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論文データベース(最新論文順)

日本衰退論の虚構
――みえない日本の等身大の姿

2013年1月号

ジェニファー・リンド
ダートマスカレッジ准教授

1970―1980年代、われわれは、資本主義の魔法の道筋をみつけた日本はいずれアメリカを経済的に追い抜き、世界的優位を確立するだろうとみていた。だがバブル崩壊とともに認識面での大きな揺り戻しが起き、いまや分析者たちは、日本は末期的な衰退基調にあるとみている。これらはいずれも実像から離れた極端なとらえ方だ。安全保障領域についても、専門家の多くは、日本の抑制的安全保障路線にばかり目を向け、この国が見事な軍事力を整備していることを無視してきた。こうして、「日本は非武装の平和主義国家」とみなされるようになった。そしていまや、対中関係の悪化によって日本の平和主義は終わり、ナショナリズムが台頭していると言われている。問題は、これらの見方が、いずれも日本の実像を見落としていることだ。極端なレンズで日本をとらえようとする人々は間違っているだけでなく、東アジアのパワーバランスを維持する上で日本が果たせる重要な役割を見落としている。アメリカ(そしておそらくは中国を)例外とすれば、日本ほどパワーと影響力をうまく形作れる国もない。

衰退する日米欧経済

2013年1月号

ロバート・マッドセン
マサチューセッツ工科大学国際研究センター
シニアフェロー

かつては圧倒的なパフォーマンスを誇った日本経済も、バブル経済の崩壊とともに失速し、いまや成長のために、そして再び金融危機に直面するのを避けるために必要な、経済改革に向けた政治的コンセンサスを構築できるかどうかも分からない状態にある。そして、金融危機後のさまざまな対策を通じて「自分たちは日本の二の舞にはならない」というメッセージを市場に送った欧米諸国も、結局、日本の後追いをしている。欧米経済がこの5年間で経験してきたことは、1990年代の日本の経験と非常に似ている。今後の日米欧にとって、社会契約をいかに再定義するかが最大の政治課題になる。予算を均衡させ、再び金融危機に直面するのを回避するには、税率を引き上げ、社会保障支出を削減するしか方法はないからだ。アメリカ、日本、そしてヨーロッパ諸国は、この困難なプロセスとそれが引き起こす社会的緊張への対応に長期的に追われることになるだろう。地政学バランスはすでに東アジアへと傾斜しつつあるが、主役は日本ではない。うまくいけば傍観者として、最悪の場合にはその犠牲者として、日本は東の台頭を見つめることになるだろう。

2013年、世界は中国発の数多くの問題に直面していくと考えられる。CFRのアダム・シーガルは、習近平は政治腐敗対策など国内統治領域の改革に前向きな姿勢を取りつつも、現在進められているサイバー空間の国際的ルール形成をめぐって、より閉鎖的で、主権をベースとするインターネットを促進しようと試みており、欧米との対立は避けられないだろうと予測する。エリザベス・エコノミーは、政治腐敗対策をとり、社会格差の問題に対処し、(輸出・投資主導型)経済のリバランシングを試みることを含めて、中国の新体制は多くの国内課題を抱えていると指摘しつつも、近隣諸国と抱えている領有権問題への対応を余儀なくされるとみる。世界は、習近平が「平和的台頭」や「ウィンウィン外交」にコミットしていると信じる根拠が欲しいと思っていると彼女は言う。

一方、ミンシン・ペイは、(いくぶん緩和されてきているとはいえ)とかく評判の悪い一人っ子政策、そして、治安当局が治安を乱した人物を裁判も経ずに勾留し、強制労働を命じることができる「労働教養」政策を廃止するかどうかが、習近平の改革路線の試金石になるとみる。ヤンゾン・ファンも共産党政府の正統性を維持し、国内消費を刺激するために、中国の新指導層は今後、医療保険制度を含む、社会的セーフティネットの構築に力を入れていかざるをえず、その途上で政治改革が不可欠になると予測している。

Foreign Affairs Update
中国の経済諜報活動

2013年1月号

ジェームズ・A・ルイス
米戦略国際問題研究所シニアフェロー

中国は、経済諜報活動を、政府系のスパイだけでなく、ビジネスマン、研究者、学生を動員して展開している。そのターゲットには、技術情報はもちろんのこと、企業の契約、合併吸収計画の情報も含まれている。中国だけが経済諜報を行なっているわけではないが、この領域でもっともアクティブな国が中国であるのは間違いない。通信、航空、エネルギー、防衛といった中国の重要産業は、この戦略をうまく追い風にしている。中国が途上国だった当時はこうした国際ルールを無視した行動もある程度は許容できたかもしれない。だが、中国が世界第二位の経済大国となり、軍事的なライバルとなる可能性を秘めている現状では、技術諜報を許容できるはずはない。明確な警告をして報復策をとる必要がある。経済技術諜報という手法が、中国の国際的なリーダーシップと国内の技術開発に悪影響を与えることを北京に理解させる必要がある。

サイバー戦争の虚構と現実

2013年1月号

ブランドン・バレリアーノ
グラスゴー大学講師
ライアン・マネス
イリノイ大学PHDキャンディデート

イランのウラン濃縮施設をシャットダウンに追い込んだ「スタックスネット」、テキストやオーディオデータをコピーした上で、ハッキングしたコンピュータ上のすべてのファイルを消し去る「フレーム」。これら洗練されたサイバー兵器の登場で、いずれ、電力供給網、交通システム、金融市場に加えて、政府そのものが脅威にさらされるようになり、今後の国家間関係、外交関係そのものが塗り替えられていくのだろうか。そうなるかどうかは、現状におけるサイバー戦争の抑止と自制のメカニズムが維持されるか、それとも崩れるかに左右される。現状では、いかなる国もまともなサイバーディフェンスを築けておらず、攻撃する側も、もし反撃されたらどうなるかを考えざるを得ず、これが抑止と自制を促している。サイバー戦争が脅威となるのは、それがひどく乱用され、多発するようになった場合、あるいは、サイバー空間の脅威対策に多くの資金がつぎ込まれ、本当の脅威への対応が手薄になった場合だろう。

アンゲラ・メルケル首相率いるドイツは、周辺国を支援するには、財政同盟を立ち上げ、政治的統合を深化させる必要があるという立場を明確に示している。一方、国家主権を重視するフランスは政府間交渉によるアプローチに依然としてこだわっている。いまやユーロ危機対応の中枢にあるのは、「ヨーロッパの統合を深化させるかどうか」に関する論争だ。だが、専門家の多くは、ヨーロッパでナショナリズムが高まっている以上、欧州の指導者たちが統合の深化に合意できるとはみていない。仮に財政同盟に必要とされる経済・政治統合を深化させれば、集団的な安全保障政策の基盤も作る必要が出てくる。だが現実には、ヨーロッパの政策決定者が目の前にあるユーロ危機の対応に追われているために、シリア内戦など、全ヨーロッパ的な対応を必要とする外交懸案も放置されたままだ。外交専門家のウォルター・ラッセル・ミードは、すでにユーロ危機はヨーロッパの「経済だけでなく、地政学的重要性」も危機にさらしていると指摘し、CFRのC・クプチャンも、ヨーロッパはうまくいっても、穏当な能力をもつ地域的なプレイヤーにとどまり、下手をすると、地政学的なプレイヤーとしては忘れさられていく運命にあると指摘している。

Foreign Affairs Update
中国の不動産バブルと農民の不満

2013年1月号

ライネッテ・H・オング
トロント大学准教授

中国では依然として政府主導の建設・不動産投資が進められているが、これは、どうみてもリスクの高い投資戦略だ。地方政府は農民から接収した土地を担保に資金を銀行から借り入れ、その後、この土地を売却、あるいはリースすることで得た資金を金利支払いに充てている。北京は、地方政府が負っている債務総額は、中国のGDPの13-36%に相当する5兆―14・4兆元に達すると推定している。民間アナリストのなかには、偶発債務と(地方政府系機関の)間接債務を含めると、債務総額はGDPの50-100%に達しているとみる者もいる。当然、住宅や土地の価格が大きく低下すれば、財政危機と金融危機が起きる。一方で、土地を追われた農民の怒りによって、中国では年間12万件の抗議行動が起きている。

トルコのソフトパワーと中東
―― ギュル大統領との対話

2013年1月号

アブドラ・ギュル トルコ大統領

世界的パワーになることが重要なわけではない。重要なのは、可能な限り高いところへと基準を引き上げ、国が市民たちに繁栄と幸せを提供できるようにすることだ。ここで言う基準とは、民主主義と人権だ。これがトルコにとっての究極の目的だ。これらの基準を高度化させていけば、経済はもっと力強くなり、ソフトパワーをもつ国になれる。・・・他の諸国がトルコを模範とし、われわれのやり方に啓発されるとすれば、それは彼らの判断だ。国に浮き沈みはつきものであり、われわれは彼らと連帯する。重要なのは、問題と格闘している人々への連帯を示すことだ。すべての国は平等であり、すべての国家は尊厳をもっている。筋書きを書いた誰かが、その役回りを他の国に押しつけることはできない。(A・ギュル)

衰退する独仏協調
――政治統合から危機対応へ変化した 欧州のメカニズム

2012年12月号

ヤコブ・ファンク・キルケガード ピーターソン国際経済研究所シニアフェロー

これまでヨーロッパ統合のプロセスと制度は、「統合ヨーロッパという政治ビジョン」を前提に組み立てられ、その中枢が独仏の妥協によって形作られる統合プロセスだった。しかし、現在のヨーロッパのプロセスは政治ビジョンを前提とする統合ではない。それは、(危機に対応するための)政治、経済、金融上の必要性に突き動かされた対応プロセスにすぎない。「ユーロゾーンを存続させるには、ユーロゾーンの基本制度を改革する必要がある」という危機対応認識に根ざしている。だが、この対応プロセスにおいて、何かを実現するために、独仏が必ず合意する必要があるかどうか、はっきりしない。別の言い方をすれば、このプロセスにおけるフランスの影響力は、これまでに比べて非常に小さい。オランドが、どのようなヨーロッパをフランスが望むかについての一貫性のあるビジョンを描き、それをどのように実現していくか考案するまでは、かつての欧州統合の時代と比べて、独仏協調の重要性は間違いなく低下していくだろう。

習近平政権の内憂外患

2012年12月号

ダミアン・マ ユーラシアグループ・中国アナリスト

経済成長の必要性を政治的コンセンサスで支えた胡錦濤と彼の側近たちは、他の新興国でさえもうらやむ経済成長を実現した。だが、その結果、余りに多くを外需に依存する経済、そして経済成長だけを重視するエリート文化を作り上げ、一方で、市民の生活の質を犠牲にしてしまった。そしていまや経済成長は鈍化し、民衆の抗議行動は増え、中間層は中国政府に対する不信感を募らせている。中国のジニ係数は0・5に近づいており、社会が不安定化するといわれる警戒数値の0・4をすでに上回っている。格差の増大だけではない。政治的自由が制限されていることに対する人々の不満も高まっている。いまや中国共産党は、中間層を犠牲にして、経済的機会へのアクセスを独占する政治エリート集団へと変化している。しかも、この2年間に、中国が地域的な強硬策に転じた結果、近隣国との関係も不安定化している。日中関係を含めて、中国が10年をかけて構築した安定した地域環境はいまや崩壊の瀬戸際にある。習近平を待ち受けているのは不満を募らす国内社会、そして、崩壊の瀬戸際にある地域秩序だ。

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