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論文データベース(最新論文順)

エジプトの混乱とモルシ大統領の独善
――ムスリム同胞の自負とエリート主義

2012年12月

スティーブン・クック
米外交問題評議会中東担当シニア・フェロー

大統領権限を強化する憲法令が出されて以降、エジプトは大きな混乱に包み込まれている。ルール、規制、法律が存在しないために、革命を経ても、エジプトは無能な将軍たち、そして現在は権威主義的なイスラム主義者の気まぐれに翻弄されているとみる専門家もいる。だが、問題はより深いところに存在する。モルシ大統領の誤算は、大統領選挙を含む一連の「選挙結果は、有権者がムスリム同胞団への全面的信任を与えたことを意味する」と自分たち同様に、エジプトの民衆が考えていると信じ込んでしまっていることだ。民衆は大統領と自由公正党に、少数意見など気にしなくても済むような、大きな信任を与えたと同胞団は信じてしまっている。もう一つの問題は、「エジプトがどの方向に向かうべきかについては、自分たちが一番良く理解している」と、ムバラク同様にモルシが自負していることだ。この意味で、モルシを「新しいムバラク」と呼ぶ反対派の主張は間違っていないだろう。ムバラクもモルシも唯我独尊的なハイモダニストの世界観をもっている。このエリート意識ゆえに旧体制下では政治改革が進まなかったし、現在も、問題が作り出されている。

BRICsの黄昏
―― なぜ新興国ブームは終わりつつあるのか

2012年12月号

ルチール・シャルマ
モルガン・スタンレー・インベストメント・マネジメント
新興市場・グローバルマクロ担当ディレクター

これまで「途上国経済は先進国の経済レベルに近づきつつある」と考えられてきた。この現象と概念を支える主要なプレイヤーがBRICsとして知られるブラジル、ロシア、インド、中国という新興国の経済的台頭だった。だが、途上国と先進国の間で広範なコンバージェンスが起きているという認識は幻想にすぎなかった。新興国台頭の予測は、90年代半ば以降の新興国の高い成長率をそのまま将来に直線的に当てはめ、これを、アメリカその他の先進国の低成長予測と対比させることで導き出されていた。いまや新興国の経済ブームは終わり、BRICs経済は迷走している。「その他」は今後も台頭を続けることになるかもしれないが、多くの専門家が予想するよりもゆっくりとした、国毎にばらつきの多い成長になるだろう。

論争 日本は衰退しているのか
―― 日本衰退論の不毛

2012年12月

ジェラルド・L・カーチス
コロンビア大学教授

この20年にわたって日本が「停滞」に甘んじてきた時期にも、生活レベルは改善し、失業率は低く抑えられてきた。・・・日本の産業と政府が大胆な政策の見直しを必要としているのは明らかだが、そうした政策の見直しを必要としていない国などどこにもない。・・・日本の内向き志向、特に若者の内向き志向が高まっているという見方もあるが、私のように長く日本に関わってきた者にとって、これほど困惑を禁じ得ない見方もない。むしろ問題は、多くの高齢者層が依然として内向きであるために、若者たちがリスクをとり、何か新しいことを試みるというインセンティブを失っていることだろう。・・・「ジャパン・アズ・ナンバーワン」という概念は消失している。とはいえ、あなたは、世界第2の経済大国中国と世界第3の経済国家日本のどちらで暮らしたいと考えるだろうか。生活レベル、大気、飲料水、食事の質、医療ケアその他の社会サービスのレベル、そして平均余命など、さまざまな指標からみて、答えははっきりしている。台頭する中国よりも、「衰退途上の」日本で暮らすほうが、はるかにいい。・・・

ユーロの解体・存続の 鍵を握るスペイン

2012年11月号

ミーガン・グリーン ルービニ・グローバルエコノミクス、欧州経済担当ディレクター

ギリシャ、ポルトガル、アイルランドのような比較的小さな周辺国経済の危機はなんとか管理できたが、EUはスペインとイタリア経済の双方を救える規模の資金は持っていない。つまり、スペインのケースは、ヨーロッパが危機を管理できるか、それとも、管理できなくなるかの試金石なのだ。おそらく2013年のどこかの段階で、スペインは市場から資金を調達できなくなり、この段階でスペインは全面的なトロイカの支援、つまり、IMF(国際通貨基金)、欧州委員会、ECBによるベイルアウトのすべてを必要とするようになる。そして、スペインにベイルアウト策がとられれば、今度は誰もがイタリアに注目する。仮に危機がスペインとイタリアに全面的に広がりをみせていけば、ソブリン危機、銀行危機がユーロゾーン全体に広がりをみせ、ユーロ圏は全面的に解体していく。問題は、ユーロゾーンを維持して持続的な成長路線に立ち返るには、各国が構造改革を進める必要があるにも関わらず、政治家は誰もが次の選挙での再選を念頭に政治ゲームを展開し、政府も本腰を入れて構造改革に取り組んではいないことだ。

ユーロ危機とECBの役割
――国債購入プログラムの功罪を検証する

2012年11月号

クリストファー・アレッシ オンラインエディター、cfr.org

「ヨーロッパ各国の指導者による危機対応が遅れたために空白が生じ、ユーロゾーンで唯一迅速かつ積極的に事態に介入する力をもつECBは、従来の役割から大きく逸脱した領域へと足を踏み入れざるを得なくなった」。ECBによる国債購入によって、周辺国に流動性がもたらされ、イタリアやスペインなどの経済規模の大きい国の借り入れコスト(国債利回り)も一時的に低下した。しかし、ECBの国債市場への介入に反対する意見もある。「介入は、周辺国が財政均衡に向けて厳格な措置を取ることへのインセンティブを弱めてしまう」とECB前理事のロレンツォ・ビーニ・スマギは言う。特にドイツではこの点が問題視されている。ドイツの保守派の多くは、「こうしたやり方は必然的に財政補填になる」と主張している。債務の重荷に苦しみ支援を求めるユーロ周辺国のすべてにECBはプログラムを適用すべきなのか、その場合、歳出削減と構造改革をめぐってどのような条件を課すべきなのか。苦肉の策であるECBの国債購入は必要な政策なのか。単なる時間稼ぎなのか、モラルハザードやインフレに行き着くことになるのか。

第三の産業革命
―― モノをデータ化し、データをモノにする

2012年11月号

ニール・ガーシェンフェルド
マサチューセッツ工科大学教授

新たなデジタル革命が迫りつつある。今度はファブリケーション(モノ作り)領域でのデジタル革命だ。コミュニケーションや計算のデジタル化と同じ洞察を基盤にしているが、いまやプログラム化されているのは、バーチャルな何かではなく、フィジカルなモノだ。CGデータを元に3次元のオブジェクトを造形する3Dプリンターの登場によって、ベアリングと車軸を、同じ機械で同時に作れるようになった。これをデータからモノを作り、モノをデータ化するための進化する能力と定義することもできるだろう。このビジョンを完成させるにはまだ長期的な研究が必要だが、すでに革命は進行している。だれもがどこででも何でも作れる世界で、われわれはどのように暮らし、学び、仕事をすることになるのか。現在進行中の革命が突きつける中核的な疑問に答えることが、現状でのわれわれの大きな課題だろう。

中国と日本の相互認識
―― 歴史的遺産とイデオロギー的遺産の呪縛
(1972年発表)

2012年11月号

チャーマーズ・ジョンソン
日本政策研究所・所長(論文発表当時)

1885年以降、数多くの中国人が近代世界を学ぼうと、日本に留学してきた。しかし、その後日本が帝国主義国家として台頭していくと、中国人が日本の近代化に抱いた憧憬は、嫌悪感へと変化していく。中国人から見れば、日本はもはやアジアではなかった。日本は、紛れもなく帝国主義国家そのものだった。そして、日中戦争が、より一層の敵意と憎悪を生み出し、それが現在の対日観に影響を与え続けている。だが、戦争の影響を、日本軍の残虐性という観点だけでとらえるのは誤りだろう。戦争は両国の知的・イデオロギー的な枠組みに大きな影響を与えている。日本が封建制から資本主義、帝国主義へと突き進むプロセスが、中国のナショナリストたちのマルクス・レーニン主義イデオロギーへの確信をより深めることになったからだ。

レバノン化するシリア
――反体制派の統合は幻想に終わる

2012年11月

エド・フサイン
米外交問題評議会中東担当シニア・フェロー

シリアの反体制派の統一組織「シリア国民連合」が誕生したが、シリア国内の反体制派がこの新しい組織と協調するかどうかは、はっきりしない。欧米にとって厄介なのは、シリア国内の反体制派武装勢力にアルカイダの戦士が入り込んでいることだ。どうすれば、自由と民主主義のために戦っているシリア人とアルカイダの戦士を区別できるだろうか。この二つの集団を明確に区別しない限り、アメリカとヨーロッパが反政府勢力を全面的に支持すると公言するのは難しい。たしかに、フランスがシリア国民連合を承認したことで、いまや反体制派は国際コミュニティの支持を獲得しつつある。だが、本当の戦場がシリア国内にあることを忘れてはいけない。今後の多くは、国民連合が反体制派武装勢力を統制できるか、アルカイダを締め出せるか、そして、多数派であるスンニ派とその他の少数派の調和と統合を実現できるかに左右される。現実には、これらが実現する見込みは乏しい。どうみても、シリア内の各勢力が政治的妥協を求めるような情勢にはないからだ。・・・すでにシリアは、レバノン同様に外部パワーの代理戦争の場所と化しつつある。あと3-4年は内戦が続くだろうし、アサド政権が倒れても、そこに台頭してくるのは、もう一つの殺人集団であるスンニ派イスラム主義組織だろう。

何が経済を成長させるのか
―― 政治体制、地勢、資源

2012年11月号

ジェフリー・サックス
コロンビア大学教授

経済を成長させる要因を政治体制だけに限定できるのか。悪い統治が経済成長を阻む要因の一つであることは確かだ。しかし、地政学的脅威、恵まれない地勢や気候、債務危機、文化的な障壁も経済成長を阻む足かせになる。貯蓄と投資を不可能にする貧困が貧困をさらに深刻にする部分もある。複雑な経済成長のメカニズムを政治体制だけでは説明できない。中国、シンガポール、台湾、ベトナムはすべて抑圧的政治から始めて、結果的に開放的経済制度を実現したが、いまも政治改革にたどり着いていない国もある。経済開発を理解するには、技術革新と拡散のグローバルプロセスの真の複雑さに目を向け、政治、地勢と立地、経済、文化が世界の技術の流れを形作る経路が無限大に存在することを認識する必要がある。経済成長は、気候変動問題や情報・コミュニケーション技術の進化など、今後ますます複雑な要因に左右されるようになる。政治というたった一つの変数で経済成長を説明するやり方では、ますます真実が分からなくなる。

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