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論文データベース(最新論文順)

イスラム国と米サウジ関係の転機

2014年11月号

ファハド・ナゼル  前駐ワシントンサウジ大使館 政治分析官

シリアのアサド政権を敵視するサウジの指導者たちは、ワシントンがシリアに対する強硬路線を2013年に後退させ、最終的に空爆計画を撤回したことに憤慨し、両国の関係は一気に冷却化した。だがいまやサウジは、アメリカとの対イスラム国共闘路線を強化していくと示唆している。イスラム国の脅威に対して共闘すれば、地域的な安定を促進できるだけでなく、アメリカとの関係も改善する。だがその多くは、ワシントンが「シリアとイラクに対する長期戦略を明確に描けるかどうか」に左右される。少しでもワシントンが立場を後退させるようなら、サウジはアメリカとは別の地域戦略をとるしかないと考えている。この場合、ワシントンにとっては非常に厄介なことに中東で新たな敵対国に直面することになる。

なぜシリアへの投資が進んでいるか
―― 戦火のなかで進められる投資の目的とは

2014年10月号

アダム・へフェズ  スタンフォード大学ビジネスクール MBAキャンディデート、 ノーム・ライダン  ワシントン近東政策研究所 リサーチアソシエーツ

瓦礫と荒廃のなかにあるにもかかわらず、シリアへの投資が進んでいる。制裁を続ける欧米は戦後シリアに向けた投資を躊躇っているが、中国、イラン、北朝鮮、ロシアがその空白を埋めている。勿論、これらの国も投資から短期的な経済利益を引き出せると考えていない。シリアのアサド政権と同盟関係にある諸国の政府や企業は、投資を経済ではなく、政治目的で捉えている。短期的には経済合理性を欠くとしても、現状でシリア投資にしておけば、今後シリアがどのように統治されるかに影響力を行使できるとこれらの国は考えている。

イラクにおけるイスラム国(ISIS)の台頭と攻勢が、イランとアメリカに連帯の機会をもたらしている。イラクの領土保全を回復し、中東全域に広がりかねない宗派間紛争を阻止し、イスラム国を打倒するという目的をワシントンとテヘランが共有しているからだ。すでにハッサン・ロウハニ大統領を始めとするイラン政府高官の多くが、イスラム国を打倒するためにアメリカと協調することに前向きであることを示唆している。勿論、アメリカとイランは、両国が協調関係に入ることに対してイデオロギー的に反対する国内勢力をともに抱えている。しかしそれでも、両国が今後協力関係を深化させていく可能性はある。イスラム国が国境線を問わぬトランスナショナルな脅威である以上、同様にトランスナショナルな対応が必要になるからだ。

世界銀行総裁との対話
―― 貧困撲滅と繁栄の共有へ

2014年10月号

ジム・ヨン・キム  世界銀行総裁

第二次世界大戦末期の1944年7月、ヨーロッパの戦後復興を検討するブレトンウッズ会議が開かれ、世界銀行の設立が合意された。あれから70年。世界銀行は戦後の復興支援機関から、途上国の経済成長を推進し、貧困を削減する国際機関へと進化した。その主なツールは、先進国から集めた莫大な資金を途上国に融資または無償援助の形で提供することだ。伝統的に世界銀行の総裁には金融の専門家かエコノミスト、あるいは政治家が就任してきた。だがオバマ米大統領は2012年、慣例を破ってR・ゼーリック総裁の後継候補に公衆衛生の専門家であるジム・ヨン・キムを指名した。キムは人類学者で医師でもあり、1987年にNGO「パートナーズ・イン・ヘルス」を設立して薬物耐性を獲得した結核への対策を研究している。キムは世界保健機関(WHO)エイズ局長、ハーバード大学医学大学院教授、ダートマス大学の学長といった要職を歴任している。(聞き手はスチュワート・レイド、フォーリン・アフェアーズ誌副編集長)

同性愛者に優しく、労働者に冷たい社会
―― アメリカの左派運動の成功と挫折

2014年10月号

マイケル・カジン ジョージタウン大学教授(歴史学)

著名人が同性愛者に差別的な発言をしたニュースが瞬く間にインターネットで広がることからも明らかなように、現代のアメリカ社会は同性愛者の権利については敏感に反応する。一方、労働組合が衰退していることもあって、経済的平等の実現に向けた意識は低い。文化活動を通じた社会変革活動は、多くのアメリカ人にアピールし、いまやレズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー(LGBT)の権利を認めることを求めてきた左派の運動は、次々と大きな勝利を収めている。一方、労働組合は目的を実現できず、経済格差の是正を求めた、最近の「ウォール街を占拠せよ」運動も勢いを失った。結局、現代のアメリカはリバタリアン(自由至上主義)の時代にあり、「一人の痛みを皆で連帯して分かち合う」という昔ながらのスローガンは、ユートピア的とは言わないまでも、時代遅れなのかもしれない。・・・

エボラ感染者を救うには
―― アメリカの対応は間違っている

2014年10月号

キム・イ・ディオン スミスカレッジ 助教

西アフリカのエボラ出血熱の感染拡大によって、感染者をケアしていた医師、看護婦その他の医療関係者を含む2800人以上がすでに犠牲になっている。しかも、感染率は劇的に上昇しており、状況が管理されるまでにはさらに多くの人々が犠牲になると考えられる。一方、エボラウイルスに感染したアメリカ人を担当した主治医たちは、注意深い観察、失われた水分とミネラルの投与を含む「積極的な支持療法」が回復の決め手だったと考えている。西アフリカの人々が必要としているのもまさにこの「積極的な支持療法」だろう。問題は、こうしたケアを提供するには、より優れた医療施設が必要であるにも関わらず、ギニア、リベリア、シエラレオネでこれらの医療施設が不足していることだ。国際的支援の焦点をこうした医療施設不足対策に合わせる必要がある。

感染拡大を防ぐには隔離しかない

2014年10月号

ローリー・ギャレット 米外交問題シニアフェロー

これまで感染拡大は地方での現象だったが、いまや都市部での感染が拡大している。さまざまな環境で人から人への感染が起きており、非常に深刻な局面を迎えている。感染者を隔離しない限り、感染拡大は阻止できない。国境なき医師団は「あらゆる競技場を、感染者を安全に隔離するための場所にする必要がある」と主張している。これは悪いアイディアではない。1918年にスペイン風邪が流行した際にも、感染者は公衆衛生当局が借り上げた映画館・ホテルで隔離された。・・・ワクチンがあと1-3年で開発されるかもしれないが、おそらく医薬品で感染拡大を阻止するのは難しいだろう。この5ヶ月間ですでにエボラウイルスは300回変異している。開発されるワクチンが効かないような変異をウイルスが遂げるリスクを心配している。・・・

イスラム国の女性兵士たち

2014年10月号

ニミ・ゴウリナサン  中央ヨーロッパ大学(CEU)公共政策大学院 紛争・交渉・復興センター(CCNR)研究員

「イスラム国(ISIS)」に女性兵士の旅団が組織されたという報道を前に、専門家は当惑し、状況を懸念している。公然と女性を抑圧するイスラム主義運動になぜ女性が参加するのか。メディアは女性を犠牲者、男性を暴力的な加害者として描きがちだが、それが常に真実だとは限らない。紛争という特有の環境のなかで、自分を守るために、そして民族的不満を打開するために、女性としてのアイデンティティよりも、宗派アイデンティティを優先させることもある。イラクだけでなく、エルサルバドル、エリトリア、ネパール、ペルー、スリランカでも、女性たちが暴力的な運動や民兵組織に自発的に参加している・・・。

イスラム国を検証する
―― ルーツ、財源、アルカイダとの関係

2014年10月号

ザカリー・ローブ オンラインライター 、ジョナサン・マスターズ cfr.org副編集長

2013年4月イスラム国は、ヌスラ戦線との統合を宣言した。しかし、ビンラディンの後継者として「コア・アルカイダ」を率いるザワヒリは、この統合を認めず、「バグダディのイスラム国の活動はイラク国内に限定する」と表明した。だがバグダディはザワヒリの決定を受け入れることを拒絶する。2013年後半、それまでライバル関係にあったシリア内の他のスンニ派武装集団はムジャヒディーン軍として連帯し、イスラム国に対して「シリアでの支配地域は自分たちに委ねて、シリアから撤退するように」と迫った。だが、それ以降もイスラム国は支配地域を拡大し続け、「シリアとイラクの国境地帯に事実上の国家」を樹立した。イスラム国は、武装した兵士を配備しただけでなく、一部で行政サービスを提供するようになり、超保守的なイスラム主義を実践している。・・・

ヨーロッパにおける首都と地方の対立
―― 首都を頼るか、それともEUか

2014年10月号

フィオナ・ヒル ブルッキングス研究所米欧関係センター ディレクター
ジェレミー・シャピロ  ブルッキングス研究所フェロー

スコットランドのイングランドに対する不満とは、実際にはイギリス政府の政治家たちに対する不満、経済的にも文化的にも大きなウェイトをもち、とにかく派手で、他の地域からみれば別世界の「ロンドンとイングランド南部」に対する不満だった。そして多くの意味で、スコットランドの独立運動は欧州連合(EU)の存在なしでは起こり得なかった。実際、NATOが外からの攻撃に対する盾を提供し、EUがその世界最大の市場へのアクセスを保証すれば、いかなる小国であっても、力強い国家になれる。スコットランドの独立運動は、地域的アイデンティティと野心的な政治家が存在し、独立を模索するか、あるいは、より大きな自治を求めるほどに首都に反感を抱き、しかもEUに参加できる見込みのある地域なら、独立を模索できることを示した。力強いアイデンティティをもつスペインのカタルーニャもいずれ独立を模索するかもしれない。・・・

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