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論文データベース(最新論文順)

緊縮財政時代の米国防戦略
―― 日本の安全保障とA2・AD戦略

2012年12月号

アンドリュー・F・クレピネビッチ
戦略・予算分析センター会長

アメリカの国防予算が大幅に削減されるのは避けられず、アメリカの安全と繁栄に不可欠な「西太平洋と湾岸地域」、そして(海洋、宇宙、そしてサイバースペースという)「グローバルな公共財」へのアクセスを維持することに焦点を合わせた戦略をとる必要がある。西太平洋の安定とアクセスを保障するアメリカの戦略の要となるのは、やはり日本だ。日本は接近阻止・領域拒否(A2・AD)戦略への投資を大幅に増やして、中国や北朝鮮による攻撃の危険を低下させるべきだ。同盟国によるこうした試みが実現すれば、(中国など)ライバル国が持つA2・ADシステムの射程外から使用できる長距離攻撃システム、敵のA2・ADのレンジ内でも効果的に活動できる攻撃型原子力潜水艦など、米軍の強みを生かせるようになる。ここに提言するアクセス保障戦略とは「米軍は(予算の制約下で)現実的に何ができるか」を前提にした戦略だ。

曲がり角のブラジル経済
――輸出産業の保護か投資拡大か

2012年12月号

ベルナンド・ジュニスキー
メドレー・グローバル・アドバイザーズ
ラテンアメリカ担当シニアアナリスト

ブラジル経済は、資源輸出だけでなく、拡大した中間層が作り出す内需でも成長できるようになり、世界にとって重要な輸出市場に成長した。だが、ここにきて賃金の伸びが停滞し始め、内需だけで経済を刺激するのは難しくなってきている。2011年は2・7%だった成長率が2012年には1・54%に低下すると予測されている。投資で経済成長を促す政策を強化しない限り、これまでよりも成長率は低下していく。ブラジル政府はすでにインフラ整備プロジェクトを発表し、教育部門への投資も検討している。これは、投資という別の側面から新しい成長サイクルを形作る方向へと、政府がゆっくりと路線を見直していることを意味する。・・・・だが一方で、金利を引き下げることで需要を喚起しようとしているだけでなく、通貨市場に介入してアメリカのQE3によって上昇したレアルの価値を低下させて輸出競争力を維持することで、経済を短期的に保護しようとしている。しかし、このやり方は、投資面から経済成長を促す長期的な政策とは矛盾する。ブラジルの政策決定者にとってもっとも大きな課題は、いかに、短期的な成長を実現しつつ、長期的な経済成長の新しい方向性を形作っていくかにある。

儒教とアジアの政治
―― 中国が「民主主義」という表現を使う理由

2012年12月号

アンドリュー・ネーサン
コロンビア大学政治学教授

シンガポールのリー・クアンユー上級相(当時)は「個人の権利を重視する欧米型民主主義は、家族主義の東アジア文化にはなじまない」とかつて主張した。これが多くの論争を巻き起こした「アジア的価値の仮説」の源流だ。結局、アジアでは民主主義は機能しないと主張した点で、この仮説は間違っていた。一方で、社会が近代化していくにつれて権威主義体制は崩れていくという(主に欧米の研究者による)主張も間違っていた。権威主義政府は、教育やプロパガンダを通じて「これまでの社会規範で十分に民主的だ」と人々に信じ込ませることができたからだ。だが、教育やプロパガンダだけで権威主義体制を支えていくのはもはや難しくなっている。政治的正統性の危機を回避するには政治腐敗を隠し、経済成長を維持するしか道はなくなっている。今後、経済が失速し、社会保障制度が崩壊してゆけば、権威主義国家の市民たちも、近隣諸国のように自国も民主体制をとるべきだと考えだす可能性が高い。

アジア・リバランシング戦略とは何か
――軍事的リバランシングだけではない

2012年12月

ポーラ・ブリスコエ
米外交問題評議会
ナショナル・インテリジェンス・フェロー

アメリカのアジア・リバランシング戦略に関する声高な発言は、不必要に中国の懸念を高めることになる。事実、中国のある戦略問題の専門家は、ワシントンは「アジア太平洋地域はアメリカの軍事プレゼンスと保護を必要としているという認識を近隣諸国に売り込み、この認識をバックに、中国に対する戦略的対抗バランスの形成を試みている」と批判している。・・・アメリカのアジア戦略のリバランシングは、アジア・太平洋における米海軍力の再編とみなされることが多いが、実際には、リバランシング戦略は単に軍事領域だけでなく、貿易と投資、人権と民主主義などの基本的戦略原則の多くに関わっている。・・・

エジプトの混乱とモルシ大統領の独善
――ムスリム同胞の自負とエリート主義

2012年12月

スティーブン・クック
米外交問題評議会中東担当シニア・フェロー

大統領権限を強化する憲法令が出されて以降、エジプトは大きな混乱に包み込まれている。ルール、規制、法律が存在しないために、革命を経ても、エジプトは無能な将軍たち、そして現在は権威主義的なイスラム主義者の気まぐれに翻弄されているとみる専門家もいる。だが、問題はより深いところに存在する。モルシ大統領の誤算は、大統領選挙を含む一連の「選挙結果は、有権者がムスリム同胞団への全面的信任を与えたことを意味する」と自分たち同様に、エジプトの民衆が考えていると信じ込んでしまっていることだ。民衆は大統領と自由公正党に、少数意見など気にしなくても済むような、大きな信任を与えたと同胞団は信じてしまっている。もう一つの問題は、「エジプトがどの方向に向かうべきかについては、自分たちが一番良く理解している」と、ムバラク同様にモルシが自負していることだ。この意味で、モルシを「新しいムバラク」と呼ぶ反対派の主張は間違っていないだろう。ムバラクもモルシも唯我独尊的なハイモダニストの世界観をもっている。このエリート意識ゆえに旧体制下では政治改革が進まなかったし、現在も、問題が作り出されている。

BRICsの黄昏
―― なぜ新興国ブームは終わりつつあるのか

2012年12月号

ルチール・シャルマ
モルガン・スタンレー・インベストメント・マネジメント
新興市場・グローバルマクロ担当ディレクター

これまで「途上国経済は先進国の経済レベルに近づきつつある」と考えられてきた。この現象と概念を支える主要なプレイヤーがBRICsとして知られるブラジル、ロシア、インド、中国という新興国の経済的台頭だった。だが、途上国と先進国の間で広範なコンバージェンスが起きているという認識は幻想にすぎなかった。新興国台頭の予測は、90年代半ば以降の新興国の高い成長率をそのまま将来に直線的に当てはめ、これを、アメリカその他の先進国の低成長予測と対比させることで導き出されていた。いまや新興国の経済ブームは終わり、BRICs経済は迷走している。「その他」は今後も台頭を続けることになるかもしれないが、多くの専門家が予想するよりもゆっくりとした、国毎にばらつきの多い成長になるだろう。

論争 日本は衰退しているのか
―― 日本衰退論の不毛

2012年12月

ジェラルド・L・カーチス
コロンビア大学教授

この20年にわたって日本が「停滞」に甘んじてきた時期にも、生活レベルは改善し、失業率は低く抑えられてきた。・・・日本の産業と政府が大胆な政策の見直しを必要としているのは明らかだが、そうした政策の見直しを必要としていない国などどこにもない。・・・日本の内向き志向、特に若者の内向き志向が高まっているという見方もあるが、私のように長く日本に関わってきた者にとって、これほど困惑を禁じ得ない見方もない。むしろ問題は、多くの高齢者層が依然として内向きであるために、若者たちがリスクをとり、何か新しいことを試みるというインセンティブを失っていることだろう。・・・「ジャパン・アズ・ナンバーワン」という概念は消失している。とはいえ、あなたは、世界第2の経済大国中国と世界第3の経済国家日本のどちらで暮らしたいと考えるだろうか。生活レベル、大気、飲料水、食事の質、医療ケアその他の社会サービスのレベル、そして平均余命など、さまざまな指標からみて、答えははっきりしている。台頭する中国よりも、「衰退途上の」日本で暮らすほうが、はるかにいい。・・・

ユーロの解体・存続の 鍵を握るスペイン

2012年11月号

ミーガン・グリーン ルービニ・グローバルエコノミクス、欧州経済担当ディレクター

ギリシャ、ポルトガル、アイルランドのような比較的小さな周辺国経済の危機はなんとか管理できたが、EUはスペインとイタリア経済の双方を救える規模の資金は持っていない。つまり、スペインのケースは、ヨーロッパが危機を管理できるか、それとも、管理できなくなるかの試金石なのだ。おそらく2013年のどこかの段階で、スペインは市場から資金を調達できなくなり、この段階でスペインは全面的なトロイカの支援、つまり、IMF(国際通貨基金)、欧州委員会、ECBによるベイルアウトのすべてを必要とするようになる。そして、スペインにベイルアウト策がとられれば、今度は誰もがイタリアに注目する。仮に危機がスペインとイタリアに全面的に広がりをみせていけば、ソブリン危機、銀行危機がユーロゾーン全体に広がりをみせ、ユーロ圏は全面的に解体していく。問題は、ユーロゾーンを維持して持続的な成長路線に立ち返るには、各国が構造改革を進める必要があるにも関わらず、政治家は誰もが次の選挙での再選を念頭に政治ゲームを展開し、政府も本腰を入れて構造改革に取り組んではいないことだ。

ユーロ危機とECBの役割
――国債購入プログラムの功罪を検証する

2012年11月号

クリストファー・アレッシ オンラインエディター、cfr.org

「ヨーロッパ各国の指導者による危機対応が遅れたために空白が生じ、ユーロゾーンで唯一迅速かつ積極的に事態に介入する力をもつECBは、従来の役割から大きく逸脱した領域へと足を踏み入れざるを得なくなった」。ECBによる国債購入によって、周辺国に流動性がもたらされ、イタリアやスペインなどの経済規模の大きい国の借り入れコスト(国債利回り)も一時的に低下した。しかし、ECBの国債市場への介入に反対する意見もある。「介入は、周辺国が財政均衡に向けて厳格な措置を取ることへのインセンティブを弱めてしまう」とECB前理事のロレンツォ・ビーニ・スマギは言う。特にドイツではこの点が問題視されている。ドイツの保守派の多くは、「こうしたやり方は必然的に財政補填になる」と主張している。債務の重荷に苦しみ支援を求めるユーロ周辺国のすべてにECBはプログラムを適用すべきなのか、その場合、歳出削減と構造改革をめぐってどのような条件を課すべきなのか。苦肉の策であるECBの国債購入は必要な政策なのか。単なる時間稼ぎなのか、モラルハザードやインフレに行き着くことになるのか。

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