1994年以降に発表された邦訳論文を検索できます。

論文データベース(最新論文順)

トルコの反シリア路線と地域紛争化のリスク

2012年10月

スティーブン・ハイデマン
米平和研究所
中東イニシアティブシニア・アドバイザー

モスクワからダマスカスへと向かっていたシリアの民間旅客機を(武器を輸送している可能性があるという理由で)トルコ政府は国内に強制着陸させ、積み荷から武器弾薬が見つかったと発表した。このエピソードだけをみても、トルコが(シリア政府を支援する)ロシアとイランを敵に回してもかまわないと考えているのは明らかだ。いまやトルコは、近隣諸国との関係のすべてをシリアというレンズでとらえている。国境地帯での緊張の高まりによって小規模の戦闘が大きな紛争へとエスカレートしていく危険はあるが、トルコの指導者は、シリアとの戦争は、他に選択肢がない状況に陥らない限り回避したいと考えている。・・・すでに、トルコ南部には、シリアから10万規模の難民が流入しており、シリアと戦争になった場合の社会的、経済的帰結が心配されている。・・・シリア軍の士気と能力は大きく低下し、一方反政府勢力は戦闘経験を重ねることで、戦闘能力を高めている。アサド政権が生き残るには、もはやヒズボラ、そしてイランに援軍を求めるしかない状況にある。

CFR Interview
イランの核開発プログラム
――曖昧な意図と空爆の可能性

2012年10月号

デビッド・オルブライト 科学国際安全保障研究所(ISIS)会長

これまでイランは自国のウラン濃縮について「小規模な研究炉のための核燃料を生産している」という立場を示してきた。だが、すでに研究炉用の核燃料は十分すぎるほどに生産されている。つまり、民生部門用だけなら、もう核燃料(濃縮ウラン)をつくる必要はない。ここに矛盾がある・・・すでに、イランは相当量の兵器級ウランを生産できる状態にある。核兵器生産を決断すれば、すぐにでも兵器級ウランの生産(濃縮)に取りかかれる。だが、今のところテヘランは核兵器を作ると明確には決断していないようだ。・・・イランの立場は曖昧だ。可能であれば、核兵器を生産したいと考えている。だが、実際に核兵器の開発に乗り出せば、(武力行使を含めて)非常に大きな力がかかってくること、核兵器を手に入れる前に体制が崩壊してしまう危険があることをテヘランは理解している。

韓国の新ミサイル指針
―― 北朝鮮の反発と地域的波紋

2012年10月

スコット・スナイダー
米外交問題評議会朝鮮半島担当シニア・フェロー

射程800キロで弾頭重量500キロの弾道ミサイルを韓国が配備することへの米韓合意が10月に成立した。北朝鮮国防委員会は予想通り、強い反発を示し、北朝鮮のミサイルは「朝鮮半島の米軍基地だけでなく、日本、グアム、米本土の米軍基地を攻撃する能力ももっている」と示唆した。現実からみれば、これは口先だけのブラフだが、この展開を前に平壌が新たに衛星打ち上げを試みる危険はある。今回の合意によって、米韓同盟関係はさらに進化し、韓国が自国の安全保障の管理についてより大きな責任を引き受ける純然たるアメリカの軍事パートナーへと進化したのは間違いない。問題は、韓国の弾道ミサイルの射程が拡大されることで、地域的な軍拡レースが起きる危険があること、そして、韓国が長距離ミサイル能力を開発すれば、加盟国に300キロ以上の射程をもつミサイル開発と輸出の自粛を求めるミサイル技術管理レジーム(MTCR)が潜在的に揺るがされる危険が出てくることだ。

CFR Update
中国の空母「遼寧」は張り子の虎か

2012年10月号

ブリアン・キロー 米外交問題評議ミリタリー・フェロー

9月下旬、中国は世界で9番目の空母保有国の仲間入りを果たした。中国の近隣諸国にとってこれは何を意味するだろうか。その長期的な意味合いをわれわれはどう判断すべきなのか。「中国海軍にとって空母はまったく価値がない」とコメントする専門家もいる。だが、価値がないとも言い切れない。国家的なプライドのシンボルになるし、次世代空母の開発のためのたたき台にできる。この空母に現在開発中のJ-15戦闘機を配備し、東シナ海の尖閣諸島、南シナ海の西沙諸島、南沙諸島近海に投入すれば、この海域での空域支配を持続的に確立できる。「今のところ」脅威ではないが、外洋展開型海軍の整備を目指す中国にとっては、合理的な投資だったとみなすべきだろう。

迫り来る「財政の崖」を考える
――世界経済、国際安全保障への余波は

2012年10月号

ジョナサン・マスターズ
オンラインジャーナリスト

2012年末から2013年初頭にかけて、アメリカでは減税策の打ち切りと自動的な歳出削減のタイミングが重なることで、「財政の崖」と呼ばれる危機的な財政状況が出現すると考えられている。・・・仮に米議会が2012年末の増税と歳出削減の実施を一時的にでも回避できなければ、2013年に米経済は二番底に陥ると多くのエコノミストが考えている。米経済だけでなく、世界経済への余波も相当に大きなものになる。2012年7月のIMF(国際通貨基金)年次報告書は、2013年初めに予想される米経済の大規模な緊縮路線へのシフトは、「世界経済の安定を脅かす大きなリスクだ」と指摘している。・・・2012年末までに米議会での妥協が成立しなければ、米経済、世界経済、そして世界の安全保障は大きな不確実性に直面する。

地域的なパワーバランスの変化が進行するなか、日中両国でナショナリズムが台頭し、これが歴史的な確執を蘇らせている。尖閣諸島をめぐって日中間の緊張がかくもエスカレートしているのはこのためだ。・・・国民感情そして野党勢力が作り出す圧力からみても、日本政府にとって、中国に対して立場を後退させることは選択肢にはならない。一方、北京も手を縛られつつある。国内の抗議行動をあまりに手荒に弾圧すれば、対日宥和策をとったとみなされるし、一方で、このまま混乱が続けば、中国の社会的安定が損なわれ、国際的イメージに傷がつく。・・・目先の打開策は存在するし、危機を収束へと向かわせることはできるだろう。だが、日中が抱える未解決の問題を決着させるには、歴史的な虚構に根ざし、東アジアの将来に対する不透明感ゆえに力を得ている排外的なナショナリズムという怪物と正面から対決する必要がある。

海のならず者と国連海洋法条約
――アジアの海を混乱させる中国と米上院

2012年10月号

トマス・ライト
ブルッキングス研究所フェロー

海の憲法とも呼ばれる「国連海洋法条約」は、すでに太平洋におけるアメリカのパワーを左右する重要なバロメーターになっている。だが、米上院の主権至上主義者が条約への批准を拒んでいるために、アメリカは中国の台頭に揺れるアジアが切実に必要としている多国間構造をうまく構築できずにいる。条約に参加できずにいるために、中国が脅かしている「ルールを基盤とするアジア秩序」をアメリカが維持・擁護し、強化していく能力が脅かされている。「国連海洋法の批准に反対する」という米上院議員の宣言を聞いて、北京がほくそ笑んだのは間違いなく、アジアにおけるアメリカの同盟国と戦略的パートナーは、ワシントンが地域的なリーダーシップを果たしていく能力をもっているかどうか、ますます疑心暗鬼に陥っているはずだ。アジアでのパワーバランスが大きな変化に直面している以上、これ以上アメリカが主権にこだわり続けるのは、戦略的な大失策になる。このやり方は、アメリカ主導の国際秩序を終わらせたいと考えている国を大胆にするだけだ。

CFRポリシーメモランダム
医薬品、ワクチン、医療サプライの安全を保つには

2012年10月号

ローリー・ギャレット 米外交問題評議会グローバルヘルス担当シニア・フェロー

この10年間で、医薬品原料(APIs)の抽出に始まり、成分の配合、製剤、パッキング、流通に至るまで、医薬品の生産・流通プロセスが高度にグローバル化された。あらゆる錠剤、注射液、軟膏が多数の国から調達した医薬品成分で生産されているが、こうした医薬品原料の多くは、規制の緩いことで知られるインドや中国などに点在するほぼ10万に達する工場で生産されている。こうした生産・流通のグローバル化によって、いまや世界各国の薬局や病院で、APIsが含まれていない偽医薬品、基準を満たしていない医薬品、汚染医薬品、あるいは、犯罪組織が巧妙に製造した偽造医薬品が見つかっており、先進国、新興国、貧困国のすべてが危険にさらされている。この問題に対処していかない限り、数百万の人々の生命が脅かされ、医薬品とワクチンの信頼性が損なわれることになる。医薬品の生産・流通チェーンが高度にグローバル化された結果、いまや、いかなる国であっても、国の規制当局が国民に医薬品の安全を保証できる状態にはない。

統合の危機とヨーロッパの衰退

2012年10月号

ティモシー・ガートン・アッシュ
オックスフォード大学歴史学教授

戦後のドイツにとって、ヨーロッパ諸国の信頼を取り戻すことが、ドイツ統一という長期的目的を実現する唯一の道筋だった。財政同盟という支えを持たない通貨同盟が構造的な問題と崩壊の火種をはらんでいることを理解した上で、西ドイツはドイツ統一のためにあえてユーロを受け入れた。そしていまやヨーロッパはユーロ危機に覆い尽くされ、漂流している。かつてこの大陸を統合へと向かわせた戦争の記憶もソビエトの脅威も希薄化するか、消失している。瓦礫のなかから統合を目指し繁栄を手にした戦後世代とは違って、現代の若者たちは繁栄から失業へ、希望から恐れへと、まったく逆の変化を経験している。統合の維持に向けた新しい源流、エリートと市民たちを統合の維持へと駆り立てる新たな流れが生じない限り、ヨーロッパは、かつての神聖ローマ帝国同様に、ゆっくりとその効率と価値を失い、衰退していくことになるだろう。

CFR Interview
2012年秋、イスラエルはイランを攻撃する?

2012年10月号

リチャード・ハース 米外交問題評議会会長

イスラエルは、イランの核開発によって危機にさらされるものは非常に大きいと考えている。このため、アメリカの説得によってイスラエルに攻撃を思いとどまらせることができるかどうかはわからない。重要なのは、米大統領選挙前の秋にイスラエルがイランに対する予防攻撃を実施する可能性をもはや誰も否定できない状況にあることだ。このシナリオが現実にならないとしても、イスラエル、あるいはアメリカが2013年に行動を起こす可能性は十分にある。問題はイスラエル、あるいはアメリカが軍事力を行使すれば、不可知の連鎖が生じ、どのような事態になるかわからないことだ。だからこそ、多くの人は経済制裁と外交を組み合わせた強硬策が成功することを期待している。だが、これまでのところ、楽観を許すような状況にはない。

Page Top