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論文データベース(最新論文順)

それでもユーロは存続する
―― 欧州版IMFとしての欧州中央銀行のポテンシャル

2012年10月号

C・フレッド・バーグステン  ピーターソン国際経済研究所所長

ユーロ危機が再燃するたびに、専門家の多くがユーロの崩壊を口にする。だが、そうした予測は、不備のある制度を再構築しようと試みているECB(欧州中央銀行)の駆け引きが成功していることを見過ごしている。すでに、ECB、ドイツ、フランスを含むすべての主要プレイヤーは、共通通貨の崩壊がもたらす壊滅的なコストを認識し、これを阻止しようと試みている。最大の問題は、ユーロが財政同盟、銀行同盟など通貨同盟を支える制度やメカニズムをもっていなかったことだが、この欠陥も危機対応プロセスのなかで次第に是正されつつある。ECBは、ユーロ危機を収束させること以上に、各国の指導者たちに、ユーロ圏の制度を抜本的に改革し、各国の経済を構造的に再構築するように促している。ギリシャがユーロから離脱するとしても、いずれヨーロッパは現在の混乱から抜け出し、より明るい見通しをもって、未完のプロジェクトの実現に向けて歩み出すことになるだろう。

増税か歳出削減か
――なぜアメリカの貧困率は高いのか

2012年10月号

アンドレア・ルイス・キャンベル マサチューセッツ工科大学教授

共和党は増税ではなく、歳出を減らして債務を削減することを重視し、一方の民主党は政府支出のレベルを維持するか、あるいは拡大し、そのための増税を考えている。アメリカは、他の先進国と比べてより累進的な課税制度、つまり、税負担の重荷を貧困層から富裕層へシフトさせる税体系をもっている。だが、他の先進国に比べて、アメリカの富の再分配機能は弱い。累進課税策をとりながらも、所得再分配機能を社会保障プログラムではなく、減税策や税免除などの税額控除策に委ねているためだ。このやり方では所得と資源をうまく再配分できない。1人あたりGDPでは世界でトップレベルながらも、富裕国のなかでアメリカの貧困率がもっとも高いのはこのためだ。

CFR Interview
ユーロ解体、存続の鍵を握るスペイン

2012年10月

ミーガン・グリーン
ルービニ・グローバルエコノミクス、
欧州経済担当ディレクター

ギリシャ、ポルトガル、アイルランドのような比較的小さな周辺国経済の危機はなんとか管理できたが、EUはスペインとイタリア経済の双方を救える規模の資金は持っていない。つまり、スペインのケースは、ヨーロッパが危機を管理できるか、それとも、管理できなくなるかの試金石なのだ。おそらく2013年のどこかの段階で、スペインは市場から資金を調達できなくなり、この段階でスペインは全面的なトロイカの支援、つまり、IMF(国際通貨基金)、欧州委員会、ECBによるベイルアウトのすべてを必要とするようになる。そして、スペインにベイルアウト策がとられれば、今度は誰もがイタリアに注目する。仮に危機がスペインとイタリアに全面的に広がりをみせていけば、ソブリン危機、銀行危機がユーロゾーン全体に広がりをみせ、ユーロ圏は全面的に解体していく。問題は、ユーロゾーンを維持して持続的な成長路線に立ち返るには、各国が構造改革を進める必要があるにも関わらず、政治家は誰もが次の選挙での再選を念頭に政治ゲームを展開し、政府も本腰を入れて構造改革に取り組んではいないことだ。

トルコの反シリア路線と地域紛争化のリスク

2012年10月

スティーブン・ハイデマン
米平和研究所
中東イニシアティブシニア・アドバイザー

モスクワからダマスカスへと向かっていたシリアの民間旅客機を(武器を輸送している可能性があるという理由で)トルコ政府は国内に強制着陸させ、積み荷から武器弾薬が見つかったと発表した。このエピソードだけをみても、トルコが(シリア政府を支援する)ロシアとイランを敵に回してもかまわないと考えているのは明らかだ。いまやトルコは、近隣諸国との関係のすべてをシリアというレンズでとらえている。国境地帯での緊張の高まりによって小規模の戦闘が大きな紛争へとエスカレートしていく危険はあるが、トルコの指導者は、シリアとの戦争は、他に選択肢がない状況に陥らない限り回避したいと考えている。・・・すでに、トルコ南部には、シリアから10万規模の難民が流入しており、シリアと戦争になった場合の社会的、経済的帰結が心配されている。・・・シリア軍の士気と能力は大きく低下し、一方反政府勢力は戦闘経験を重ねることで、戦闘能力を高めている。アサド政権が生き残るには、もはやヒズボラ、そしてイランに援軍を求めるしかない状況にある。

CFR Interview
イランの核開発プログラム
――曖昧な意図と空爆の可能性

2012年10月号

デビッド・オルブライト 科学国際安全保障研究所(ISIS)会長

これまでイランは自国のウラン濃縮について「小規模な研究炉のための核燃料を生産している」という立場を示してきた。だが、すでに研究炉用の核燃料は十分すぎるほどに生産されている。つまり、民生部門用だけなら、もう核燃料(濃縮ウラン)をつくる必要はない。ここに矛盾がある・・・すでに、イランは相当量の兵器級ウランを生産できる状態にある。核兵器生産を決断すれば、すぐにでも兵器級ウランの生産(濃縮)に取りかかれる。だが、今のところテヘランは核兵器を作ると明確には決断していないようだ。・・・イランの立場は曖昧だ。可能であれば、核兵器を生産したいと考えている。だが、実際に核兵器の開発に乗り出せば、(武力行使を含めて)非常に大きな力がかかってくること、核兵器を手に入れる前に体制が崩壊してしまう危険があることをテヘランは理解している。

韓国の新ミサイル指針
―― 北朝鮮の反発と地域的波紋

2012年10月

スコット・スナイダー
米外交問題評議会朝鮮半島担当シニア・フェロー

射程800キロで弾頭重量500キロの弾道ミサイルを韓国が配備することへの米韓合意が10月に成立した。北朝鮮国防委員会は予想通り、強い反発を示し、北朝鮮のミサイルは「朝鮮半島の米軍基地だけでなく、日本、グアム、米本土の米軍基地を攻撃する能力ももっている」と示唆した。現実からみれば、これは口先だけのブラフだが、この展開を前に平壌が新たに衛星打ち上げを試みる危険はある。今回の合意によって、米韓同盟関係はさらに進化し、韓国が自国の安全保障の管理についてより大きな責任を引き受ける純然たるアメリカの軍事パートナーへと進化したのは間違いない。問題は、韓国の弾道ミサイルの射程が拡大されることで、地域的な軍拡レースが起きる危険があること、そして、韓国が長距離ミサイル能力を開発すれば、加盟国に300キロ以上の射程をもつミサイル開発と輸出の自粛を求めるミサイル技術管理レジーム(MTCR)が潜在的に揺るがされる危険が出てくることだ。

CFR Update
中国の空母「遼寧」は張り子の虎か

2012年10月号

ブリアン・キロー 米外交問題評議ミリタリー・フェロー

9月下旬、中国は世界で9番目の空母保有国の仲間入りを果たした。中国の近隣諸国にとってこれは何を意味するだろうか。その長期的な意味合いをわれわれはどう判断すべきなのか。「中国海軍にとって空母はまったく価値がない」とコメントする専門家もいる。だが、価値がないとも言い切れない。国家的なプライドのシンボルになるし、次世代空母の開発のためのたたき台にできる。この空母に現在開発中のJ-15戦闘機を配備し、東シナ海の尖閣諸島、南シナ海の西沙諸島、南沙諸島近海に投入すれば、この海域での空域支配を持続的に確立できる。「今のところ」脅威ではないが、外洋展開型海軍の整備を目指す中国にとっては、合理的な投資だったとみなすべきだろう。

迫り来る「財政の崖」を考える
――世界経済、国際安全保障への余波は

2012年10月号

ジョナサン・マスターズ
オンラインジャーナリスト

2012年末から2013年初頭にかけて、アメリカでは減税策の打ち切りと自動的な歳出削減のタイミングが重なることで、「財政の崖」と呼ばれる危機的な財政状況が出現すると考えられている。・・・仮に米議会が2012年末の増税と歳出削減の実施を一時的にでも回避できなければ、2013年に米経済は二番底に陥ると多くのエコノミストが考えている。米経済だけでなく、世界経済への余波も相当に大きなものになる。2012年7月のIMF(国際通貨基金)年次報告書は、2013年初めに予想される米経済の大規模な緊縮路線へのシフトは、「世界経済の安定を脅かす大きなリスクだ」と指摘している。・・・2012年末までに米議会での妥協が成立しなければ、米経済、世界経済、そして世界の安全保障は大きな不確実性に直面する。

地域的なパワーバランスの変化が進行するなか、日中両国でナショナリズムが台頭し、これが歴史的な確執を蘇らせている。尖閣諸島をめぐって日中間の緊張がかくもエスカレートしているのはこのためだ。・・・国民感情そして野党勢力が作り出す圧力からみても、日本政府にとって、中国に対して立場を後退させることは選択肢にはならない。一方、北京も手を縛られつつある。国内の抗議行動をあまりに手荒に弾圧すれば、対日宥和策をとったとみなされるし、一方で、このまま混乱が続けば、中国の社会的安定が損なわれ、国際的イメージに傷がつく。・・・目先の打開策は存在するし、危機を収束へと向かわせることはできるだろう。だが、日中が抱える未解決の問題を決着させるには、歴史的な虚構に根ざし、東アジアの将来に対する不透明感ゆえに力を得ている排外的なナショナリズムという怪物と正面から対決する必要がある。

海のならず者と国連海洋法条約
――アジアの海を混乱させる中国と米上院

2012年10月号

トマス・ライト
ブルッキングス研究所フェロー

海の憲法とも呼ばれる「国連海洋法条約」は、すでに太平洋におけるアメリカのパワーを左右する重要なバロメーターになっている。だが、米上院の主権至上主義者が条約への批准を拒んでいるために、アメリカは中国の台頭に揺れるアジアが切実に必要としている多国間構造をうまく構築できずにいる。条約に参加できずにいるために、中国が脅かしている「ルールを基盤とするアジア秩序」をアメリカが維持・擁護し、強化していく能力が脅かされている。「国連海洋法の批准に反対する」という米上院議員の宣言を聞いて、北京がほくそ笑んだのは間違いなく、アジアにおけるアメリカの同盟国と戦略的パートナーは、ワシントンが地域的なリーダーシップを果たしていく能力をもっているかどうか、ますます疑心暗鬼に陥っているはずだ。アジアでのパワーバランスが大きな変化に直面している以上、これ以上アメリカが主権にこだわり続けるのは、戦略的な大失策になる。このやり方は、アメリカ主導の国際秩序を終わらせたいと考えている国を大胆にするだけだ。

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