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論文データベース(最新論文順)

CFR Interview
機能不全に陥ったポルトガルの緊縮財政路線

2013年5月号

マヌエル・ピニョ
前ポルトガル経済開発相

2013年4月、ポルトガルの憲法裁判所は、政府の緊縮政策の一部に対して違憲の判断を示した。EUおよびIMFと交わしたベイルアウト(救済)合意では、融資の条件として歳出削減が義務づけられているが、「現実には、緊縮財政への政治的・社会的反発が高まっており、ポルトガル政府は、これまでの路線を見直さざるを得なくなるだろう」。ポルトガルの前経済開発相のマヌエル・ピニョによれば、「リセッション下の緊縮財政が容易ではないこと」がヨーロッパでは必ずしも理解されていない。「これまでの路線を見直しつつあるとはいえ、ドイツとECBの行動はつねに現実よりも一歩出遅れている。・・・ヨーロッパは、財政上の素行の悪い国には懲罰と清算という路線をとるように求めているが、その結果、リセッションと失業が続いている」。・・・リセッションのときには公的支出を増やすべきだが、ヨーロッパはその逆のことをしている。(量的緩和を進めた)アメリカが経済成長を遂げて失業率が低下しているのに対して、(緊縮財政を固持する)ヨーロッパがリセッションから抜け出せず、失業が増大しているのはこのためだ」

東地中海天然ガス資源と領有権論争

2013年5月号

ユーリ・M・ズーコフ
ハーバード大学ウエザーヘッドセンター・フェロー

東地中海の海洋資源開発に派生する論争が、かねて存在した地域的緊張をさらに深刻にしている。イスラエルのハイファ沖合にあるタマルとリバイアサンという二つのガス田には、合計26兆立方フィートの天然ガス資源が存在すると推定され、キプロスの沖合にあるアフロディーテ・ガス田にも7兆立方フィートの資源が存在すると言われる。しかし、イスラエルの資源海域にはレバノンが、キプロスの資源海域には北キプロスが同様に領有権を主張している。トルコもさまざまな思惑をもっている。この環境では、偶発事件が紛争へとエスカレートしていく危険がある。すでに交渉で地域合意を形成する機会は失われつつあり、おそらく、外的パワーの関与なしには、危機は制御できないだろう。問題は、その外的パワーがどの国になるかだ。

アベノミクスと日本経済
――過激なケインズ主義のリスクとベネフィット

2013年05月

ベイナ・シュウ オンラインライター・エディター

日本政府は、短期的には機動的な財政政策、中央銀行による大胆な金融緩和を通じたインフレターゲット政策、そして(中・長期的には)国内の労働市場を活性化させる構造改革(成長戦略)という3本の矢、そしてTPPを含む貿易パートナーシップを強化することで経済成長を実現しようと考えている。・・・安倍首相は金融緩和政策によって為替レートが円安に振れ、これによって日本の輸出産業が活気づくことを期待している。・・・企業収益が上昇すれば、賃金も引き上げられ、民間消費が拡大して株価も上昇すると考えられている。これまでのところ、市場は活況を呈している。・・・もちろん、ハイパーインフレが起き、下手をすると円が崩壊する恐れがあるだけでなく、この政策ではデフレからの脱却がほとんど進まない恐れもある。量的緩和による円安が通貨戦争を誘発しないか、金利上昇がさらに債務と財政赤字を膨らませるのではないか、選挙区への利益誘導型でない公共投資が適切に実施されるか、本当に構造改革が実施されるかといったさまざまな懸念もある。だが、日本が流動性の罠から脱出する道筋を示せば、先進国は大いに勇気づけられるとアベノミクスに期待する声もある。ほぼすべての先進諸国は、金利ゼロでも資金が動かない流動性の罠にはまり、だれもがここから抜け出せないのではないかと心配しているからだ。・・・

ブレトンウッズを設計したアメリカ人
―― デクスター・ホワイトはソビエトのスパイだった

2013年5月号

ベン・ステイル
米外交問題評議会シニア・フェロー
(国際経済担当)

イギリスのジョン・メイナード・ケインズとともに、ブレトンウッズ体制の設計に取り組んだのは、当時、まだ無名に近かった米財務官僚のハリー・デクスター・ホワイト。だが、戦後の資本主義金融構造を設計した彼にはもう一つの顔があった。1930年代半ば以降、11年間にわたって、ホワイトはソビエトのスパイとして活動していた。ソビエト側に秘密情報を提供し、アメリカのルーズベルト政権とどのように交渉すべきかをアドバイスし、モスクワに有利な戦後処理をワシントンで唱道した。おそらくソビエトにとって、ホワイトは、国務省内にいたソビエトスパイとして冷戦期に告発されたアルジャー・ヒス以上に重要な情報源だった。しかしなぜ、1944年までには、アメリカの外交と経済政策に広範な影響力をもつようになっていた戦後経済体制の設計者は、ソビエトの経済体制に魅了されていたのか。・・・

ウラジーミル・プーチンはシリア紛争とチェチェン紛争を同列にとらえ、シリア紛争のことを「国家を標的にし(国家解体を狙う)スンニ派の過激主義勢力の、数十年におよぶ抗争の最近の戦場にすぎない」とみている。アフガン、チェチェン、数多くのアラブ国家を引き裂いてきたスンニ派の過激主義勢力と国家の戦いがシリアで起きているにすぎない、とプーチンは考えている。だからこそ、彼は「自分がチェチェンで成し遂げたことをアサドがシリアで再現し、反体制派の背骨を折ること」を期待し、シリアに対する国際介入に反対してきた。仮にプーチンがアサドを見限るとしても、その前に、「体制崩壊に伴う混乱の責任を誰がとるのか」という問いへの答を知りたいと考えるはずだ。誰がスンニ派の強大化を抑え込むのか、誰が北カフカスその他のロシア地域に過激派が入り込まないようにするのか。そして、誰が、シリアの化学兵器の安全を確保するのか。プーチンは、アメリカや国際コミュニティがアサド後のシリアに安定を提供できるとはみていない。だからこそ、シリアという破綻途上国を支援し続けている。

第二次朝鮮戦争の悪夢に備えよ

2013年05月

ケイル・A・リーバー
ジョージタウン大学准教授
ダリル・G・プレス
ダートマスカレッジ准教授

戦争が始まれば、訓練も装備も十分ではない北朝鮮軍は、どうみてもCFC司令部(米韓連合軍)には太刀打ちできない。北朝鮮軍は総崩れとなって敗走し、CFCが短時間で国境線を越えて、北へと進軍する。この時点で、北朝鮮指導層は「サダム・フセイン、ムアンマル・カダフィに持ち受けていた忌まわしい運命を回避するにはどうすればよいか」という重大な選択に直面する。金正恩とその家族や側近たちは中国に脱出して保護を求め、そこで余生を送るつもりかもしれない。だが、このオプションをとれないとすれば、平壌に残された唯一の方法は、「核によるエスカレーション策」という切り札を持ち出して停戦に持ち込むことかもしれない。金正恩は、CFCが攻撃を止めない限り、その段階で、いまだ手つかずのまま残されている、片手では数え切れない韓国や日本の都市を攻撃すると恫喝するかもしれない。・・・

緊縮財政という危険思想

2013年5月号

マーク・ブリス
ブラウン大学教授

懐にある以上のカネは使うなという緊縮財政の思想は直感的な説得力をもっている。だが、ユーロ危機後のヨーロッパのケースからも明らかなように、緊縮財政は機能しない。この1世紀を振り返っても、政府支出を減らして成長を呼び込めた歴史的な事例は存在しない。大恐慌期に各国で実施された緊縮財政は状況をさらに悪化させ、最終的に日独を戦争へと駆り立ててしまった。緊縮財政は失業と低成長をもたらし、社会格差を増大させるだけで、それが消費を刺激し、成長を促すことはあり得ない。唯一機能するのは、経済ブームに沸き返る大国を輸出市場にもつ小国が緊縮財政を実施した場合だけだろう。むしろ、政府は民間部門が債務をなくせる環境をつくり、公的支出を維持する必要がある。そうすれば、民間部門が成長するにつれて、税収も増大し、債務や赤字を削減していけるようになる。シュンペーターの言う「創造的破壊」を可能にするのは、「ケインズ主義の浪費」なのだ。技術革新と成長の「原料」は、多くの場合、民間の支出ではなく、政府支出によって作り出される。

CFR Interview
「ビッグデータ」のポテンシャルと文化

2013年5月号

ケネス・クキエル
エコノミスト誌データエディター
ビクター・メイヤー=ションバーガー
オックスフォード・インターネット研究所教授
(オックスフォード大学)

これまでは、事件や人々の感情を知的に分析し、不確実で危険な世界にあっても賢明な対策を示す手腕が人々の敬意の対象とされてきた。・・・だが、いまではわれわれの道具箱にはより多くのツールが入っている。低コストでデータを収集し、分析できるようになった。つまり、外交政策を理解し、実践する上でデータを利用しないとすれば、愚かだし、それは危険なまでに情緒的な判断に依存し続けることを意味する。(K・クキエル)

中国では、道路、鉄道、送電グリッドなどの物的インフラの整備、一方で環境汚染や政治腐敗などの問題対策にビッグデータを利用できると考えられている。つまり、中国におけるビッグデータは、・・・変革を求める社会的流れを作り出すポテンシャルも秘めている。(ビクター・メイヤー=ションバーガー) 

なぜイスラエルは外交で地域環境を整備できないのか。最大の要因は、イスラエル軍が政策決定に非常に大きな影響力をもち、そして市民も依然として軍を頼みとしているからだ。国家安全保障領域での内閣の権限は弱い。「まともなスタッフの支援も期待できず、結局は安全保障政策の立案を軍部に頼らざるを得ない」からだ。この領域での政策を実行するには、必然的に軍部、とくに事実上の国のシンクタンクとみなされる軍参謀本部を関与させざるを得ない。こうして「イスラエルの政治指導者には、国家の必要性の全てを見据えた選択肢ではなく、軍による限られた選択肢しか提示されなくなる」。しかも、軍の政治的、社会的影響力が、近い将来弱まっていくとは考えにくい。イスラエル政府が政策を正当化するには軍の威信が必要だし、国論をわける論争の場合には、軍の威信がますます重要になるからだ。

資本主義の危機と社会保障
―― どこに均衡を見いだすか

2013年4月号

ジェリー・Z・ミューラー 米カトリック大学歴史学教授

資本主義は人々に恩恵をもたらすだけでなく、不安も生み出すために、これまでも資本主義の進展は常に人々の抵抗を伴ってきた。実際、資本主義社会の政治と制度の歴史は、この不安を和らげるクッションを作り出す歴史だった。資本主義と民主主義が調和して共存できるようになったのは、20世紀半ばに近代的な福祉国家が誕生してからだ。認識すべきは、現状における格差は、機会の不平等よりも、むしろ、機会を生かす能力、人的資本の違いに派生していることだ。この能力の格差は、生まれもつ人的ポテンシャルの違い、そして人的ポテンシャルを育む家族やコミュニティの違いに根ざしている。このために、格差と不安は今後もなくならないだろう。この帰結から市民を守る方法を見出す一方で、これまで大きな経済的、文化的な恩恵をもたらしてきた資本主義のダイナミズムを維持する方法を見つけなければならない。そうしない限り、格差の増大と経済不安が社会秩序を蝕み、資本主義システム全般に対するポピュリストの反動を生み出すことになりかねない。

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