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論文データベース(最新論文順)

世界銀行総裁との対話
―― 貧困撲滅と繁栄の共有へ

2014年10月号

ジム・ヨン・キム  世界銀行総裁

第二次世界大戦末期の1944年7月、ヨーロッパの戦後復興を検討するブレトンウッズ会議が開かれ、世界銀行の設立が合意された。あれから70年。世界銀行は戦後の復興支援機関から、途上国の経済成長を推進し、貧困を削減する国際機関へと進化した。その主なツールは、先進国から集めた莫大な資金を途上国に融資または無償援助の形で提供することだ。伝統的に世界銀行の総裁には金融の専門家かエコノミスト、あるいは政治家が就任してきた。だがオバマ米大統領は2012年、慣例を破ってR・ゼーリック総裁の後継候補に公衆衛生の専門家であるジム・ヨン・キムを指名した。キムは人類学者で医師でもあり、1987年にNGO「パートナーズ・イン・ヘルス」を設立して薬物耐性を獲得した結核への対策を研究している。キムは世界保健機関(WHO)エイズ局長、ハーバード大学医学大学院教授、ダートマス大学の学長といった要職を歴任している。(聞き手はスチュワート・レイド、フォーリン・アフェアーズ誌副編集長)

同性愛者に優しく、労働者に冷たい社会
―― アメリカの左派運動の成功と挫折

2014年10月号

マイケル・カジン ジョージタウン大学教授(歴史学)

著名人が同性愛者に差別的な発言をしたニュースが瞬く間にインターネットで広がることからも明らかなように、現代のアメリカ社会は同性愛者の権利については敏感に反応する。一方、労働組合が衰退していることもあって、経済的平等の実現に向けた意識は低い。文化活動を通じた社会変革活動は、多くのアメリカ人にアピールし、いまやレズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー(LGBT)の権利を認めることを求めてきた左派の運動は、次々と大きな勝利を収めている。一方、労働組合は目的を実現できず、経済格差の是正を求めた、最近の「ウォール街を占拠せよ」運動も勢いを失った。結局、現代のアメリカはリバタリアン(自由至上主義)の時代にあり、「一人の痛みを皆で連帯して分かち合う」という昔ながらのスローガンは、ユートピア的とは言わないまでも、時代遅れなのかもしれない。・・・

エボラ感染者を救うには
―― アメリカの対応は間違っている

2014年10月号

キム・イ・ディオン スミスカレッジ 助教

西アフリカのエボラ出血熱の感染拡大によって、感染者をケアしていた医師、看護婦その他の医療関係者を含む2800人以上がすでに犠牲になっている。しかも、感染率は劇的に上昇しており、状況が管理されるまでにはさらに多くの人々が犠牲になると考えられる。一方、エボラウイルスに感染したアメリカ人を担当した主治医たちは、注意深い観察、失われた水分とミネラルの投与を含む「積極的な支持療法」が回復の決め手だったと考えている。西アフリカの人々が必要としているのもまさにこの「積極的な支持療法」だろう。問題は、こうしたケアを提供するには、より優れた医療施設が必要であるにも関わらず、ギニア、リベリア、シエラレオネでこれらの医療施設が不足していることだ。国際的支援の焦点をこうした医療施設不足対策に合わせる必要がある。

感染拡大を防ぐには隔離しかない

2014年10月号

ローリー・ギャレット 米外交問題シニアフェロー

これまで感染拡大は地方での現象だったが、いまや都市部での感染が拡大している。さまざまな環境で人から人への感染が起きており、非常に深刻な局面を迎えている。感染者を隔離しない限り、感染拡大は阻止できない。国境なき医師団は「あらゆる競技場を、感染者を安全に隔離するための場所にする必要がある」と主張している。これは悪いアイディアではない。1918年にスペイン風邪が流行した際にも、感染者は公衆衛生当局が借り上げた映画館・ホテルで隔離された。・・・ワクチンがあと1-3年で開発されるかもしれないが、おそらく医薬品で感染拡大を阻止するのは難しいだろう。この5ヶ月間ですでにエボラウイルスは300回変異している。開発されるワクチンが効かないような変異をウイルスが遂げるリスクを心配している。・・・

イスラム国の女性兵士たち

2014年10月号

ニミ・ゴウリナサン  中央ヨーロッパ大学(CEU)公共政策大学院 紛争・交渉・復興センター(CCNR)研究員

「イスラム国(ISIS)」に女性兵士の旅団が組織されたという報道を前に、専門家は当惑し、状況を懸念している。公然と女性を抑圧するイスラム主義運動になぜ女性が参加するのか。メディアは女性を犠牲者、男性を暴力的な加害者として描きがちだが、それが常に真実だとは限らない。紛争という特有の環境のなかで、自分を守るために、そして民族的不満を打開するために、女性としてのアイデンティティよりも、宗派アイデンティティを優先させることもある。イラクだけでなく、エルサルバドル、エリトリア、ネパール、ペルー、スリランカでも、女性たちが暴力的な運動や民兵組織に自発的に参加している・・・。

イスラム国を検証する
―― ルーツ、財源、アルカイダとの関係

2014年10月号

ザカリー・ローブ オンラインライター 、ジョナサン・マスターズ cfr.org副編集長

2013年4月イスラム国は、ヌスラ戦線との統合を宣言した。しかし、ビンラディンの後継者として「コア・アルカイダ」を率いるザワヒリは、この統合を認めず、「バグダディのイスラム国の活動はイラク国内に限定する」と表明した。だがバグダディはザワヒリの決定を受け入れることを拒絶する。2013年後半、それまでライバル関係にあったシリア内の他のスンニ派武装集団はムジャヒディーン軍として連帯し、イスラム国に対して「シリアでの支配地域は自分たちに委ねて、シリアから撤退するように」と迫った。だが、それ以降もイスラム国は支配地域を拡大し続け、「シリアとイラクの国境地帯に事実上の国家」を樹立した。イスラム国は、武装した兵士を配備しただけでなく、一部で行政サービスを提供するようになり、超保守的なイスラム主義を実践している。・・・

ヨーロッパにおける首都と地方の対立
―― 首都を頼るか、それともEUか

2014年10月号

フィオナ・ヒル ブルッキングス研究所米欧関係センター ディレクター
ジェレミー・シャピロ  ブルッキングス研究所フェロー

スコットランドのイングランドに対する不満とは、実際にはイギリス政府の政治家たちに対する不満、経済的にも文化的にも大きなウェイトをもち、とにかく派手で、他の地域からみれば別世界の「ロンドンとイングランド南部」に対する不満だった。そして多くの意味で、スコットランドの独立運動は欧州連合(EU)の存在なしでは起こり得なかった。実際、NATOが外からの攻撃に対する盾を提供し、EUがその世界最大の市場へのアクセスを保証すれば、いかなる小国であっても、力強い国家になれる。スコットランドの独立運動は、地域的アイデンティティと野心的な政治家が存在し、独立を模索するか、あるいは、より大きな自治を求めるほどに首都に反感を抱き、しかもEUに参加できる見込みのある地域なら、独立を模索できることを示した。力強いアイデンティティをもつスペインのカタルーニャもいずれ独立を模索するかもしれない。・・・

空爆を支える外交戦略とは

2014年10月号

リチャード・ハース 米外交問題評議会会長

「米地上軍は送り込まない」というフレーズが呪文のように繰り返されているが、すでにアメリカは1000名を超える米軍のアドバイザーをイラクに派遣しているし、いずれイラク、シリアの双方に特殊作戦部隊を送り込むことになるだろう。イラクであれ、シリアであれ、米軍を駐留させることはあり得ないとしても、「高度なターゲット」を粉砕する上で最善かつ唯一の戦力である特殊作戦部隊を送り込む流れになるのは避けられないだろう。イラクの場合、治安部隊だけでなく、スンニ派部族やクルド人武装勢力を動員できるかもしれない。一方、シリアの反政府勢力は弱く、分裂している。むしろ、アラブ諸国が部隊派遣を行うように説得すべきだろう。解放された領土は、われわれが受け入れられる条件で統治し、民衆に接していくことに合意するスンニ派に委ねるべきで、その相手はアサド政権ではない。これらの詳細を協議していく必要がある。この意味で、スンニ派のアラブ国家だけでなく、おそらくはイランやロシアのような国も枠組みに参加させるべきだろう。(聞き手はバーナード・ガーズマン cfr.org, Consulting Editor)

CFR Meeting
イスラム国と中東の未来

2014年10月号

エド・フサイン/ 米外交問題評議会シニアフェロー(中東問題担当)
ジャニーヌ・デビッドソン/米外交問題評議会シニアフェロー(国防政策担当)

空爆でイスラム国の勢いは止められるかもしれないが、粉砕することは不可能だ。イスラム国がシリアに聖域をもっていることも考えなければならない。イスラム国の問題を簡単に解決する方法はなく、長期的なアプローチをとるしかない。これまでの経験からみて、10-15年という時間が必要になるだろう。(J・デビッドソン)

われわれはイスラム過激主義に魅了されるのは愚かで、社会から孤立したアブノーマルな人物だと考えがちだが、彼らは自分のことを過激派とは自覚していないし、アブノーマルだとも考えていない。むしろ「自分はいたってノーマルだ」と考えている。神の期待に即した活動をしていると信じているからだ。(E・フサイン)

イスラム国の戦略
―― ハイジャックされたアルカイダの
イスラム国家構想

2014年10月号

ウィリアム・マッカンツ ブルッキングス研究所フェロー

イスラム国家の樹立構想を考案したのは、現実にイラク・イスラム国の樹立を表明した「イラクのアルカイダ(AQI)」ではなく、アルカイダのアイマン・ザワヒリだった。ザルカウィが死亡した後にAQIの指導者となったアブ・アイユーブ・マスリはAQIを解体し、現在のイスラム国の指導者とされるアブ・オマル・バグダディを「信仰指導者(アミール・ウル・モミニン)」として仰ぎ、その忠誠を誓った。・・・2013年、イスラム国はシリアとイラクの双方で権力を確立したと表明する。ザワヒリはイスラム国に対して、「主張を取り下げて、シリアを去り、イラクに帰るように」と求めたが、イスラム国の指導者はこれを相手にしなかった。・・・イスラム国家を樹立するというザワヒリの強烈なアイディアは彼の手を離れて自律的な流れを作り出し、アルカイダを解体へと向かわせ、いまやイスラム国がグローバルなジハード主義の指導組織の地位を奪いつつある。

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