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論文データベース(最新論文順)

中国は欧米秩序を拒絶する ―― 米中衝突が避けられない理由

2014年4月号

ミンシン・ペイ クレアモント・マッケンナ大学教授(政治学)

中国による防空識別圏の設定は「それなりの力を獲得すれば、北京は欧米の秩序に挑戦することを躊躇しない」とみるリアリストの警告が正しかったことを意味する。「開放性やルールに基づく行動」を基盤とする現在の国際システムと、「閉鎖的な政治と権力の恣意的行使」を特徴とする中国の国内体制とのギャップからみても、中国のエリート層が欧米秩序に正統性を見いだす日がやってくるはずはない。中国は今後さらに力をつけるにつれて、既存秩序の変更を求めるか、中国にとって好ましい秩序を構築しようとするはずだ。それは、独自のルールで動き、欧米を排除し、中国が支配的役割を果たす秩序になるだろう。もはやアメリカは「同盟国やパートナーとの関係を強化し、地域国家が中国に翻弄されないようにする」リアリスト路線をとるしかない。

ユーラシア主義か、栄誉ある小さな戦争か
―― 三つのシナリオとプーチンの選択

2014年4月号

アレクサンダー・モティル ラトガース大学教授

プーチンがユーラシア主義のイデオロギーや権力志向に取り憑かれ、合理的な思考を失い、ウクライナ侵略のコストと利益を判断できなくなっているとすれば、彼は今後も現在の路線を突き進むと考えるのが無難だろう。ウクライナに対する大規模な地上戦の開始を阻むものは何もない。一方、プーチンが合理的な考えを取り戻し、コストと利益のバランス、ユーラシア主義路線の余波を見極めることができれば、ウクライナと世界秩序を破壊する前に、侵略を止めるだろう。プーチンは、(ユーラシア主義の)イデオロギー、地政学的利益、そして自己利益から、今回の行動に出ている。だが指導者を突き動かすのはイデオロギーだけではない。欧米が厳格な対抗策をとれば、プーチンにもロシアにもほとんど利益をもたらさないコストのかさむ戦争への代替策、それも面目を失わずに済む代替策を模索するように促すことができるだろう。

モバイルファイナンス革命 ―― 携帯電話と経済開発

2014年4月号

ジェイク・ケンドール  ビル&メリンダ・ゲイツ財団 貧困層金融サービスプログラム 上級プログラムオフィサー 、 ロジャー・ブーリーズ  ビル&メリンダ・ゲイツ財団 貧困層金融サービスプログラム ディレクター

モバイルファイナンスは、従来の金融サービスモデルに対して少なくとも三つの優位を備えている。第1は、デジタル取引が本質的に無料であること。第2は、モバイルコミュニケーションが膨大なデータを生み出し、銀行などのサービス提供者はデータを利用して収益性の大きいサービスを開発できるだけでなく、従来の信用評価に代えてデータを利用できること。そして第3は、モバイルプラットフォームが、銀行と顧客をリアルタイムでつなげることだ。このモバイルファイナンスが途上国の経済開発を大きく変化させている。世界銀行によれば、モバイルネットワークは世界の貧困地域の約90%をカバーしており、平均すれば途上国で暮らす100人のうち89人が携帯電話を利用している。これは非常に大きな機会がそこに存在することを意味する。モバイルテクノロジーを利用する金融ツールは、貧困層に金融サービスを提供するコストを大きく低下させるだけでなく、経済開発を加速する大きなポテンシャルを秘めている。

クリミアは手始めにすぎない
――プーチンが欧米世界に突きつけた
果たし状

2014年4月号

アイバン・クラステフ
(ブルガリア)リベラル戦略センター 理事長

プーチンが軍事力に訴えたのは、他に選択肢がなかったからではなく、欧米のゲームルールを変えたいと考えたからだ。実際、キエフに圧力をかけることが目的なら、他にも多くのやり方が存在した。最近の行動からみれば、プーチンの戦略目的は、クリミアを他のウクライナ地域から切り離すことではない。ロシアとの統合を高めたウクライナ東部を内包する連合国家へとウクライナを変貌させることが狙いだ。クリミアでの行動を通じて、彼は法的な規範と冷戦後のヨーロッパ秩序構造を疑問に感じていることをはっきりと示した。プーチンは今回の行動を通じて欧米世界に果たし状を突きつけたことになる。彼は欧米の近代的価値を拒絶し、ロシアとヨーロッパ世界との間に明確な境界線を引こうとしている。プーチンにとって、クリミアはその手始めにすぎない。

流れは独ロが規定する新ヨーロッパへ
―― ウクライナ危機と独ロの特別な関係

2014年4月号

ミッチェル・A・オレンシュタイン
ノースイースタン大学教授(政治学)

ヨーロッパでの紛争を回避するために戦後ドイツがフランスとともに西側の枠組みに参加したように、冷戦後のドイツは東ヨーロッパにおける平和的な秩序を支えようと、クレムリンとの強固なパートナーシップの構築を試みた。そしてウクライナ危機が起きた。ヨーロッパとの明確な境界線を引きたいロシアにとっては、クリミアの支配という現状を維持し、ウクライナを不安定化させようと試みるのが合理的なのかもしれない。一方、ドイツは、ロシアとウクライナを直接交渉させる道筋へと向かわせたいと考えている。ロシアに対する制裁には及び腰で、むしろ緊張緩和に努めているとしても、ドイツはウクライナをヨーロッパの経済的軌道に組み込むことを決意しているようだ。クリミアの混迷は膠着状態から抜け出せないかもしれないが、いずれドイツとロシアは協調し、いまはまだ共有していない新しいヨーロッパのビジョンに向けて動き出すかもしれない。

シェール革命の地政学的衝撃

2014年4月号

ロバート・ブラックウィル 米外交問題評議会シニアフェロー
ミーガン・L・オサリバン ハーバード大学ケネディスクール教授

シェール革命によって、世界のエネルギー生産の中枢はユーラシア(ロシア)や中東から他の地域へとシフトし始めている。このグローバル規模での生産と供給のシフトは何を引き起こすか。おそらくエネルギー価格を大きく引き下げる。エネルギー輸出に歳入の多くを依存するロシアと中東産油国は、エネルギー価格の低下によって苦しい財政状況に追い込まれ、政治的安定が揺るがされるかもしれない。一方、供給の拡大と多角化によって世界のエネルギー輸入国は大きな恩恵を手にする。日本や韓国のような東アジアの同盟諸国は、北米からより多くのエネルギー資源を直接輸入し、安定した供給を確保し、エネルギー安全保障を確立するだろう。アメリカの新たなエネルギー資源を、非友好的なエネルギー供給国によって同盟国やパートナーがいたぶられるのを阻止するために用いることもできる。今後、グローバルなエネルギーの流れは大きく変化し、経済関係だけでなく、地政学環境も変化していく。・・・

ヨーロッパかロシアか、それが問題だ
―― ウクライナのナショナリズム

2014年4月号

オーランド・フィゲス
ロンドン大学バークベックカレッジ教授(歴史学)

ウクライナが現在直面している苦悩の中枢には、ロシアとの「戦略的パートナーシップ」に対する抵抗感と、「腐敗した政府からウクライナを政治的・経済的に救えるのはヨーロッパだ」という認識の間の葛藤がある。短期的には、ウクライナはロシアと仲違いするわけにはいかない。ロシアはウクライナのエネルギー供給を支配している上に、債務の大半を所有している。両国は産業面でも深く結びついている。だが長期的には、ウクライナにとって最大の期待はヨーロッパだ。街頭で抗議を行っている人々が求めた改革を実現するにはヨーロッパに目を向けるしかない。ただし、ウクライナのナショナリストたちは、ヨーロッパへの期待も幻想に過ぎないかもしれないことを忘れてはならない。「ヨーロッパかロシアか」という選択をめぐってウクライナ人が深く分裂していること、そしてウクライナを手放したくないロシアの思いが、ウクライナを受け入れたいというEUの思いよりずっと強いことを考えると、ウクライナは東欧諸国の先例にならって国の運命を国民投票で決めるべきなのかもしれない。

自然をテクノロジーでネットワークする
―― テクノロジーが変えた自然保護アプローチ

2014年4月号

ジョン・フークストラ
世界自然保護基金(WWF)主任サイエンティスト

技術革新が自然保護の手段を革命的に変化させている。テクノロジーの進化によって自然環境の実態をこれまでになく詳細に把握できるようになり、より多くの場所で、より多くの人に、より多くのデータがもたらされるようになった。ゾウの移動をGPSで把握し、熱帯雨林の状態をレーザーで測定することも、合成生物学で絶滅危惧種を救える可能性も出てきている。リモートセンサーで森林の立体構造を描き出し、アマゾンの熱帯雨林を含む、特定地域の生態系管理をほぼリアルタイムで監視できるようになった。もちろん、これを悪用することもできるが、これらのデータは、動物の生息地喪失や絶滅の危険を低下させ、気候変動を緩和させる手がかりになる。

クリミアとロシアのアイデンティティ
―― ロシアはクリミアを手放さない

2014年4月号

スーザン・リチャーズ
「オープンデモクラシーロシア」エディター

モスクワやサンクトペテルブルグとともに、クリミアはロシアの文化的遺産の重要なバックボーンを提供している。実際、冷戦終結以降、モスクワはクリミアのことを「まだ決着していないアジェンダ」とみなしてきた。やっと取り戻したクリミアをプーチンが手放す可能性はほとんどない。宗教、戦争、芸術を基盤とするロシアの国家アイデンティティにとって、クリミアはきわめて重要な場所だからだ。クリミアにはロシア正教の歴史的遺産が存在し、セバストポリは今も語り継がれる歴史的戦闘が何度も繰り広げられた場所だ。さらにロシアの文化的遺産である数多くの文学作品、芸術作品の多くがクリミアを舞台としている。ロシアはクリミアを手放さない。一方、ウクライナはクリミアの喪失には耐えられるかもしれないが、さらなる分裂を受け止める余力はない。

ウクライナ危機とロシアの立場

2014年4月号

ジェフリー・サックス
コロンビア大学教授(経済学)

欧米はウクライナの領土保全回復を目的に掲げるだけでなく、ロシアの利益と懸念にも応分の正当性があることを認める必要がある。ウクライナの安定は、ロシアの協力なしでは達成できないし、そうした協力が実現するとすれば、欧米がロシアに対して和解的な危機管理策をとった場合だけだ。ウクライナはヨーロッパとロシアの双方と分かちがたく結びついている。巨大なコスト負担を覚悟しない限り、どちらか一つとの関係を遮断できない場所に位置している。欧米は、ウクライナをロシアの軌道から引き離そうとするのではなく、むしろ、ロシアとウクライナが、先を見据えて、互恵的関係を模索するように働きかけ、EU、ロシア双方との経済的つながりを拡大することを目的に据えるべきだ。

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