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論文データベース(最新論文順)

債務ブレーキとドイツ経済のジレンマ
―― 国内投資か債務削減か

2012年9月号

アダム・トーズ イェール大学歴史学教授

ドイツ経済はどうみても持続可能な状況にはない。民間投資の多くは外国へと向かい、国内投資はかつてなく低調だ。しかも、憲法に連邦政府と州政府の双方に均衡予算の維持を求める条項が付け加えられたことで、政府による借入が事実上できなくなっている。教育、エネルギー、育児など公的投資を必要としているセクターが数多くあるにも関わらず、政府は既存のプログラムを打ち切ることで、投資資金を捻出し、あとは、民間投資の活性化に期待するしかない状態にある。持続的な財政のためには、「肥大化する支出を抑える政策」、そして一方での「成長戦略」が必要だ。財政赤字に苦しむドイツの州、そして危機によって追い込まれているヨーロッパ諸国が成長戦略も必要としていることをメルケルは忘れている。ベルリンは国債で資金を借り入れ、それを投資に用いるかつてないチャンスを手にしている。だがこのままでは、ベルリンはそのチャンスを見過ごすことになりかねない。

日本の電力危機とアジア・スーパーグリッド構想

2012年9月号

田中伸男 日本エネルギー経済研究所 特別顧問

石油が安価で供給が安定し、世界経済の繁栄を支えた時代はすでに終わっており、将来のエネルギー安全保障のためには多様なエネルギーミックスが必要である。石油以外にも、天然ガス、原子力、石炭、再生可能エネルギーで電力を生産できる。特に、天然ガスによる発電はゲームチェンジャーとみなされている。だが、原発が稼働停止に追い込まれている日本にとって、原子力発電所を再稼働できなければ、毎年400-500億ドルの資金を投入して石油や天然ガスを調達しなければならなくなる。これは、日本の経常黒字の半分が石油や天然ガスの輸入によって消し飛ぶことを意味する。事故の教訓を踏まえて安全対策を強化した原子力を日本のエネルギーミックスの一部として当面維持していくことを選択肢から排除すべきではないだろう。一方で、ロシアの天然ガス資源を基盤に、アジア地域の経済成長と安定にとって不可欠なエネルギーアクセスを確保するための多国間協調枠組を形作っていく必要がある。

韓国市民の多くは、(竹島訪問という)李明博大統領の行動に大きな意義を見出したかもしれない。だが、彼が国家安全保障問題や世界における韓国の役割というアジェンダをめぐってこれまでスケールの大きな発言と行動をみせてきただけに、今回の行動には大きな違和感を覚えざるを得ない。竹島を訪問し、日本は歴史問題を含めて大国にふさわしい行動を取るべきだと示唆する発言をしたことで、李明博は韓国の地域的、グローバルな利益を犠牲にして、竹島という特定の限られた問題に不当なまでに大きな政治資源を注ぎ込んでしまった。しかも日韓両国の国益が収斂しつつあるタイミングで、トレンドにそぐわない国際環境を作りだしてしまった。李大統領の竹島訪問で(悪しき)先例が作られてしまったとはいえ、韓国の次期大統領が大きなビジョンを示してくれることを期待したい。そうすれば、日本の指導者も大所高所からの判断ができるようになる。

CFR Interview
リビアとエジプトにみる革命後の社会暴力
――反米主義の台頭か

2012年9月号 

ロバート・ダニン 米外交問題評議会中東担当シニア・フェロー

アメリカの在外公館襲撃事件に対するリビア政府とエジプト政府の事件への対応の違いに注目すべきだ。リビアの米領事館がロケット弾で攻撃され、大使を含むアメリカ人4人が犠牲になった。リビア政府は直ちに攻撃が起きたことを謝罪し、犠牲者がでたことへの悼みを共有しているとワシントンに伝え、犯人に対する怒りを表明した。対照的に、エジプト政府は、襲撃事件には触れずに、イスラム世界を侮辱したフィルムについてアメリカに謝罪を求め、金曜には全国レベルのデモを計画している。アメリカで制作されたフィルムが批判されても仕方のない内容だとしても、エジプト政府は率先して反米デモを呼びかける立場にはない。・・・国の定義の一つは、武力を独占していることだが、リビアを含めて、中東諸国の多くではそうではないことが事件の背景にある。シリアにしても、アサドが姿を消しても、非常に厄介な事態が待ち受けている。イラク、レバノン、パレスチナ、イエメンにも同じことが言える。紛争後の社会における武器の氾濫が作り出す問題が中東を覆い尽くしつつある。

CFR Update
アメリカは天然ガス輸出を認めるべきか?

2012年9月号

マイケル・レビ 米外交問題評議会エネルギー担当シニア・フェロー

(日本の電力会社は相対的に安いアメリカの天然ガスを輸入しようと試みているが、米企業が天然ガスを含む特定資源を輸出するには、米エネルギー省がそうした資源輸出が「アメリカの国益に合致するかどうか」の判断を先ず示す必要がある)。これをきっかけに、アメリカの天然ガス資源の輸出を認めるべきか、いなかをめぐって論争が起きている。私は数週間前に(ニューヨークタイムズ紙で)天然ガスの輸出を認めることを提言し、その根拠を示した。(中国のレアアース輸出制限に反対しておきながら、自国の資源の輸出制限をするのではつじつまが合わないし、自由貿易協定を結んでいるカナダやメキシコを裏切ることになる。さらに輸出をみとめれば、日本との貿易交渉で日本企業が望む天然ガス輸出を交渉ツールとして用いることもできる)。だが、輸出を禁止し、米国内で天然ガスを消費するべきだと考える人もいる。例えば、T・ブーン・ピケンズは「クリーンで安価で豊かに存在する国内の天然資源を輸出し、汚染度が高く、より高価なOPECの石油を輸入し続けるとすれば、われわれはもっとも愚かな世代として記憶されることになる」と指摘している。・・・

米大統領選挙と外交政策

2012年9月号

ジェームズ・リンゼー 米外交問題評議会研究部長

世論調査の結果をみても、アメリカ市民は経済のこと、雇用のことを気にしている。当然、オバマとロムニーは、外交よりも、経済と雇用についてより多くの発言をしていくことになるだろう。外国での出来事によって、キャンペーンアジェンダが一夜にして変化することもある。イスラエルのイラン攻撃、北朝鮮の韓国に対する攻撃、南シナ海の紛争の何であれ、これらが現実になれば、キャンペーンアジェンダは大きく変化する。

CFR Update
なぜ日中ハッカー戦争は起きていないのか
――領有権対立とサイバー戦争

2012年9月号

アダム・シーガル 米外交問題評議会中国担当シニア・フェロー

中国とフィリピン、ベトナムの領有権をめぐる対立は、相手国のウェブサイトの改ざんなどのハッカー戦争へとエスカレートしていった。これを前提にすれば、尖閣問題をめぐって、日本との対立で中国のハッカーたちがより激しい攻撃をしてくると考えてもおかしくはなかったが、これまでのところ、大がかりな攻撃は起きていない。なぜだろうか。おそらく、二つの理由が考えられる。・・・

プーチン主義というシステム
―― ロシア社会の変化にプーチンは適応できるか

2012年9月号

ジョシュア・ヨッファ エコノミスト誌モスクワ特派員

現在のロシア市民には一連の自由が与えられている。イケアで安い家具を買ったり、外国で休暇を過ごしたりと、いまやロシア市民はヨーロッパ中間層と生活の特質の多くを共有している。野心と才能のある者にとっては、モスクワはキャリアを築く大きな舞台だ。政治に関わらないかぎり、ありとあらゆる場所で選択肢が用意されている。この仕組みゆえに、プーチンのロシアには国を否定する者がいなかった。不満があるならいつでもロシアを離れることができた。プーチン主義は、ソビエト時代の硬直した管理システムよりもずっと狡猾で現代的なのだ。だがプーチン体制は共産主義とは違って、一貫した世界観を示しているわけではなく、安定と権力を維持するためにつくられている。逆に言えば、現状に不満を持つ新しい政治家や政治運動は、「根深いイデオロギーの壁を乗り越える」必要がない。これが、今後プーチン体制を脅かす最大の問題を作り出すことになるだろう。

金融ビジネスに規律を与えるには
―― 問題は金融が経済を支配していることだ

2012年9月号

ジリアン・テット
フィナンシャル・タイムズ紙アメリカ編集長

政府は金融エリートを押さえつけて金融を支配すべきなのか、それとも、単純にダイナミックな社会を実現するために必要なコストとして所得格差と不安定な金融を受け入れるべきなのか。いずれにしても、金融システムを混乱させることなく金融機関を破綻させられる程度にその規模を小さくする必要がある。そうしない限り、適切な市場を実現することはできない。政治指導者たちは、強力なバンカーと銀行グループが自分たちの目的のためにシステムを支配するのを許さないための制度や規制の構築に知恵を絞るべきだ。もちろん、このような改革がバンカーたちの反対にあうのは避けられない。透明性が高く競争的な金融システムはおそらく現在よりも金融機関にとって利益の小さいシステムになるからだ。しかし金融が安定しているほうがより公平な社会になる。そうなるのが、バンカーと非バンカーの双方にとっても望ましいはずだ。

CFR Interview
投資バブルの崩壊で中国経済は長期停滞へ

2012年9月号

パトリック・チョバネック
清華大学経済・マネジメント大学院准教授

この数年来の中国経済の成長は、グローバル経済危機対策として北京が実施した景気刺激策が作り出した投資ブームによって牽引されてきた。当然、これは持続可能な成長ではなかった。今や投資バブルははじけ、不良債権が増大し、中国経済の成長率は、2009年以降、最低のレベルへと抑え込まれている。・・・すでに、中国の地方政府が不動産開発業者を、そして中央政府が国有企業や地方政府をベイルアウトし始めている。・・・中国政府は成長戦略の見直し、つまり、輸出・投資主導型モデルから内需主導型モデルに向けた調整を迫られている。中国経済をリバランスするには、為替政策、金利政策、課税策を見直して、資金が家計(預金者と消費者)へと流れるようにしなければならない。・・・有意義な調整プロセスによって中国経済がよりバランスのとれたものへと進化していけば、中国により多くの輸出をしたい国や企業、中国との貿易バランスを均衡させたい国に大きな恩恵がもたらされる。問題は、この調整が痛みを伴うために、成長戦略の見直しに対する政治的抵抗が避けられないことだ。

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