1994年以降に発表された邦訳論文を検索できます。

論文データベース(最新論文順)

「破綻国家脅威論」の興亡 ―― 不毛な戦略への決別

2014年3月

マイケル・J・マザー 米国防大学教授(国家安全保障戦略)

冷戦の集結以降、アメリカの安全保障戦略担当者の多くは、最大の脅威は国家構造に脆弱性を抱える破綻国家や破綻途上国家が作り出すと考えるようになり、外交と国防政策の大転換を訴えた。こうして国家建設ミッションが重視されるようになり、アフガニスタンとイラクはその際だった例とみなせる。だが、1990年代以降、アメリカが経験してきたことと、現在北東アジアで起きていることを比較すれば、秩序を乱すのが弱体国家の出現ではなく、領土的な野心と歴史の記憶、そしてナショナリズムの高まりであることは明らかだろう。弱体国家への関与は「健全な戦略的ドクトリンではなく、マニアックなこだわり」にすぎなかった。

新興国経済と短期資金 ―― 短期資金流入規制の容認を

2014年3月号

ベン・ステイル  米外交問題評議会・国際経済担当ディレクター

量的緩和は、FRBが新たに増刷した紙幣で(米国債等の)長期金融資産を購入することで、マネタリー・ベース(通貨供給量)を拡大して、利回りの上昇を抑え込むことを目的に実施されたが、よりリスクの高い資産への投資も刺激し、新興国に大規模な短期資金の流入が起きた。これによって新興国経済は一時的に潤ったが、量的緩和縮小を織り込んだ市場の思惑によって、資金が流出し始めると、インド、インドネシア、トルコ、ブラジルなどの新興市場国の通貨および債券市場は大きな余波にさらされ、現在もこの流れが続いている。国内資産に占める外国資本の比率が低く、貿易収支が黒字で、十分な外貨準備を保有している新興国は、より大きな柔軟性と復元力を持っている。こうした条件を満たしていれば、通貨と国内資産市場のボラティリティーは大きくならない。・・・・新興国政府が、突然起きる極端で予期不可能なショックから自国経済をまもるため、短期資金の流入を慎重に規制することを容認することが、先進国の利益にもなる。

軍隊なき、文化国家の物語

2014年3月号

オラフル・ラグナル・グリムソン アイスランド大統領

 わずか32万の人々しか住んでいないアイスランドは、これまではどうみても忘れさられた辺境の地だったし、歴史の多くの時期を通じて、実際にそうみなされてきた。だがこの数十年にわたって、アイスランドにはかつてなく大きな関心が寄せられるようになった。2003年にアイスランドの銀行が民営化されて以降、この国の金融部門には巨額の外国資本が流れ込むようになり、2008年10月の数日間でバブルがはじけるまで、その額はGDP(国内総生産)の10倍規模に膨らんでいた。より永続的なポテンシャルを秘めているのは、この国の北極圏プレイヤーとしてのステータスかもしれない。地球温暖化によって北極圏には新たな航路が誕生しつつあるし、資源開発の見込みも高まっている。アイスランドで最初に政治学を教える教授になり、1988―91年までは蔵相を務め、1996年以降は大統領としての職責を果たしているオラフル・ラグナル・グリムソンは、この国の大きな運命の変化を研究し、指導者としてそれを乗り切ってきた。(聞き手はスチュアート・レイド、フォーリン・アフェアーズ誌シニアエディター)

イスラエルがイラン強硬策を放棄しない理由
―― 外交交渉と空爆オプションの効果とリスク

2014年3月号

ドミトリ・アダムスキー
IDCヘルツリーヤ・政治外交大学院准教授

「イランは、現在の外交プロセスを核兵器の野望を覆い隠すために利用している。テヘランは最低限の妥協で、最大限の制裁緩和を引き出すことに成功した」。これが欧米とイランが交わした暫定合意に対するイスラエルの見方だ。さらにエルサレムは、欧米の経済制裁だけでなく、空爆を示唆するイスラエルの強硬策も、暫定合意に貢献しているとみている。今後の包括合意についても、「それに応じた方がましだとイランが考えるような状況を作り出す必要がある」とイスラエルは考えている。外交交渉で結果を出すには、一方で、イスラエルによる空爆リスクがあることをテヘランに常に意識させなければならない、と。だが空爆リスクを過度に強く意識させると、「合意に応じた方がましだ」と考えるのではなく、「どのみち攻撃してくるのだから、もはや何も失うものはない」と考え、むしろイランを先制攻撃へと走らせかねない。適切な抑止と過剰抑止のバランスを見極める必要がある。・・・

勝者なきウクライナ革命
―― キエフからの報告

2014年3月号

アナブル・チャップマン
ジャーナリスト

ヤヌコビッチはウクライナの政治から退場したかもしれないが、これをウクライナ政治の夜明けと考えるのは間違っている。確かに、オレンジ革命期の政治家ティモシェンコが釈放 され、多くの人はこれを歓迎しているかもしれない。だが、彼女の政界復帰はこれまで抗議運動を主導してきた3人の野党指導者間の不安定なバランスを覆すかもしれないし、そもそも、ティモシェンコはヤヌコビッチと同世代の政治家とみなされている。独立広場に集まった人々にとってティモシェンコが刑務所から釈放されたことと、彼女が政界に復帰することはまったく別の話なのだ。結局のところ、人々は「説明責任を果たし、法の支配を尊重し、政治腐敗と戦う」政治家の出現を待ち望んでいる。この思いが満たされるには、今回の革命以上に長い時間がかかるだろう。

CFR Interview
プーチンの意図とアメリカの対応

2014年3月号

リチャード・ハース
米外交問題評議会会長

プーチンが今後をどう読んでいるのかはっきりしない。ロシア軍によるクリミア掌握という現実を、プーチンは今後の交渉カードにするつもりなのか、それとも、ウクライナ全土への影響力拡大の布石とするつもりなのか。一方で、この曖昧な現状でNATOをウクライナに関与させれば、それこそ、多くの人が懸念する新冷戦という事態に陥っていく。だが、G8サミットをボイコットしたり、国務長官をキエフに派遣したりする以外にも、アメリカにはできることがある。それは、ウクライナのロシアへの経済依存を軽減するためにもアメリカからウクライナへの天然ガス輸出を拡大し、ポーランドなどの近隣諸国への軍事援助を拡大することだ。もちろん、最悪のシナリオにも備えておくべきだが、ロシアの面目を保つ形で部隊をウクライナから撤退させ、EU、アメリカ、IMFがウクライナへの経済援助をロシアとともに実施することへの合意をまとめることを、まだ断念すべき段階ではない。(聞き手はバーナード・ガーズマン コンサルティングエディター@cfr.org)

ウクライナのジレンマ

2014年3月号

エイドリアン・カラトニッキー
アトランティックカウンシル シニアフェロー

プーチンは、ヤヌコビッチ大統領に経済的支援を与えることで、EU(欧州連合)との連合協定の調印を見送らせ、ウクライナにおけるロシアの影響力を取り戻そうとした。だが、プーチンの意向に応じたヤヌコビッチにウクライナ市民は強く反発し、これが大規模な反政府運動へとつながっていった。いまやウクライナは「内戦に陥りかねない危機的な状況にある」。・・・ウクライナが直面しているのは、オレンジ革命時のように、政権崩壊後の権力の空白を野党勢力が埋めるといった簡単な流れではない。ヤヌコビッチを支持してきた現在の既得権益層には有力な財界指導者も含まれている。(訳注 2014年2月22日、デモ隊がキエフを掌握し、議会はヤヌコビッチ大統領の解任と大統領選挙を5月25日に行うことを決議した)  (聞き手はロバート・マクマホン Editor@cfr.org)

CFR Meeting
ウクライナ危機の外交・経済・軍事的衝撃を検証する

2014年3月号

◎スピーカー
チャールズ・クプチャン/ヨーロッパ担当シニアフェロー
ロバート・カーン/国際経済担当シニアフェロー
ジャニン・デビッドソン/国家安全保障担当シニアフェロー
◎モデレーター
アニヤ・シュメマン/アメリカン大学国際関係大学院/アシスタント・ディーン

ロシアのナショナリストたちは、スラブ民族と東方(ロシア)正教系諸国の連帯を求めるユーラシア連合を通じてロシアを再建したいと考えている。・・・だが、ウクライナはヤヌコビッチ政権を倒すことで「われわれにはスラブ民族、東方正教会のつながりを基盤するユーラシアブロックに入るつもりはなく、ヨーロッパの一部になりたい」というメッセージをプーチンに送ったことになる。今回の事態は、これに対するプーチンのウクライナへのメッセージとみなせる(C・クプチャン)

IMFによる融資をまとめるには時間がかかるし、ウクライナの暫定政権はIMFが求めるような改革を遂行していく政治的基盤をもっていない。「当面の措置として、第2ステージに進むためのつなぎ融資を多くの条件をつけずに提供する必要がある」(R・カーン)

プーチンが大きな野心を露わにしてクリミアだけでなく、他のウクライナ地域に侵攻すれば、制圧地域を維持する一方で、親欧米派の激しい抵抗に直面する。彼が制圧しようとする地域で、抵抗運動だけでなく、ゲリラ戦が起きる。(J・デビッドソン)

「モノのインターネット」が切り開く未来

2014年3月号

ニール・ガーシェンフェルド
マサチューセッツ工科大学教授、 JP・バッサー シスコシステムズ チーフアーキテクト

いまやネットワークの進化を上回る勢いで、さまざまなデバイスのオンライン化が進んでおり、その一部が「モノのインターネット」と呼ばれている。指先に収まるほどの小型コンピュータをさまざまな日用品に組み込めば、インターネットを経由してあらゆることができるようになる。例えば、所有者のカレンダー、ベッド、車にアクセスして、その人物がどこにいるかを判断し、家の温度を調節するサーモスタットも実用化できる。モノのインターネットで生活は大きく変化していく。インターネット同様に、モノのインターネットの世界でも、「閉鎖性と集権制」ではなく、永続的な技術革新と進化を刺激する「開放性と分散性」が規範になれば、テクノロジーが日常生活のより細部にまで入り込みつつも、それを意識せずに生活できる時代がやってくるだろう。

タイの政治的解体
―― 崩壊した密約と終わらない混迷

2014年3月号

ダンカン・マッカーゴ
英リード大学政治学教授

2011年7月の総選挙で、タクシン元首相の妹インラック・チナワットが首相に選ばれると、反タクシン派とタクシン派の対立は一時的に後退した。現実的で物腰の柔らかなインラックは、妥協を受け入れる柔軟な路線をとって批判者を当惑させ、旧敵である王室と軍のいずれともうまくやっていけることを立証した。特に軍は国防大臣ポストに人材を提供してインラック政権を支えてきた。インラックの働きかけで、政府と既得権益層は政治取引を交わした。インラックが王室の権威や軍事予算などのデリケートな問題をめぐって強引な行動をとらない限り、既得権益層は、彼女が政権を維持することを認めた。ドバイで逃亡生活を送っているタクシンがタイに帰国するのを認めないことも暗黙の了解とされた。取引が公にされることはなく、野党の民主党、黄シャツ隊・赤シャツ隊の指導者もこの取引の存在は知らなかった。2013年後半までは、すべてがうまくいっているかにみえた。少なくとも表面的にはタイは平常を取り戻していた。だが、それを揺るがす二つの展開があった。・・・

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