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論文データベース(最新論文順)

金融政策とその限界

2013年8月号

アダム・ポーゼン ピーターソン国際経済研究所所長

金融政策のことを、大きな権限を持つものだけが操れる、何かミステリアスで不可知なものと恐れる必要はないし、その政策を万能薬と考えるのも間違っている。・・・その背後には常に政治が介在し、ときに金融政策の決定プロセスを混乱させ、戦術的な変化を強要されることもある。しかし、政治が金融政策に決定的な影響を与えるのは、金融政策委員会の委員長(総裁・議長)がそれを望んだ場合だけだ。・・・中央銀行のバンカーたちの役割は、結局のところ、薬剤師のそれとさほど変わらない。棚にある薬の量は限られており、法律によって一定量を超える薬を使うのは禁止されている。この条件で異なる専門家が書いた走り書きの処方箋に一貫性をもたせ、適切な調剤薬品を患者に提供する。その人物が薬品を摂取すること以外、何かを知ることも管理することもない。望み得る最善は、副作用を最小限に抑えつつ、患者が時とともに着実に回復していくことだ。

シリアの崩壊を食い止めるには
―― 交渉実現のための部分的軍事介入を

2013年8月号

アンドリュー・タブラー
ワシントン近東政策研究所シニアフェロー

もはやシリア情勢に傍観を決め込むのは許されず、いつ、どのように、どのくらいのコストを用いてシリア紛争の解決を試みるかが問われている。大規模な難民危機が起きたり、危険な兵器がジハーディストやクルド人分離勢力などテロ集団の手に落ちたりすれば、ワシントンの同盟勢力であるイラク、イスラエル、ヨルダン、トルコの安全保障が直接的に脅かされる。さらに、崩壊によってテロリストが、自由に活動できる破綻国家へとシリアが姿を変えていく危険もある。シリアの崩壊を食い止め、肥大化する脅威を封じ込めるには、すべての勢力を交渉テーブルに着かせることを目的とする部分的な軍事介入を試みる必要があるだろう。飛行禁止空域を設定し、イラク国内にいる反体制派と直接的に協力し、国家再建の道を模索する必要がある。

金融政策と財政政策の間
―― イギリスの失策から何を学ぶ

2013年8月号

◎スピーカー
アダム・ポーゼン ピーターソン国際経済研究所所長
J・ブラッドフォード・デロング カリフォルニア大学教授
◎プレサイダー
ギデオン・ローズ フォーリン・アフェアーズ誌編集長

「バーナンキは金融緩和に向けてこれまですぐれた措置をとってきた。だがいまでは、われわれは非伝統的な金融政策からは可能な限り、手を引いていくという立場を示唆している。これは、(われわれ金融当局は十分に手を尽くしたのだから)依然として経済が停滞しているのは議会と大統領のせいだと言っているようなものだ。経済の停滞という現状は、財政当局(政府)に責任があり、いまや金融当局としては、長期的な金融の安定に配慮しなければならない。これがバーナンキの本音だろう」。(B・デロング)

「スペイン同様に、イギリスが自国の経済を袋小路に追い込んでしまったのは、中途半端な金融緩和をとり、一方で財政緊縮策をとってしまったからだ。現在、日本は、当時のイギリスとは全く逆のことをしている。日本銀行はついに、われわれが求めてきたような、大胆な量的緩和策をとり、経済は回復しつつある」。(A・ポーゼン)

イギリスがEUから脱退すれば
―― ヨーロッパもイギリスも敗者となる

2013年8月号

◎スピーカー
チャールズ・クプチャン 米外交問題評議会シニア・フェロー
アダム・ポーゼン ピーターソン国際経済研究所所長
◎プレサイダー
マイケル・モセティッグ PBSニュースアワー

「外交的なメタファーで言えば、現在のイギリスは、米ソが対立していた冷戦期のドイツ、米中対立のなかの日本のような存在だ。ヨーロッパで起きていること(銀行同盟・財政同盟)に引き込まれてもかまわないと思うほどに近い関係にあるわけではないが、流れから取り残されてもかまわないと思えるほどに遠い存在でもない」。(A・ポーゼン)

「現状では、ユーロを導入しているのは17カ国、導入していないEUメンバー国が11カ国だ。ある意味では、一定のバランスがある。だが、ユーロを導入していない第2集団がますます小さくなり、残されるのがイギリスとブルガリアだけになった場合にどうなるか。・・・イギリスは、最終的にEUからの脱退へとつながる道を歩みつつある。・・・イギリスがEUから脱退すれば、政治史における自己孤立のもっとも顕著な事例として記憶されることになるだろう」。(C・クプチャン)

急速に悪化する米ロ関係

2013年08月

スティーブン・セスタノビッッチ 米外交問題評議会シニア・フェロー(ロシア担当)

いまや米ロ関係のリセット路線は過去の話だ。この6-9ヶ月間に、両国が協議してきた重要な案件、シリア、イランにはじまり、ヨーロッパへのミサイル防衛の強化、新START条約の目標を拡大する戦略核削減の提案、プーチンが重視する貿易と投資など、どれ一つをとっても進展はない。これに加えて、現在の米ロ関係には、人権問題、スノーデン事件など、ネガティブな要素が数多く存在する。これまでリセットを機能させてきた要因が消失してしまっている。スノーデンを受け入れると表明している国への渡航を、ロシアがアレンジする方法は数多くあった。これらのやり方をとれば、ロシアは問題を解決できていたかもしれない。そうしなかったことにオバマ政権は憤慨し、その結果、オバマが面目を保つ形でモスクワを訪問するのは難しくなった。

流動化する中東政治
―― エジプト、シリア、イラン

2013年8月号

エドワード・P・ジェレジャン
ライス大学 ベーカー公共政策研究所所長

エジプトのシシ国防相は、ムスリム同胞団の暫定政権への参加を閉ざさないと表明しているが、同胞団が今回の政変劇を覆すような動きに出れば、エジプト、そして中東地域にとって最悪の事態になりかねない。シリアはすでに破綻国家へと転落しつつあり、政府と反体制派を交渉させない限り、停戦への道は閉ざされたままとなる。だが、依然として国際交渉に向けたアメリカとロシアの立場の違いは埋まっていない。近く穏健派の新大統領が誕生するイランは核開発問題を抱え、シリアを軍事的に支援し、イラク南部への影響力を拡大させている。一方、スンニ派湾岸諸国はイランの覇権が広がる可能性に危機感を募らせている。(エジプト、シリア、イランの)問題や危機のすべては関連している。ワシントンは、中東地域全域への一貫性のある戦略を考案し、この戦略枠組みのもとで、各国への政策を調整し、相互に関連性をもたせる必要がある。

ムスリム同胞団の終わりなき戦い

2013年8月号

エリック・トラガー 近東政策ワシントン研究所 次世代フェロー

「モルシは選挙で選ばれた大統領であり、まだ任期を3年残している。モルシに任期を全うさせた上で、彼が良い大統領だったか、悪い大統領だったか、次の選挙で審判を仰げば良い」。モルシの復権、これがムスリム同胞団の立場だ。一方、エジプト軍にとって、権力の座から一度引きずり降ろした人物を復権させるのは、明らかに自滅的な行動だ。ジハード主義を内包する同胞団は、軍が分裂することを期待しつつ、今後も戦いを挑んでいくだろう。互いに相容れぬ利益をもつエジプト軍とムスリム同胞団は、おそらく、終わりなき抗争を繰り広げることになるだろう。エジプトが先に崩壊するのでない限り、どちらかが倒れるまで紛争は続くだろう。

ヨーロッパ連邦の形成を
―― 次なるヨーロッパプロジェクト

2013年8月号

ニコラス・バーググルーエン バーググルーエン統治研究所理事長
ネイサン・ガーデルス ニューパースペクティブ・クォータリー編集長

「世界の人口の7%が暮らし、世界の経済生産の25%を担う現在のヨーロッパは、世界の社会関連支出の50%を拠出している」。メルケル独首相のこの発言が示唆するとおり、(この人口・経済生産・社会保障支出間の不均衡を)改革を通じて是正していかない限り、ヨーロッパの福祉国家を財政面で支えていくのはますます難しくなる。より踏み込んだ制度的改革も必要だ。EU(欧州連合)を構成する欧州委員会、欧州理事会、欧州議会の正統性を強化し、EUを、単一通貨を支える共通の財政・金融政策をもつヨーロッパ連邦へと進化させていかない限り、ヨーロッパはこれまで同様に未来においても不安にさいなまれることになる。さまざまな不確実性のなかでヨーロッパが直面する課題に対応していく唯一の方法は、ヨーロッパの指導者と市民が、前に踏み出すのを嫌がって機能不全状況のなかに身を置き続けるのではなく、ヨーロッパ連邦の形成という壮大な変革ビジョンにコミットし、前に歩き始めることだろう。

世界経済アップデート
―― 米経済の回復、アベノミクス、中国経済

2013年8月号

◎スピーカー
ルイス・アレキサンダー 野村ホールディングスアメリカ、チーフエコノミスト
シメオン・ジャンコフ 前ブルガリア副首相・財務相
ビンセント・ラインハルト モルガンスタンレー、チーフエコノミスト
◎プレサイダー
セバスチャン・マラビー 米外交問題評議会地政経済学センター所長

(財政削減のための消極財政による悪影響としての)フィスカル・ドラッグの余波を克服できれば、アメリカ経済は成長軌道に乗り、2014年には3%の成長を期待できると私はみている。・・・現在の日銀と日本政府は、正しい方向に向かっているとみなせるが、日本の場合、(時期尚早に)逆コースをとることも多い。(V・ラインハルト)

私は、今回の新興国経済の変調はターニングポイント的な部分があるとみている。長く続いた新興市場経済にとって非常にポジティブな局面は終わろうとしている。・・・中国経済の成長率が低下していくのは避けられず、投資主導型の成長路線からは離れていかざるを得ないとみている。(L・アレキサンダー)

北朝鮮は経済改革を模索している
―― 崩壊か経済改革か

2013年8月号

ジョン・デルーリー 延世大学国際関係大学院准教授

北朝鮮は2030年までに崩壊すると予測する専門家もいるが、平壌はすでに中国流の経済改革導入への道を歩みつつあるとみなすこともできる。これを理解するには、中国はどのような手順で改革へと歩を進めたかを考える必要がある。1960年代に核兵器を獲得した北京は、1970年代に対米デタントによって体制の安定と安全を確保した上で、経済改革路線を優先させるようになった。つまり、今日の北朝鮮は1970年の中国同様に、経済改革に着手する前に、まずワシントンから体制の安全に関する保証を取り付けたいと考えている段階にある。金正恩は「経済建設」の次の局面に進みたいと考えていると示唆し、4月1日には実務派テクノクラートの朴奉珠を首相に登用して、経済成長の舵取りを委ねている。朴奉珠が北朝鮮の首相に抜擢されたこと自体、金正恩が経済を重視し、改革志向を持っていることの現れとみなせる。平壌の穏健派に力を与えるためにも、アメリカは強硬策ではなく、北朝鮮の安全を保証し、経済改革にむけた環境整備に手を貸すべきだ。体制を揺さぶり、崩壊を待つ路線を続ければ、偶発事件によって次なる朝鮮戦争が誘発される恐れがある。

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