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論文データベース(最新論文順)

イスラム国を検証する
―― ルーツ、財源、アルカイダとの関係

2014年10月号

ザカリー・ローブ オンラインライター 、ジョナサン・マスターズ cfr.org副編集長

2013年4月イスラム国は、ヌスラ戦線との統合を宣言した。しかし、ビンラディンの後継者として「コア・アルカイダ」を率いるザワヒリは、この統合を認めず、「バグダディのイスラム国の活動はイラク国内に限定する」と表明した。だがバグダディはザワヒリの決定を受け入れることを拒絶する。2013年後半、それまでライバル関係にあったシリア内の他のスンニ派武装集団はムジャヒディーン軍として連帯し、イスラム国に対して「シリアでの支配地域は自分たちに委ねて、シリアから撤退するように」と迫った。だが、それ以降もイスラム国は支配地域を拡大し続け、「シリアとイラクの国境地帯に事実上の国家」を樹立した。イスラム国は、武装した兵士を配備しただけでなく、一部で行政サービスを提供するようになり、超保守的なイスラム主義を実践している。・・・

ヨーロッパにおける首都と地方の対立
―― 首都を頼るか、それともEUか

2014年10月号

フィオナ・ヒル ブルッキングス研究所米欧関係センター ディレクター
ジェレミー・シャピロ  ブルッキングス研究所フェロー

スコットランドのイングランドに対する不満とは、実際にはイギリス政府の政治家たちに対する不満、経済的にも文化的にも大きなウェイトをもち、とにかく派手で、他の地域からみれば別世界の「ロンドンとイングランド南部」に対する不満だった。そして多くの意味で、スコットランドの独立運動は欧州連合(EU)の存在なしでは起こり得なかった。実際、NATOが外からの攻撃に対する盾を提供し、EUがその世界最大の市場へのアクセスを保証すれば、いかなる小国であっても、力強い国家になれる。スコットランドの独立運動は、地域的アイデンティティと野心的な政治家が存在し、独立を模索するか、あるいは、より大きな自治を求めるほどに首都に反感を抱き、しかもEUに参加できる見込みのある地域なら、独立を模索できることを示した。力強いアイデンティティをもつスペインのカタルーニャもいずれ独立を模索するかもしれない。・・・

空爆を支える外交戦略とは

2014年10月号

リチャード・ハース 米外交問題評議会会長

「米地上軍は送り込まない」というフレーズが呪文のように繰り返されているが、すでにアメリカは1000名を超える米軍のアドバイザーをイラクに派遣しているし、いずれイラク、シリアの双方に特殊作戦部隊を送り込むことになるだろう。イラクであれ、シリアであれ、米軍を駐留させることはあり得ないとしても、「高度なターゲット」を粉砕する上で最善かつ唯一の戦力である特殊作戦部隊を送り込む流れになるのは避けられないだろう。イラクの場合、治安部隊だけでなく、スンニ派部族やクルド人武装勢力を動員できるかもしれない。一方、シリアの反政府勢力は弱く、分裂している。むしろ、アラブ諸国が部隊派遣を行うように説得すべきだろう。解放された領土は、われわれが受け入れられる条件で統治し、民衆に接していくことに合意するスンニ派に委ねるべきで、その相手はアサド政権ではない。これらの詳細を協議していく必要がある。この意味で、スンニ派のアラブ国家だけでなく、おそらくはイランやロシアのような国も枠組みに参加させるべきだろう。(聞き手はバーナード・ガーズマン cfr.org, Consulting Editor)

CFR Meeting
イスラム国と中東の未来

2014年10月号

エド・フサイン/ 米外交問題評議会シニアフェロー(中東問題担当)
ジャニーヌ・デビッドソン/米外交問題評議会シニアフェロー(国防政策担当)

空爆でイスラム国の勢いは止められるかもしれないが、粉砕することは不可能だ。イスラム国がシリアに聖域をもっていることも考えなければならない。イスラム国の問題を簡単に解決する方法はなく、長期的なアプローチをとるしかない。これまでの経験からみて、10-15年という時間が必要になるだろう。(J・デビッドソン)

われわれはイスラム過激主義に魅了されるのは愚かで、社会から孤立したアブノーマルな人物だと考えがちだが、彼らは自分のことを過激派とは自覚していないし、アブノーマルだとも考えていない。むしろ「自分はいたってノーマルだ」と考えている。神の期待に即した活動をしていると信じているからだ。(E・フサイン)

イスラム国の戦略
―― ハイジャックされたアルカイダの
イスラム国家構想

2014年10月号

ウィリアム・マッカンツ ブルッキングス研究所フェロー

イスラム国家の樹立構想を考案したのは、現実にイラク・イスラム国の樹立を表明した「イラクのアルカイダ(AQI)」ではなく、アルカイダのアイマン・ザワヒリだった。ザルカウィが死亡した後にAQIの指導者となったアブ・アイユーブ・マスリはAQIを解体し、現在のイスラム国の指導者とされるアブ・オマル・バグダディを「信仰指導者(アミール・ウル・モミニン)」として仰ぎ、その忠誠を誓った。・・・2013年、イスラム国はシリアとイラクの双方で権力を確立したと表明する。ザワヒリはイスラム国に対して、「主張を取り下げて、シリアを去り、イラクに帰るように」と求めたが、イスラム国の指導者はこれを相手にしなかった。・・・イスラム国家を樹立するというザワヒリの強烈なアイディアは彼の手を離れて自律的な流れを作り出し、アルカイダを解体へと向かわせ、いまやイスラム国がグローバルなジハード主義の指導組織の地位を奪いつつある。

欧米の政治危機とポピュリズムの台頭
―― 生活レベルの停滞と国家アンデンティティ危機

2014年10月号

ヤシャ・モンク ニューアメリカン財団フェロー

多くの人は最近の欧米におけるポピュリスト政党の台頭は「2008年の金融危機とそれに続くリセッションの余波」として説明できると考えている。だが現実には、この現象は、市民の要請に応える政府の対応能力が低下していることに派生している。右派ポピュリストは移民問題と国家アイデンティティの危機を問題にし、左派ポピュリストは「政府と企業の腐敗、拡大する経済格差、低下する社会的流動性、停滞する生活レベル」を問題にしている。右派が脅威を誇張しているのに対して、左派の現状認識は間違っていない。問題は右派も左派もその解決策を間違っていることだ。民主政治体制の相対的安定を願うのなら、ポピュリストの不満に対処しつつも、彼らの処方箋では何も解決できないことを認識させる必要がある。

問われるヨーロッパの自画像
―― ユダヤ人とイスラム教徒

2014年10月号

ヤシャ・モンク ニューアメリカン財団フェロー

「私は移民に開放的だ」と自負しているヨーロッパ人でさえ、「イスラム系移民はそのアイデンティティを捨てて、ヨーロッパの習慣を身につけるべきだ」と考えている。右派のポピュリストはこうした市民感情を利用して、「(移民に寛容な)リベラルで多様な社会という概念」とそれを支えるリベラル派をこれまで攻撃してきた。だがいまや、極右勢力は「言論の自由を否定し、シャリア(イスラム法)の導入を求め、ユダヤ人、女性、同性愛者に不寛容な国からの移民たちが、ヨーロッパの秩序そのものを脅かしている」と主張し始め、リベラルな秩序の擁護者として自らを位置づけ、これまで攻撃してきたユダヤ人を連帯に組み込むようになった。問題は、ユダヤ人とイスラム教徒を交互に攻撃して秩序を維持しようとするやり方が単なる政治戦術にすぎず、このやり方では未来を切り開けないことだ。むしろ、ヨーロッパ人が自画像を変化させ、自分たちの社会が移民社会であることを認識するかどうかが、ヨーロッパの未来を大きく左右することになる。

イスラム国の次なるターゲット?
―― 破綻国家リビアにおける抗争

2014年10月号

ジェフリー・ハワード
コントロール・リスク リードアナリスト (リビア担当)

深刻な政治危機と国家制度の崩壊によって権力の空白が生じているリビアは、テロ集団が活動しやすい環境にある。イスラム国の指導者アブマクル・バグダディは、東部のバルカ(ベンガジ州)、西部のトリポリ、南部のフェザーンがすでにイスラム国の支配下にあると表明し、最近もイスラム国の関連組織が21人のエジプト人コプト教徒を斬首・殺害する事件が起きている。とはいえ、リビアにおけるイスラム国の影響力は過大評価されている。人口の95%がスンニ派であるリビアにおける宗派対立のリスクは、イラクやシリアのそれほど深刻ではない。リビアが近く破綻国家と化すというシナリオも取りざたされているのは事実だが、イスラム国がリビアをカリフ国家の一部とするのは容易ではないだろう。・・・

香港と中国民主化の行方

2014年10月号

エリザベス・エコノミー 米外交問題評議会シニアフェロー(中国担当)

香港の活動家たちの要求を前に、北京が取り得る選択肢は数多くある。「デモを手荒く粉砕すれば、デモ参加者たちがさらなる改革を求めて運動するのを抑え込める」と北京は期待するかもしれない。あるいは、「香港の小さな地域にデモを封じ込めて、運動が次第に下火になっていくこと」を期待することもできる。現在の行政長官を当座の措置として解任するか、香港のさまざまな政治アクターを参加させる委員会を作り、2017年以降の行政官選挙のあり方を検討させることもできるだろう。問題は、北京の指導層にとってこれらの選択肢のすべては、いずれもかなりの政治・経済コストを伴うために、いずれも魅力的なものではないことだ。・・・

天高く、皇帝は遠し
―― 北京は地方政府を制御できるか

2014年9月号

デボラ・M・レール  ポールソン研究所 シニアフェロー、  レイ・ウェデル  ポールソン研究所 チーフオフィサー

中国のこれまでの経済成長モデルはすでに淘汰されている。経済成長を最優先課題に据えた結果、大気や土壌そして水の質がひどく汚染され、いまや中国政府も持続可能な成長への路線転換を試みている。習近平自身、「長期的な発展や質の高い投資を犠牲にして短期的な急成長を求めるべきではない」と発言している。問題は、「天高く皇帝は遠し」という中国のことわざにある通り、中央は遠く、地方はやりたい放題の状況にあることだ。その結果、北京の意向に関わらず、環境問題や政治腐敗は悪化の一途をたどっている。中国の今後は、中央の意向に即した政策が地方で遂行されるような統治構造改革に、習近平が自らの政治資産をどの程度投入するかに左右されるだろう。

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