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論文データベース(最新論文順)

北極圏開発ブームに備えよ

2013年7月号

スコット・G・ボルガーソン / 北極圏サークル共同設立者

夏場の北極圏から氷がなくなるのはいつなのか。その時期は2075年とも2035年とも、あるいは2020年とさえ言われる。これが現実となった段階で北極圏のエコシステムは劇的に変化する。だが、悪いことばかりではない。氷が溶け出すにつれて、世界の石油と天然ガス未確認資源の4分の1と膨大な鉱物資源を含む、北極圏の豊かな資源へのアクセスが開かれつつある。夏場に誕生する北極海の航路によって太平洋と大西洋間の距離は数千マイル短くなり、いずれ北極海がグローバルな海洋ルートの拠点になるポテンシャルも生まれている。さらに、北極海周辺諸国はこれまでのライバル競争をやめて、協調するようになった。アンカレッジやレイキャビクのような都市はいずれ主要な海洋輸送の拠点、金融センターとして、高緯度におけるシンガポールとドバイのような役割を果たすようになるかもしれない。最大の試金石は、環境と開発のバランスをいかにうまくとるかにある。

米陸軍を地上配備型ミサイル戦力へ進化させよ
―― 歩兵・砲兵部隊からの進化を

2013年7月号

ジム・トーマス/戦略予算分析センター研究部長

戦略的にも予算面でも逆風にさらされているため、国防予算削減の多くが米陸軍に押しつけられ、陸軍は今後その価値と役割を失っていくと考えられている。たしかに、第二次世界大戦後に戦艦が空母に取って代わられていったように、装甲部隊や機甲師団は今後衰退していくだろう。だが、陸軍が世界の重要地域に配備される地上配備型のミサイルシステムへと戦力の重心をシフトさせれば、新状況に適応できる。米陸軍は、敵の戦力投射能力を阻む独自のA2ADシステムを確立すべきだろう。特に日本から南シナ海までの島嶼群にミサイルランチャーを配備すれば、日本やフィリピンが中国による潜在的攻撃から国を自分たちで守る助けになるし、有事の際に、中国海軍の行動の自由を制約できる。地上配備型ミサイル戦力を重視すれば、米陸軍はアジア重視戦略にも有意義な貢献ができるはずだ。

大統領との信頼関係を築けるかどうかを別にしても、スーザン・ライスは大統領補佐官として基本的な選択に直面する。国家安全保障政策のプロセスを監視・管理していく上で、国家安全保障会議(NSC)の役割を重視すべきか。あるいは、(キッシンジャーやブレジンスキーのような)過去のパワフルな大統領補佐官たちのように、有力な外交アドバイザーとしての役割を重視し、大統領と近い関係にあることを利用して、政策を自分が好ましいと考える方向にもっていくべきか。だが、明確なビジョンをもつオバマ大統領の補佐官として成功するには、(戦略構想型の)ブレジンスキー流ではなく、(調整型の)ドニロン流に徹し、自分の政策志向は抑え、大統領との信頼関係、他の国家安全保障プレイヤーとの信頼関係を形作ることに先ず焦点を合わせるべきだ。大統領補佐官としての成功は、政府内での関係を管理していく能力、つまり、大統領、そして他の国家安全保障プレイヤーとの信頼関係をいかに築くかに左右される。

シリアは二分され、アサドは生き残る?

2013年7月号

マイケル・ヤング
デイリースター紙論説ページエディター

シリア反体制主流派は、米ロが主導し、ジュネーブでの開催が予定されているシリア和平会議には参加しないと表明した(その後も、現地情勢を変化させるのに必要な武器支援が届かない限り、会議には参加しないとの立場を示している)。こうした反体制派の反発は、シリア政府が「バッシャール・アサドは2014年まで政権を維持する」と表明したことが理由の一つだが、結局、アサド側の策謀にはまったともみなせる。今後、反体制派は立場を見直すように求める大きな圧力に直面し、一方、アサド政権側はジュネーブ(シリア和平)会議までに軍事攻勢を強め、既成事実を作り上げた上で交渉に臨みたいと考えている。反体制派は危機的な局面に立たされている。ロシアとイラン(そしてヒズボラ)はアサドを支持し、一方、(反体制派との折衝にあたっている)オバマ政権は、明確な戦略を示していない。さらに厄介なのは、この状況から最大の恩恵を引き出すのがジハーディスト勢力であると考えられることだ。・・・われわれは、シリアが二つの地域へと分裂していく長いプロセスを今後目にすることになるだろう。

中国はドローンを何に用いるつもりなのか

2013年7月号

アンドリュー・エリクソン 米海軍大学准教授
オースチン・ストレンジ  米海軍大学中国海洋研究所リサーチャー

「中国や他の独裁国家がドローンを入手したらどうなるか」と気を揉む段階はすでに終わっている。すでに中国はドローンを保有している。問題は、いつ、どのようにこれを使用するかだ。専門家は、中国空軍だけでも280機以上の戦闘用ドローンを保有しているとみている。これは、アメリカを例外とすれば、中国が世界最大の規模のドローンと洗練された関連技術基盤を持っていることを意味する。引退した彭光謙(ポン・グワンチエン)元少将が2013年に認めたように、中国は、日本との領有権論争を抱える尖閣諸島(中国名―釣魚島)の写真を撮るためにすでにドローンを利用し、北朝鮮との国境地帯の動きを監視するのにもドローンを用いている。たしかに、内政不干渉の原則と主権を重視する中国は、外国に対するドローン攻撃には慎重な立場を崩していないが、偵察・監視を超えて、敵のシステムのジャミングなどの電子戦争支援、ミサイルなどによるピンポイント攻撃のターゲット特定など、中国がドローンを兵器としてではなくとも、軍事行動の支援ツールとして利用する可能性は十分にある。

世俗化する社会とキリスト教一致運動
―― ベネディクト16世の遺産と新教皇

2013年7月号

ビクター・ゲタン
ナショナル・カトリック・レジスター紙記者

キリスト教は11世紀に東方教会と西方カトリック教会に分裂し、16世紀の宗教改革(プロテスタント運動)でさらに分裂した。だが21世紀の現在、キリスト教はこうした過去の亀裂を修復しつつある。2013年に教皇を退任したベネディクト16世は「キリスト教の一致」を強く模索し、2012年の司教会議に招いたゲストの中にはロシア正教会のイラリオン渉外局長、トルコ正教会のバルトロメオ1世がいた。そして、ここで演説を行ったのは英国国教会のローワン・ウィリアムズ・カンタベリー大主教だった。この流れは、先進国における世俗化と物質主義の波によってキリスト教の存続が脅かされているという危機感を各派が共有していることによって形作られている。「キリストは神であり救い主であり、隣人を愛することは信仰上の義務である」という信念に比べれば、これまでキリスト教の一致を妨げてきた教理上の違いなど取るに足らないという認識が高まりつつある。

米大企業CEO巨額報酬の謎に迫る

2013年7月号

スティーブン・N・カプラン
シカゴ大学ビジネススクール名誉教授

低所得層の収入が停滞するなかで、米大企業エグゼクティブたちへの報酬はますます高額化していると考えられている。このため、所得格差を気に病む市民も政治家も、批判の矛先を大企業のCEOと役員会に向けて、「コーポレートガバナンスがうまく機能していないから、巨額の報酬をCEOは受け取っている」と批判している。だが現実には、この10年以上にわたってアメリカ上場企業CEOの報酬は上昇するどころか低下しているし、彼らの報酬は自社の株価と連動して決定されている。当然、実績が悪いと報酬額の引き下げ、あるいは解任というペナルティが課される。CEOの報酬が経済格差を拡大させた大きな要因だったわけでも、企業統治が機能していないわけでもない。この現実を認識しない限り、(CEO報酬をめぐって)企業を規制することによって富裕層と貧困層の格差を小さくできると考える政策立案者たちは、結局は失望し、予期せぬダメージを抱え込むことになる。そうしたやり方は、アメリカ経済の重要なエンジンである優良上場企業から、有能な人材を確保する手段を奪い取ることになるからだ。

米エネルギー革命のポートフォリオバランス

2013年7月号

マイケル・レビ
米外交問題評議会シニア・フェロー

アメリカで起きているのは天然ガス開発ブームだけではない。原油生産は史上最大規模の年間生産量の伸びを示し、風力、太陽光、地熱など、先端技術を用いた再生可能エネルギーによる電力生産も2倍に増え、生産コストも低下している。しかも車やトラックの燃費の向上によって、石油需要は低下しつつある。最大の問題は、そこには環境保護派と補助金を通じたエネルギー経済への政府の介入を嫌う人々の間に厄介な対立が存在することだ。重要なのは、特定のエネルギー資源を選ぶのではなく、こうした「新展開のすべてをうまく生かしていくことで、エネルギーにとって最善の未来を切り開けること」を双方が認識することだ。ワシントンの指導者たちは、クリーンエネルギーへの移行を進めつつも、伝統的なエネルギー資源にも依存する、あらゆるタイプのエネルギーの機会を慎重に生かしていく一方で、地球温暖化を加速させ、アメリカの石油依存を持続させるような危険なエネルギー消費にはペナルティを課す必要がある。このバランスこそが、アメリカにおけるエネルギーの未来を左右することになる。

経済相互依存で日中紛争を抑え込めるか
―― ナショナリズムかそれとも貿易か

2013年7月号

リチャード・カッツ
オリエンタル・エコノミック・リポート誌編集長

尖閣問題をめぐって緊張が高まっているとはいえ、現状では日中の経済相互依存とワシントンの防衛コミットメントによって、何とか平和が保たれている。もちろん、この海域で武装した(日中の)船が偶発的に衝突すれば、意図しない紛争へとエスカレートする危険もある。だが、より重要なポイントは、日中の経済的相互依存が紛争のリスクを抑え込めるかどうかだろう。安倍晋三首相が、2012年の選挙キャンペーンで表明した強硬路線を手控えているのは、日本が経済的に中国に依存していることで、ある程度説明できる。中国も同様で、その輸出主導型経済は(日本からの)輸入に依存している。2013年3月に北京で開かれた日中経済協議の際に中国の李克強首相はメディアに対して「自分が日本の財界指導者と握手している様子を写真にとらないように」と要請したかもしれないが、それでも、日本の経済指導者たちに対中投資を要請している。雇用と歳入を求める中国各省の政府も、危機が先鋭化した後も、日本企業に中国での事業を拡大するように強く求めている。現状では、相互抑止の経済バージョンがエスカレーションを抑え込んでいる。

中国の経済成長モデル見直しとエネルギー価格の自由化

2013年7月号

ダミアン・マ
ポールソン研究所フェロー

相対的に貧困な国で経済が急拡大した場合、インフレを警戒する必要がある。外国からの原材料輸入とともにインフレも輸入してしまうリスクがあるからだ。中国政府はこのリスクを回避しようと重工業を中心とする基幹産業のために人為的にエネルギー価格を抑え込む価格統制策をとってきた。低めに抑えられたエネルギー価格は、低く抑えられた為替レート同様に輸出競争力を支え、(インフレの抑制と)輸出主導型の経済成長モデルに貢献した。だがその結果、エネルギーの利用効率の改善や環境問題への配慮は二の次とされ、深刻な環境汚染と社会不満が広がりをみせ、いまや経済モデルを見直さざるを得なくなっている。すでに北京の新体制は中国の経済モデル移行に向けた重要な一部として、エネルギーの価格改革に高い優先順位を与えているようだ。現実にそうなれば、中央統制経済のもっとも頑迷な遺産を中国が取り払おうとしていることへの明確なメッセージになる。

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