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論文データベース(最新論文順)

ロシアとの新冷戦を管理するには

2014年8月号

ロバート・レグボルド コロンビア大学名誉教授

20世紀の冷戦と現在の危機はその規模と奥行きにおいて大きく違っているが、それでも現在のロシアとの関係破綻を新冷戦と呼んでもおかしくはない。ウクライナ危機がどのような結末に終わるとしても、ロシアと欧米の関係はかつての状態に戻ることはあり得ない。これが目にある現実だ、互いに、厄介な現状の責任は相手にあると考え、非難の応酬をしている。20世紀の冷戦もそうだったが、実際には、一方の行動によってではなく、その相互作用によって緊張と対立の悪循環が作り出されている。この点を認識しない限り、相手の行動を変えることはできない。ウクライナをめぐる現在の危機、そして今後の新しい危機をめぐっても、欧米はモスクワの選択を左右するような流れや環境を形作る必要がある。対決コースが大きなコストを伴うことを双方が理解し、異なる結末へと向かわせることを意識してこれまでとは違う路線をとらない限り、緊張が緩和し、問題が解決へと向かい始めることはない。

ネットプライバシーと「忘れられる権利」

2014年7月号

ヘンリー・ファーレル  ジョージ・ワシントン大学政治学准教授
アブラハム・ニューマン  ジョージタウン大学政治学准教授

2014年5月、欧州司法裁判所は、あるスペイン人の名前を入力すると示される検索結果を削除するようにグーグルに命令した。こうして、(欧州司法裁判所は、「忘れられる権利」、例えば、かつての負債や不適切な写真といった特定の情報について、市民がグーグルを含むインターネット企業に対して公共空間からの削除を求める権利を尊重することを義務づけた。これによって、プライバシー保護を求めるヨーロッパの流れは今後さらに大きくなり、必然的に、「蓄積された膨大な個人データを利用して、広告や消費者行動分析に利用しているアメリカのeコマース企業のビジネスモデルそのものが問題視されるだろう。今後、ヨーロッパの主要市場で、米企業がこれまでのような行動をとることは次第に難しくなっていく。当然、米企業はヨーロッパの立場に歩み寄る必要があるし、今後、デジタル時代におけるプライバシー論争は二つの競合するビジョンによって規定されるようになるだろう。

イラク・シリア問題にどう対処するか ―― 分割による連邦国家化を

2014年7月号

レスリー・ゲルブ 米外交問題評議会名誉会長

オバマ政権は明確な戦略をもつ必要がある。包括的な戦略枠組みを意識した行動をとらない限り、結局は何をしてもうまくいかない。先ず、イラクの混乱に関連する本当の脅威を作り出しているのが誰であるかを特定しなければならない。答えは、シリアでもイラクでも脅威を作り出しているのは(スンニ派の)ジハーディストだ。したがって、この脅威に対抗することに利益を見いだす勢力を特定し、連帯を組織する必要がある。それは皮肉にもアサド政権やロシア、イランに他ならない。アサド政権もイランもロシアも、スンニ派の過激主義集団を敵視している。私なら、現在の問題に対処するためにイランと取引する。スンニ派のジハード主義者がイラクとシリアで大きな影響力を手にすれば、将来における和平への道筋を描くための政治的解決策を模索するのは不可能になる。実際、シリア、イラク双方における見込みのある平和への道筋を描くには、(ジハード主義勢力を抑え込んだ上で)連邦制を導入するしかないだろう。(聞き手はバーナード・ガーズマン、consulting editor@cfr.org)

米中露・新戦略トライアングルで 何が変わるか

2014年7月号

デビッド・ゴードン  ユーラシアグループ・ グローバルマクロ分析ディレクター
ジョーダン・シュナイダー  ユーラシアグループ リサーチャー

冷戦期を思わせる戦略トライアングルが再び復活しつつある。冷戦期の米中ロ戦略トライアングルを巧みに利用したのはアメリカだったが、今回のトライアングルで強い立場を手にしているのは中国だ。北京は、ウクライナ危機に派生する米ロ対立をうまく利用できる立場にある。中国はロシアからのエネルギー供給を確保するだけでなく、ロシア市場へのアクセスの強化、ロシアからの軍事技術の供与を望んでいる。もちろん、戦略トライアングル内部の対立構図をはっきりと区分できるわけではない。中国にとってアメリカは依然として重要な経済パートナーだし、住民投票で国境線を変えたロシアのやり方を、国内に大きな火種を抱える中国が認めることもあり得ない。だがそれでも、この新環境のなかで大胆になった中国が、現在の東アジアにおける地域バランサーとしての役割をアメリカが遂行していくのを難しくするのは避けられないだろう。・・・

ロシア、中国と新しい外交課題

2014年7月号

ロバート・ゲーツ 元米国防長官、 ファリード・ザカリア CNNファリード・ザカリアGPS ホスト

プーチンにとって、ウクライナにおける最終目的はキエフに親ロシアの政権を誕生させることだ。ヤヌコビッチほど、はっきりとした親ロ派である必要はない。東部がモスクワに目を向け、独立に近い大きな自治権を確保し、しかもウクライナがNATOやEUにこれ以上近づいていかなければ、おそらくプーチンはその状況で満足するのではないかと思う。すくなとも、当面はそうした状況で十分のはずだ。

そこに戦略的空白が存在すれば、(台頭する国家は)自分たちのナショナリスティックなアジェンダを模索するチャンスがあると考える。そしてひとたび行動を起こせば、それは自律的にエスカレートしていく。防空識別圏の設定、単なる監視船ではなく、戦闘機まで投入し始めた尖閣諸島をめぐる対日アプローチの激化、さらには南シナ海における石油掘削プラットホームの設置に象徴される、この18カ月から2年間の中国の攻撃的なアプローチを、私はこの文脈で捉えている。

黒海をめぐるロシアとトルコの歴史的攻防
―― ロシアのクリミア編入とトルコの立場

2014年7月号

アキン・アンバー カディルハス大学准教授

クリミアは歴史的にみても、ロシアとトルコのパワーバランスを左右する戦略的要地だった。18世紀のクリミア・ハン国併合によってクリミアを手に入れたロシアは、海軍の活動範囲を黒海からエーゲ海、地中海へと急速に拡大していった。一方、ヨーロッパ諸国は、ロシアの拡大主義の動きをボスポラス海峡、ダーダネルス海峡へと押し返そうとした。このせめぎ合いが、1853―56年のクリミア戦争につながっていく。トルコの視点でみれば、今回のロシアのクリミア編入はロシアの歴史的拡大主義のパターンに合致している。今後、ロシアがともに資源地帯である黒海から地中海へと活動範囲を増強していく可能性は十分にある。トルコが生き残るための唯一の選択肢は、今も昔も同盟国と協調することであり、そのためには、欧米から信頼できるコミットメントを引き出す必要がある。

欧米の偽善とロシアの立場
―― ユーラシア連合と思想の衝突

2014年7月号

アレクサンドル・ルーキン ロシア外務省外交アカデミー副学長

冷戦が終わると、欧米の指導者たちは「ロシアは欧米と内政・外交上の目的を共有している」と考えるようになり、何度対立局面に陥っても「ロシアが欧米の影響下にある期間がまだ短いせいだ」と状況を楽観してきた。だが、ウクライナ危機がこの幻想を打ち砕いた。クリミアをロシアに編入することでモスクワは欧米のルールをはっきりと拒絶した、しかし、現状を招き入れたのは欧米の指導者たちだ。北大西洋条約機構(NATO)を東方に拡大しないと約束していながら、欧米はNATOそして欧州連合を東方へと拡大した。ロシアが、欧米の囲い込み戦略に対する対抗策をとるのは時間の問題だった。もはやウクライナを「フィンランド化」する以外、問題を解決する方法はないだろう。ウクライナに中立の立場を認め、親ロシア派の保護に関して国際的な保証を提供しない限り、ウクライナは分裂し、ロシアと欧米は長期的な対立の時代を迎えることになるだろう。

CFR Meeting
イラクと中東の宗派間紛争
―― イラク分裂の意味合い

2014年7月号

◎スピーカー
  スティーブン・ビドル ジョージワシントン大学教授
マックス・ブート 米外交問題シニアフェロー(国家安全保障担当)
ミーガン・オサリバン ハーバード大学教授
◎プレサイダー
リチャード・ハース 米外交問題評議会会長

イラクの混乱は中東におけるより大きな危機の一部であり、最終的にはこれによって中東の地図が書き換えられることになるかもしれない。(R・ハース)

(イラクにおける)過酷な民族・宗派間紛争は数週間、数カ月という単位ではなく、数年という長期的なスパンで続くだろう。その途上で人道危機も起きるだろうし、この環境のなかでテロが起きる危険もある。だがもっとも厄介なのは、イラクの長期的な内戦が地域的に拡散していく危険が非常に高いことだ。(S・ビドル)

イラクの統一を保つことがわれわれの目的だと言い続けるだけで、その一方でイラクの分裂をいかに管理するかを考えないとすれば、政策決定者としての責任を放棄することになる。(M・オサリバン)

すでに事実上の分裂は始まっている。イランの革命防衛隊(IRGC)がその傘下組織を使って南部のシーア派地域を支配し、ISISと旧バース党メンバーがスンニ派地域を支配している。・・・クルド地域はうまく統治されるとしても、他のイラク地域は紛争に覆われつくすことになりかねない。(M・ブート)

デジタル経済が経済・社会構造を変える
―― オートメーション化が導くべき乗則の世界

2014年7月号

エリック・ブラインジョルフソン MIT教授(マネジメントサイエンス)
アンドリュー・マカフィー MITリサーチ・サイエンティスト(デジタルビジネス)
マイケル・スペンス ニューヨーク大学教授(経済学)

グローバル化は大きな低賃金労働力を擁し、安価な資本へのアクセスをもつ国にこれまで大きな恩恵をもたらしてきたが、すでに流れは変化している。人工知能、ロボット、3Dプリンターその他を駆使したオートメーション化というグローバル化以上に大きな潮流が生じているからだ。工場のようなシステム化された労働環境、そして単純な作業を繰り返すような仕事はロボットに代替されていく。労働者も資本家も追い込まれ、大きな追い風を背にするのは、技術革新を実現し、新しい製品、サービス、ビジネスモデルを創造する一握りの人々だろう。ネットワーク外部性も、勝者がすべてを手に入れる経済を作り出す。こうして格差はますます広がっていく。所得に格差があれば機会にも格差が生まれ、社会契約も損なわれ、・・・民主主義も損なわれていく。これまでのやり方では状況に対処できない。現実がいかに急速に奥深く進化しているかを、まず理解する必要がある。

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