浪費し、消耗していくことになるだろう。

Foreign Affairs Update
ガスプロムの衰退とプーチンの政治的黄昏

2012年6月号

アハマド・メフディ NATO加盟国議員会議リサーチフェロー

2000-2008年当時、プーチンはロシアという国家の現実を形作るだけの圧倒的な権力をもっていた。彼はその権力基盤の多くを、国家的な覇権企業としてのガスプロムの存在に依存していた。ガスプロムが優遇策を受け、許認可をクリアーし、パイプラインの使用権を独占できたのは、権力との共存関係にあったからだ。だが、プーチンの政治的配慮が予期せぬ形で天然ガス市場の事実上の自由化を促してしまった。いまや新興の天然ガス企業・ノバテックがガスプロムの地位を着実に脅かしつつある。すでに、クレムリンはノバテックを「次なるガスプロム」のように扱い始め、市場も同社を天然ガス産業の大手プレイヤーとみなし始めている。ガスプロムが市場からクラウドアウトされていくにつれて、プーチンは何か別の権力基盤を探さざるを得なくなる。そうしない限り、プーチンもまた追い込まれていく。・・・

グローバル・リセッションの本当の教訓  

2012年6月号

ラグラム・ラジャン
シカゴ大学教授

2008年に金融危機が起きるまでの数十年にわたって、先進国経済は「有益な何か」に投資して経済を成長させる能力を失いつつあった。これは、技術革新や外国との競争によって失われた雇用を「資金を生み出す何か」に置き換えて、高齢者に年金や医療ケアを提供する必要があったことに関係がある。こうして何とか経済を成長させようとした政府は限界を超えて支出を増やし、一方では家計支出を刺激しようと安易な融資に道を開く環境を作り上げた。こうして、借入金に依存した経済成長が実現したが、もちろん、これは持続可能な成長ではなかった。現状で、さらに多くを借り入れて、政府支出を増やすことで危機から脱出することなどできない。むしろ、最善の短期的政策とは長期的な持続的成長の実現に焦点を合わせることだ。だが、結局のところ、各国の政府と市民が危機に関するどのような解釈を受け入れるかで、国の将来、そしてグローバル経済の未来も左右される。

CFRブリーフィング
世界的水資源危機
――水の惑星の皮肉な現実

2012年6月号

スチュアート・パトリック 米外交問題評議会シニア・フェロー(国際機関・グローバル統治担当))

人類が誕生した当時から水資源をいかに確保するかは重要な課題だった。しかし、今日の水資源問題の特徴は、統治体制が脆弱で不安定な地域で急速に需要が増 大し、水不足が深刻化していることにある。この厄介なトレンドに人口の増大、地球温暖化などによる水資源の供給量低下が追い打ちをかけている。2030年 までに人類が1年あたりに必要とする水の量は「現時点で持続可能とされる供給量」を40%上回ると予測されている。

キケロ兄弟の選挙戦術
―― 現代に生きる古代ローマの知恵と戦術

2012年6月号

クィントゥス・トゥッリウス・キケロ 共和政ローマ法務官

候補者となった以上、あなたに好意をみせる人、あなたの仲間になりたいと考える人はすべて友人です。一方、家族そしていつもあなたの近くにいる人々には注意が必要です。悪い噂の大元は家族や友人たちであることが多いものです。・・・相手に好意を持っていることをあなたが示すことで、彼らがあなたに抱く敬意をさらに高めることができます。・・・あなたの立場を代弁してくれる人々を探すのです。・・・社会集団の指導者との接触を試み、(一方で)・・・元気な若者たちをあなたの支持者にすれば、非常に大きな力になってくれます。・・・市民がもっとも強い印象を受けるのは、候補者が自分のことを覚えてくれることです。毎日、人々の顔と名前を一致させることを練習すべきです。そして決してローマを離れてはいけません。・・・キャンペーンでもっとも大切なのは、人々に希望を与え、あなたに好感を抱かせることです。有権者に強い印象を与えるには、彼らのことを理解し、愛想良く優しく接し、自分をアピールし、誰とでも会い、決して諦めないことです。

CFR Interview
だが、いかなる成長路線なのか
―― 緊縮財政路線と成長路線

2012年6月号

トーマス・フィリポン ニューヨーク大学ビジネススクール准教授(金融)

重要なのは、欧州中央銀行(ECB)マリオ・ドラギ総裁が「新財政協定の内容を見直す必要はないが、アジェンダに経済成長という視点も加えるべきだ」と述べていることだ。ECBは、ヨーロッパの経済成長を実現するには、特に南ヨーロッパ諸国の労働市場の柔軟性を高める必要があると考えている。・・・一方、オランドは量的緩和を実施したいと考えている。ここからは交渉になるだろう。ユーロ圏のメンバー国が「受け入れ可能なものが何で、何を諦めてもいいと考えているか」をすり合わせていく必要がある。ドイツはある程度のインフレ(インフレターゲット)なら受け入れることはできると考えている。・・・ドイツがこの方向での議論に応じた場合には、フランスに労働市場の改革を強く求めるはずだ。・・・論点と重心が成長策へとシフトしていくのは避けられない。だが、何について合意できるだろうか。望ましい成長路線が何であるかについてヨーロッパが合意できる状況にはない。

CFR Interview
ユーロ危機で米経済もリセッションへ

2012年6月号

リチャード・クラリダ
コロンビア大学教授

無秩序なギリシャの離脱、あるいは、(南北ヨーロッパ間のギリシャ救済)合意へのコミットメントが放棄されるだけでも、直接的なエキスポージャーから想定できる以上の余波を米経済は被ることになる。・・・ヨーロッパは深刻なリセッションに陥りつつあり、GDPの規模は3・5%縮小している。この状況では、連邦準備制度がいかなる政策対応をとっても、米経済がリセッションへと向かうのは避けられない。

CFR Interview
ムハンマド・モルシとエジプト軍は協調できるのか
――軍と同胞団とタハリール広場

2012年6月号

ロバート・ダニン
米外交問題評議会
中東・アフリカ担当シニア・フェロー

ムスリム同胞団の物質面での力は限られている。戦車を保有しているわけでもなければ、政治機構を掌握しているわけでもない。だが、同胞団は一定の政治的正統性(民衆の支持)を持っている。対照的に軍は大きな力を持っているが、民衆が、軍が文民政府に権力を委ねることを求めていることも理解している。つまり、双方がカードを持っている。おそらく、対立ではなく、協調したほうが、互いのためになるという了解を共有している。だが今後、困難な局面に直面するのは避けられないだろう。平和な状況を維持し、最終的に、正統性のある政府機関を形作っていくプロセスがうまくいかなければ、いまやディフォルトの政治機構である「タハリール広場」が動き出すだろう。軍とムスリム同胞団がうまくバランスをとって状況を前に進めていかなければ、再び「タハリール広場」が政治を動かすことになる。

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