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論文データベース(最新論文順)

ウクライナ危機とパイプライン
―― ヨーロッパの本当のエネルギーリスクとは  

2014年4月号

ブレンダ・シャッファー
ジョージタウン大学客員研究員

ウクライナ危機を前にしたヨーロッパ人の脳裏をよぎったのは、2009年の天然ガス供給の混乱だった。この年、ロシアがウクライナへの天然ガスの供給を停止したために、ヨーロッパ諸国への供給も混乱し、真冬に暖をとれない事態に陥った。すでにウクライナ危機からヨーロッパを守るために、アメリカからの液化天然ガス(LNG)輸出を急ぐべきだという声も耳にする。たしかに、短期的に供給が混乱する危険もあるが、長期的にみてより厄介なのは、ハブプライシングシステムの導入など、ヨーロッパのエネルギー政策が方向を違えており、しかも(天然ガス価格が高いために)石炭の消費が拡大していることだ。仮にアメリカからLNGを輸出しても、その価格は、ロシアの天然ガス価格の少なくとも2倍になる。ワシントンは、ヨーロッパへLNGを供給することの利益が明確になるまで、拙速にエネルギー輸出の決定を下すのは自重すべきだろう。

パンドラの箱を開けたプーチン
―― 大ロシア主義とロシアの崩壊リスク

2014年4月号

ストローブ・タルボット
ブルッキングス研究所会長

「自分はロシアの子供たちを守る母なるロシアに仕える役目を負っており、国境の外側にいる子供たちも、守らなければならない」。こうした思想に基づく今回のプーチンの行動を、モルドバやカザフスタンのようなロシアの近隣諸国、それもまだNATOに加盟していない諸国は深刻に受け止めている。もう一つの危険は、ロシアナショナリズムを前提とする領土回復主義・民族統一主義が連邦内のロシア系民族が主流でない地域での分離独立運動をさらに高めることになるかもしれないことだ。この場合、ロシア連邦が崩壊する危険が生じる。・・・チュルク語系民族、イスラム文化系の民族など、スラブとは異なる文化圏の中央アジア圏の人々は、ロシアナショナリズムが高揚すれば、疎外感を覚えるだろうし、すでに彼らの多くが政治的イスラムの影響下にある。・・・・

ミャンマーの少数民族問題と国際投資
―― 政治的和解に向けた国際企業の役割

2014年3月

スタンレー・A・ワイス 「ビジネスエグゼクティブのための国家安全保障」 創設者、 ティム・ハイネマン 元米特殊部隊将校

(日本や)欧米では、木材、ヒスイ、石油、天然ガスなど、ほぼ手つかずの膨大な天然資源を持つ、新生ミャンマーはアジアにおける次の成長国になると考えられている。問題は、有望視されるミャンマーの天然資源の多くが、この国の国境地帯沿いの少数民族地域に存在することだ。2011年以降、ミャンマー政府は12の主要民族グループのうちの11グループとの停戦交渉を試みているが、少数民族はほとんど権利を持たない二級市民とみなされていることもあって、交渉で紛争を完全に終結に持ち込めるとは考えにくい。ミャンマーに投資する日本を含む欧米諸国は、いまも続く残虐行為と差別に象徴される民族対立に直接的に関わっていくことになる。・・・外国からの投資に促され、政府と少数民族が公平な連邦制を採用したときこそ、ミャンマーと世界は、民主的で自由なミャンマーで正当な利益を確保できるようになる。そこには、国際企業が果たせる重要な役割がある。・・・

中国発、環境汚染の衝撃

2014年3月号

ベイナ・シュウ  米外交問題評議会オンライン・ライター・エディター

中国の環境危機は、この国の急速な工業化が引き起こした切実な問題の一つだ。中国経済はこの10年というもの、年平均で約10%のGDP成長を遂げたが、一方で環境と公衆衛生を犠牲にしてしまった。いまや世界の温室効果ガス排出量の3分の1は中国によるものだし、世界でもっとも汚染された都市トップ20の16は中国に存在する。中国の大都市500市のなかで、WHO(世界保健機構)の大気基準を満たしている都市は1%に満たないと言われる。大気汚染のせいで、北部に暮らす人々の平均余命は5・5年短くなり、深刻な水質汚染と水不足によって人々の健康が蝕まれ、土壌の劣化、砂漠化も進んでいる。しかも、世界銀行によると、中国の環境汚染は、国民総所得(GNI)の約9%に相当するコストを経済に強いている。汚染は経済成長を脅かしているだけではない。市民たちは、環境政策の改善に向けた政府の対応が緩慢なために不満を募らせ、社会は不安定化しつつある。環境汚染は、中国の国際的地位を傷つけ、社会の安定、政治的安定さえも脅かしつつある。

多極化したGXの世界 ―― 国連後のグローバル統治

2014年3月

スチュワート・パトリック 米外交問題評議会シニアフェロー (グローバル統治担当)

グローバルな問題に対処するための多国間協調は、いまや国連などの公的な国際機関の外側で試みられるようになった。国連のような多国間組織では、複雑を極めるトランスナショナルな問題に、効果的に対応することはおろか、対処することさえできなくなっているからだ。多国間組織で結論を出せないことに苛立ったアクターたちは、アドホックな枠組みや連帯で問題解決を試みるようになった。こうしてグローバル統治のための制度は、フォーマル、インフォーマルな組織や連帯が織りなす無様なパッチワークのような状態と化している。だが、組織やフォーラムが数多く存在するからといって、常に機能不全に陥るとは限らない。新たな課題に対処していく上で柔軟に対応できる場合もある。現在のグローバルな無秩序をどう考えるかはともかく、今後もこの状態が続くのが明らかで、現状における課題は、可能な限り、問題を解決できるように、現在の複雑な統治構造を機能させていくことだ。

「破綻国家脅威論」の興亡 ―― 不毛な戦略への決別

2014年3月

マイケル・J・マザー 米国防大学教授(国家安全保障戦略)

冷戦の集結以降、アメリカの安全保障戦略担当者の多くは、最大の脅威は国家構造に脆弱性を抱える破綻国家や破綻途上国家が作り出すと考えるようになり、外交と国防政策の大転換を訴えた。こうして国家建設ミッションが重視されるようになり、アフガニスタンとイラクはその際だった例とみなせる。だが、1990年代以降、アメリカが経験してきたことと、現在北東アジアで起きていることを比較すれば、秩序を乱すのが弱体国家の出現ではなく、領土的な野心と歴史の記憶、そしてナショナリズムの高まりであることは明らかだろう。弱体国家への関与は「健全な戦略的ドクトリンではなく、マニアックなこだわり」にすぎなかった。

新興国経済と短期資金 ―― 短期資金流入規制の容認を

2014年3月号

ベン・ステイル  米外交問題評議会・国際経済担当ディレクター

量的緩和は、FRBが新たに増刷した紙幣で(米国債等の)長期金融資産を購入することで、マネタリー・ベース(通貨供給量)を拡大して、利回りの上昇を抑え込むことを目的に実施されたが、よりリスクの高い資産への投資も刺激し、新興国に大規模な短期資金の流入が起きた。これによって新興国経済は一時的に潤ったが、量的緩和縮小を織り込んだ市場の思惑によって、資金が流出し始めると、インド、インドネシア、トルコ、ブラジルなどの新興市場国の通貨および債券市場は大きな余波にさらされ、現在もこの流れが続いている。国内資産に占める外国資本の比率が低く、貿易収支が黒字で、十分な外貨準備を保有している新興国は、より大きな柔軟性と復元力を持っている。こうした条件を満たしていれば、通貨と国内資産市場のボラティリティーは大きくならない。・・・・新興国政府が、突然起きる極端で予期不可能なショックから自国経済をまもるため、短期資金の流入を慎重に規制することを容認することが、先進国の利益にもなる。

軍隊なき、文化国家の物語

2014年3月号

オラフル・ラグナル・グリムソン アイスランド大統領

 わずか32万の人々しか住んでいないアイスランドは、これまではどうみても忘れさられた辺境の地だったし、歴史の多くの時期を通じて、実際にそうみなされてきた。だがこの数十年にわたって、アイスランドにはかつてなく大きな関心が寄せられるようになった。2003年にアイスランドの銀行が民営化されて以降、この国の金融部門には巨額の外国資本が流れ込むようになり、2008年10月の数日間でバブルがはじけるまで、その額はGDP(国内総生産)の10倍規模に膨らんでいた。より永続的なポテンシャルを秘めているのは、この国の北極圏プレイヤーとしてのステータスかもしれない。地球温暖化によって北極圏には新たな航路が誕生しつつあるし、資源開発の見込みも高まっている。アイスランドで最初に政治学を教える教授になり、1988―91年までは蔵相を務め、1996年以降は大統領としての職責を果たしているオラフル・ラグナル・グリムソンは、この国の大きな運命の変化を研究し、指導者としてそれを乗り切ってきた。(聞き手はスチュアート・レイド、フォーリン・アフェアーズ誌シニアエディター)

イスラエルがイラン強硬策を放棄しない理由
―― 外交交渉と空爆オプションの効果とリスク

2014年3月号

ドミトリ・アダムスキー
IDCヘルツリーヤ・政治外交大学院准教授

「イランは、現在の外交プロセスを核兵器の野望を覆い隠すために利用している。テヘランは最低限の妥協で、最大限の制裁緩和を引き出すことに成功した」。これが欧米とイランが交わした暫定合意に対するイスラエルの見方だ。さらにエルサレムは、欧米の経済制裁だけでなく、空爆を示唆するイスラエルの強硬策も、暫定合意に貢献しているとみている。今後の包括合意についても、「それに応じた方がましだとイランが考えるような状況を作り出す必要がある」とイスラエルは考えている。外交交渉で結果を出すには、一方で、イスラエルによる空爆リスクがあることをテヘランに常に意識させなければならない、と。だが空爆リスクを過度に強く意識させると、「合意に応じた方がましだ」と考えるのではなく、「どのみち攻撃してくるのだから、もはや何も失うものはない」と考え、むしろイランを先制攻撃へと走らせかねない。適切な抑止と過剰抑止のバランスを見極める必要がある。・・・

勝者なきウクライナ革命
―― キエフからの報告

2014年3月号

アナブル・チャップマン
ジャーナリスト

ヤヌコビッチはウクライナの政治から退場したかもしれないが、これをウクライナ政治の夜明けと考えるのは間違っている。確かに、オレンジ革命期の政治家ティモシェンコが釈放 され、多くの人はこれを歓迎しているかもしれない。だが、彼女の政界復帰はこれまで抗議運動を主導してきた3人の野党指導者間の不安定なバランスを覆すかもしれないし、そもそも、ティモシェンコはヤヌコビッチと同世代の政治家とみなされている。独立広場に集まった人々にとってティモシェンコが刑務所から釈放されたことと、彼女が政界に復帰することはまったく別の話なのだ。結局のところ、人々は「説明責任を果たし、法の支配を尊重し、政治腐敗と戦う」政治家の出現を待ち望んでいる。この思いが満たされるには、今回の革命以上に長い時間がかかるだろう。

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