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論文データベース(最新論文順)

シリア政府は本当に化学兵器を使用したのか
―― 反体制派軍事支援と和平会議の行方

2013年7月号

グレゴリー・D・コブレンツ
米外交問題評議会フェロー

ワシントンは「シリアのアサド政権はサリンを国内で(複数回)使用している」との情報機関がまとめた分析結果を前提に、シリアの反体制派に軍事支援を行うと6月中旬に表明した。この情報分析は、シリアから持ち出された(犠牲者の血液、尿、毛髪などの)「生理学的サンプル」を分析してサリンによる攻撃があったと判断している。だが国連は「データ(サンプル)がどのように収集されたか、そのプロセスを示す説得力のあるエビデンスが存在しない以上、情報の有効性は損なわれる」とみている。この分析でもっとも奇妙なのは、攻撃の規模(と犠牲者)が100―150人と非常に小さいことだ。・・・化学兵器を使用して米政府のレッドラインを超えることのリスクをあえて冒してまで、化学兵器をかくも限定的な方法で使用することの戦略的利益をシリア政府がどう判断したのか、判然としない。・・・いまや和平会議が実施される見込みは大きく後退している。

Foreign Affairs Update
サイバー諜報とネットワーク破壊の垣根はない
―― バーチャル諜報から物理的破壊へ

2013年6月号

リチャード・ベイトリック/マンディアント チーフセキュリティオフィサー

それがいかなるものであれ、諜報活動は深刻な問題を伴うが、サイバー空間での諜報活動が、現実世界におけるそれとは違っていることを理解していない人もいる。侵入者が、サイバー諜報に必要とされるのと同じツールで「デジタルな破壊」をなし得ることを理解している人はほとんどいない。要するに、敵がコンピュータシステムに入り込んだ場合、そのダメージがどの程度のものになるかは、敵の意図次第なのだ。これまでのところ、サイバー戦争の具体例として広く受け入れられているのは、イランの核施設に対する「スタックスネット」による攻撃だけだが、サイバー諜報がサイバー戦争に迅速に姿を変えることを理解する必要がある。自分のネットワークへの侵入を速やかに突き止め、それが何であれ、侵入者が目的を果たす前にシステムから排除しなければならない。もはや、「それがサイバー諜報である限り、侵入者の活動は許容できる」という虚構に逃げ込むことはできない。

最近、ウィキペディアは、ブラジルのリオデジャネイロの3人の研究者が開発したプログラミング言語「ルア」をシステムとして採用した。IT技術を支える「エコシステム」を国内にもたない途上国発のIT言語が、ウィキペディアという世界的組織に採用されたのは画期的な展開だが、そこにいたる道程をみると、途上国の技術者が直面する障害が浮かび上がってくる。途上国の技術者が世界で成功するには、技術開発と市場化の「エコシステム」をもたない国内から巣立ち、まず世界で成功を収める必要がある。外国に出るのは危険な坂道に足を踏み入れるようなもので、不利な場所に住み、不利な言語を使い、不利な制度のなかで開発を続けなければならない。それでも、彼らは外国に目を向け、世界中で使われている同じテクノロジーを用いて問題を解決しようとした。そうするしか成功する方法はなかったからだ。・・・

北極圏の未来
――北極圏サークルの立ち上げを

2013年6月号

スピーカー オラフル・ラグナル・グリムソン  アイスランド大統領、 プレサイダー スコット・G・ボルガーソン  前外交問題評議会シニア・フェロー

アイスランドの氷河はヨーロッパ最大の規模をもっているが、この氷河の後退は地球温暖化がたんなる理論ではなく、現実に起きていること、それが大きな変化をもたらしていることを物語っている。海面の上昇によって、世界の都市と経済はいずれ大きなダメージを受けると思われる。中国の研究者たちは、・・・グリーンランドや南極の氷床の溶解による海面上昇によって、上海を始めとする多くの都市が水没するというシナリオを想定している。・・・われわれは北極評議会を越えたより大きなプレイヤーを内包するフォーラム、北極圏サークルも立ち上げようと試みている。これは、北極圏諸国だけでなく、アジアやヨーロッパ諸国の科学者、活動家、企業、政治指導者たちが参加するフォーラムだ。

Foreign Affairs Update
北京は近く経済改革に着手する
―― 改革の必要性が障害を克服する

2013年6月号

エバン・A・フェイゲンバーム/シカゴ大学ポールソン研究所副所長
ダミアン・マ/シカゴ大学ポールソン研究所フェロー

「経済改革に踏み切れば、パワフルな既得権益層の抵抗と反発はさけられなくなる。環境汚染問題や土地接収問題を前に民衆の不満が高まりをみせていることも改革を難しくしている。改革は短期的には経済を不安定化させ、社会不安をさらに高める危険を伴うからだ」。多くの専門家がこう考え、中国における経済改革の可能性を否定的にとらえている。だが、90年代末に中国が経済改革を実施していることを思いだすべきだ。朱鎔基が手がけた改革のケースからみても、「政治への信頼性の危機、世界の経済・金融危機に対する脆さへの認識、そして変革の必要性を認識する指導層の存在」という三つの条件が揃えば、中国は大胆な改革に踏み切る可能性があるし、いまやこれらの条件が満たされつつある。習近平と李克強は改革が必要であることをすでに明確に認めている。おそらく、2013年秋の中央委員会第3回総会で改革アジェンダが公表されることになるだろう。

なぜインドは大国とみなされるのを嫌がるか
―― 戦略なき新興大国の苦悩

2013年6月号

マンジャリ・チャタジー・ミラー/ボストン大学アシスタントプロフェッサー(国際関係論)

大国の地位を手にいれたいと望む国は、戦術的な課題を越えて、自国の利益にもっともフィットする世界をイメージし、そのビジョンを現実にしようと試みるものだ。だがインドの外交指導者たちはそうした大国へのビジョンをいまだに描いていない。その理由は、「影響力が拡大すれば、そのパワーに応じた責任を果たさなければならなくなる」と警戒しているからだ。大国になれば大きな責任を引き受けなければならなくなることをインドは嫌がっている。この状況が続く限り、多くの人が期待するような国際舞台での役割をインドが果たすようになることはない。自国の具体的な利益がかかわる狭い領域での国際的役割程度なら受け入れるかもしれないが、よりグローバルな役割を果たすように求める抽象的な呼びかけに、インドが耳を貸すことは現状ではあり得ない。

ビッグデータの台頭

2013年6月号

ケネス・クキエル
ビクター・メイヤー=ションバーガー
エコノミスト誌データ・エディター
オックスフォード・インターネット研究所教授

歴史のほとんどの時期を通じて、われわれは比較的限られたデータを前提にものを考えてきた。そのような時代に重視されたのがサンプリングだ。ランダムに抽出されている限り、選挙の出口調査のように、サンプリングで全体を推し量ることができた。だがビッグデータの台頭によって、かつては量的に計測できなかった世界をデータ化できるようになった。これによってわかるのは、なぜ現象が起きているかの因果関係ではなく、あくまで相関関係だ。例えば、カナダの医療チームは、未熟児の心臓の鼓動、血圧、呼吸、血中酸素のレベルを含む16の重要な兆候をデータ化し、病気の発症を予見することに成功している。誰が法に触れる行為を行いそうなのか、どのビルで火災が起きそうなのかも、ビッグデータで量的に計測されつつある。ビッグデータは政府の機能、そして政治の本質も変化させることになるかもしれない。だが、それが社会を監視する政府の力を強め、ビッグデータ権威主義を出現させる恐れもある。・・・

アフリカの経済ブーム
―― なぜ楽観論と悲観論が共存しているか

2013年6月号

シャンタ・デバラジャン
世界銀行チーフエコノミスト(アフリカ担当)ウォルフガング・フェングラー
世界銀行リードエコノミスト
(エリトリア・ケニア・ルワンダ担当)

力強いマクロ経済政策を導入したアフリカ諸国は、グローバル経済危機前にピークを迎えていた資源ビジネスブームを追い風に成長を続け、ブーム崩壊後も、失速を逃れた。楽観主義者は、このトレンズに注目して、アフリカの経済ブームは今後も続くと考えている。だが、経済成長の多くが政治改革によって刺激されているのは事実としても、より永続的なアフリカ経済の変革を妨げる障害も政治領域にある。こうして悲観論者は、資源輸出が低調になったときに経済を支えるような抜本的な改革をアフリカ各国が実施していないこと、そして、政治腐敗がインフラ、教育、医療面での改善を阻んでいることを問題視している。楽観論、悲観論のいずれも、すべての側面は見通せていない。だが、今後数十年のアフリカを言い当てているのはむしろ楽観論のほうかもしれない。情報とコミュニケーション技術の進化が促す社会的開放によって、アフリカが経済成長を持続し、貧困層の削減に今後も成功する可能性は十分にある。

イラン大統領選挙の政治地図
――ラフサンジャニ・ショックと次期大統領ポスト

2013年6月号

ファリデ・ファーヒ
ハワイ大学教授(非常勤)

保守派候補のなかでもっとも人気があるのはテヘラン市長のモハンマド・バゲル・ガリバフだと考えられている。保守系の候補者たちは、特定の段階になれば、もっとも人気のある候補を残して、他の二人は選挙戦から撤退することにすでに合意している。一方、かつて核問題の交渉を務めた中道派のハッサン・ロウハニも独立系候補として出馬している。ラフサンジャニが出馬を認められなかった以上、ロウハニは、自分を保守派候補に対する代替策として位置づけたいと考えている。だがロウハニはハタミ大統領の第1副大統領を務めたモハンマド・レザ・アレフとライバル関係にある。彼らは先ず候補者を、一人か二人に絞ってまとまることに合意できるかどうかを決める必要がある。・・・ハメネイが、保守派候補が好ましいと考えているのは明らかだが、最高指導者の意中の候補がはっきりしないために、誰が選挙で勝利するのか、ますます分からなくなっている。

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