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論文データベース(最新論文順)

Foreign Affairs Update
日本にネオリベラリズムは似合わない

2013年12月号

トバイアス・ハリス
テネオ・インテリジェンス
アナリスト(日本の政治・経済)

小泉元首相同様に、安倍首相もネオリベラルの改革者になれる可能性はほとんどない。安倍政権の第3の矢も、経済産業省が描く国が主導する優先課題を反映しているに過ぎない。しかも、改革案が表明されても、その構想を結束して骨抜きにし、停滞させ、ブロックしようとする官僚と政治家たちがいるし、年功序列、終身雇用といった現在の経済システムを支えるさまざまな要因は、それぞれに相互を補完し、堅固さを保っている。安倍首相がネオリベラリズムに向けた日本流のショック療法を実施すると考えるのは合理性を欠いている。確かに、アベノミクスはすでに日本のマクロ経済パフォーマンスを改善しているかにみえるし、制度的改革も段階的に刺激できるかもしれない。だが、安倍首相がネオリベラルの経済体制へと日本を作り替えて、それを後任者に委ねることはあり得ないだろう。・・・

Foreign Affairs Update
シリコンバレーとプライバシーとNSA
―― 情報革命とプライバシー保護

2013年12月号

アブラハム・ニューマン
ジョージタウン大学准教授

グーグルにとって都合が良いことは、NSA(米国家安全保障局)にとっても都合が良く、NSAが、シリコンバレーが求める穏やかなプライバシー規制を利用して、好きなようにデータを収集・蓄積していたことはいまや明らかだ。ユーザーもいまやこの点を認識しており、今後、新たなテクノロジーによって収集できる個人情報の量と種類が増大していくにつれて、巨大IT企業をこれまでのようには信用しなくなるだろう。テクノロジー企業が、ユーザーの信頼を回復し、経済的成功を維持していくには、これまでのようにプライバシー保護をめぐって企業側の自主規制を重視する路線を見直す必要がある。自主規制は必要だが、それだけでは十分ではない。個人情報は、適切な管理を必要とする貴重なデータであり、IT企業は、不必要なデータ収集を制限すると同時に、そのビジネスモデルにプライバシーの保護と利害共有者としてのユーザー保護を統合していく必要がある。

効率に欠ける企業、流動性に乏しい硬直的労働市場、低い失業率、相対的に公平な所得分配、女性に不利な雇用市場など、日本経済の特質の多くは文化によって説明されることが多い。だが、こうした特質は、他の先進諸国が1970年代末から1980年代初頭にかけて導入したネオリベラルの経済改革を日本が実施せずに、近代経済を運営してきた結果に他ならない。そして現在、ネオリベラリズム路線に即して、日本経済を未来へと向かわせようとしているのがTPP(規制緩和)と労働市場改革を中核とするアベノミクスの第3の矢だ。だが、第3の矢が折れれば、生産性の低い会社本位主義を中核とする日本の社会モデルが温存され、結局、日本は経済的にさらに取り残されていく。日本は、1980年代にとらなかった選択を下す、2度目のそして最後のチャンスを手にしている。

合成生物学のポテンシャルとリスク
―― 人類社会への大いなる貢献か、それとも悪夢か

2013年11月号

ローリー・ギャレット 米外交問題シニアフェロー (グローバルヘルス担当)

これまで、生物学者たちは外の世界における生命体を観察し、生息環境を変化させることでその詳細と行動を見極め、何が起きるかを見守ってきた。だが、新しい生物学の世界にあっては、科学者たちは生命体そのものを創造し、それを内側から学ぼうとしている。合成生物学によってインフルエンザ・ワクチンを一夜にして製造できるようになり、HIVウイルスに対するワクチンも、二酸化炭素を食べ、化石燃料に代わる安全なエネルギーを放出する微生物も作り出せるかもしれない。だが、これらが人類社会を滅ぼす兵器になる恐れもある。合成生物学の進化は、(人類に貢献するポテンシャルも人類社会を破壊へと導くリスクも秘めた)「デュアルユース」のジレンマをもたらした。これこそ、一世紀前に化学研究が、それから一世代後に物理学研究が直面し、現在、生物学研究を大きな力で席巻しつつあるジレンマに他ならない。

Foreign Affairs Update
インターネットでデータ化される世界
―― 「モバイルインターネット」と「モノのインターネット」の出会い

2013年11月号

ジェームズ・マニュイカ
マッキンゼー・グローバルインスティチュート ディレクター
マイケル・チュイ
マッキンゼー・グローバルインスティチュートプリンシパル

レンズなしメガネのように見えるヘットギアから、ネット閲覧のできるスマートウォッチ、データ測定機能を備えた運動靴やスポーツウェアといった装着型デジタル機器の流行は、奥深い経済的・社会的な変化が進行していることを物語っている。モバイル対応型の「モノのインターネット」化は、人が身に付けるものにとどまらない。位置、活動、状態に関するデータを収集・電送する小型検出器は、すでに橋、トラック、心臓ペースメーカー、糖尿病患者用のインスリンポンプなど、ありとあらゆるものに組み込まれている。これが、主要産業の再編を促しているだけでなく、人間とコンピュータの境界をあいまいにしつつある。こうした変化が、暮らし・仕事のやり方に広く奥深い変革をもたらすのは疑いようがなく、その経済価値は、総額数兆ドルにも達すると考えられる。

グーグルのXマン
―― セバスチャン・スランの思想

2013年11月号

セバスチャン・スラン

セバスチャン・スランはロボット工学と人工知能に関する世界有数の研究者だ。1967年にドイツのゾーリンゲンで生まれたスランは、ヒルデスハイム大学、ボン大学の大学院で学び、1995年からはカーネギーメロン大学(コンピュータ・サイエンス)で研究生活を送り、2003年にスタンフォード大学へと移った。スラン率いるスタンフォードのチームは、2005年に米国防総省の研究機関・DARPA(国防高等研究計画局)が主催した自動運転技術のコンペで優勝を果たしている。2007年にグーグルにスタッフとして入社した彼は、その後、未来志向の研究所であるグーグルXラボを任される。2012年には、オンライン教育プログラムを手がけるスタートアップ企業ユダシティも共同設立している。聞き手はギデオン・ローズ(フォーリン・アフェアーズ誌編集長)

CFR Meeting
世界経済アップデート
―― アベノミクスと中国経済の行方

2013年11月号

◎スピーカー
ルイス・アレキサンダー
野村ホールディングスアメリカ、チーフエコノミスト
ビンセント・ラインハルト
モルガンスタンレー、チーフエコノミスト
ネマト・シャフィク
国際通貨基金(IMF)副専務理事

◎プレサイダー
セバスチャン・マラビー
米外交問題評議会地政経済学センター所長

アベノミクスは、日本の金融政策を根本的に転換させ、資産市場を刺激することに成功し、その効果はインフレ期待や実質インフレ率に次第に現れ始めている。投資も上向いてきている。これまでのところうまく施策が機能し、経済状況が進展している以上、アベノミクスが上手くいっていないと決めつけることはできない。・・・(問題は構造改革の)非常に多くがアジアとアメリカを結びつける環太平洋パートナーシップ(TPP)の交渉に左右されることだ。非常に多くの日本の国内アジェンダが(今後の交渉に左右される)TPPの交渉と結びつけられている。・・・」(L・アレクサンダー)

「(債務問題を別のアングルから捉えれば)日本政府は貯蓄率の高い高齢者世代に対して、間接的に国債の利払い義務を負っていると同時に、同じ高齢者世代に年金の支払い義務を負っていることになる。当然、何らかの再調整が不可欠となる。・・・最終的に、日本の構造問題は持続不可能な政府債務と不公平な世代間移転の問題に行き当たる。・・・・」(V・ラインハルト)

Foreign Affairs Update
大学ランキングが助長する知的孤立主義
―― より社会に目を向けた政策志向の研究を

2013年11月号

ピーター・キャンベル
ノートルダム大学大学院PHDキャンディデート(政治学)マイケル・C・デッシュ
ノートルダム大学政治学部長

「大学の研究者の多くは今や現実社会に目を向けなくなり、象牙の塔に引き籠もっている。・・・研究スタイルにばかりこだわり、・・・研究全般に「現実からの逃走」の兆候がみられる」。そして大学ランキングが、こうした大学の知的孤立主義を助長している。たしかに、ランキングの利便性は疑いようがない。大学の経営陣にとっては、限られた資金をどこに投資するかを判断する指針にできるし、学生や親は、特定の大学に大きな関心を寄せるようになり、政府や篤志家は、どこの大学にグラントや寄付を提供するかの指標にできる。問題は、主要な大学ランキングは研究者一人当たりの論文の数や論文の引用数といった細かな指標でアカデミックな優劣を判断し、政策志向、社会志向の研究が評価の対象にされていないことだ。学術的関心に目を向けているだけでは、社会的関心や懸念にも応えていくという大学における研究の内示的な社会契約を踏みにじることになる。

中国の労働者はどこへ消えた
―― 経済成長至上主義の終わり

2013年11月号

ダミアン・マ
ポールソン研究所フェロー
ウィリアム・アダムス
ピッツバーグ大学アジア研究センターアソシエート

中国の輸出と安価な製品をこれまで支えてきた季節労働者が不足するにつれて、中国経済の成長は鈍化している。市場レベルへと賃金を引き上げなかった工場のオーナーたちは、労働者が工場を後にし、戻ってこないという事態に直面している。「安価な労働力」の時代は終わり、企業は労働者を生産現場につなぎ止めようと賃上げに応じ、よりやる気のある季節労働者を確保できる内陸部へと工場を移転させる企業もある。一方、米企業の一部は生産部門をアメリカ国内に戻すか、メキシコやベトナムに移動させることを検討し始めている。だが、悪いことばかりではない。急速に上昇する賃金レベルが、投資・輸出主導型経済から内需主導型経済モデルへのシフトを促している。中国の指導者がこれまでの流れを維持したいのなら、利益集団としての労働者の集団化を認識し、安定よりも成長を重視する、これまでの社会契約を見直す必要があるだろう。

CFR Update
中国経済と都市化政策
――問われる成長と社会保障のバランス

2013年11月号

エリザベス・エコノミー
米外交問題評議会シニアフェロー
(中国・環境問題担当)

李克強は、中国経済の成長を維持していくには都市化政策を進めることが不可欠だと確信し、都市インフラを整備しつつ、地方で生活する人々を都市へと移住させる政策を最重要アジェンダに定めている。実際、「投資・輸出主導型経済」から「消費主導型経済」へと中国経済をリバランシングさせる上でも、都市住民のほうが地方生活者よりも3・6倍も多く支出するだけに、都市化計画は今後の中国経済の重要な鍵を握っているかもしれない。だが、都市化は資源圧力と汚染も増大させる。地方出身者に都市の戸籍を与え、社会保障の受給資格を与えるだけで、膨大な資金拠出が必要になる。・・・

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