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論文データベース(最新論文順)

ユーロ危機とECBの役割
――国債購入プログラムの功罪を検証する

2012年11月号

クリストファー・アレッシ オンラインエディター、cfr.org

「ヨーロッパ各国の指導者による危機対応が遅れたために空白が生じ、ユーロゾーンで唯一迅速かつ積極的に事態に介入する力をもつECBは、従来の役割から大きく逸脱した領域へと足を踏み入れざるを得なくなった」。ECBによる国債購入によって、周辺国に流動性がもたらされ、イタリアやスペインなどの経済規模の大きい国の借り入れコスト(国債利回り)も一時的に低下した。しかし、ECBの国債市場への介入に反対する意見もある。「介入は、周辺国が財政均衡に向けて厳格な措置を取ることへのインセンティブを弱めてしまう」とECB前理事のロレンツォ・ビーニ・スマギは言う。特にドイツではこの点が問題視されている。ドイツの保守派の多くは、「こうしたやり方は必然的に財政補填になる」と主張している。債務の重荷に苦しみ支援を求めるユーロ周辺国のすべてにECBはプログラムを適用すべきなのか、その場合、歳出削減と構造改革をめぐってどのような条件を課すべきなのか。苦肉の策であるECBの国債購入は必要な政策なのか。単なる時間稼ぎなのか、モラルハザードやインフレに行き着くことになるのか。

第三の産業革命
―― モノをデータ化し、データをモノにする

2012年11月号

ニール・ガーシェンフェルド
マサチューセッツ工科大学教授

新たなデジタル革命が迫りつつある。今度はファブリケーション(モノ作り)領域でのデジタル革命だ。コミュニケーションや計算のデジタル化と同じ洞察を基盤にしているが、いまやプログラム化されているのは、バーチャルな何かではなく、フィジカルなモノだ。CGデータを元に3次元のオブジェクトを造形する3Dプリンターの登場によって、ベアリングと車軸を、同じ機械で同時に作れるようになった。これをデータからモノを作り、モノをデータ化するための進化する能力と定義することもできるだろう。このビジョンを完成させるにはまだ長期的な研究が必要だが、すでに革命は進行している。だれもがどこででも何でも作れる世界で、われわれはどのように暮らし、学び、仕事をすることになるのか。現在進行中の革命が突きつける中核的な疑問に答えることが、現状でのわれわれの大きな課題だろう。

中国と日本の相互認識
―― 歴史的遺産とイデオロギー的遺産の呪縛
(1972年発表)

2012年11月号

チャーマーズ・ジョンソン
日本政策研究所・所長(論文発表当時)

1885年以降、数多くの中国人が近代世界を学ぼうと、日本に留学してきた。しかし、その後日本が帝国主義国家として台頭していくと、中国人が日本の近代化に抱いた憧憬は、嫌悪感へと変化していく。中国人から見れば、日本はもはやアジアではなかった。日本は、紛れもなく帝国主義国家そのものだった。そして、日中戦争が、より一層の敵意と憎悪を生み出し、それが現在の対日観に影響を与え続けている。だが、戦争の影響を、日本軍の残虐性という観点だけでとらえるのは誤りだろう。戦争は両国の知的・イデオロギー的な枠組みに大きな影響を与えている。日本が封建制から資本主義、帝国主義へと突き進むプロセスが、中国のナショナリストたちのマルクス・レーニン主義イデオロギーへの確信をより深めることになったからだ。

レバノン化するシリア
――反体制派の統合は幻想に終わる

2012年11月

エド・フサイン
米外交問題評議会中東担当シニア・フェロー

シリアの反体制派の統一組織「シリア国民連合」が誕生したが、シリア国内の反体制派がこの新しい組織と協調するかどうかは、はっきりしない。欧米にとって厄介なのは、シリア国内の反体制派武装勢力にアルカイダの戦士が入り込んでいることだ。どうすれば、自由と民主主義のために戦っているシリア人とアルカイダの戦士を区別できるだろうか。この二つの集団を明確に区別しない限り、アメリカとヨーロッパが反政府勢力を全面的に支持すると公言するのは難しい。たしかに、フランスがシリア国民連合を承認したことで、いまや反体制派は国際コミュニティの支持を獲得しつつある。だが、本当の戦場がシリア国内にあることを忘れてはいけない。今後の多くは、国民連合が反体制派武装勢力を統制できるか、アルカイダを締め出せるか、そして、多数派であるスンニ派とその他の少数派の調和と統合を実現できるかに左右される。現実には、これらが実現する見込みは乏しい。どうみても、シリア内の各勢力が政治的妥協を求めるような情勢にはないからだ。・・・すでにシリアは、レバノン同様に外部パワーの代理戦争の場所と化しつつある。あと3-4年は内戦が続くだろうし、アサド政権が倒れても、そこに台頭してくるのは、もう一つの殺人集団であるスンニ派イスラム主義組織だろう。

何が経済を成長させるのか
―― 政治体制、地勢、資源

2012年11月号

ジェフリー・サックス
コロンビア大学教授

経済を成長させる要因を政治体制だけに限定できるのか。悪い統治が経済成長を阻む要因の一つであることは確かだ。しかし、地政学的脅威、恵まれない地勢や気候、債務危機、文化的な障壁も経済成長を阻む足かせになる。貯蓄と投資を不可能にする貧困が貧困をさらに深刻にする部分もある。複雑な経済成長のメカニズムを政治体制だけでは説明できない。中国、シンガポール、台湾、ベトナムはすべて抑圧的政治から始めて、結果的に開放的経済制度を実現したが、いまも政治改革にたどり着いていない国もある。経済開発を理解するには、技術革新と拡散のグローバルプロセスの真の複雑さに目を向け、政治、地勢と立地、経済、文化が世界の技術の流れを形作る経路が無限大に存在することを認識する必要がある。経済成長は、気候変動問題や情報・コミュニケーション技術の進化など、今後ますます複雑な要因に左右されるようになる。政治というたった一つの変数で経済成長を説明するやり方では、ますます真実が分からなくなる。

オバマ政権二期目の外交アジェンダ

2012年11月

ジェームズ・M・リンゼー
米外交問題評議会副会長(研究部長)

二期目のオバマ大統領にとっての最大の課題は、やはりアメリカの財政を立て直すことだ。一方、主要な外交課題には、イランの核開発問題、アフガニスタン撤退、シリア内戦への対応などがある。だが、重要なのは歴史的にみても「就任演説の時点では予想もしていなかった外交問題に大統領が直面するのは避けられない」ことだ。オバマ大統領は予期せぬ外国での出来事に間違いなく遭遇する。さらに、「差し迫った問題ではないが、いずれ明確な路線を決定しなければならない水平的課題」も存在する。中国はそうした水平的課題の一つだ。中国の脅威は、その強さと弱さの双方に派生している。東アジアでアメリカがどのような軍事、経済路線をとるか、これに中国がどのように反応するか、そしてアメリカの同盟国や友好国がこの中国の反応にどう対処するかが流れを決めることになる。・・・

中国を対外強硬路線へ駆り立てる恐れと不安
―― アジアシフト戦略の誤算とは

2012年11月号

ロバート・ロス ボストン・カレッジ 政治学教授

中国の強硬外交は新たに手に入れたパワーを基盤とする自信に派生するものではなく、むしろ、金融危機と社会騒乱に悩まされていることに派生する中国政府の不安に根ざしている。シンボリックな対外強硬路線をとることで、北京はナショナリスティックになっている大衆をなだめ、政府の政治的正統性をつなぎとめようとしている。その結果、2009―10年に中国は対外強硬路線をとるようになり、近隣国だけでなく、世界の多くの諸国が中国と距離を置くようになった。この環境で、東アジアの同盟諸国は「大恐慌以来、最悪の経済危機のなかにあるアメリカは、自信を深め、能力を高めている中国に対処していけるのか」と疑問をもつようになり、こうした懸念を払拭しようと、ワシントンはアジア地域のパワーバランスを維持できることを立証しようと試み、アジアシフト戦略へと舵を取った。だが、台頭する中国を牽制するはずのアジアシフト戦略は、逆に中国の好戦性を助長し、米中協調への双方の確信を損なってしまっている。

ドイツの覇権という虚構
――追い込まれたベルリン

2012年11月号

ダニエラ・シュワルザー
ドイツ国際政治安全保障研究所ハーバード大学客員スカラー
カイオラフ・ラング
ドイツ国際政治安全保障研究所

2010-11年までは、ヨーロッパの危機対応はベルリンとパリの協調によって主導され、このパートナーシップは「メルコジ」とさえ呼ばれた。だが、いまやフランスのオランド大統領は成長戦略をとることを求め、緊縮財政を求めるメルケルと衝突している。すでにギリシャ、イタリア、スペインでのドイツの評判は悪くなっているし、他の地域でもドイツは悪いイメージでとらえられ始めている。もはやドイツが、支援策をとる見返りに大幅な債務と財政赤字の削減を周辺国に求められる状態にはない。事実、ここまで危機が深刻になると、ドイツが救済パッケージに拒否権を行使すればシステミックな危機が誘発され、共通通貨圏が解体するだけでなく、単一市場のようなより大きな統合の成果さえもが脅かされてしまう。ドイツがヨーロッパ最大のプレイヤーだとしても、自分だけでルールを設定する力はなく、単独で状況を先に進めていくのはもはや無理な状況に陥っている。ヨーロッパの新しい経済・政治行動を形作るのに必要な連帯を組織しようと試みても、ドイツのプランはますます希釈されていく。すでにドイツの指導者たちも、自分たちのビジョンに限界があることを理解し始めている。

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