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論文データベース(最新論文順)

変化する中東の経済地図
―― 旧秩序の解体と新経済圏の誕生

2014年6月号

マリナ・オッタウェイ ウッドロー・ウィルソン国際研究センター 上級研究員
デビッド・オッタウェイ ウッドロー・ウィルソン国際研究センター 上級研究員

アレッポからバグダッド、そしてベイルートにいたるまでの広範な中東地域で流血の惨事が続いている現状からみれば、サイクス・ピコ協定を基盤とする中東秩序の崩壊を予測したくもなる。武力衝突は国境を越えて広がり、シリアなど一部の国は崩壊に向かっている。しかし、通商・貿易という、国家関係を変貌させている別の流れが生じていることにも目を向けるべきだ。むしろ、暴力や国家分裂ではなく、石油と天然ガスを中心とする経済の相互利益によって、サイクス・ピコを基盤とする秩序は再編され、穏やかな幕引きへと向かうのかもしれない。このダイナミクスがもっともはっきり認められるのが、イラクのクルド地域とトルコの経済関係で、この展開は古い対立と国境線を克服した新たな経済圏が中東に誕生する可能性を示唆している。

21世紀の資本主義を考える
―― 富に対するグローバルな課税?

2014年6月号

タイラー・コーエン ジョージメイソン大学教授(経済学)

西ヨーロッパが19世紀後半に享受した平和と相対的安定は、膨大な資本蓄積を可能にし、先例のない富の集中が生じ、格差が拡大した。しかし、二つの世界大戦と大恐慌が資本を破壊し、富の集中トレンドを遮った。戦後には平等な時代が出現したが、1950年から1980年までの30年間は例外的な時代だった。1980年以降、拡大し続ける格差を前に、トマ・ピケティのように、19世紀後半のような世界へと現状が回帰しつつあると考え、格差をなくすために、世界規模で富裕層の富に対する課税強化を提言する専門家もいる。しかし、大規模な富裕税は、資本主義民主体制が成功し繁栄するために必要な規律や慣習とうまくフィットしない。もっとも成功している市民への法的、政治的、制度的な敬意と支援がなければ、社会がうまく機能するはずはない。

シリア内戦の現状を問う
―ポストアメリカ時代へ向かう中東

2014年6月号

ライアン・クロッカー 元駐シリア米大使
チャールズ・W・ダン フリーダムハウス ディレクター
ポール・ピラー 元米中央情報局 分析官

アメリカがシリア問題への関与を控えているために、中東の指導者たちは、次第にアメリカという要因を外して、意思決定を試み始めている。中東はポストアメリカ時代へと向かいつつある。(C・ダン)

シリア内の反体制武装勢力として大きな役割を果たしているのは、「イラク・シリア・イスラム国(イラクとシャームのイスラム国)」(ISIS)のような過激派だ。このサラフィー派のジハード主義集団は、アルカイダでさえも関係をもつのを嫌がるような残虐行為に手を染めている。・・・サウジはシリア内戦を自国の存亡に関わる問題とみている。彼らは、この戦争をイランとの対立構図のなかで捉えており、アメリカの関与のあるなしに関わらず、戦うつもりでいる。(P・ピラー)

スンニ派を虐殺した1982年のハマーの虐殺以降、アサド政権は、審判の日がいつか訪れるかもしれないと警戒し、審判の日が来れば、少数派であるアラウィ派は、その生存をかけて戦わなければならないことをかねて理解していた。スンニ派であれ、アラウィ派であれ、この事件のことを誰もが覚えている。(R・クロッカー)

動き出したクリミア後の地政学
―― 中ロの連帯で何がどう変わる

2014年6月号

デビッド・ゴードン ユーラシアグループグローバルマクロ分析ディレクター
ジョーダン・シュナイダー ユーラシアグループリサーチャー

冷戦期を思わせる戦略トライアングルが再び復活しつつある。冷戦期の戦略トライアングルにおける中ロ対立を巧みに利用したのはアメリカだったが、今回のトライアングルでは強い立場を手にしているのは中国だ。北京は、ウクライナ危機に派生する米ロ対立をうまく利用できる立場にある。中国はロシアからのエネルギー供給を確保するだけなく、ロシア市場へのアクセスの強化、ロシアの軍事技術の供与も望んでいる。もちろん、戦略トライアングル内部の対立構図をはっきりと区分できるわけではない。中国にとってアメリカは依然として重要な経済パートナーだし、住民投票で国境線を変えたロシアのやり方を、国内に大きな火種を抱える中国が認めることもあり得ない。だがそれでも、大胆になった中国が、現在の東アジアにおける地域バランサーとしての役割をアメリカが遂行していくのを難しくするのは避けられないだろう。

プーチンとロシアのイスラム教徒

2014年5月号

ロバート・D・クルーズ スタンフォード大学准教授(歴史学)

ロシア国内の多様なイスラム教徒をどう管理し、いかにすれば国への忠誠をつなぎ止められるか」。この課題に対処しようと、プーチンは内外における政治目的からイスラム教徒を取り込もうと懸命に試みてきた。しかし彼は、特定のイスラム教集団を支援して政治的な忠誠を引き出す一方で、他のイスラム集団を抑圧する分断統治戦略をとっている。しかも、イスラム教とロシアの政情不安が結びついているような印象を与える声明を繰り返し発表している。結局のところ、モスクワは「イスラム教のことを国が支えるべき伝統的なロシアの宗教だ」と認めつつも、イスラム過激派に対する偏見と恐怖を非イスラム教徒の間で煽り立て、「イスラム教徒は好戦的だ」というレッテルをはっている。その結果、モスクの指導者たちが上下関係をめぐって争い、急進派だとか異端だといった非難の声を浴びせ合い、国や警察に介入を訴える権力闘争がいまやロシア全土で繰り広げられている。・・・・

CFR Update インド経済とインフラプロジェクト

2014年5月号

ベイナ・シュウ オンラインライター・エディター

新興経済としてのインドの経済パワーは、中国経済同様に、過去数十年間の大きな経済成長によって支えられてきた。しかし、インフラ投資が十分ではない状況が長期的に続いたために、交通システムと送電網がうまく機能しなくなり、いまやインフラの不備が経済を停滞させかねない状況にある。効率に欠けるインドの港湾施設は急拡大する貿易取引にうまく対処できず、信頼性の低い送電網と水道ネットワークも急激に進展する都市化に対応できずにいる。交通・輸送インラフも大きな不備を抱え込んでいる。しかも、規制と政治腐敗がインフラ投資には不可欠な外資を遠ざけている。・・・・多くの制約と障害を克服し、インドはインフラの修復と整備を進めることができるか。これが21世紀のインド経済を大きく左右することになる。

幻と化したアラブの春 ―― 過去へと回帰した抑圧体制

2014年5月号

ネイサン・J・ブラウン ジョージワシントン大学教授、ミッシェル・ダン カーネギー国際平和財団 シニアアソシエート

2013年7月のモルシ大統領の解任劇以降、ムスリム同胞団のメンバーを中心に約1万9000人が投獄され、抗議デモの混乱のなかで民間人2500人以上が死亡し、1万7000人が負傷している。現在のエジプトは、その最悪の暗黒時代と同じ類の暴力のなかにある。現在の弾圧は、1952年から1955年にかけてリベラル派、極左勢力、同胞団メンバー2万人が投獄されたナセル時代を想起させる。だが、これまでと違うのは、政争を超えた存在として敬意を集めていた裁判所、軍というエジプトの政府機関が、いまや積極的に弾圧に加担しているようにみえることだ。この変化は、エジプトの裁判所と軍への国際的評価を傷つけるだけでなく、国内でもこれら機関への信頼を損なうことになる。つまり、今後、大規模な蜂起が起こるとすれば、それは、国のあらゆる機関に対する全面的な反乱になりかねない。 ・・・

「歴史の終わり」と地政学の復活
―― リビジョニストパワーの復活

2014年5月号

ウォルター・ラッセル・ミード バードカレッジ教授(歴史・外交)

政治学者フランシス・フクヤマは、「冷戦の終わり」をイデオロギー領域での「歴史の終わり」と位置づけたが、多くの人は、ソビエトの崩壊はイデオロギー抗争の終わりだけでなく、「地政学時代の終わり」を意味すると考えてしまった。現実には、ウクライナをめぐるロシアとEUの対立、東アジアにおける中国と日本の対立、そして中東における宗派間抗争が国際的な紛争や内戦へとエスカレートするリスクなど、いまや歴史は終わるどころか、再び動き出している。中国、イラン、ロシアは冷戦後の秩序を力で覆そうとしており、このプロセスが平和的なものになることはあり得ない。その試みは、すでにパワーバランスを揺るがし、国際政治のダイナミクスを変化させつつある。いまや、リベラルな秩序内に地政学の基盤が築かれつつあるのを憂慮せざるを得ない状況にある。・・・・

シェール革命で変化するエネルギー市場と価格

2014年5月号

エドワード・L・モース シティグループ原材料担当グローバル統括者

ロシアを抜いて世界最大の天然ガス生産国の地位を手に入れたアメリカは、2015年までには、サウジアラビアを抜いて最大の原油生産国になると考えられている。2011年に3540億ドルの赤字だったアメリカの石油貿易収支も、2020年には50億ドルの黒字へと転じる。一方、シェール資源の開発技術は外国にも移転可能であり、今後、シェール資源開発は世界的に広がっていくだろう。実際、シェール資源は世界各地で発見されており、多くの国がこの分野でアメリカに続きたいと考えている。アメリカの開発可能なシェール資源が世界全体の資源の15%程度である以上、世界的な開発が進めば、これまでになく安いコストでエネルギー資源が供給されるようになる。40年にわたって市場を支配してきたOPECが恣意的に原油価格を設定し、世界経済を苦しめてきた時代にもいずれ終止符が打たれ、世界経済は大きな成長を遂げることになるだろう。・・・・

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